軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第134話 変わる関係

大量のグリフォンの解体に、同タイミングで戻ってきた遠征組の冒険者が持ち帰った魔物。

発狂しそうになりながら魔物解体カウンター一同で奮闘する日々が続いた。

レイラさんが疲労回復薬を差し入れてくれたり、お昼に出る間もない私たちにアンが弁当を差し入れてくれたりと、みんなの協力のおかげでなんとかやり切った。

途中でナイルさんが白目を剥いて倒れたり、ローランさんの不気味な笑いが止まらなくなったりと色々あったけど、やり切った。

グリフォンの肉は超高級品らしく、精肉店のオーナーが大歓喜していた。グリフォンの羽や爪も希少な素材なので、大量に手に入ったことで武器店も嬉しい悲鳴をあげているのだとか。

魔物解体カウンターの職員は特別にグリフォンの肉をいくらか分けてもらうことになっているので、全部片付いたらみんなでバーベキューをするぞ! と意気込んで頑張った。本当にめちゃくちゃ頑張った。

酒! 肉! これだけがモチベーションだったわ。

ようやく通常営業に戻ったのはグリフォン襲来の十日後だった。

「本当にお疲れ様でした。サチさんやピィちゃんさんのご活躍はオーウェンさんから聞きましたよ」

「いやあ……無我夢中でしたので」

そして私は今、アルフレッドさんの執務室にお邪魔している。

そう、久しぶりに【鑑定】をしてもらうためだ。

「では、失礼します」

「お願いします!」

アルフレッドさんが遠慮がちに私の手を握った。

【 天恵(ギフト) 】:【解体】

能力レベル:9

解体対象レベル:Fランク、Eランク、Dランク、Cランク、Bランク

解体対象:魔物、動物、食物、物体、液体

解体速度:B +

解体精度:B +

固有スキル:三枚おろし、骨断ち、微塵切り、血抜き、付与、解毒、浄化、遺恨解放、 天恵解放(ギフトリリース) 、 標的捕捉(ロックオン) 、必中解体

エクストラスキル

発動条件:命の危機に瀕した時、あるいはそれに付随した状況に陥った時

効果:解体対象レベルを超越してスキルの使用が可能となり、対象が強力であればあるほど獲得する経験値は跳ね上がる

解体速度と精度のレベルが上がり、グリフォン戦で活躍してくれた新たな固有スキルが増えた結果となった。

「戦闘向けのスキルですよね」

「そうですね。日頃の業務では使うことはないでしょうが、今回のような場面ではとんでもない活躍を見せてくれるでしょうね。戦闘中にレベルアップしたことで戦闘向けスキルが派生したのかもしれません」

確かに、あの場を打開するような力があればと強く願っていたタイミングでのレベルアップだったので、私の意志が強く影響したのかもしれない。

「その後の調査で、残ったグリフォンの群れは海を渡っていったことが確認できました。当面戻ってくることはないでしょうし、群れの規模もかなり小さくなりましたので、今回ほどの脅威となることはないと思います」

「そうですか……被害を最小限に抑えることができて、本当に良かったです」

「ええ、あなた達には今回も随分と助けられました。ありがとうございます。明日は久しぶりの休暇でしょう? ゆっくり身体を休めてくださいね」

「ありがとうございます!」

お礼を言ってアルフレッドさんの執務室から出た私は、残る業務を片付けるために魔物解体カウンターに向かった。

仕事に夢中で、何か大事なことを忘れている気がするけれど、夕方の依頼分片付けて終業時間を迎えた。

「お疲れ様です!」

「おう、お疲れさん。ゆっくり休めよ!」

心地よい疲労感を抱きながらピィちゃんを頭に乗せて食堂に向かっていると、ギルドの入り口近くの壁にもたれたマリウッツさんを見つけた。

グリフォン討伐の功労者であるマリウッツさんは、今回の事後処理をしつつ、しばらくはクエストに出ずに休養していたみたい。

見かけることはあっても面と向かって話をするのはあの日以来。

そう、あの日……以来。

ん? あの日……あの日……の話……?

あああああああっ!?

どうして今まで忘れていたのか。

あの日門塔の上で告げられた言葉を思い出して、カアアアッと一気に顔が熱くなる。

「終わったか」

マリウッツさんは真っ赤な顔を両手で押さえる私を認めると、壁から背を離して歩み寄ってきた。

「は、はい、なんとか」

「外で食事でもどうだ?」

「えっ!?」

「あら、サチ! 今終わったの? それなら一緒に……あっ」

マリウッツさんにお誘いを受けたちょうどそのタイミングで、アンがやって来た。

アンは一瞬で全てを察したらしく、「ピィちゃん、おいで」と素早くピィちゃんを回収した。

「ウフッ、大事な話があるんじゃなあい? 今日はピィちゃんを預かるわ。明日休みって言ってたわよね? 朝まで一緒に過ごしてきてもいいのよ? サチ、逃げずにちゃんと向き合うのよ!」

「えっ!? ちょっと、アン!?」

ニマニマ笑いながらそそくさと居なくなってしまったアンとピィちゃん。

残された私たち二人は目を瞬きながら顔を見合わせた。

「……行くか」

「は、はい」

ちょっぴり気まずい空気が流れる中、マリウッツさんと外に出た。

ギルドの終業時間を過ぎているのであたりはすっかり暗くなっている。

自然と繋がれた手に心臓が飛び出しそうになりつつ、大人しくマリウッツさんについていく。

連れてきてもらったのは、愛と感謝の日にピィちゃんと三人で訪れた王都の外れにある老舗の料理屋だった。

グリフォン討伐後の仕事の様子など、当たり障りのない話をしながら食事を済ませ、街明かりに染まる通りに出た。

「サチ、もう少し時間はあるか?」

「は、はい」

マリウッツさんに手を引かれるまま、緩やかな階段を登ると、王都の街が見渡せる広場に出た。

「わ、綺麗……」

温かな灯りに染まる街を見渡しながら、この平和な日々が脅かされずに済んだ喜びを噛み締める。

「サチ、グリフォンとの戦いの前に話していたことを覚えているか?」

「えっ、あ、えーっと……はい」

夜景に見入っていると、ギュッと力強く手を握られた。

マリウッツさんがこちらに身体を向けた気配を感じ、私も恐る恐る顔をあげた。

街の灯りに煌めくアメジスト色の瞳。

その瞳は今、私だけを映している。

不思議と周囲の音が遠のいていき、ドキドキと高鳴る胸の鼓動だけが耳につく。

静寂の中、マリウッツさんがゆっくりと言葉を紡いだ。

「俺はサチが好きだ。俺の唯一となってはくれないだろうか」

「えっ」

マリウッツさんのまっすぐな告白に、くらりと眩暈がした。

嬉しい。泣きそうなぐらいとても嬉しいんだけど……

えっと、それってなんか、プロポーズに聞こえるような……

「そうだな。まずは恋人として、いずれは伴侶として生涯共にいてくれると嬉しい」

声に出ていた! なんてこと!

マリウッツさんは至って真剣な表情をしている。彼が冗談を言う人ではないということは、痛いほど知っている。

「えっ!? 流石に早くないですか!?」

それでも、喜びよりも驚きが勝り、思わず突っ込んでしまった。

あわあわ狼狽える私を前に、マリウッツさんはフッと柔らかい笑みを浮かべた。

「俺はいつだって本気だ。サチ、返事を聞いてもいいか?」

「あ……」

そうだ。私はまだ、自分の気持ちをマリウッツさんに伝えていない。

マリウッツさんのまっすぐな気持ちをしっかりと受け止め、私も応えなくちゃ。

「えっと……は、伴侶っていうのは、まだちょっと分からないんですけど……まずは恋人として、その、よろしくお願いします」

目を泳がせ、言葉を詰まらせながらも、なんとかお返事をして深く頭を下げた。

うう、なんて情けない返事なんだろう。でもこれが今の私の精一杯。

マリウッツさんが何も言わないので、恐る恐る頭を上げた私は、思わず息を呑んだ。

とろけるような笑顔というのはこういう表情を指すのではないだろうか。

そう思えるほど熱っぽい瞳に見つめられて、目が泳ぐ。目を逸らしたいけど、絡め取られたように動けない。

「ああ。嬉しい」

「うっ、素直……」

マリウッツさんは空いた手で拳を作って綻んだ口元を隠してしまう。

そんな仕草一つとっても可愛く見えてしまって胸がくすぐったい。

「抱きしめても、いいだろうか」

「ひっ、直球……」

「いいのか? だめなのか?」

「へっ、は、はい! いいです!」

いちいち断りを入れるあたりが実にマリウッツさんっぽい。

もう! と思いながらコクコク頷くと、包み込むようにギュウッと抱きしめられた。ドキドキし過ぎて息が止まりそう。気を抜いたら気絶する。私の心臓、そろそろキャパオーバーで爆発しちゃわない?

目が回りそうになりながらもおずおずと腰に手を回すと、抱きしめる力が強まった。

心臓が大暴れしていてうるさすぎるけど、くっついたマリウッツさんの胸からも速い鼓動を感じて、自分だけじゃないんだと嬉しくなる。

どちらの心音か分からないぐらい音が重なっている。

不思議ととても心地よくて、私は強張っていた体の力を抜いてマリウッツさんに寄り添った。

きっと、恋人になったからといって、今までと関係が大きく変わるわけではない、はず。

少しずつ、私たちらしく、恋人同士として歩んでいけたらいいな。

そう思いながら、私たちはしばらく抱き合っていた。

「……ギルドまで送ろう」

「ありがとうございます」

ゆっくりと身体を離した私たちは、そのまま帰路に就くことになった。身体が離れた場所から急激に熱が失われ、名残惜しい気持ちが湧き上がる。

お互い無言で隣を歩いていると、不意に手が触れ合ってビクリと身を縮ませてしまう。

何度か手が触れ合い、自然と手を繋いだ。

先ほどまでとは違って、指を絡め合う繋ぎ方に関係の変化を感じて胸がキュッと切なくなる。

こっそり見上げたマリウッツさんの表情はとても穏やかで、なぜだかまた胸がキュッと締め付けられた。

ふわふわした気持ちのまま夜道を歩いていると、いつの間にかギルドに到着していた。ギルドはすでに消灯していて、昼間の賑やかさが嘘のように静まり返っている。

「じゃあ……」

「はい……」

帰らなくちゃいけないのに、離れがたくて、キュッとマリウッツさんの服の裾を掴んでしまう。

「サチ」

少し掠れた声で名前を呼ばれて顔を上げると、真剣な目をしたマリウッツさんと視線が絡む。

目が離せなくて、息が止まりそうになる。

「……あ、あなた様は!?」

「わっ!」

しばらく見つめ合っていると、通りから誰かに声をかけられてピャッと飛び上がってしまった。慌てて振り返ると、マントを羽織った人物がマリウッツさんに震える手を伸ばしていた。

「……誰だ」

マリウッツさんは不機嫌な顔でそのマントの人を睨みつけた。

その人は震える手でパサリと深く被っていたフードを脱いだ。

ぼんやりと街明かりに照らされたのは痩せた初老の男性だった。

男性の姿を目にしたマリウッツさんの目がどんどんと見開かれていく。

「なっ……お前は……なぜここにいる」

聞いたことがないほど低く、怒りの滲んだ声。

守るように私の肩を引き寄せるマリウッツさんの手が僅かに震えている。

そんなマリウッツさんに対し、男性は震える手を組んで高く掲げ、ハラハラと涙を流している。

「おお、神よ……ここで彼の御方に出会えたのも神のお導きでしょうか……」

え? 古い知り合い……にしてはマリウッツさんの様子がおかしい、よね。

状況が見えなくて、私はマリウッツさんの強張った表情を見上げることしかできない。

男性は、震える手を伸ばしながら、一歩、また一歩とこちらに歩み寄ってくる。

「どうか、どうか国にお戻りください! マリウッツ王子殿下!」

…………え? 今、なんて?

マリウッツさんが……王子!?

― 第四部完 ―