軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第133話 戦闘狂の幼女

「オオオオォォォ!!」

「隊長に続けー!!」

光の柱の中から、続々と現れる兵士や冒険者達。

次々にグリフォンに切り掛かっていき、あっという間に辺りは戦闘音に包まれてしまった。

「ああ、間に合ってよかった……ご無沙汰しております」

「え……ジェードさん!?」

私に声をかけてくれたのは、サルバトロス王国の騎士であるジェードさんだった。

ジェードさんは【転移】の【 天恵(ギフト) 】の持ち主で、サルバトロス王国とドーラン王国間の移動の際にお世話になった。

「一度にこんなに……」

ジェードさんが一度に【転移】できる人数を遥かに超えた救援に、言葉を失う。

「ええ。研鑽を積み、能力レベルが上がりましたので……まあ、ヘンリー殿下に酷使されていたとも言えますけど」

ジェードさんは少し疲れた顔をしている。よっぽどヘンリー王子にこき使われているらしい。

「オラオラオラァッ!! そんなもんかぁ!?」

戦場から威勢のいい声が聞こえて思わず振り向くと、そこには冒険者らしき壮年の男性がグリフォン相手に双剣を振り回していた。額に大きな傷を持ち、袖口がギザギザとして逞しい二の腕を存分に晒している屈強な男性だ。

「ピピィッ!! ピーッ!」

「んおう? おお! お前か! なんだ、また逞しくなったな!」

ピィちゃんが嬉しそうにその人のところに飛んでいってしまったけれど、何やら知り合いの様子。隣国でも私の知らないところで人脈を広げていたとは、末恐ろしいドラゴンだわ。

「サチ!」

怒涛の展開についていけずに放心していると、再び名前を呼ばれた。

「ミィミィさん!?」

「アルフレッドから救援要請を受けて、精鋭をかき集めたぞ! ヘンリーの一声で軍隊も借り受けてきた。もう大丈夫じゃ!」

美しいブロンドヘアのツインテールを靡かせながら、腰に手を当て悠然と佇んでいたのは、サルバトロス王国のギルドマスターであるミィミィさんだった。

まさかミィミィさんまで駆けつけてくれたなんて……

懐かしい面々の登場に、思わず目頭が熱くなる。

「ミィミィさん、危険なので、後ろに下がって……」

「フハハ! みくびってもらっては困るのう。この程度の魔物に後れをとるワシではないわ!」

ミィミィさんを守らなくてはと気遣って声をかけるも、ミィミィさんはどこからか取り出したグローブをギュッと装着して悪い笑みを浮かべた。

なんか、メリケンサックみたいなグローブに見えた気が……

呆気に取られているうちに、パンッと両手を打ち鳴らしたミィミィさんはビュッと飛び出してしまった。勢いよく拳を振り上げて地面に振り下ろすと、ビキビキィッと大地が裂け、グリフォンたちが地割れに足を取られて膝をついていく。その隙に騎士たちが斬りかかり、首を落としていく。

「アッハハハァッ! どうした!? こんなものかのう!?」

グリフォンの尻尾を掴んでグルングルン振り回しているミィミィさんが怖い……

返り血を浴びながら拳をふるい、足を蹴り上げ、嬉々として戦場を駆け回っている。瞳孔が開き切っていて、執務室で書類や本の山に囲まれていたミィミィさんの姿からは想像もつかない様子に絶句する。

「ん? なんだ、ミィミィの異名を知らんのか? あいつはな、 戦闘狂の幼女(バーサーカーガール) 「その異名を口にするでない!!!」」

放心状態の私に説明してくれようとしたオーウェンさんだったけど、ミィミィさんが投げつけたグリフォンに押し潰されてしまった。

「わわっ、【解体再現】!」

慌ててグリフォンを解体してオーウェンさんを救出する。

「ったく、あの野郎……ま、そういうこった」

どういうこと!?

はわわ、と戸惑っているうちにも、グリフォンはどんどんと討伐されていく。

「皆さん、無事でよかった……!」

「アルフレッドさん! それは……?」

門塔から降りてきたアルフレッドさんの手には、先ほど放り投げていた何かが握られていた。開いた手で煌めいていたのは、美しい宝石のはめられたブローチだった。長い紐が結ばれているので、紐を引いて回収したらしい。

「これはサルバトロス王国のギルドと繋がる通信機です。これでミィミィさんに救援要請を出し、ブローチを座標にしてジェードさんが【転移】してきてくれたというわけです。これだけの人数をすぐに用意してくれたミィミィさんとヘンリー王子殿下に感謝ですね。もう大丈夫です。塔の上から我が国の冒険者達の姿も確認できました」

アルフレッドさんの言う通り、街道の向こうからは遠方のクエストに出ていたドーラン王国の冒険者も数組戻ってきてくれたようで、戦況は一気に好転していた。

そしてすっかり日が暮れた頃、サルバトロス王国の救援もあり、無事にグリフォンの群れを撃退することに成功した。

地上に降りたものは全て討伐し、上空で様子を見ていた少数の用心深いグリフォンはとうとう諦めて遠い空の向こうへと飛んでいった。きっと別の大陸目指して飛んでいったのだろう。

グリフォンを追い返し、草原のあちこちで冒険者や兵士たちが拳を突き上げて勝利の雄叫びを上げている。

国の垣根を越え、みんながそれぞれの奮闘を讃えあい、助力に感謝し合っている。

ドルドさんもピィちゃんの知り合いの冒険者さんと何やら懐かしそうに話し込んでいる様子だったし、隣国同士、私の知らない繋がりもたくさんあるみたい。

「なんという規模の群れじゃ。ふう、久しぶりに血湧き肉躍る心地じゃったわい」

ミィミィさんもゆったりしたワンピースを血に染めながら、恍惚な笑みを浮かべて戻ってきた。血は克服したものの、あまりにも恐ろしい姿を前にアルフレッドさんの頬がひくひくしている。

「助かったぜ。今日はこのままうちのギルドに泊まってけ。もてなすぞ」

オーウェンさんの誘いに、ミィミィさんは血まみれのグローブを外しながら首を振った。

「いや、このまま帰るわい。軍も借り受けておるし、長く国を離れるわけにもいかんのでな。それに、今回の救援はマンティコアの一件の借りを返しに来たまで。これからも良い関係を築いてくれればそれでいい」

「はっは! お前さんは相変わらずだな。ああ、こちらこそこれからも頼む」

オーウェンさんとミィミィさんが固い握手を交わす。

それからすぐ、ミィミィさんの掛け声で救援部隊の皆さんはあっという間に【転移】で帰っていってしまった。

「怒涛の展開でしたね……」

辺りはすっかり静まり返り、空にはチカチカと星が瞬いている。そこにグリフォンの影は一つもない。

みんなで協力して、窮地を脱したんだ。誰か一人でも欠けていたら、状況は覆っていたかもしれない。みんな無事で乗り切ることができて本当によかった。

感嘆の吐息を漏らすと、ドルドさんが私の肩に手を置いた。

「ああ、そうだな。だが、俺たちの仕事はこれからだぞ? サチ」

「え?」

ドルドさんの声に振り返れば、草原のあちこちに横たわる大量のグリフォンの屍が目に入った。

「運搬ぐらいなら低ランクの冒険者でもできるだろう。とりあえず、このまま城門の外に放っておくと他の魔物が湧いてきちまう。ギルドの訓練場を一時的に使用禁止にするからそこに運び込ませろ。手が空いているギルド職員にも声をかけるんだ」

オーウェンさんの指示を受け、伝令役の人が開かれた城門から急いで駆けていく。

すぐに人が集まってきて、百体近いグリフォンの屍を運搬し始めた。

えーっと、うん、分かりますよ。

このグリフォン達を解体するのは、私たち魔物解体カウンターの職員ですよね。

これから我が身に降りかかる激務の気配に、ひくひくと頬が引き攣った。

予想通り、それから数日はとんでもない忙しさとなったのだった。