軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第110話 名もなき森へ

急いでギルドに戻ると、慌ただしく駆け回っているアルフレッドさんを見つけた。

息切らしながら戻ってきた私とレイラさんを見て、驚いたように駆け寄ってきてくれた。

「サチさん! それに、レイラさんも。どうやら魔狼の群れが現れたらしく、ギルドに滞在していた冒険者たちが現在対処にあたっています。恐らくすぐに討伐されて魔物解体カウンターに持ち込まれてくるでしょう」

魔狼はDランクの魔物。さほど脅威ではない魔物なので、ホッと息を吐いた。

そうなると、早くカウンターに戻った方が良さそう。でも、その前にあの子のことを伝えておかなくっちゃ。

「アルフレッド氏、実は急ぎ対処したい事態となっていてな。すまないが、簡潔に話すので少し時間をもらいたい」

「はい、どうしましたか?」

物々しい様子のレイラさんに、アルフレッドさんも神妙な顔をしてクイッと丸眼鏡を押し上げた。

レイラさんが少年が王都の外に向かって森に入っていったことを説明してくれた。

話に耳を傾けていたアルフレッドさんの表情が徐々に険しくなっていく。

「それは危険ですね。まさか、森に居を構える人がいるなんて……報告を入れていなかった門番にも事情を聞く必要がありますが、とにかくすぐにクエストを発注しましょう。王都にほど近い森なので、ランクの高い魔物はいませんが、そんなところに住むなんて無謀だ。いつ何が起きるか分かりません。手の空いている冒険者に……」

「俺が行く」

その時、私たちの背後から凛とした声が聞こえた。

振り返らなくても誰だか分かる。こ、このタイミングで会うなんて……!

私が固まって動けなくなっている間にも、その人はこちらに近づいてきた。

「マリウッツ殿。クエストから戻られたのですね。ちょうどよかった」

「ああ、途中からだが話は聞かせてもらった。すぐに出立しようと思うが構わないか?」

「ええ、事務手続きは後からしておきます。とにかく、本当にその少年が森に住んでいるのか、もし住んでいるのならばどうして森で生活をしているのか……」

「私も行くよ」

アルフレッドさんが依頼事項を指折り数えていると、レイラさんが痺れを切らしたように名乗りをあげた。慌てて私も手を挙げる。

「わっ、私も行きます!」

状況が掴めなかったとはいえ、店で少年を保護して事情を聞けていれば、わざわざクエストを発注する事態にもならなかったのだ。どうしても責任を感じてしまうし、少年のことが心配でならない。ギルドで大人しく待っているなんてできそうにない。

「はあ、そうなりますよね……」

譲る気のない私たちを前に、「やはり」とため息をついたアルフレッドさん。けれど、すぐに顔を上げてキリッと表情を引き締めた。

「いいでしょう。ただし、僕も行きます。今日はオーウェンさんを執務室に閉じ込めていますから、この場はギルドマスターに任せますよ。ちょっと声だけかけてきますので、準備をして入り口でお待ちください」

「アルフレッドさん……! ありがとうございます!」

私たちは各々着替えと装備を済ませてギルドの入り口に集った。ドルドさんに事情を説明したところ、「絶対に無茶をして先走るな」と釘を刺された。

せっかくギルドに戻れたので、今度こそピィちゃんを連れていく。

ピィちゃんもやる気十分で、フンフンと鼻息を吹き出している。口の端に涎の跡があるので、たっぷり昼寝をして元気いっぱいらしい。

全員揃ったところで、急いで城門へと向かう。

ギルドのサブマスターに詰問され、門番は萎縮しながらも事情を説明してくれた。

「あの少年の親が病気で、静かで空気の綺麗な森で生活するのだと言って聞かなかったのです。危険だと止めたのですが、魔除けの香があるから襲われることはないと……しばらく様子を見ていましたが、本当に少年の言う通り、魔物に襲われることなく今日まで。彼に口止めをされていたとはいえ、報告を上げるべき案件でした。大変申し訳ございません!」

「いえ、城門の管理はギルドの管轄ではありませんから。とはいえ、しかるべきところに報告して欲しかったですね。とにかく、向かいましょうか」

恐縮しっぱなしの門番に見送られながら、私たちは名もなき森へと向かった。

道中、レイラさんは悔しそうに唇を噛んでいた。

「あの子、昔は親子でよく店に来ていたんだよ。だけど、最近はめっきりでね……やっぱりもう少し気にかけてあげるべきだったんだ」

「レイラさん……」

すぐに森に到着し、私たちはマリウッツさんを先頭に、私とレイラさんをアルフレッドさんが後ろから守るような陣形で息を潜めて森に踏み入った。

「なんだか異様な雰囲気だな」

「ええ、ここにはランクは低いとはいえ、魔物の住処があるはず……静かすぎますね」

マリウッツさんとアルフレッドさんが警戒を強めている。

確かに、魔物の鳴き声や木の枝が折れる音すらしない。

静寂が森を包み込んでいるようで、逆に不気味だ。

「ピッ……? ピィ……」

「え、ピィちゃん?」

私の肩に乗って周囲を警戒していたピィちゃんが、不意に耳をピンと立てた。

何か見つけたのかと様子を窺うと、どうにも様子がおかしい。

目はトロンと虚ろで、ふわりと空中に飛び上がったかと思うと、フラフラと森の奥へと飛んでいってしまった。

「えっ、待って……!」

「待て、一人で行くのは危険だ。みんなで後を追う」

「は、はい」

咄嗟に足を踏み出しそうになった私を、マリウッツさんが片手で制した。

マリウッツさんもピィちゃんの様子に怪訝な顔をしている。

まるで何かに酔っているかのように、導かれるように、ピィちゃんは森の奥へ奥へと飛んでいく。

やがて森が開けた先に、小屋が現れた。