軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第111話 少年の事情

ピィちゃんは引き寄せられるように小屋に向かって飛んでいく。

小屋の脇に置かれた 甕(かめ) の水を汲んでいた少年が、ハッとしてピィちゃんを抱き止めた。

「ド、ドラゴン? まさか、ドラゴンまで……」

少年は悲しそうに瞳を伏せた。

私たちは顔を見合わせると、ゆっくりと茂みから出て少年の下へと歩み寄る。

「え、何……!? どうしてここに……!」

ピィちゃんを胸に抱いたまま、警戒心を顕にする少年。

ピィちゃんは彼の腕の中で心地良さそうに喉をゴロゴロ鳴らしている。

「ここは、僕が」

代表してアルフレッドさんがゆっくりと歩み寄り、少年の側に腰を落として声を掛けた。

「こんにちは。僕の名前はアルフレッドです。君は、どうしてこんな危険な場所に住んでいるのですか?」

「えっ、な、なんで……ダ、ダメだ。ダメなんだ。俺に近づいちゃ……みんな、みんな不幸になる!」

アルフレッドさんは慎重に、少年の警戒心を解くように話しかけたけれど、動揺した少年は半ばパニックに陥ったようにワッと叫んだ。

少年の叫び声が森の中に反響し、その後すぐにオオオオオ……と魔物の雄叫びが聞こえてきた。

「なんだい? さっきまで気配すらなかったというのに」

レイラさんは周囲を警戒してシャラリとレイピアを抜いた。

「ひっ」

少年は怯えたように蹲り、「やっぱり、だめ、だめなんだ」とブツブツ呟きながら頭を抱えた。

「くっ……君は下がっていてください」

少年に声をかけ、アルフレッドさんが背負っていた大斧を手に取った。

マリウッツさんも剣を抜き、私も小型ナイフを両手に持った。

「とにかく、こいつらをなんとかするぞ」

「はい!」

小屋を取り囲むように集まってきたのは、森に住む低ランクの魔物ばかり。ロングホーンにトゲトカゲ、ワイルドブル。一番ランクが高いのはブラックスパイダーか。

数は多いけれど、四人で対応すればどうにかなりそう。

「ブルルアッ!!」

一頭のワイルドブルが飛びかかってきたことを合図に戦闘が始まった。

「ふっ!」

マリウッツさんが先陣を切って踏み出し、一振りでワイルドブルを三頭薙ぎ倒した。

動きが素早いトゲトカゲは、レイラさんが的確にレイピアで急所を突いて倒していく。

「はああっ!」

ブンッと大斧を振りかぶり、アルフレッドさんが地面に大斧を振り下ろした。

その衝撃で体勢を崩したロングホーンに向かって、私が小型ナイフを投げる。

「【解体再現】を【付与】!」

ナイフがロングホーンを捉え、シュパパパァン!! と目にも止まらぬ速さで素材に解体される。

みんながうまく連携し、続々と魔物が倒されていく。

私もアルフレッドさんとマリウッツさんが守ってくれている間に小型ナイフを回収して、再び【付与】を発動して魔物を解体していく。

しばらくの混戦ののち、最後の一体に小型ナイフが突き刺さり、シュパパパパァン! と小気味よい音がして、ゴトリと素材と化したロングホーンが地面に落ちた。

「終わりだな」

初めての共闘と思えないほどのチームワークに密かに感動する。

みんな頼り甲斐がありすぎて、危なげなく全ての魔物を討伐できた。

私たちは各々武器を仕舞うと、改めて少年に向き合った。

少年はビクリと肩を震わせて、相変わらずゴロゴロ喉を鳴らしているピィちゃんをぎゅっと抱きしめた。

戦闘中、どれだけ魔物が集まってきても、不思議なことに魔物たちが少年を襲うそぶりはなかった。

けれど、何頭かの魔物は酒に酔ったように酩酊した様子で少年に向かってふらふらと引き寄せられていた。今のピィちゃんのように。

「君……もしかして……」

考え込んだ様子のアルフレッドさん。しばしの逡巡の後、少年に向かって両手を差し出した。

「すみません、もしよろしければ……君の【 天恵(ギフト) 】を【鑑定】させていただけませんか?」

「え……あ……」

サッと青ざめた少年は激しく目を泳がせ、やがて観念したように恐る恐る手を差し出した。

「失礼します」

アルフレッドさんが少年の手を優しく包み込み、目を閉じた。

「ああ、やはり……君の【 天恵(ギフト) 】は【魅了】なのですね」

アルフレッドさんの鑑定結果に、少年はビクリと身体を跳ねさせ、目にいっぱいの涙を滲ませた。今にもこぼれ落ちそうなほどに涙の膜が膨れ上がっていて、ピィちゃんが心配そうに少年の頬を舐めている。

「【魅了】?」

そういえば、元の世界の漫画で読んだことがあるな。

好きでもない相手を好きになったり、相手を惹きつけ夢中にさせたり……大抵異性に対して発動されていた能力だったような……

思わず溢れた疑問に答えてくれたのは、悲痛な表情をしたアルフレッドさんだった。

「ええ。それも、この子が【魅了】するのは……どうやら魔物のようです」