軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

32話 希望はある

剣を落としたセイファートは、そのままその場に膝をついた。

どうにか近くへ落ちた剣へ手を伸ばす。

しかし、指先が震えて柄を掴むことができない。

「こんな……」

掠れた声が漏れる。

「ここまでの化け物だったなんて……」

化け物。

いや、それすら生ぬるいかもしれない。

神話の中の神罰か、終焉そのものか。

討伐など最初から望んでいなかった。

進路を逸らせるだけでも、と考えていた。

だが、その希望すら相手にされていなかった。

こちらの全力の攻撃はかすり傷。

あちらの戯れの一撃は部隊を壊滅させる。

差が圧倒的すぎる。

どう埋めればいいのか、考えることすら馬鹿らしくなるほどに。

「くそっ……!」

セイファートは地面を叩いた。

一度ではなくて、二度、三度と叩く。

拳の皮が裂けても、どうにもならぬ悔しさが消えてくれない。

そんな彼を、ドラゴンはゆっくりと見下ろしていた。

上質な餌……その程度の認識なのだろう。

周囲に転がる騎士達も、これから焼かれ食われるだけの肉としか見ていない。

進路を変える?

ありえない。

この先へ進めば、さらに多くの餌が待っているのだから。

「やめろ……」

セイファートはどうにか剣を拾い、ふらつきながら立つ。

「僕はどうなってもいい……だから、この先へは……」

心は折れかけていた。

圧倒的な力の差。

何をしても届かぬ現実。

それでも前へ出なければならぬという騎士としての矜持がセイファートを動かしていた。

「僕は……騎士だ!」

声を張り、折れた心をもう一度、強引に繋ぎ直した。

力が届かなくても、それでも自分は王族であり、騎士なのだ。

剣は国のために。

民のために。

最後まで、諦めず立つためにある。

「うぉおおおおおっ!!!」

最後の力を振り絞り、ドラゴンへ向かって駆ける。

ドラゴンは余裕を崩さない。

大きく口を開き、そのまま噛み砕こうと首を下ろす。

……その瞬間。

ザンッ!!!

突如として放たれた斬撃がドラゴンの片翼を斬り飛ばした。

誰もが貫けないと信じていた鱗を紙のように断ち切ってみせる。

それを成し遂げたのは……

「うむっ、ナイスタイミングというやつじゃな!」

「アリエル!?」

セイファートが目を見開く。

そこに立っていたのは、金髪の小さな王女。

だが、その佇まいは幼さとはほど遠い。

剣を握る姿は静かで、冷えていて、どこまでも研ぎ澄まされていた。

――――――――――

馬車を飛び降りてから儂は全力で駆けた。

ドラゴンの正確な位置など聞いていない。

だが、聞く必要もなかった。

空気の圧が違う、大地に落ちる威圧感が違う。

とてつもなく強烈な『なにか』がいる方へ走れば、それで十分だった。

その判断は正しく、ほどなくして現場に駆けつけることができた。

山のようにそびえるドラゴン。

焼けた大地と、その周辺に倒れ伏している騎士達。

そして……今まさに食われようとしている兄様。

「っ……!!!」

見た瞬間、頭の中で何かが弾けた。

兄様が死ぬ?

……母様と同じように?

また失うのか。

前世で守れなかった。

今世で母様も守れなかった。

それでもまだ、大切な者を奪われるのか?

否!

そんなものは認めない……

絶対に認めない!

この日のために鍛えてきた。

この瞬間に届くために、剣を振ってきた。

前世で黒騎士と呼ばれていた。

最強と呼ばれ、多くの軍勢を退けたが最後には倒れてしまい、守らねばならぬものを守れなかった。

「しかし……」

今度は違う。

心がすうっと冷えていく。

怒りも焦りも、そのままでは刃を鈍らせるだけ。

だから全部を削ぎ落とす。

どこまでも鋭く。

どこまでも静かに。

ただ一点、敵を斬るためだけに心を整える。

魔力を練り上げる。

全身へ巡らせる。

限界を超えて、その先まで身体能力を引き上げる。

無理矢理の強化に筋肉が軋んで、骨がきしむ。

だが関係ない。

「儂は……守る!!!」

そして、斬った。