作品タイトル不明
33話 VSドラゴン
新しい生……アリエルは、前世と違って魔力にも恵まれていた。
幼い頃から鍛え続けてきたおかげで、今の儂はかなりの魔力量を持っている。
同年代どころか、大人と比べてもおそらく相当多い方だろう。
ただし、万能ではない。
魔力操作の才能には恵まれなかった。
使えるのは初級魔法と身体能力強化、あとは少しばかりの小技程度。
器用な魔法使いのように、多彩な術を自在に編めるわけではない。
だが、それで十分だ。
今必要なのは繊細さではない。
目の前の怪物を斬り伏せるための、ただ一点へ集中した力だけ。
全身へ魔力を巡らせる。
筋肉、骨、腱、血流、神経……その全てへ無理やり魔力を行き渡らせる。
身体能力強化を限界まで引き上げて、残っている力を惜しみなく注ぎ込む。
そして……全速力。
駆けた。
大地を蹴り、風を裂き、景色が流れるよりも早く前へ出る。
ありったけの力を乗せた一撃で、儂はドラゴンの片翼を斬り飛ばした。
巨体が傾いて、血が噴き出して、竜の咆哮が空気を揺らす。
これで、ヤツは飛んで逃げることができない。
逃がせば他所で被害が出るかもしれない。
あるいは、復讐心を抱いて再びこの国へやってくるかもしれない。
そして……
また大事な人が失われるかもしれない。
そんな未来は認めない。
こいつは、ここで倒す。
それが一番だ。
「……え?」
すぐ近くにいた兄様が、ぽかんとしていた。
無理もない。
避難しているはずの妹が、いきなり戦場へ現れて、ドラゴンの翼を斬り飛ばしたのだから。
何が起きたのか理解できないという顔をしていた。
「兄様、大丈夫か!?」
「え? いや……え? アリエル……?」
「うむ、儂じゃ! 兄様の援護に来たのじゃ!」
「援護? ……えっ、いや!? 援護!?」
大事なところなのか知らないけど二回言った。
かなり混乱しているらしい。
「お願いじゃ、兄様。儂も王族……兄様と一緒に戦わせてくれんかのう?」
「いや……いやいやいや、それは!?」
「儂は、もう……なにかを失いたくないのじゃ」
「……アリエル……」
兄様の顔が少しだけ曇る。
やはり優しい。
儂の気持ちを頭ごなしに切り捨てるのではなく、ちゃんと受け止めてくれている。
だが、その優しさゆえに迷ってしまうのだろう。
妹を戦わせたくない。
でも、目の前でドラゴンの翼を斬り飛ばしたこの力を無視もできない。
兄としても騎士としても板挟みなのだろう。
だが、今は考えている時間がない。
「グルァアアアアアッ!!!」
ドラゴンが怒りに吠えた。
片翼を失った痛みか。
あるいは、人間にここまで傷つけられた屈辱か。
巨体を振り回し、でたらめに暴れ始める。
地響きと砕ける岩。
吹き飛ぶ木片と舞い上がる粉塵。
まるで山そのものが狂って暴れ出したような有様だった。
「兄様っ、こうなったらもう考えている暇はありませぬぞ!」
「もしかして、それを狙って……ああもうっ、仕方ない! 一緒にやろう!」
「うむ!」
よし。
多少強引ではあるが、これでよい。
後で確実に怒られるだろうが、今は生き残る方が先だ。
「参る!」
儂はあえて前へ出た。
ドラゴンが暴れる度、砕けた岩や木片が矢のように飛び散る。
普通の兵士なら、それが直撃しただけで死ぬだろう。
だが、儂は最小限の動きで全てを避ける。
必要以上に跳ばず、しゃがまず、ほんのわずかに体をずらし、視線と感覚で危険だけを弾いていく。
それでいて速度は落とさない。
むしろ、さらに加速する。
前へ。
前へ。
前へ。
そして……今世で新しく編み出した一撃を使う。
前世にはなかったもの。
魔力を得たこの生だからこそ、ようやく届いた剣技だ。
ドラゴンの左腕が叩きつけられる。
その軌道もタイミングも悪くない。
人間相手なら完璧なカウンターだ。
だがしかし。
「それは儂も読んでおる!」
儂は逆に、その内側へ潜り込んだ。
体を沈め、腕の内側へ入り込み、そのまま斜め下から刃を走らせる。
ザンッ!!!
骨へ届く手応え。
「グギャアアアアア!?」
ドラゴンが悲鳴を上げる。
前足が根元から斬り飛ばされていた。
切断。
血が噴水のように噴き上がり、巨体が大きく傾ぐ。
「……」
兄様がまた唖然としていた。
「アリエル、キミは……」
「どうしたのじゃ、兄様よ」
「ど、どうやって、ドラゴンの鱗を……」
「えっと……き、気合!」
「……え?」
「気合で斬ったのじゃ!」
「……」
うむ、我ながら苦しい言い訳だ。
当然というか、兄様は思考停止した顔をしていた。
まあ、ドラゴンの腕を斬り飛ばした直後に『気合』とか言われたら、それはそう。
もちろん嘘だ。
儂が使ったのは、魔力を刃へ強引に流し込み、物理的な威力を極端に引き上げる技。
魔法のように放つのではない。
刃そのものを魔力で覆い、芯にも流し込み、無理矢理殺傷力の塊へ変える。
魔力を攻撃力に転換した剣技だ。
名付けるのなら……魔刃剣。
威力は抜群だが、明確な欠点がある。
消耗が激しく、また、あまりの威力故に並の剣では耐えられない。
「むぅ……お気に入りじゃったのじゃが」
今使った剣がぼろぼろと崩れ落ちる。
まるで何十年も風雨に晒されたかのように、刃も柄も一気に朽ちた。
腰の予備を確認する。
残り三本。
「……儂の魔力を考えると、こちらも残りは三回。ちょうどよいと喜ぶべきか、足りぬと嘆くべきか……悩むところじゃのう」
だが、悩んでいる暇はない。
前足を失い、翼を失い、それでもなおドラゴンは立っておるのだから。