軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「あら、どうしたの? サリュード様」

ジャナディアはいつも魔法省でなく迎賓館のレストランで一人昼食を取っている。他国の要人が泊まる施設であるが、各省の職員も身分証を提示すればレストランは利用出来る。ジャナディア曰く『だって魔法省よりランチの種類が多いんですもの』だ。

大体どこも同じだ。迎賓館が特別なだけである。

『大抵一人で行くわよ。知り合いがいて誘われたら相席するけど。私、食べるのが遅いのよねえ。だから自分のペースでゆっくり過ごしたいの』

以前の会話を覚えていたサリュードは昼休みになると、滅多に利用しない迎賓館のレストランで彼女を待ち伏せしていた。そしてやってきたジャナディアに声をかける。

明らかに自分を待っていたのであろうサリュードに、ジャナディアは驚いて警戒する。

手招きして自分の正面に誘うサリュードはもう食事を終えて、コーヒーを飲んでいた。日替わりランチを注文したジャナディアは眉をひそめる。

「見られながらの食事は嫌なんだけど。どうせなら食事も待ってもらいたかったわ」

公爵子息相手でもジャナディアの口調はいつもこうだ。サリュードは気にしない。なんなら今、美貌の彼女と同じテーブルに着いているのを、羨望の眼差しで見られて気分がいい。

「大した話じゃない。端的に話そう。貴女はまだ婚約者もいないはずだ。婿に新人の“魔法爵”を、どうだろうか?」

「どうしていきなりルキアン様の話?」

ルキアンとサリュードが、親しくしているのを見た事がないジャナディアは訝しがる。むしろ一年被っている学生時代の時から不仲だと聞いている。なんでも一級魔法士のルキアンにやり込められてから、サリュードの方が敬遠しているとか。

(どうせサリュード様が、初学年のあの子をいびろうとしたんでしょうね。彼が屈するはずないけど。あの子にちょっかいを出した不運を嘆くべきね)

誰にでも愛想のいいジャナディアも、人の好き嫌いはある。表面上はこうして普通に笑って対応するけれど、目の前の公爵令息は嫌いな部類だ。身分を笠に着て傲慢で努力もしない。容姿云々より中身の悪さが際立って嫌だ。

「どうもこうも、問いの意味が分からないわ。ルキアン様には婚約者がいるのよ」

「知ってる。幼馴染の子爵令嬢だろ。彼女が欲しい。君の家が圧力をかけてグラキエスを奪えないかと思ってな」

「あの婚約者が好きなの?」

「ああ、一目惚れだ」

そう言うサリュードの瞳に熱量はなく、悪巧みの匂いがする。

「公爵家の権力を使えば?」

大方(おおかた) ルキアンに打撃を与えたいだけなのだろう。あわよくばあの美少女を手に入れたい、と言ったところか。無理だろう。まともな女はサリュードから逃げる。

「魔法士には普通の権力が通用しない」

「それもそうね。私たちは特殊な兵士でもあるもの。国の中枢だって“魔法爵”の機嫌を損ねたくはないわ」

「だからだ。ログノーメン家に迎えられないか、次期魔法伯爵の協力が得られないか相談にきた。貴女が婿に選べばグラキエスは婚約者を捨てるに違いない」

「あのねえ」

一方的な話にジャナディアは呆れる。相談にすらなっていない。

「今話題のフレメンツ伯爵子息の騒動を知ってるでしょ。男爵令嬢と結婚したいからって、令息が公的な場で勝手に婚約破棄をしたもんだから、大騒ぎになった。大人数の前で発言すれば、宣言は覆らないと思ったって聞いたわ。それで跡継ぎから外されて、温情で伯爵の爵位の一つ男爵位を譲られて家を追い出されたんでしょ? 次期伯爵夫人を狙っていた浮気相手も今更彼を捨てられなくて、ざまあみろだわ」

ジャナディアから、〈ざまあみろ〉なんて言葉が出てサリュードが面食らう。やはり女性にはグッソクと浮気相手の方が心証が悪いようだ。

「次期魔法伯爵が“魔法爵”を選ぶなら問題ないんじゃないか?」

「不貞を持ち掛けてるって理解している? 私は略奪結婚なんてごめんだわ!」

存外力強い声で言い切ったジャナディアは、サリュードを見据える。

ルキアンの婚約について『幼馴染の彼女は魔力持ちで、ちょうど良い政略的な結婚相手だ』みたいに魔法省内で言われているけれど、彼は婚約者に惚れていると思う。婚約者に誤解されたくないのか、ジャナディアが仲良くしようとしても笑顔もなく寄せ付けない。ほんわかした雰囲気の彼女といるとルキアンも自然体だ。あの二人の仲を裂けばジャナディアが悪女と呼ばれそうだ。

しかし、そもそも前提が間違っている。ジャナディアは彼を狙わない。

「大体ねえ、彼はまだ子供じゃない」

「三つ四つ離れているくらい普通だろう」

「あのね、私は年上が好きなの!」

「……は?」

「そもそも私に婚約者がいないのは、十歳以上年上を探しているからなのよ! でも難の無いそのくらいの年齢の魔法士は、みんな結婚してるじゃない。だから今は魔法士協会にも独身者を見繕ってもらってるところなのよ! 逆玉の輿に乗ってもらうの」

「街の野良魔法士でもいいのか? ほとんど平民だろ」

「訂正して。〈野良魔法士〉なんて居ないの。貴族と契約していたり、商会の護衛を専門にしていたり。貴方が考えているような、何でも屋を〈野良〉と呼ぶのかしら。失礼じゃない? 魔法省入りしなかった魔法士は、個人で雇えるから重宝されているのよ」

魔法士自体の侮辱をジャナディアは許さない。ログノーメン魔法伯爵家と縁付くのに身分は関係ない。家門を立てた時からの方針なのに、この公爵令息はそんな事実も知らないのだ。ジャナディアもはじめは魔法省の魔法士や、一族のために働いている貴族魔法士を探していた。それは貴族意識ではなく、単に貴族と平民は生育環境が違いすぎて価値観が合わないだろうとの判断だった。

しかしなかなか相手がいなくて、最近は魔法士協会から見合い相手を紹介してもらっている。国に縛られたくない〈自由魔法士〉の中には、一級魔法士相当の実力者が存在すると知ったからだ。最近のジャナディアは 掘(・) り(・) 出(・) し(・) も(・) の(・) を探している。

「そう言う訳でお断りよ。さっさと出て行って」

不機嫌になったジャナディアの拒絶の言葉に、サリュードはそそくさと席を立つ。彼女のランチが運ばれる前に決裂した。あのグラキエスが子供扱いで対象外とは、初手から交渉の余地が無かったのだ。

(一番確実な手だと思ったのにな)

サリュードの頭の中には、幼馴染の子爵家の駆け出し学生魔法士と、名門家の二級魔法士の麗人では、男なら誰だって後者を選ぶはずと固定観念がある。だから彼の中では家柄が最優先で、公爵家嫡男の自分が結婚相手を選ぶ立場にあると、未だに勘違いしている。

(グラキエスより、女を崩すか……)

しかし婚約者はまだ学生だ。全く接点がない。

(確かブルレイ侯爵家の息子が在学中だったな。魔法を使えるからって調子に乗った生意気なガキだが、あいつに持ちかけてみるか)

懲りず、実に執念深い男だ。