軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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『えっ、君はモカマチュラル地方の出身だったよな? 地方の子爵家に婿入りだって!? なんと勿体無い! ログノーメン家への婿入りも可能だろうに! なあ、ディア嬢』

『飲み過ぎですわ、総帥。そりゃルキアンほどの実力者なら両親も大歓迎なんだけど』

こんなふうに含みを持たす言い方も嫌いだ。こっちは酒の席の戯言だと流せる程、老成しちゃいない。

近くにキャルロットやフェルナルドがいれば、他の会話に持っていけるのに生憎二人は技術者と熱心に語り合っていて、こちらの様子に気がついてくれない。キャルロットはルキアンとジャナディアの仲が微妙だと察してくれている貴重な存在だが、親睦会での面倒までは期待できない。おのれに振り掛かる火の粉はおのれで払うのみか。

『私に王都貴族と縁付ける素質はありませんよ』

『“魔法爵“なのにとんだ謙遜だ。最近の若い者は向上心がないのかな?』

ルキアンが言葉選びを間違ったのか、この軍人貴族のお偉いさんが鈍感なのか。

やんわりとジャナディアとの縁を否定するのに伝わらない。向上心とは何を指しているのか。まるでログノーメンを乗っ取れとも聞こえる。酔っ払いの失言だ。

女性が爵位を継げないこの国に於いて、魔法伯爵家と王家の傍系公爵家だけは例外的に直系女性が爵位を継げる。尊き純血を繋ぐためだそうだが、ルキアンはそれに対する意見は持たない。 そ(・) う(・) い(・) う(・) 仕組みに決まっているなら、 そ(・) う(・) い(・) う(・) ものなのだ。

『身の振り方を早まったのではないかな? みすみす良縁を逃すとは』

『総帥、私を持ち上げすぎじゃないですか』

ご機嫌な態度のジャナディアに驚きだ。他省の上層部にまでこんな馴れ馴れしさが許されるとは。若い美女という存在は 強(・) い(・) 。

『子爵令嬢との仲は良好なので満足しています』

野心でジャナディアを選べと? それがお偉いさんの価値観だと良く分かる。当たり障りのない対応で〈良縁〉を否定した。

『早くから年下も視野に入れておけばよかったわ』

『いやいや、今からでも挽回できるぞ』

『出遅れたから無理だわ。相手はまだ十代のお嬢さんよ』

『君ほど魅力的な女性はそういないから押してみればどうだ?』

『適当に煽らないで』

次期魔法伯爵に略奪婚を勧めているのか? 浮気だぞ、それは。酔いどれの冗談はタチが悪い。笑い上戸の美女の甘ったるい声も 癇(かん) に障る。

終始楽しそうな二人に絡まれ、鬱憤を溜め込んだルキアンは苦痛の時間を過ごす。ちびちび飲んでいる酒も美味くない。

やっと終了時間がきて、赤ら顔で『今後も魔法省と綿密な関係を築き云々』とのワレプッシのお開き挨拶を聞いたあとは、適当に頭を下げながら退室した途端、転移魔法で即行帰宅したのだった。理性で辛うじて不満を抑えていたが、不機嫌は表面に現れていただろうし、総司令官の覚えは悪くなっただろうけれど構うものか。

自邸の玄関先に転移すると深呼吸して一拍置く。グラキエス魔法爵の家だ。当然門塀からぐるりと防衛魔法の結界を張っている。ルキアンとアステル以外は敷地内に転移できない。だが直接屋敷の中に現れるのは使用人たちも驚くだろうし、主人のお迎えという仕事を蔑ろにしているように思えて極力避けている。

普段どおりの顔を心掛け、玄関を開けると真っ先にアステルが視界に入った。

天真爛漫さが令嬢らしくなくてもルキアンにはどうでもいい。彼女の前では取り繕わなくてよいのだ。アステルの呑気な顔を見たら、ほっとして思わず抱きしめてしまったけれど、許された。

仕事内容を他者に語るのは業務契約上、禁止されている。しかも軍事省絡みだと世間話のつもりが、どこで国家防衛機密に抵触するか分からない。だから心の中の個人的な愚痴だけを叫ぶ。

「お仕事、大変なんだね?」

労りを込めて、アステルはしばらく抱きしめたままルキアンの頭を撫で続けた。されるがままなので余程精神的に辛いのだろう。ルキアンは愛想が良くない方だけど、それは彼の処世術でもある。実際に感情の起伏は人並みにあるし、怒りの沸点も高くはない。それらを飲み込むため平常心を保つ方法が無表情だ。何となくアステルもそれを察しているので、甘えるルキアンを茶化したりせず受け入れている。

「魔法省なんか入るんじゃなかった……」

アステルが初めて聞く愚痴だ。

しかし学生のうちに特級魔法士になったのだから、国王も魔法省も逃しはしない。ルキアンは自動的に魔法省入省が確定したも同然なので仕方ないのだ。

「六級くらいで止めときゃ良かった。地元で兄貴の補佐をする生き方もあったんだ」

「それは無理だよ。地元で抜きん出てた訳だし。だからいつも〈魔法士級位認定受験票〉って特別なものが、魔法士協会から届いてたんじゃん」

アステルみたいに、一般的に試験を受けるには願書を提出して〈◯級魔法士受験票〉をもらう。 魔法士協会は津々浦々に魔力持ちを探す情報網を張り巡らせているから、能力の高い者は目を掛けられ、強制的に魔法士試験を受けさせられる。ルキアンはこのセンサーに引っかかった典型例だ。

「それに試験にわざと落ちるって、なかなか出来ないよ。普段の実力が知れ渡っているんだから。ルキアンだって落伍者なんて言われたくないでしょ」

それはそうだ。当時は最短で最高位まで上り詰めてやろうと決心していた。しがない男爵家次男だなんて言われたくない一心だ。

「でもジャナディア・ログノーメン魔法伯爵令嬢なんて、敢えて二級止まりなんだぞ」

「え、そうなの? もしかして特級レベル? 手を抜いてるの?」

「一級以上になったら戦争が起これば強制参戦させられるからだ。男なら参戦するのは〈誉れ〉となるけど、女性は〈母体〉の損傷を恐れる。ログノーメン家は優秀な跡継ぎのリスク管理はしっかりしてるってこった。ずるいよな、名家は」

「なるほどー。一級試験を受けなかったんだ。でも二級でもすごいエリートだし! 魔法省で活躍しているんだから実力は疑いようがないでしょ」

アステルみたいなギリギリ魔法士は、期待されていないので受験は任意だ。

「やっぱり才色兼備って羨ましいよね。相手を選び放題じゃない」

「選択しまくってるから行き遅れだぞ。いや、貰い遅れか」

「ルキアン、言い方!」

ジャナディアはアステルから見て、若くて魅力的な美人だった。ルキアンの言葉は酷い。

「あの女がさっさと婚約者を決めないから、外野が独身の俺を宛てがおうと煩い。あの女も相手に調子合わせるタイプできっぱり否定しやがらない」

「え?」

ルキアンの頭を抱えていた手が思わず緩む。

「婚約解消するの? 私、これから学校でお婿さん探さなきゃいけないの?」

「そんな話、してないだろ!?」

アステルに身体を預けていたルキアンが物凄い勢いで顔を上げ、彼女を非難の目で捉える。

「セルフィナ様は魔力なしだったけど、ジャナディア様は魔法士で、ルキアンの結婚条件に合ってるじゃない。綺麗で次期魔法伯爵だよ? ルキアンって甘え下手だから年上の女性が相応しいと思う」

アステルは眉尻を下げているものの真剣な顔だった。

「あんな素敵な人がルキアンを狙ったら、平凡な私なんか敵わないよ」

「おまえのお婿さんは俺だろうが! 他所(よそ) で他の男見繕ったら許さねえぞ!」

「……婚約解消しないなら探さないよ」

「俺は出世欲もねえし、田舎に帰りたいって何度も言ってる! あの女は無意識に俺やおまえを見下してる王都貴族なんだぞ! おまえはそんな奴に俺を押し付けようってのか!?」

「そんなつもりは……」

こんなにも口が悪くて大声の幼馴染みは見た事がない。情緒不安定なところを 突(つつい) て気分を害してしまったらしい。

「婚約解消なんかしない! 二度と言うな!」

ルキアンはアステルの身体を引き剥がすと、彼女を一瞥もせずに奥へ引っ込んだ。

(あちゃあ、怒らせちゃったな。……でも王都にいたら嫌でもルキアンとの格差に怖気付いちゃうんだよねえ)

地方でのんびり過ごしていた時とは違う。アステルは珍しく深い溜息をついた。