軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「ルキアン、お帰りなさーい」

「ただいま、アステル。交流会はどうだった?」

「楽しかったけど、結構歩いたから疲れたー。ご飯食べながら話すね」

「待たずに先に食べたら良かったのに」

交流会の日はそれだけの行事なので昼には終わる。そのあと解散だから、アステルは学院食堂で友達とランチしてから帰ると言っていた。アステルはいつも楽しそうで、充実した学院生活を送れているとルキアンは安堵している。

「うん、でも帰ってすぐお風呂入ったら眠くなっちゃって、お昼寝しちゃったんだ。それでまだお腹空いてなかったからルキアンを待っていようと思って」

この年でお昼寝はないよねー、なんてアステルは笑う。そんな事はない。人間誰しも疲れたら眠りたくなる。働いている場合は仕事中の昼寝を〈仮眠〉と呼ぶだけだ。ルキアンだって考えに行き詰まると脳を休めるため仮眠を取る。それにしても。

「確かにアステルが昼寝をするのは珍しいな」

「そうそう、なんだか寝ている時間が勿体ないし、最近はそこまで疲れる事ないしね」

「ガキの頃は遊び疲れて、そのまま牧草や花畑で寝る野生児だったのにな」

ルキアンは昔を思い出して笑ってしまう。

「や、やめてよ。そんな昔の話。でも懐かしいな。ルキアンちの林に秘密基地作ってそこで二人して夕方まで寝ちゃって、行方不明だと大騒ぎになった事もあったよね」

「あれはめちゃくちゃ親父に怒られた。 子爵令嬢(アステル) を巻き込んでたからな」

ルキアンは父親に拳骨を喰らい、説教されて不貞腐れた記憶がある。

秘密基地を作りたいと言い出したのはアステルだ。なんでも読んでいる絵本の主人公が作ったのだという。

__で、巻き込まれたのはルキアンである。言い出しっぺの彼女は絵本のイメージだけで具体的な構想はない。仕方なくルキアンが魔法を駆使しながら林の木の枝を切って使い、蔦で枝を固定していく。その間アステルは地面に敷く藁をせっせと納屋から持ち出してきていた。枝で作られた屋根にも藁を被せ、子供二人が寝転べるだけの藁を敷く。寝転がると乾いた干し草のいい匂いがした。いつの間にやら調達していたクッキーをアステルから貰い、寝そべって他愛もない話をしているうちに眠ってしまったのだ。

秘密基地は秘密ではなくなったが、二年は使ったように思う。そのうち二人も成長して足が遠のいた。もうあれも朽ちてしまっているだろう。

「しかし今年は宝探しゲームとは……。おまえはともかく、女生徒たちは特に大変だっただろう」

別にルキアンはアステルを馬鹿にしたわけではない。彼女は領地の探索が好きで、森林も歩き慣れている。さすがに山登りは禁止されて残念そうだった。〈楚々であれ〉と育てられた令嬢とは基礎体力が違う。

「楽しかったよ。チームの人たちもいい人ばかりだった! そうそう、班長さんが女生徒が可哀想だって学院に抗議したんだって」

「そりゃ良かった」

「女の子がすぐ力尽きて探索続行が難しかったチームは、休憩を挟みつつ、森の入り口近辺をうろうろして時間潰したりしたんだって。お嬢様たち、体力無さすぎ」

「おまえも一応お嬢様なんだけどな」

「でも一緒のチームの女子二人は頑張ったよ! フランは疲れたーとか愚痴るしカエルやイモリに騒いでたけど。シルファ様は乗馬が好きで体力あったから苦じゃなさそうだった!」

フランとはクラスが違うけれど交流会で仲良くなった。二人で城下町の雑貨店巡りを約束している。

(あれか? 苦楽を共にして仲間意識が出てくるってやつ)

卒業してやっとルキアンはオリエンテーションの意義を知った……気がする。

しかしルキアンが初学年の時の ア(・) レ(・) は〈公爵令息VSそれ以外〉の構図ができてしまっていて最後までギスギスした。

(まあ俺は悪意に強いから平気だったけど、アステルがチームに恵まれて楽しんだなら良かった)

「それでね、ルキアン。ダンリ・ブ?なんとか二級魔法士って知ってる? 終学年生なんだけど」

「ん?」

ルキアンは小首を傾げて考える素振りをした。

「ああ、ダンリ・ブルレイ侯爵令息か」

「あっ、それそれ! その人の魔法を見たけど、ルキアンと比べて地味に見えちゃった」

「魔法に地味も何もない。状況に応じて使い分けるだけだ。学院は攻撃魔法禁止なのにどうしてそいつが魔法を使ってんだよ」

そこでアステルは一連の出来事をルキアンに説明する。

「ふーん……。それでおまえはまた腕輪を見せたんだな」

宝箱がどうのこうのにルキアンはあまり興味を示さなかったが、ブレスレットについては言及した。

「そうなの。彼の班のヘルアントスさんって人が、私がダンリ様に見初められないか気になっていたみたいだから、婚約してるって示したの」

(在学中唯一の公爵家のお姫様か)

ダンリとは魔法士協会で直接面識があるけれど、ヘルアントス・カフセイル嬢は顔が思い浮かばない。つまりルキアンに近づいていないという事で、いくら有望魔法士だとしても男爵家の次男は眼中になかったのだ。姉が家を継ぐから嫁入り先を探しているのだろうから当然である。

とにかくブルレイ侯爵嫡男がアステルにアクションを起こさなかったのなら、別に問題はない。

「でさ、ダンリ様がブレスレットに興味持ったから鑑定してもらったのよ」

珍しくルキアンが目を見開く。あのヤバい代物の鑑定だって!?

「何故そんな事を!」

「だってルキアンってば、大層なものじゃないって言って教えてくれなかったし。白金が魔法付与に最適だってのも初めて知ったよ。同じのを着けるルキアンが華美なものを嫌ったからだと思ってた」

「なんて言った。ブルレイ侯爵子息は」

「んー、毒・麻痺無効、追尾が付いてるって驚いてた。王族並だってさ。特級魔法士にいくら払ったか分からないって言ってたよ。愉快だねえ」

実際は 無料(タダ) だもんね、とアステルはニコニコしている。

(詳細は分からなかった……? ブルレイ子息は些細な魔法は興味がなくて知らなかったって事か?)

「でね、その時聞いたんだけど」

「うん?」

アステルが、ずいっとブレスレットをした左手を差し出す。

「動物に懐かれる魔法があるんでしょ! それも付けて!!」

「ぐっ!」

ルキアンは確信した。ダンリは〈まじない〉級の魔法も知っていたのだ。そしてこんなくだらない魔法まで 依(・) 頼(・) した婚約者に呆れた事だろう。どうして『付与されている』とアステルに告げなかったのかは不明だが。体系化されていない民間魔法の類いは馬鹿らしくて伝えなかっただけかもしれない。王族守護レベルの魔法加護のインパクトが強すぎるのは理解できる……。

「ルキアン、困ってる? もしかして難しい魔法なの?」

「いや、ブルレイ侯爵子息がおまえの婚約者が俺だと知ったら、その腕輪に魔法を施したのが俺だと分かってしまうじゃないかと思ってね」

「そりゃそうよね。特級魔法士が他の魔法士に頼むはずないもの」

どうでもいい下級魔法はともかく、あらゆる守護魔法に加え、極め付けは追跡魔法。アステルがどこにいるのか知ろうと思えば分かる魔法だ。あれは無属性の中でも無機物に付与するのが難しい高度魔法である。

(……これ、客観的に見ればただの束縛男じゃないか?)

ダンリにはたまに魔法協会で会う。あちこちで静かに周知されていっている、“魔法爵”の婚約者がアステルだと知るのも時間の問題だ。あの婚約ブレスレットを鑑定した結果、彼女に対してものすごく執着しているように見えるだろう。いつも愛想のない自分がそういう目で見られる事に気がついて動揺したのだ。

ルキアンは知らない。ダンリは高性能の魔道ブレスレットを見て、アステル・コンコルディとその婚約者には関わらまいと決めたので、ルキアンが婚約者だと知れば『ああ、実質タダか』と納得して、彼の中の想像上の大富豪が消えるだけである。ルキアンが心配のあまり付与した追跡魔法は、幸いな事にダンリには『大事な婚約者なら仕方ないんだろうな』と〈溺愛〉の範疇に収まっている。

「まじない魔法って弱すぎて付与できないの?」

ルキアンの気難しい表情を勝手に解釈したアステルは目に見えてしょんぼりしている。そんな彼女の姿には弱いルキアンは、「おまえが喜びそうなそんな魔法、とっくに付けている」と暴露してしまった。

仕方ないな、とでも言って軽く重ねがけして、今付与しました、みたいな態度も取れたわけだが、ダンリが気づいている以上無意味だ。

「そうなのね、ありがとう! さすが良く分かっているじゃない!」

(アステルが純粋に喜んでいるなら、まあいいか)

「ついでに聞いてみたいんだけど」

アステルが真剣な顔になったので、ルキアンも思わず真顔になる。

「いくら食べても太らない魔法ってある?」

「ねえよ!」