軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15

「凄いですわ! ダンリ様!」

ヘルアントスの賛辞は当然だが、恐らく初めて見るであろう魔法に、アステル以外は目を輝かせている。あの泳げない男爵令息でさえもだ。

「魔法ってそんなのも出来るんだな」

「ええ、敵を攻撃するものだとばかり……」

繊細な魔法を扱うダンリを、ユースティもシルファも見直していた。

「まあ、この程度は二級魔法士なら簡単だよね」

ダンリはアステルを見て自慢げに笑ってみせる。確かにアステルには無理だ。四大魔法の重ね掛けはした事がないし、正確に軌道を描ける気がしない。

それでもアステルはダンリ程度の魔法なら 見(・) 飽(・) き(・) て(・) い(・) る(・) の(・) で(・) 驚かない。

以前子爵領の土砂崩れで、川に大岩がいくつも転がり落ちて流れを堰き止めてしまい、近村に氾濫する危険があった時、颯爽と駆けつけてくれた隣領の天才少年魔法士はまだ十三歳だった。彼は無詠唱で魔法を発動して川から大岩を取り除いてくれた。うねる水流から一斉に浮き上がる岩々は圧巻だった。

自分も魔法士になった今なら分かる。あれは た(・) だ(・) の(・) 風(・) 魔(・) 法(・) だ。ルキアンは圧倒的な魔力量でもって押し切ったのだ。複合魔法を使ったダンリとは能力が違いすぎる。

てっきり初級魔法士のアステルも賞賛するかと思っていたダンリだが、彼女は特別な感情を示さなかったから拍子抜けした。が、気を取り直すと宝箱の蓋に手を掛ける。

「あ、あれ?」

宝箱を開けようとしてダンリが戸惑う。

「どうしたの?」とシルファが覗き込む。

「開かないんだ」

「え? 同じ、鍵のない宝箱なんだろ?」

ユースティも近づく。

「水が入っておかしくなっているとか」

「いや、それはない」

ダンリが宝箱を振ってみたが、何かが弾む乾いた音しかしない。

「留め具が壊れたとか?」

ユースティの言葉に「俺の魔法のせいだと言いたいのか?」とダンリは凄む。

「そうは言ってないよ。ずっと水に沈められていたなら、具合が悪くなっていてもおかしくないだろ」

「くそっ! 考えなしの馬鹿教師どもめが! このまま持ち帰ってやろうか! それともいっそ火魔法で爆破してやろうか!」

原因は不明だがダンリの中では、水の中に隠した教師のせいになっていた。

「落ち着いて。爆破なんかしたら中のボールも吹っ飛ぶじゃない」

シルファが荒ぶるダンリを落ち着かせようとする。

「……あのー、貸してもらっていいですか? 開けられるか試してみます」

開けようと男性陣の奮闘が一巡したところで、アステルが控えめに声を掛けた。

「ん? ああ……。女の手じゃ無理だろうけど……」

諦めたダンリが手渡す。宝箱を受け取ったアステルは留め具部分を観察した。表面上、特に不具合は見当たらない。ならば、やはり問題は内側か。

アステルは留め具に手のひらを当てて魔力を流す。かちゃんと、中で何かが落ちる音がした。手応えを感じた彼女はそのまま蓋を開けた。

「え? そんなに呆気なく?」

信じられないとばかりに目を見開いたラウルが、思わず宝箱を取り上げて確認する。

「赤いボールです。よかったですね」

上手くいって安心したアステルはにこにこしている。

「……ちょっと待ってくれ。何の魔法を使ったんだ?」

ダンリが動揺する。

「え? 元素魔法以外だから無属性ですけど」

「ああ、分かるよ! 今確かに君の魔力が宝箱に流れた! 呪文も口にしなかったよな。それの魔法の名前は!?」

「さあ、何でしたっけ? 鍵魔法? うーん、鍵じゃないし……あ、開封魔法!?」

のほほんと正解を思いついたアステルを見て、ダンリは「何だよ、その取って付けたような疑問系の解答は」と眉をひそめる。

「体系別に重要な防御やら回避やら解除やらの魔法はちゃんと呪文がありますが、あまりに些細なものに、いちいち呪文はないと思いませんか?」

「……だが動物に懐かれる呪文があるくらいだからな。結構細分化されているだろ」

「何ですか、その羨ましい魔法。何級で習えるんでしょうか!?」

(やはり動物好きだったか。やばい、食いついてきた。そんなの知らん)

「大体基礎をマスターした三級あたりから、各々好きな分野の魔法に走る。俺だって情報として覚えているだけで、動物懐きだの失せ物防止だの使った事がない」

「失せ物防止とか便利じゃないか。発動の有効期間はどのくらいなんだろうか」

(めんどくさっ! どうしてユースティまで興味持つんだよ!)

「さあ、魔法士の力量による。直接身体に魔法をかけてもらって一日から十日くらいと聞いたな。数日しか効果がないピンポイントな魔法は割と使い勝手は悪いんだよ」

それでも律儀に答えながら、アステルのブレスレットは規格外だとダンリは改めて思う。

(あのどうでも良さげな魔法もしっかり固定されていたから、数年は持つのではないかな。効果が薄れたら再度特級魔法士を頼るのだろうか。いや、もしかしたら半永久固定かも)

あまりにも付加魔法が高度すぎて、ダンリにはそこまで判断できない。

「ダンリ様、赤いボールが手に入ったのですから、このまま入り口に戻りましょうよ」

ヘルアントスの言葉にダンリはちらりとアステルを見た。

「宝箱を開けたのは君なんだが」

「えー、宝箱を手にしたのはダンリ様なんですから」

最悪、宝箱ごと持ち帰っても良かったのだ。どうにかして教師が開けただろう。アステルに言われ、ダンリは赤いボールを手に入れた。

帰路は分かれた。ダンリ班は他のチームの気配のない他の獣道を通って入り口を目指し、ユースティ班はお気楽に適当な脇道を選び出発点に戻る。

「優勝は計十三個、内赤ボールが二個のドレイク・マンジリーン班です! 準優勝は計十二個、赤ボール一個のダンリ・ブルレイ班です!」

司会者の「おめでとうございます!」の言葉で、盛大な拍手が院庭に響く。

「くっ、たった一つ。それも赤ボールの差か」

恨めしそうにダンリは同級生のドレイク伯爵令息を見た。

「赤は宝箱に入った三つしかなかったのだ。まさか全て回収されるとは思わなかった。よく頑張った」

学院長の言葉に「私たちが見つけたのは湖の岩陰でした。大変でしたわ」とヘルアントスが、さも自分の手柄のように言う。他チームのアステルの協力など当然口にしない。

「俺たちも大変だったぜ! 一つは崖登った先の草むらで、一つは蓮池の中だった!」

体格のいいドレイクは満面の笑みだ。メンバーが苦笑気味なのは何故か。

「マンジリーン様ったら、いきなり『お宝の匂いがする』とか言って崖登るし、蓮池の泥の中で光る金箱を目敏く見つけて裸足で入っちゃうし」

「でも『おまえらは待機な!』と言ってくださったのは助かりましたわ」

チームの令嬢たちの声に「女性が汚れてはいかん! メダロッキー子爵令嬢! 泥を拭くタオルをありがとう! 今度新しいのを返すからな!」

いちいちドレイクは声が大きい。名指しで礼を言われた子爵令嬢は注目を浴びて恥ずかしいのか、照れているのか「はい……」と頬を赤らめた。

ここは青少年の巣窟。生徒たちは勝手なロマンスの予感に色めき立った。メダロッキー嬢とドレイクにとっては大きなお世話だろう。

「王都騎士団長息子のあの脳筋野郎、野生の勘と行動力がありすぎだ」

準優勝に甘んじたダンリは苦々しげである。

「本当に泥の中にあったのね」

フランとシルファが、我が班が見つけなくてよかった、と目を合わせて頷いた。

こうして今年も交流会は大盛況?の中、幕を閉じた。

ただ今後の問題点として、今回のように森を舞台にするなら、毒虫や蛇の対処法を徹底して教えておき、要所要所に教師を配置し、特に池、湖や崖など危険を伴う地点にはちゃんと教師が待機するべきだと、ユースティは申し立てする気でいる。更に「女子生徒にはきつすぎたと思う。もっと穏やかな交流会にしてほしい」と、後輩のために意見しておくつもりだ。