軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第一話  内政派と征伐派

チトセは店のカウンターで宿り精霊たちとボードゲームをしていた。

夏とはいえ今日はとびきり暑いせいか、窓から見える店の前の通りも人通りが少ない。

「ロク、ヨン!」

サイコロの出目を読み上げた宿り精霊の一体がふわりと浮かんでボードゲームの盤を覗き込む。

春頃に来たお客が持ち込んだバックギャモンというボードゲームで、駒をゴールさせれば勝ちというルール。

寄木細工の木製の盤にフェルト生地が張られており、駒はハマグリを削りだして作られた最高級品。金貨が数枚飛ぶほどの品だ。

高級感のある白い光沢を放つ駒をフェルト生地の上で滑らせて進める宿り精霊たち。

「チトセ、フル!」

「ハヤク!」

「ちょっと待ってよ」

サイコロを転がし、出た目を見て戦略を組み立て、チトセも駒を動かす。

ゲームも後半になった頃、居住スペースからアシエラがやってきた。

「やっぱり秋口のイベントも中止」

「だと思ったよ」

予想していた通りだ。アシエラも同じ意見らしく、カウンターに入ってチトセの隣に腰かけた。

バックギャモンの盤面を眺めながら、アシエラは続ける。

「皇太子の急死が響いてる。今年のイベントは軒並み潰れると思っていい」

文化奨励をしていた皇太子の死により、補助金の交付が止まると判断した主催者がイベントの中止を宣言する事態が増えていた。

それというのも、主な主催者である貴族たちは皇太子についていた内政派の貴族であり、帝国そのものを強くしていこうという考え方で動いている。

だが、侵略戦争を繰り返して帝国の領土を拡大してきた先代皇帝から続く征伐派はさらなる戦争を望んでいた。

次期皇帝である皇太子が文化奨励に舵を切って内政派を率いていたため、不興を買わないよう征伐派は大人しくしていたのだ。

しかし、皇太子の急死により、内政派と征伐派で政治闘争が勃発。内政派貴族はイベントの主催どころではなくなった。

雲の上の話だと思っていた皇太子の急死がこんなにも早く生活に影響を及ぼすのはチトセにとって意外だったが、経験豊富なアシエラは慣れっこらしい。

チトセはサイコロを振りつつ、そんなアシエラに質問する。

「定期開催している恒例のイベントなら大丈夫じゃないの?」

文化奨励の補助金なんて当てにしていないイベント。例えば旧サウベリア王国で行われる蚤の市などは行われるかもしれない。

アシエラは宿り精霊たちに逆転の手を相談されていくつかのヒントを出した後、チトセに答えた。

「今年と来年は各地でイベント開催が告知されていたから、補助金を得られない恒例イベントは集客が見込めないって中止の通達が来てるんだ」

「あぁ、言われてみれば確かに」

補助金を懐に入れるような貴族も多いが、それでも貴族主催ということで会場が立派な場合も多い。客が取られるのは仕方がない。

「マケター!」

「チトセ、ツヨイ……!」

「サクセンカイギ!」

チトセは駒をゴールに入れて勝利を飾ると、店の外を見る。

ゲームの合間もちらちらと見ていたが、夏の暑さだけでは説明がつかないほど人通りが少なかった。

チトセの視線に気付いたアシエラが口を開く。

「帝都全体が沈んでいるから、お客はなかなか来ないだろうね」

皇太子が帝国民に慕われていたかというと、そうではない。むしろ、評判は少し悪かったくらいだ。

だが、先帝や現皇帝と違って対外戦争をせずに国力の強化を訴えていた点は評価が高かった。旧サウベリア王国領のような支配地域の住人からも現皇帝より遥かにましだと思われていた。

そんな皇太子が突然の病死。その不自然さから征伐派貴族による暗殺説が囁かれている。

「皇太子って兄弟はいるの?」

「いないね。現皇帝も高齢で、継承権一位は皇太子の子供。生後五か月かな」

「冬の終わりに生まれてたね」

誕生が告知された日は帝都もお祝いムードで景気が良かった。皇太子が文化奨励を始めたのも皇太子妃が懐妊した頃なのを考えると、子供が生まれるから戦争なんて始めたくなかったのだろう。

チトセはアシエラに教え込まれた歴史を思い出しながら、これからの政治の行方を予想する。

「……後見人争いで貴族たちがバチバチに争うよね?」

「それだけならいいけど、現皇帝の甥が支配地域を治める公爵なんだよ。当然、征伐派貴族の筆頭だ。中継ぎとして立てるにはちょうどいい年齢でもある」

その公爵が帝位を継げば、ほぼ確実に領土拡大戦争が始まる。

アシエラはバックギャモンの駒を手に取って眺める。

「だから、みんな出歩かないんだよ。下手をすると内戦だからね。貯蓄しておきたいのさ」

「しばらくは暇になるね」

金貨が飛ぶこのバックギャモンが売れる日は遠いだろうな、とチトセが盤を見下ろすのと同時に宿り精霊に担ぎ上げられたエティが次の挑戦者として現れた。

「覚悟しろ、チトセ。打ち筋は覚えているんだからな!」

「先手をどうぞ」

暇つぶしならいくらでも歓迎だと、チトセはサイコロをエティに渡した。