軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十四話 来客

どこからか風に乗って運ばれてきた薄桃色の花が開いた窓から店に入り込んできた。

暇そうに店内を飛んでいた宿り精霊が風に舞う花弁を追いかけて空中でキャッチし、カウンターのチトセの傍に持ってきた。

「トッター」

「クーナの木の花弁だね。パン屋の敷地に植えられてたから、そこから飛んできたかな」

先端に切れ込みが入っている特徴的な花弁を見てチトセは春の終わりを感じた。

クーナの木は春の中頃に花を咲かせて夏が近くなってくると散っていく。帝都に夏の訪れを告げる木だ。

「クーナノキ!」

別の宿り精霊が飛んできて、花弁を覗き込む。クーナの木材で作られた宝石箱に宿る精霊だ。

「アゲルー」

「モラッタ!」

貰った花弁を頭上に掲げてチトセに自慢すると、宿り精霊は二体揃って窓の方へ飛んでいった。窓から外を見れば花弁が他にも舞っているだろう。

チトセは精霊魔法について書かれた本を開いて読み始める。

今日は商業ギルドに用事があるとのことでアシエラに留守を任されている。客が来ないのではすることもなく、のんびりした時間が流れていた。

無意識に胸元に隠している短剣に触れると、肩の上でティ・キーが欠伸をした。

「お嬢、することがないのであれば、紅茶を淹れてはどうだ?」

「今は勉強中」

「ふむ……」

残念そうに項垂れたティ・キーを気遣って宿り精霊たちがやってくる。

「アソブ?」

「気にしなくてよい」

ティ・キーは宿り精霊たちの頭を撫でて、それぞれの遊び場へと背中を押した。

ティ・キーがいると宿り精霊たちを上手くあしらってくれるので勉強しやすい。お昼にお礼の紅茶を淹れてもいいかなとチトセは思った。

本のページをめくろうとした時、住居スペースからシャンジが飛んでくる。

「おーい、チトセ。裏口にオーミーが立ってるぞ」

住居スペースには裏口があり、店の客ではない場合はそちらから訪ねてくる。

しかし、呼び鈴が鳴らされてもいない上、オーミーは旧サウベリア王国領にある古書店主の孫娘だ。帝都にいるとは思えない。

怪訝に思いながらも、チトセは本を閉じて立ち上がった。

「他人の空似じゃないの?」

シャンジは頭の後ろで手を組んでふわふわと漂いながら肩をすくめる。

「チトセたちの年頃は半年も会わなければ雰囲気が変わるけど、オーミーはそのままだったぜ?」

背は伸びてたけどな、というシャンジを連れて、チトセは店から住居スペースに入る。

台所から裏口の扉に近付くと、確かに外に気配を感じた。

チトセは肩のティ・キーに目配せする。扉の向こうにいるのが裏町の殺人鬼とは思えないが、万が一に備えるべきだ。

鍵を開けて、一気に扉を開く。

「――わっ」

突然開いた扉に驚く声が聞こえてきた。

びっくりした顔でチトセを見つめるのは、背の高い女の子。チトセも半年で少し背が伸びたのだが、身長差は蚤の市の頃と変わらないようだ。

「……オーミー、なんでこんなところに?」

本当にオーミーだったばつの悪さもあって、チトセは質問する。後ろでシャンジが「だから言ったろ」とツッコミを入れていた。

オーミーは旅行鞄を持ち直し、照れたように笑う。

「古書の買取依頼があって、お祖母ちゃんと一緒に帝都に来たの。チトセちゃんに会えるから。でも、このお店で本当にあっているか分からなくて」

「裏口で立ち往生してたと。中に入って。紅茶でも淹れるから」

「おじゃましまーす」

重たそうな旅行鞄を持って入ってくるオーミーのために扉を押さえておく。同時に、外に不審な人影がないかを調べた。

問題はなさそうだ。

裏口を閉めて、きちんと鍵もかける。台所を見れば、いつのまにかティ・キーが紅茶の葉が入っているティーキャディーの横でワクワクしながら待っていた。

「お嬢、早う」

「はいはい。オーミーは精霊が視えないから、脅かさないようにね。シャンジ、店のみんなにも伝えて」

「おう。伝えてくるけど、大人しくするとは思えねぇな」

オーミーからは何もない虚空に話しかけているように見えるだろうが、チトセに精霊が視えることは知っているのもあってニコニコと見守っていた。

チトセはお湯を沸かし始め、オーミーを振り返る。

「フラーヤさんはこのお店にオーミーがいることを知ってるんだよね?」

「知ってるよ。お祖母ちゃんは買い取った古書の発送手続きをしてから来るって言ってた」

「オーミーみたいに裏口で立ち往生しないと良いけど」

「そこだけ心配だねー」

店が分かっていたとしても、道に迷う可能性は十分にある。シャンジに迎えに行ってもらいたいが、フラーヤも精霊は視えない。

「まぁ、到着が遅かったら迎えに行こう」

孵化精霊たちと一緒に探せば、道に迷っていてもすぐに見つかる。

来客用のお菓子を戸棚から取り出そうとした時、店舗スペースから宿り精霊たちが大挙して押し寄せた。

「チトセノトモダチ!」

「コノコ、トモダチ?」

「イラッシャイ!」

「ミエル?」

「ヨウコソ!」

宿り精霊たちは椅子に座るオーミーの周囲を飛び回る。

視えなくても、宿り精霊たちが起こす妙な風に気付いたオーミーがきょろきょろした。

店舗スペースから疲れた顔のシャンジが飛んでくる。

「すまねぇ。止められなかった」

テンションが最高潮の宿り精霊たちを見れば、シャンジが止められなかったのも仕方がないとあきらめがつく。

チトセはため息をついて、オーミーに声をかけた。

「ごめん、店の宿り精霊たちがオーミーに興味があるみたいで、集まっちゃった」

「視えないけど、どれくらいいるの?」

「十三体。店で寝ている子が起きてきたらもっと増えると思う」

「賑やかだねー。視えないのがちょっと残念だけど」

視えない方が良いこともある。騒がしくて仕方がない。

宿り精霊たちが落ち着くまでオーミーと話すのも難しいと判断して、チトセは戸棚から取り出したお菓子をテーブルに置いて、じっくり紅茶を淹れることにした。