作品タイトル不明
いざ雪の廃墟へ
「大丈夫……なんですかね? これ?」
雪に埋もれた野菜を見て俺は日出に尋ねるともなく尋ねた。
「待ってください、ニュースで雪の中に野菜が埋もれてることで、甘みが増すって説明してたのを聞いた記憶がありますよ。これも逆においしくなるかもしれないんじゃないですか! ラッキーじゃないですか!」
「そうか……な……?」
それは特定の種類の野菜だけなのではないだろうか。
種類によっては冷えない方が良いのではないか。
「でもまあ、降りしきる雪をどうこうできはしないか。これが有害だろうと有益だろうと」
「そうですねえ。ビニールハウスとかそういうのを用意するってのも無理な話でしょうし、これはもう大丈夫だと野菜達の生命力を信じるしかないんじゃないでしょうか」
「まあ、そうですね。どうにもできないことを考えても仕方ないし祈るしかないか。魔法の力を信じて、やれることをやるしかないな」
「そういうことです。それに、万が一だめになったとしても、僕のマホウがあれば、悪くなった野菜も無害で食べられるじゃないですか! 皆さんのために力を使う所存ですよ!」
そうだ、日出のマホウは『毒消し』。
腐ったものでも泥やらカビやらがついたものでも、なんでもお腹を壊さず食べられるようになる。
それなら雪でダメになっても問題なく食べることができるってわけだ。
「それなら安心か。……安心か?」
「ええ、大船に乗ったつもりでいてください。だから僕らはさあ、やれることをやりましょう!」
「そうですね。…………って、俺が何やるかまだ何も言ってないような」
「言わずともわかります。雪の中探索するつもりなんでしょう」
まあそりゃわかるか。
俺が外に出るのなんて、第二マンションで髪切るかジムで鍛えるか魔石を探すかだしな。そしてこんな雪の日だ。
「日出さんもそれで出てきたんですか?」
「ええ。急に寒くなったじゃないですか。防寒対策のためにMPを稼がなきゃまずいじゃないですか」
俺とまったく同じ動機みたいだな。
それならせっかくだし一緒に行くか。
雪の中の探索は初めてのことだから、予想外のこともあるかもしれない。
そんなときには一人よりも二人の方が安全だ。
「よし、じゃあ行きますか。暖かい暮らしのために」
「ええ! 出発しましょう!」
そして俺と日出は二人で雪の積もったマンションの門をくぐって外へ出た。
「これは……」
「なかなかの光景じゃありませんか!」
門の外はいつもの廃墟。
――とはまったく違う世界に見えた。
マンション空間は平らでずっと広い芝生に雪が積もっていた均一できれいな光景だったが、外は違う。
道路がひび割れ建物が傾き、瓦礫が積み上がる廃墟に雪が降り積もると、いつもとはまるで違う光景が作り出されていた。
割れたアスファルトはまったく見えず、白い雪が平らに道路を形作り、積み上がった灰色の瓦礫は、分厚い雪の層になだらかに覆われ、白い雪の小山へと変貌している。
今俺の目に映っているのは、無数に小山のある雪原の光景だ。
「すごいじゃないですか……! こんな風になってるなんて!」
「ああ、驚きですね。雪が降ったら大変かと思ったけど、なんならいつもより快適に移動できそうなくらい」
でこぼこした地面、ゴツゴツした瓦礫、躓いたり体をひっかけたりする原因のそれらすべては滑らかな雪に覆われ隠れている。
雪に埋まらないようにさえすれば、いつもよりも楽なくらいだ。
まさかの雪の好影響。思ってもみなかったことに気分良くなりながら俺達は西方面の探索へと進んでいった。
歩きやすいということも雪のいい影響だがもちろんそれだけじゃなく、見た目もいい。広がる雪原に、いくつもある雪の小山という景色はきれいだし、どこかかわいさもある。
そしてそんな中に、倒壊しきっていない建物――傾いたビルやマンション、あるいは標識などが時折白から飛び出していて、いつもよりも壊れたものの見える数は少ないのに、いつもの廃墟の景色よりさらなる虚無感を感じさせてもくる。
こういう中を歩いていくの、なんかいいな。
いつもより雰囲気のある町が見られた、それだけでも今日魔石集めの探索をした価値はあるかもしれない。
とはいえもちろん魔石も見つけるつもりだけどな。
寒さはなんとかしないといけないのだ。今も叙情的な気分だけじゃなく、普通に寒いのだ。
目を皿にしながら雪上を歩いていく。
ひたすら銀世界を進んでいく。
「……九重さん、僕思ったんですよ。いいですか?」
「どうかしました日出さん」
歩いていると九重がおもむろに口を開いた。
「雪に埋もれてて魔石見えないのではないでしょうか?」
「…………あ」
俺としたことがうっかりしていた。
雪景色の美しさにみとれていてこんな基本的なことに気が回らないとは。
しかし、それだと恐ろしい事実に行き当たる。
「ということは、いちいち掘り起こさなければいけないってことになります……よね? 日出さん」
「そういうことでしょう、どうしましょうか」
「うーん」
さすがに雪の中を片っ端から全て掘るのは非現実的というか腕が死ぬというか。何か他にいい手があればいいのだが。
歩きながら手を考える。雪をまとめてどかすとか、あるいは溶かすとか、あるいは雪の下を透視するとか……。
「そうそう、前の方に見えてるみたいに雪が紫に光ってるとか……え?」
「あれ魔石の色じゃないですか九重さん!」
俺達が気づいたのは、真っ白な世界に目立つ青紫色の光。
白い雪がぼんやりと奥から照らされているかのように魔石と同じ色に光っているのだ。
俺達は雪に足をずぼずぼ深く足跡をのこしながら、光る雪の元へと走っていく。そして二人してスコップで雪を掘り起こしていくと――雪の底から大きな魔石が姿をあらわした。
「おお! 本当にあるじゃないですか!」
「この色が雪を通して見えてたんですね」
かなりの大きさの魔石だが、雪の上から見えていたのはかなり淡い色だった。ということは、
「ある程度大きい魔石だけが、雪の上から見えるっぽいですよ」
「逆にいいじゃないですか! 雪を掘って小さかったらガッカリですけど、これなら効率的にMPをたくさん稼げる魔石だけを掘れるということですよ!」
なるほどそういう見方もあるな。
見逃しは生じるがいちいち小さい魔石に時間を取られるよりも効率は上がる。そう考えるとこれはむしろ俺達にとって朗報。
「そうですね――ではどんどん雪の上を進んで、大きい魔石を見つけていきましょう日出さん」
「ええ、やる気出していきましょう!」
俺達は雪上を歩くペースをあげていく。
雪の底に潜むさらなる魔石を集めるために。
だが俺達は魔石を手に入れる当てができたことに歓喜するあまり気づいていなかった。
雪の中から俺達を見つめる眼があったことに。