作品タイトル不明
冬来たりなば
冬、つまりウィンター。
世界に大異変が置きて文明崩壊したのはたしか初夏の頃だった。
ロビンソン・クルーソーのように毎日経過した日にちを律儀に記録はしていなかったので今が何月何日なのか正確にはわからないが、おおよその季節は体感でわかる。
暑すぎてエアコンに命と心を救われた夏はとっくに終わり。
残暑の厳しい秋の初めも過ぎ去り、涼しくなったと思いきや一気に冷え込んできたのが昨今だ。
多分11月か12月か、もうそのくらいになってると思われる。
「たしかに最近ちょっと涼しく、いや寒くなってきたわね。夏ものだと厳しさを感じつつあるわ」
天音が自分の肩を抱きながらぶるりと震える。
「そうそう、俺達はMP節約が染み付いてるから前に買った服を着続けてるけど、そろそろ辛くなってきたじゃないか。ってことは、当然植物にとっても――」
「辛い季節ってことね。木は冬でも枯れないけど……でも苗ってどうなんでしょうね? 大きな木になったら寒くても耐えられると思うけど、その前の若い時期も平気なのかしら」
「さあ……専門家じゃないからなあ。苗木は暖かい時期に植えてある程度育てるとかあるかもしれないけど、正直わからないな。なんなら木よりも菜園の野菜のほうが危ないかもしれない」
野菜によって育つ時期とか違うだろうし。
冬に取れるのって大根とかの一部の野菜だけなんじゃないっけ。
天音は木々から目を離し菜園の方へ視線を向ける。
「たしかにそうね……でも、それを言ったら、これまでも野菜が季節からずれたものあったと思うけど、全部問題なく育ってたわ。ということは、あの魔法の肥料が魔法の力でなんとかしてくれるんじゃないかしら?」
なるほどたしかに天音の言う通りだ。
これまでだって野菜を季節関係なく育てられていた。
ということは、マンション通販で買った種や肥料にそういう保護効果がある可能性が高い。
本来をはるかにこえた速度で成長させる魔法の品ならば、そんな効果があってもおかしくはない。
「たしかにありえそうだ。それに期待しておこうか」
「ええ、きっとそうよ。……そうじゃなかったとしても、天音達に植物の寒さ対策なんてできないから、そうであることを祈るしかないわ」
「もっともだ」
「さて!」と天音が体の向きを変えた。向いているのは拡張された広々とした芝生の上。
「植物だけじゃなく天音達にも寒さ対策が必要ね。体動かしましょ」
そして唐突に始まるバドミントン。
暖まるにはスポーツが一番、ってことでお手軽にバドミントンをやろうと道具を取りに空き部屋に行くと、ちょうど同じくやろうとしていた雪代と日出と出くわしたので、ダブルスの試合を開始した。
気温は寒くなってきたけれど、スポーツをしていれば体は暖かくなってくる。しかも思いのほかゲームが白熱したからなおさらだ。
バドミントンをやったのって学生の時以来の気がするけど、やってみるとなかなか楽しい。
しかし日出が強い。
最初はダブルスでやっていたけど、バドミントン部所属経験ありの圧倒的なスキルで無双ゲーを始めたので、日出vs他の三人での勝負に切り替えた。
それでもいい勝負になったのは日出が軽くやってくれたからだろうな。
なんであんなヒラヒラしたシャトルであんなスピード感あるスマッシュが打てるのか本当に不思議だ。
とまあバドミントンを楽しみつつ体もぽかぽかになっていい感じ。スポーツって素晴らしい、広げてよかったマンションの土地。
俺達はこうして運動で寒さをしのいでいこう。
……さすがに無理があるか?
無理じゃなかった。
気合いとスポーツで俺達マンション住民は寒さに耐えていた。心頭滅却すれば火もまた涼し、その逆も然りだ。
そして植物や野菜も枯れずに育ってくれた。
ほんの小さな苗木だった柿の木も、植えてから二週間ほどたった今ではもう腿くらいの高さまで育っている。さすがマンション通販産だ。
寒さにもなんとか耐えられそうで、ジムや美容院も順調で、そろそろカフェ建設も見据えて来られそうだと思いながら床についた翌朝だった。
「さ……さむっ……!?」
目を覚ましたのは、寒さが原因だった。
涼しくなってきているとはいえ、寒さで目を覚ますなんてことはこれまでなかった。布団にくるまれば耐えられる程度だったんだが、今朝は特に寒いな。
――と思いながらカーテンを開いた俺は、絶句し、決意した。
「もう耐えるのは限界だ。冬物通販しないと」
窓の外には銀世界が広がっていた。
寒いと思ったけど、まさかこんなに積もるほど雪が降るとは。
しかもまだ雪が振っているからさらに積もるだろうし、冬が来たと思ったら一足飛びに真冬だ。
「マジか……でも……」
……少し得した気分。
彩草市は雪なんて年に一回か二回くらいしか降らない地域だから、たまに雪を見るとテンション上がってしまうんだよな。
これが仕事のある日なら雪のきれいさより通勤が大変になることで鬱になるところだが、今の俺には通勤がないので純粋に銀世界の美しさを楽しめる。
ある意味じゃいい時代でもあるのかもしれない。
「それにしても……寒いな」
さすがにエアコンをつけて部屋の中を暖める。
さらに冬服を着たいところだが、まだ買ってなかったんだよな。通販で購入……いやでも待てよ?
今日がたまたま冷え込んだだけで、また明日からは耐えられるようになるんじゃないか?
そうすると買ってももったいな…………。
「くはないか。どうせ明日耐えられても1ヶ月後には毎日寒くなるんだし。先延ばしにしないでこの機会に冬物揃えてしまう方がいい、うん、そうだ。通販端末、起動」
俺は部屋の壁の通販端末をタップし、冬対策グッズのページを開いた。