作品タイトル不明
桃栗三年柿八年は過去のこと
ジムを開設してから3週間。
会議の結果作ったジムは好評で、俺や他のマンション住民もジムを利用して体を鍛えて健康になれている上にMPも稼げて言う事なしの結果だ。
美容院経営で稼いだMP、ジムで稼いだMP、それと住民たちでプールしたMP、それらをあわせてマンション全体の共有MPは――。
・マンションMP【94200MP】
となっている。
このうちの大部分は美容院とジムの稼ぎによるものだ。
マンション住民は畑を作ったときのように、必要な時に必要な額を皆で出し合う感じで、毎日少しずつ貯めていくという感じではないので、毎日少しずつ増えてる分はまず第二マンションの成果だ。
ジムを作った時点で残り2~30000MPくらいだったので、6万ほど稼げた……というわけではなく、新器具を入れたりトレーナー一人つけたりしたので、実際はもっと稼げている。はっきりいって好調だ。
これを元手にさらにマンションをよくしていくことができる。
完全にサイクルに乗った気がするね。
とういわけで、今日はジムの稼ぎを利用する第一弾を行うために、俺はマンションの庭に来ている。
そう、この前拡張された土地に。
「この辺でいいかな」
「ええ、ここならスポーツしたい人たちの邪魔にもならないでしょう」
天音も一緒に作業をするために来てくれている。
俺と天音は先日拡張された土地の、マンション裏手の左奥に立ち、逆サイド、右奥の方にあるバドミントンのネットを見た。
十分離れているし、ここなら何かを植えても問題はないだろう。
「むしろボールとか飛んでくる方心配したほうがいいかもな」
「あはは、そこまで飛ばせないでしょ。さあて、じゃあこの肥料を撒いて……と。わっ、本当に地面が変わってくのね!」
天音が【魔法の肥料】を地面に撒いていくと、芝生の地面がいかにも栄養たっぷりというふかふかした地面に変わっていく。
そう、以前家庭菜園をした時に使ったあの肥料だ。これがないと育つまでに時間がかかりすぎるからな、絶対必要。
そして地面を整えたら、苗木を植えていく。
「新鮮な果物、っていうのはいい発想ね。果物はいくら食べてもいいもの」
「そんなもんか?」
「そうよ、体にいいと相場が決まってるの。それに、緑が増えて花も咲くし、環境もよくなるもの。一石二鳥ってやつね」
「それはたしかにな。で、植えるのはこれでOK?」
栗、柿、梅と蜜柑。
この4つを植えることにした。
この辺の木は一般家庭の庭でも見るし、最初に育ててみるのにはちょうどいいだろう。コツがわかったら、桃とかリンゴとか他の果物にも挑戦してみたい。
マンション通販では苗木の形で売っていたので、丁寧に地面を軽く掘って間隔を開けて植えていく。
天音のリプレイの能力も使えば仕事も二倍素早く進んでいくし、サクッと仕事はすんだ。
「さ、これでOKね……育つのよね?」
「まあ、大丈夫だと思う。前もこんな感じでやって今はああいう風にちゃんと大きな木になってるし」
「楽しみね、最初のやつには天音かかわってなかったから」
そういえばそうか、最初に木を植えたのは天音がマンションに来る前のことだ。そう思うとちょうどよかったな。
「さて、こっちの仕事はおしまい。……あっちもいい感じに進めているな」
俺達はマンションの空き部屋の窓の中に目を向けた。
そこでは、雪代たち数人のマンション住人がスポーツ用具などを搬入しているところだった。
倉庫が欲しいが空き部屋を使えばいいじゃないとなったのは以前の会議の結果だ。実際にそこに色々入れるのを今日やっている。
空き部屋ゆえカーテンのない窓から、段ボールに入れたじゃがいもや玉ねぎを運び入れ、またバドミントンのラケットやバスケボールなども運び入れ中に配置してるのが見える。
ついでに農作業用のハサミやスコップなんかも入れている。
あ、いったん置いたのを別の場所に移動させた。いや、また戻って同じ場所に戻した。
……どうやら配置についてあーでもないこーでもないと言ってるようだな。
「別に物置の配置なんて些細なことなのに、こだわってるなあ」
「あら何言ってるの九重くん、重要よ配置は。ものの乱れは心の乱れよ」
天音って結構きちんとしてるんだな。その精神見習わなければ……といっても、俺は余計なものあんまり買わないから、必然的に部屋も散らかりにくいけど。
そうこう言っているうちに空き部屋倉庫の方は作業が終わったようだ。
そしてこっちも全て植え終えた。
「小さい苗木が並んでるのかわいいじゃない。あとはこれが大きく育つのを待つのみと」
「ああ、でもそんなに待たなくていいはずだ。栗や柿があるからって3年や8年もまたなくても肥料さんがなんとかしてくれる」
「マンション通販だから信じるわよ。これまでさんざんおかしなこと見てきたんだし」
天音が言う通りだ。
マンション通販は普通の通販じゃない、魔法の杖で魔法の矢を飛ばすくらいのことができるんだから、促成栽培くらいはお手の物のはず。
……しかし、ただ早く育てるだけじゃないかもしれないんだよな。今の状況だと。
俺は天音に視線を向けた。
「でも、一つだけ不安なことがあるんだよな。この前とは違う状況が一つあるんだ。しかも植物にとって結構重要な状況」
「もったいぶらないで教えてよ、何が違うの? 天音のいなかった前と?」
俺は服の袖をつまんで言った。
「寒くなってるだろう、最近」
俺達のマンションは、崩壊世界は、崩壊後初めての冬を迎えようとしていた。