軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ナイスバルク

「ナイスバルク!」

「キレてるよ~キレてるよ~!」

「ナイスバルク!」

「仕上がってるよ~!」

ジムの中に響き渡る励ましの声。

必死の形相でベンチプレスを上げる人に補助をしてる人が声をかけ、離れたところではスクワットをする人を盛り上げている二人組もいる。

ジムは大盛況だった。

山根の話を聞いた自警団(もう元・自警団と呼んだほうがいいかもしれない)の人たちが次々にやってきて、トレーニングをしているのだ。

一回100MPという気軽な値段もいいのかもしれない。

小ぶりの魔石一個でも全然賄えるMPなので、とりあえず一回だけ来てみようという人が多いらしい。

それで気に入った人がリピートして、リピートする人がいるならいいところなのだろうと考えた人がさらにやってくる。

そんな人が人を呼ぶいい流れができてジムは盛況だ。

全てのトレーニング器具が埋まり、順番待ちの人も出てきた。となるとその人達は手が空いているので一緒にジムに来ている人の応援を始め、そして「ナイスバルク」な状況になっているというわけだ。

少々やかましいが、MPが稼げるならまあいいだろう。

なんだかんだで俺も今日も利用者側として来てるしな、掛け声もなんか面白いし。

今日も山根の姿はあり、トレッドミルで健気に走っている。表示を見てみると、すでに5kmほど走っているようだ。山根のなかなかハマっている。

そして俺はというと、レッグプレスという足で重りのついた板を押してスクワットのような効果を得るマシンでハムストリングをいじめ抜きながらジムの盛況の様子に満足していた。

「はーち…………きゅーう…………………………じゅう! っはあ!」

なんとか10回3セットを終えて乳酸がたまり切った足でよろよろとマシンから離れると、山根以外にも知った顔を発見。

チェストプレスという、バーを胸の前に押し出すことで胸筋を鍛えるマシンに座っているのは……。

「天音も来てたのか」

「九重くん、ここ思ったよりずっと盛況ね」

コンプレッションウェア姿の天音がいた。

ぴったりして圧がかかることで筋肉が安定するとかなんとか、そういう類のトレーニングウェア。そんなものを着ているとは天音、結構ガチ勢か?

「もしかして天音ってジムとか昔から行くタイプだった?」

「ええ。ボディメイクはしっかりやるのは当然よ。むしろ昔の方が大事ね、日常生活じゃ運動なかなかできなかったし」

額に汗をにじませながら、得意げに断言する天音。

「今は運動はしてるけど、使う筋肉は偏るから、部分的に余計な肉がついちゃうでしょ? 全身のバランスをとるのが大事なのよ」

「同意だ、いざという時に困るかもしれないしな。普段と違う場所で違うことするときに、差が出てくる。それに……」

「なに?」

「こういうマシンとか使うのって面白いよな。部活で腕立て腹筋してたのとは違ってやる気が出る」

「そういう問題かしら……楽しさより目的意識よ」

「真面目だなあ」

「九重くんが真面目じゃないだけね。……といっても九重くんだけじゃないかもしれないけど。ここちょっとエンタメ感覚でやってる人多くない? うるさいし混みすぎだし。順番待ちで効率が悪いのよね、もっと人減らせないかしら」

「そしたらMPが稼げないじゃないか」

「それもそうねえ……天音がいないときだけ大盛況になってくれれば一番いいんだけど。さ、インターバル終わり、離れた離れた」

しっしっと俺を追い払うと、再びチェストプレスを全力で押す天音。筋トレ好きとは新たな一面を知れた。しかし天音がやってたというのは腑に落ちるところではあるな。

「こういうのなかなか俺は続かないから、見習いたいところだ。さて、俺も続きやろうか」

俺はトレッドミルに行き、そこから45分間走り続けた。

その後もジムは物珍しさもあって盛況が続き、俺達マンション住民が最初に予想していたものを超えたペースで利用者が増えMPを稼ぎ出していた。

そんなある日の遅い時間、ジムを客として利用した後に閉館時間後に稼ぎを確認しようと端末に触った。

─────────────

・本日の売上:3400MP

・今週の売上:18100MP

─────────────

というように売上が見える。

ジムを作るための初期投資は150000MPもかかったがが、しかしこの調子ならば2ヶ月くらいで取り戻せそうだ。いい調子、と言っていいだろう。

この端末は元はマンションの部屋にある通販端末と同じもの。ジムに改装したことで、ジムのことを確認できる端末に変化している。

これで売上を確認できるのだが、今日は――その先もあった。

これまでは売上確認くらいしかできなかったのだが、新たなメニューが画面端に出現していたのだ。

「これはまるでマンション通販が進化した時みたいな――ジムを多くの人が利用したからってことか? とにかく確認だ」

俺は新たに出てきた【ジム機能拡張】をすぐさまタップした。

───【ジム機能拡張】──────────

◆ ダンベル購入 2000MP

◆ 腹筋台購入 2000MP

◆ トレーナー 30000MP

─────────────

器具を追加購入してジムをさらに充実させられるようだ。

なるほどそれは必要な機能だ、ただスペースには注意しなきゃいけないな。初期に開設した時にある分でも7割くらいはスペース埋まってるし。

それより特筆すべきは『トレーナー』。

ジムにいて、筋トレの指導してくれる人のことだとは思うが、それも追加できるようだ。

おそらくあの青いシルエットが指導してくれるんだろうが、アドバイスをもらいながらやりたい人にとってはいいかもしれないな。

タップして詳しい説明を見てみると、

◆ トレーナー 30000MP

トレーニングの指導者を雇うことができます。

また、パーソナルトレーニングを行い客から追加MPを得ることができるようになります。

なるほど、パーソナルトレーニングか!

ジムにはそういうものもあったな、たしかトレーナーに個別指導してもらえるっていうサービスだ。1時間いくらとかで特別料金はかかるが、専属で指導してもらえるというので効率的にやりたい人は頼むらしい。

青いシルエットのトレーナーを雇うのにMPはかかるが、パーソナルトレーニングで稼げばトントンになるし、ペイした後は純粋な稼ぎになる。

これは展望がさらに広がっていくというものだ。

「設備も充実、さらに拡張も可能、MPもしっかり稼げる……第二マンションにジムを開設したのは正解だったな。これなら、カフェの方もうまいことやれそうだ」

第二マンションの前途は明るい。