軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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文官マルクの視点より

この国の王には、四人の子がいる。第一王子、第一王女、第二王子、そして第三王子だ。

第一王子、第二王子、王女は、揃って評判が高い。容姿端麗。成績優秀。社交の場では華があり、言葉も巧みで、人の心を掴むのが上手い。

第一王子は次代の王として申し分なく、第二王子は補佐役として才覚を発揮し、王女は慈愛と聡明さを兼ね備えた存在として知られていた。

第一王子には、かつて婚約者がいた。有力貴族の令嬢で、聡明かつ慎ましい女性だったが、病により、若くして亡くなった。それより、第一王子の婚約者の座は空席のままだ。

結果、どうなったか。

有力貴族の娘たちは、誰もがその座を狙うようになった。舞踏会、茶会、式典。視線は常に、第一王子へ向けられる。第二王子と王女もまた、良縁の噂が絶えない。

王族との縁は、力そのものだからだ。

そんな中で――第三王子は、常に一歩引いた場所にいた。容姿は、平凡よりは整っている。だが、兄達や姉のような華はない。発言は少なく、社交の場では控えめ。争いを避け、前に出ることもない。

「無難な方」

「害はないが、印象にも残らない」

それが、周囲の評価だった。第三王子の将来について語られる時、期待ではなく、処遇が話題になる。有力貴族への婿入りか、あるいは王家の臣下として静かに生きるか。

誰も、王位を口にしない。誰も、競争相手として見ていない。扱いは、冷めていた。

第三王子殿下にお仕えする辞令を初めて聞かされた時、正直に言えば――失望すら感じた。

仕事をして、わかった。

一言でいえば、凡庸。悪く言えば、無能。

良く言えば……無害。

権威を振りかざすこともなく、野心を語ることもなく、ただ淡々と日々を過ごす。

第三王子殿下の執務室は静かで、刺激というものがなかった。

……ここで、私は朽ちていくのだろうか? 本気で、そう思っていた。

変化は、ある日突然訪れた。最初に気づいたのは、書類の読む速さだ。明らかに速い。

体感で、三倍速。しかも、雑ではない。要点だけを正確に拾い、不要な部分を自然に切り捨てる。

以前なら、一日以上かかっていた書類を、殿下は午前中にすべて終わらせていた。

午前中に、だ。信じられなかった。だが、整えられた書類は読み返しても不備はなかった。誤字も、論理の飛躍も、判断の抜けもない。全く、だ。

「ここ、結論に関係ありませんね」

「この報告、二行で足ります」

殿下はそう言って、線を引く。それは、経験者の手つきに見えた。書類に殺されかけた者の。

次に変わったのは、決断。迷いがない。

「それ、失敗します」

「今やる理由がありません」

「やるなら、条件を整えてからです」

以前の殿下なら、

「様子を見よう」「前例がない」と言っていた。今は違う。決断、即行動。あるいは、即却下。

その判断基準が、どこか王族離れしていた。

「人手が足りない仕事を、気合で回すのは一番駄目です」

「責任が曖昧な案件は、必ず現場が潰れます」

……妙に、現実的だ。奇妙だったのは、外見が変わっていないことだ。殿下は相変わらず穏やかで、声を荒げることもなく、飲み物を飲む速度も、同じ。

好きな食べ物も変わらない。話し方も、丁寧で静かだ。なのに――中身だけが、完全に別物だった。

加えるなら、以前の殿下は、言い訳が多かった。

「反対が多い」

「後で問題になるかもしれない」

動かない理由を、先に並べる方だった。

今の殿下は違う。

「できないなら、やらない」

「やるなら、私が責任を持つ」

そして、必ずこう続ける。

「無理をする必要はありません」

その言葉が、どれほど現場を救うかを、殿下は知っているかのようだった。

まるで――無理をして壊れた経験がある者のように。

ある日、殿下はぽつりと、こんなことを言った。

「マルク。仕事は、終わらせるものだ。耐えるものじゃない」

王族の口から出る言葉ではなかった。

だが、不思議と納得できた。

何が、第三王子殿下を変えたのか。私は知らない。

だが、今のこの方は――数字で判断し、責任の所在を曖昧にしない。そして何より、人を使い潰す発想がない。それが、どれほど稀有か。

今の私は、胸を張って言える。

第三王子殿下は、仕えるに値する人だ。

英雄でもなく。理想を語る王でもないが。

最近、配属希望の相談が増えている。尤も、希望は通らないが。

「第三王子殿下の下で働きたい」

理由を聞くと、皆だいたい同じだ。

「身分による差別がない」

「仕事が普通に終わる」

「病人を休ませてくれる」

一瞬、それは問題ではないかと思った。

ここは王城だ。本来、もっと色々消耗する場所のはずだ。だが、すぐに否定する。違う。これは、殿下の人気が右肩上がりの証拠だ。

殿下の下では、誤魔化しは通らない。仕事は楽ではないが最低限。だが、正当な評価。だから人が希望する。

今日も殿下は、定時に席を立つ。その背中を見送りながら、私は思う。

私は、殿下を守る盾でありたい。