軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7

ある日、城の裏門近くで、規律を破る者がいた。

本来、持ち出しが禁じられている備蓄庫から、小さな酒樽を一つ、無断で運び出した下級兵だ。 理由はくだらない。

「祝い事があったから」

それだけだった。見つかった時、直属の上司は即座に庇った。

「少量ですし、今回はどうか。……次からは気をつけさせますので」

管理不行き届き。本来なら、ここで話は終わる。部下は、にへらと笑っていた。 上司もまた、苦笑いを浮かべている。 叱責は形式だけ。 反省の色は、どこにもなかった。

それを、私は偶然見た。

――許せない。その場で、二人を呼び止めた。

「確認します」

私は静かに言った。

「城の備蓄は、誰のものですか」

上司は戸惑いながら答える。

「……王家の財です」

「違います」

私は首を振った。

「国の財です」

そして、上司に視線を向ける。

「あなたが庇ったことで、 この部下は“やってもいい”と学びました。次は酒では済まないでしょう。備品、金、情報。 少しずつ、線は越えられます」

部下の顔から、笑みが消えた。

「罰は、部下より上司を重くします」

私は淡々と告げる。

「部下には減俸と謹慎。あなたには、監督責任として職務停止。再教育を受けた上で、配置換えを検討します」

上司は青ざめた。

「なぜ……」

そう呟く声に、私は答える。

「上が甘ければ、下は腐ります。不正は、罰の軽さから生まれる」

小さな違反を見逃すことは、情けではない。害だ。その日から、城の空気は変わった。 曖昧な笑いが消え、 判断に、責任が伴うようになった。

上は、態度で示せ。それができない者に、人を率いる資格はない。

私は、そう思っている。

直ぐに、第一王子派が、動いた。

「第三王子は冷酷だ」

「融通が利かない」

「人情を理解しない」

そんな噂が、王城の廊下を流れ始めた。

――結構なことだ。

私は、気にしなかった。 流したければ、流せばいい。噂とは、責任を取らずに刃を振るう、 一番楽な攻撃手段だ。 それに構っている暇はない。

規律は、飾りではない。 権威を示すための道具でもない。原因があって、作られたものだ。誰かがそれを破った結果、 誰かが損をし、誰かが何かを失った。

その積み重ねの上に、 規則は存在している。破るために、あるのではない。 試すために、あるのでもない。

守るために、ある。

小さな違反を笑って流せば、 次は、もう少し大きな違反になる。 それをまた見逃せば、やがて、それは「当たり前」になる。

当たり前になった不正ほど、 始末に負えないものはない。

冷酷で結構だ。

規律が守られれば、 現場は迷わない。 判断に、線が引かれる。誰が許され、 誰が罰せられるのか。それが曖昧な組織ほど、 腐るのは早い。

私は、今日も淡々と職務を果たす。 噂を聞き流し、書類に目を通し、判断を下す。

英雄になりたいわけではない。 好かれたいわけでもない。

ただ、 正しく回る世界であってほしいだけだ。

だから、私は――自分を律する。誰よりも先に。誰よりも、厳しく。最大限に。

他人に規律を求めるなら、自分が例外であってはならない。

疲れていようと、不利であろうと、理解されなくとも。

感情で裁かない。立場に甘えない。

都合で曲げない。

それができなくなった瞬間、私の言葉は、ただの命令に堕ちる。

律するとは、縛ることではない。

逃げ道を断つことだ。自分自身に対して。

私は、前を向いて歩く。

そのために――今日も、私は私を律する。

定時で執務室を去る。

こんな日は、飲むか、汗を流すか。

……いや、早く寝るのが一番だな。

睡眠は、大切なのだ。とても。