軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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私は、姉に別れを告げるために、王都へ向かうことにした。

姉の出立日前夜。

父である国王は、家族で過ごす時間を大切にする人だった。 この時代には、珍しいほどに。

だからこそ、彼は言った。

「今夜は家族だけで食事がしたい。皆、下がるように」

大広間から、人が消えていく。 いつもなら並ぶはずの家臣も、侍従もいない。

残されたのは――家族だけだった。

卓には、質素とは言わないが、どこか懐かしい料理が並んでいた。 幼い頃、姉が好んでいたものばかりだ。

「覚えてますか」

母が、静かに言う。

「あの頃、こればかり食べていたことを」

第一王女である姉は、わずかに微笑んだが、その表情は長くは続かない。

父が口を開いたからだ。

「向こうでは、油断するな」

空気が変わる。

「食事には手をつけるな、とは言わん。だが、誰が用意したかを見ろ。毒は、珍しいものではない」

淡々とした声音。 それが、余計に現実味を帯びていた。

「味方は少ないと思いなさい。信じてよい者は、こちらから送る者だけです」

母は、ほんの僅かに言葉を止めた。

「……第二皇子の隣を、以前から望んでいた者もいるでしょう」

食卓が静まる。

誰も、すぐには口を開かなかった。

皇国ほどの大国だ。皇子の婚姻など、幾つもの家が狙っていて当然だった。

第一王女は、“突然現れた外の王女”に過ぎない。

「婚姻は、本人同士だけで決まるものではない。その婚姻で利益を失う者は、必ず出る」

姉は、静かに頷いた。

怯えた様子はないが、その横顔は、いつもより少しだけ大人びて見えた。

父は、さらに言葉を重ねた。

「これは、お前に渡しておく」

中にあったのは、飾り気のない短剣だった。 護身用――それ以上でも、それ以下でもない。

「使うことがないのが一番だがな」

父はそう言ったが、その目は笑っていなかった。

誰もが、分かっていた。 これがただの食事ではないことを。別れの前の、確認。

それでも姉は、ふと表情を緩めた。

「……美味しいですね」

小さく、そう言った。

母が、ほんの少しだけ目を伏せる。 父は何も言わなかったが、杯を持つ手がわずかに止まった。

その光景を、私はただ見ていた。

王女として、娘として、その両方を背負って姉は行くのだと。

その静けさを破ったのは、第二王子だった。

「既に書簡で伝えてますが、辺境伯の娘と婚姻を結ぶ事に決まりました」

淡々とした声だった。

国王と第一王子は、静かに頷いた。

私はその時、初めてそれを知った。

「これで、辺境の地は磐石となるな」

国王の声は穏やかだったが、その奥には現実がある。

第二王子は、わずかに視線を落とす。

「今でも、小競合いは絶えません。式は……代理で行うのが妥当かと」

その言葉に、姉がふと顔を上げた。

「辺境伯の長女だったわよね?……気が強そうな女性だったけれど、おめでとう」

わずかに柔らいだ声音だった。だが、その奥には王女としての理解も滲んでいる。

そこで、母が静かに口を開いた。

「……お前の隣を望む者が、他にいなかった訳でもないのでしょうに」

食卓が、少しだけ静まる。

第二王子は、苦笑ともつかぬ表情を浮かべた。

「王族ですから」

短い返答だった。しかし、それだけで十分だった。

誰もが、それ以上を聞かなかった。

視線が、自然と第一王女へ向く。彼女もまた、“望まれた相手”ではなく、“必要とされた相手”として嫁ぐのだから。

第二王子は小さく肩をすくめる。

「兄さんを待っていたら、彼女も適齢期を逃しますからね」

視線が、第一王子へと向けられた。

「俺のことは気にしないでくれ」

第一王子は、苦々しく言った。

一瞬だけ、食卓に静かな苦笑が落ちる。

食卓の上の灯りが、わずかに揺れた。

「まあ、確かにここからは距離があるからな……」

第一王子が、低く言う。

「ええ。わざわざ危険を犯す必要はありません」

第二王子の返答は、迷いがなかった。

それは冷たい判断ではない。守るべきものを、理解した上での選択だった。

しばし、沈黙が落ちた。

「……それでも、誰かが行かねばならぬ地だ。守らねばならぬ境でもある」

不意に、国王が口を開く。

その言葉に、誰も反論しなかった。

この国が今ここにあるのは、そうした選択の積み重ねであることを、分かっているのだ。

やがて、杯が静かに掲げられる。

誰が言い出したのかは分からないが、それは自然な流れだった。