軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第8話 剣士って言葉の拡大解釈がひどすぎませんか!?

通路はまっすぐに続いていた。ここから先はまた灰色の通路、バトルエリアとなっている。

罠はほとんど起動した後で、少なからず犠牲者が倒れていた。

ほぼ危険はないはずだったが、ライニールの運の悪さを考えるとまた罠にひっかかってしまうおそれがある。

そこで、夜霧がこっそりと罠を壊した。殺傷力のある罠の位置は察知できるらしく、存在を認識できれば殺せるとのことだった。

「残り三個って話ですけど、大丈夫なんですか?」

心配になった知千佳はライニールに念押しした。これでは三回致命傷を負えばもう後がない。

「はい、零時になると、お詫びのメッセージが届くんです。そして、その日の不運な出来事に応じて星結晶が補填されるんですよ。ですから、深夜までどうにかやり過ごせば大丈夫なんです!」

「なんにも大丈夫じゃないですよ!? 今の勢いで死にかけてたら深夜までもたないじゃないですか!」

そんな話をしている間に、通路の突き当たりに到着した。そこには扉があり、文字が書かれている。

『出られるのは一人だけ』

知千佳はこの世界の文字をまだ理解していないので、夜霧が読み上げた。夜霧はコンシェルジュからもらった異世界言語辞書を読みこみ、ほぼマスターしているのだ。

「扉から魔力を感じます。試練の一つでしょう。おそらくはこの文字通りの内容なのでしょうが……」

「だったら簡単ですよ。一人しか出られないなら、一人だけが入ればいいんです」

試練の内容を推し量るリックに対し、ライニールは簡単に答えた。

「そんな簡単なことでしょうか?」

「じゃあまず僕が入ってみますよ。僕なら詫び石がありますから、死にそうな目に遭っても大丈夫です!」

「残り三個なのに、本当に大丈夫なんですか?」

「大丈夫ですよ。ほら、壇ノ浦さんにぐるぐる巻きにしてもらいましたし!」

そう言ってライニールは、知千佳が紐を巻き付けた左手を掲げた。

「うわぁ、その自信満々なところが、ますます不吉な感じなんだけど……」

知千佳は、少々薄気味悪いものをライニールに感じはじめていた。星結晶で復活できるとはいえ、あまりに周囲の状況に無頓着だし、生に対する執着がなさすぎるように思えたのだ。

「まあまかせてくださいって! 最悪死んだとしてもご迷惑はおかけしませんから!」

ライニールが扉を開ける。入ってすぐのところに壁があり、通路が右側に続いていた。

ライニールが意気揚々と中に入ると、扉は自動的に閉ざされた。

「一人で入るのはいいけどさ。ここ以外に出口があるとして、そこから無事に出られたかはどうやって判断するんだよ。それにライニールさんがクリアしたら、俺たちはこの試練に挑戦すらできなくなるってことは? この作戦、穴が多すぎない?」

「あ」

もっともな疑問を夜霧が呈したが、それは心配するほどのことでもなかった。

「ぎゃあああああああ!」

すぐにライニールの叫びが聞こえてきたからだ。つまり、無事ではないことがわかった。

「入ろう」

「結局、一人で行かせたことに何の意味もなかったね……」

「なんと言いますか、ただ彼を危険な目に遭わせただけのような……」

だが、これもライニールの運勢が絶望的に悪い証拠なのかもしれない。

扉を開けて三人で入る。右に進めば、すぐに通路は左に折れて、その先に部屋が広がっていた。

血臭が漂っていた。中にはばらばらになった人間の体が散乱している。それは一人や二人ではない。十数人の体が、元に戻しようがない状態で血だまりの中に転がっているのだ。

「ライニールさん!?」

部屋に入ってすぐのところにライニールの左腕が落ちていた。知千佳の飾り紐が巻き付けてあるので見間違えようがない。

――まさかこの中に!

知千佳が慌てて部屋を見回せば、ライニール本人は少し離れたところで、もがいていた。失ったのは左腕だけのようで、それだけなら運がよかったともいえるが、星結晶を左腕に固定したのにまるで意味がなくなってしまったのは、やはり運が悪いということなのだろう。

リックが抜刀し、部屋の奥に立っている人物へ剣を向けた。

メイド服の女が立っていた。

リックが、轟剣位のテレサと呼んだ女だ。

聖王の騎士の資格を剥奪されているとのことだが、この様子を見れば剥奪の理由もわかろうというものだった。

「これは、あなたが?」

リックが慎重に問いかけた。その声には尋常ではない緊張感が漲っている。

「ええ。けれど責められるいわれはないと思うの。この部屋の仕掛けをご存じかしら? 二人以上が部屋に入ることで試練が始まり、内側から扉が開かなくなるのです。そして一人だけになった時点で出口の扉が開くようになる。つまり、殺し合えということです」

「その通りかもしれませんが、あなたは先ほどまでこの部屋に一人だった。ならば部屋を出ることができたのでは?」

「ええ。この部屋の試練は終了しています。私は出ることができたし、仕掛けが機能するのは一度きりのようですから、本来ならあなた方は労せずしてこの部屋を通過することができたわけです」

「つまり、通すつもりはないと?」

女は扉の前に立ちはだかっていた。その意図は明白だ。

「あの黒い方がおっしゃっていたことはあながち間違いでもないと思うのですよ。剣聖様はあの場では苦言を呈されましたが、この場でも同じことをおっしゃるでしょうか? 結局のところ聖王の騎士とは強者のことなのですから」

黒い方とは、皆殺しにすれば合格なのかと聞いた、黒衣の剣士のことだろう。

彼女はあえてここに待機し、ライバルを減らすつもりのようだった。

「強さだけが判断基準ならばあなたが資格を剥奪されることはなかったはずです! あなたはそんなこともわからないんですか!」

ただ立っているだけのメイド服の女と、隙なく剣を構えるリック。その姿は実に対照的だった。

リックの構えは、恐怖が取らせたのだろう。リックが彼女に剣を向けているのは、彼女との間に壁を作ろうとしているにすぎない。知千佳にはそう見えていた。

「壇ノ浦さん、まずいですね。最悪の状況です」

「とても、強いんですよね?」

リックが、戦うべきではない相手としてテレサを挙げていたことを知千佳は思い出していた。

「そうですね。自分で言うのもなんですが、絶剣位か剣聖様でもつれてこない限り勝てないと思いますよ?」

テレサが微笑みながら答えた。

小声で話していたはずだが、屋上と同じでこちらの会話は聞かれてしまっている。これでは逃げる相談もおちおちしていられない。

「すでに手は打っていますので、入り口からは逃げられませんよ」

知千佳の考えを読んだかのようにテレサが言う。背後を確認した知千佳は逃げ道が塞がれていることに気付いた。

「リックさん、気を付けてください! 細いワイヤーがいろんなところに仕掛けられてます!」

知千佳の視力はここでも役にたった。普通なら見えないような、極細のワイヤーが部屋中に仕掛けられていることを看破したのだ。

「ええ、彼女の手口は知っています。彼女は細い糸状の剣を用いるのです」

「剣士って言葉の拡大解釈がひどすぎませんか!?」

どう見てもこれは糸使いだろうにと知千佳は思う。

「さて。有象無象が生き残っては剣聖様もお困りでしょう。せめて私の攻撃をかいくぐって、この部屋を出ていけるぐらいの甲斐性をお見せくださいな」

途端に空気が震え、リックが剣を振り上げると甲高い金属音が響き渡った。

常人では何が起こったのかまるでわからないことだろう。だが知千佳は、落ちてきたワイヤーをリックが迎撃する瞬間を目撃していた。

リックの剣が縦横無尽に動く。途切れる間がないほどの、連続的な金属音が鳴り響いた。様々な方向から迫ってくるワイヤーをリックは防ぎ続けているのだ。

それはテレサの技量のためなのか、材質のおかげなのか。ワイヤーは一本たりとも断たれてはいなかった。弾かれはするものの、軌道を変えて再び襲ってくるのだ。

「くっ! ……ここは私がどうにか食い止めます。あなた方は隙を見て出口へ!」

高速で迫り来るワイヤーを見事にさばきつつも、リックの言葉は苦渋に満ちていた。

知千佳にもわかっていた。

テレサは遊んでいる。試験官ごっこに興じているということか、リックがなんとか対応できる程度に攻撃を抑えているのだ。

リックは薄氷を踏む思いだろう。テレサはリックの実力を把握した上で、全力を出させようとしている。一瞬でも気を抜けば、力を出し切れなければ、その瞬間に終わりがくる。

「死ね」

しかし、その戦闘は夜霧の一言であっさりと終焉を迎えた。

リックの一撃がまとめてワイヤーを叩き斬る。テレサは倒れ、そして動かなくなった。

「あのさ。戦いに夢中になるのはいいけど、ライニールさんのこと忘れてない?」

夜霧が呆れたように言った。

「あ、そうだった! 詫び石使ってないじゃん! ライニールさん、大丈夫ですか!」

知千佳はライニールに駆け寄った。

「……いったい、何が……」

リックはぽかんとした顔で、動かなくなったテレサを見つめていた。