軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第9話 どんなクソゲーなんでござるか、この異世界!

リックに自分の能力をどう説明するべきか、夜霧は少しばかり考えた。

敵になら知られても構わない。どうせ殺すか脅すかする相手だし、どう思われようとも構わないからだ。

知千佳に能力のことを知られるのも構わなかった。それで嫌われようと、彼女を元の世界に帰すと覚悟を決めているからだ。それに、ずっと一緒にいる相手に隠し続けるのも無理があるし、だいいち面倒くさい。

だが、多少交流ができたばかりの相手に説明するとなると、微妙なところだった。

力は見せてしまったので、黙っているわけにもいかないが、ではどこまで説明すればいいのか。全てを知った相手のほとんどがどんな態度を取るのかを、夜霧は嫌になるほど知っていた。

「俺、むちゃくちゃ運がいいんだ。ライニールさんの反対? って感じで」

運がいいで押し通すなどあまりにも無茶だが、考えただけで相手が死ぬと説明するよりはよほどましだろう。

「……え? 今のはもしかして私に?」

ぼうっと突っ立っていたリックが我に返った。

「うん。あの人が急に倒れたのもきっとそのせいだよ。俺に都合良く、心臓発作か何か起こしたんじゃないかな? 多分」

「心臓発作? 馬鹿な。轟剣位の剣士がそんな……いや、確か彼女は一時期幽閉されていたはず。彼女が捕らえられるなど何があったのかと思っていたのですが、もしや先天的な欠陥が……」

――信じるとは思わなかった……。

普通なら信じないだろう。だが、リックには思い込みが激しい面がある。

ライニールのような、極端な運勢を持った存在。事実テレサが倒れている状況。そして、以前から知っていたテレサの境遇。それらを総合して折り合いをつけたようだった。

「ライニールさん、助かりましたよー」

のんきな知千佳の声が聞こえてきた。元々それほど心配はしていなかったのだろう。

「いやぁ詫び石を固定していてもまっさきに腕を斬られたらどうしようもないですね!」

「……手で持たないと使えないなら、両腕をふっとばされたら詰みますね……」

ライニールはポシェットから石を取り出すのに手間取っていたようだが、知千佳が手伝って事なきを得たらしい。

「とりあえずここは出ようよ」

夜霧が提案した。

もちろん反対する者などいるわけがない。死体の散乱するこの部屋は、あまりにも血なまぐさすぎるからだ。こんな場所に長居したいと思う者はいないだろう。

テレサが守っていた扉から出ると、下り階段があった。

ここに危険な罠はない。そう判断した夜霧は先頭に立ち、階段を下りる。下りきった所に扉があり、そこにも文字が書かれていた。

『一度階下に行くと、戻ることはできない』

「行動範囲を狭めて戦わせたいってことなのかな」

夜霧はそう考えた。この広い塔を皆が闇雲に動いていては、そう簡単に戦闘は発生しないだろう。

「警告の意味もあるのではないでしょうか。探索は十分にしたのかという」

リックの意見にも一理ある。だが、夜霧は戻る気にはなれなかった。

「ま、先に進むしかないんだけど」

扉を開ける。

白い通路が真っ直ぐに延びていた。見える範囲はずっと、セーフエリアらしい。

「安全なのかな?」

知千佳がきょろきょろとあたりを見回している。夜霧も確認してみると、通路の右側に受付カウンターのようなものがあり、黒いドレスを着た魔導人形が中に座っていた。

見た目は屋上で見た人形と変わりない。夜霧は同型機が塔内で稼働していると聞いたことを思い出した。

「こんにちは。九十八階到達おめでとうございます。この階は全てセーフエリアとなっております。Aが説明したとは思いますが、セーフエリアで戦闘を行った場合、即座に失格となりますのでご注意ください」

「それって、仕掛けた側だけが失格だよね?」

失格でも構わない夜霧だが、その場合わずらわしいことになりかねない。ルールに沿って動いた方が面倒はなさそうだ。

「はい。その点はご安心を。もっとも、失格になるだけとも言えますので、警戒は怠らないことをおすすめいたします」

つまり失格覚悟で戦闘行為に及ぶことは可能なのだ。

「さて。この階には試練に関して重要なものは何もありません。このまま真っ直ぐに進んでいただくと、扉があり階下へ繋がっております。ですが、この階には宿泊施設のご用意があります。こちらで休憩していただいてもよろしいかと」

通路を見てみると、両側に扉がいくつも並んでいた。それらが宿泊施設なのだろう。

「とりあえず安全らしいから話をしたいんだけどさ。俺たちは一緒に行動しない方がいいんじゃない?」

なんとなく同行を許していた夜霧だが、試練がここまで悪意に満ちているなら話は変わってくる。

先ほどの部屋も最初に入っていたなら殺し合いをするはめになっていたのだ。今後も似たような試練が続くなら、馴れ合っている場合ではないだろう。

「そうですね。思っていた以上に試練は過酷なようです。ですが、本当に大丈夫ですか?」

「俺たちは大丈夫」

「僕もまあ、部屋に閉じこもって深夜まで待てば詫び石の補充はできますし」

「ライニールさんは、それでも大丈夫って気がしないですけどね……」

知千佳は心配しているようだが、夜霧はライニールのことなどどうでもいいと思っていた。

さすがに目の前で死なれては寝覚めが悪いが、どこかで勝手に死ぬ分にはそういうものだと思うだけだ。

もちろん、全ての障害を殺しながら進むことはできる。そうすれば全員で安全に進むことも可能だろうが、そこまでする義理はないと夜霧は思っていた。

最優先するのは知千佳の安全だからだ。

自分の身なら確実に守れる。知千佳だけでもなんとかなるだろう。だが、そこに他人が加わればリスクは途端に跳ね上がる。彼らを守ろうとして、知千佳への注意が疎かになることだけは避けねばならなかった。

「わかりました。では、私は一足先に行くことにしましょう」

本気で聖王の騎士を目指すなら、こんな序盤で休んでいる場合ではないだろう。

先ほど見たようにアイテムなどは早い者勝ちだし、先に進んだ方が有利な局面は多々あるはずだからだ。

「この後の試練で出くわさないといいけどね」

夜霧はそう願った。

「そうならないことを祈っております。では、ご武運を」

リックはこのまま進み、夜霧たちはこの階に留まることになった。

*****

賢者アオイは、魔獣の森を出るべく歩いていた。

背後には花川大門と名乗った小太りの少年がついてきている。

「というわけでですね、リクトの野郎は拙者をブタくん呼ばわりでござるよ。いや、助けてもらっておいて文句を言う筋合いはないとお思いかもしれませんけどね!? まあ、見目麗しいエルフの少女たちまでが拙者をブタ呼ばわりというのは、それはそれでオツなものかもしれませんが!」

助けるとも、ついてこいとも言っていないのだが、花川は勝手にアオイの後ろを歩いている。

最初のうちはどうでもいいとアオイは思っていた。どうせ森を出た所で飛空艇に乗り込むのだ。そこまでの間、魔物避けに使われるぐらいは構わない、と。

だが、彼の話に高遠夜霧と壇ノ浦知千佳の名が出たところで、無視することはできなくなった。

その二人は次のターゲットだからだ。

「君、森で待機しろって命令されたんでしょ? それは大丈夫なの?」

「ぐふふふっ!」

花川は実に気味の悪い笑みを浮かべた。アオイは、鬱陶しいからこの場で殺してしまおうかと少しだけ考えた。

「こんなこともあろうかと! 実はこの奴隷の首輪! 三日で隷属の効果が切れるように設定してあったのでござるよ! 常に隷属命令を上書きし続ける必要があるという寸法でござるな! 三日の間、不当な命令を堪え忍び! 奴らが拙者を完全に信用したところで、寝首をかいてやろうという筋書きだったのでござるが! まさか森で放置プレイとは思いもよらぬでござるよ!」

「ふーん。一応言っておくけど、ボクにその手のアイテムは通用しないからね?」

「ま、まさか、そんなこと、毛の先ほども考えてはいなかったでござる! ほ、ほら、こんなものもういらないのでござるよ!」

花川は慌てて首輪を外して投げ捨てた。その焦り様からすれば考えてはいたのだろう。

「ま、いいけどね。それより、この森を出られるのなら、ボクについてきてもらおうか」

「はい? え、いや、その、拙者、ボクっ 娘(こ) はそれほど趣味というわけでもなくてですな。とりあえずこの森を出られればそれでよかった感じなのですが!」

「その二人については不確定な情報しか聞いていなくてね。そいつの能力を目撃してるのなら役に立つこともあるかと思うし、知り合いだというのなら実に都合がいいんだよ」

「その、そういうことでしたら全てお話しいたすのですが! 先ほどからなんとなく高遠の能力をぼやかした感じで話しておったのは、出し惜しみしておけば、後々値をつり上げることもできるかなー、なんていう 邪(よこしま) な思いからというものでして、別についていきたいとかそんなんじゃないんですが! というか、あいつに会った瞬間に殺されるかと思うのですが!」

「うん。値段は十分につけるよ。ボクは賢者だ。たいていの物は手に入れることができるからね」

「だから、ついていく必要はないのでは!?」

「これから、ハナブサって所に向かうからさ。移動中に話を聞かせてよ」

話しながら歩いているうちに森を抜けた。

そこには平原が広がっている。

竜の平原と呼ばれており、賢者シオンが異世界から修学旅行中の高校生たちを召喚した場所だった。

「あれでしょ。君が乗ってきたバス。大破してるけどさ」

平原には後ろ半分がなくなっているバスがあった。何かが通りぬけたような跡が森に続いているので、投射系の魔法でそうなったのだろう。

「そうですな。ん? そういえば、森に行く途中で、ドラゴンの死体を見かけたような気がするのですが……」

「ドラゴン? あれかな。尻尾だけ落ちてるけど」

バスのそばに、尻尾の先らしき部位が落ちている。少々おかしな光景だった。ドラゴンの死体があったとして、それを捕食するような生物はこのあたりにはいないはずなのだ。

「まあいいか」

だがここで何があったとしてもアオイには関係がない。それ以上は気にしないことにした。

少し歩いた所に、円盤型の飛空艇が停泊していた。

アオイたちが近づくとハッチが開き、ステップが下りてきた。

「じゃあ行こうか」

「いやあああああ! 絶対、絶対殺されてしまうでござるよ! もう二度と会いたくなどないのでござるぅ!」

アオイは、嫌がる花川にナイフを突きつけた。

「ふっふふふっ! こんなものが脅しになるとでも!? 拙者、ヒーラーでござるから、この程度のナイフで傷つけられたところで瞬時に回復できるのですが!」

「ボクの戦いを見てなかったの? 能力の無効化ができるんだけど、試してみる?」

「なんだって拙者の前にはそんなとんでも反則チート野郎ばかりが出てくるのですか! どんなクソゲーなんでござるか、この異世界! ゲームバランスってもんを考えやがれでござるよぉ!」

「まあボクの視点で見ればある意味バランスはとれてるんだけどね」

「というかですね、能力の無効化とかできるんだったら拙者の情報などいらないのでは!?」

「ボクの能力も万能ってわけじゃないからね。どんな相手かをわかった上で対応を考える必要があるんだ。そういうわけだからさっさと乗ってよ」

抵抗する花川を飛空艇へ押し込みながら、搭乗する。

向かうのはガルラ峡谷。夜霧たちが向かったとされる場所だった。