軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第5話 有名人がお忍びで来てるみたいに言われても

剣聖が広場の外、森の方へと歩いていく。広場にいた者たちは、慌てて剣聖の後についていった。

夜霧は集団の最後尾をだらだらと歩いている。

夜霧の隣には当然のように知千佳がいて、その隣には詫び石とやらを持っている長身の青年、さらに隣には白銀の鎧を着た剣士が歩いていた。

アティラは、やる気のない夜霧を先導するように少し先を歩いている。

「僕、昔からとことん運が悪かったんですよ。高校生まで生きてられたのが不思議なぐらいで。車にはねられた回数なんて数え切れないぐらいですよ。当たり屋しんちゃんなんて呼ばれてたぐらいで。慰謝料なんかはまあもらえたわけですけど、別に僕が儲かるわけじゃないですしね。親が懐にいれておしまいですよ」

詫び石の青年が知千佳に話しかけていた。助けてもらったからなのか、妙に親しげだ。元は日本人だったが、生まれ変わってこの世界に来たらしい。

「結局最後はカルト宗教に 攫(さら) われて、儀式の生贄にされて死んじゃったんですが」

「それは、災難でしたね」

「で、詫び石がもらえるようになったんです」

「話飛びすぎだな!」

なんでも死んだと思ったら、神を名乗る女が現れたらしい。そして、生まれ変わっても彼の受難は続くらしく、その補填として星結晶というアイテムを渡してきたらしいのだ。

「でも、そんな神様みたいな存在が人の運命を左右してたりするものなの?」

知千佳はぼそりと隣に話しかけた。

『人による、としか言いようがないな。我のような守護霊に守られている者がおるように、神とやらに運命を決定されてしまっている者もおるということだ』

幽霊のもこもこがそれに答える。もこもこは夜霧たち以外には見えていなかった。

「その詫び石でガチャができるって話ですよね? えと、その割には……」

失礼な物言いだが、知千佳は好奇心を抑えられなかったようだ。

「ああ、ガチャですごいアイテムとか、仲間とか手に入れてるはずなのに、なんでやられちゃったのかってことですね! 僕はすごく運が悪いって言ったじゃないですか」

「ああ、なんとなくわかりました……」

つまりろくなものが出てこなかったのだろう。

「なので、今は詫び石をためているんです! 十連ガチャなら、レアリティの最低保証がありますから!」

「その、がんばってください」

知千佳は、ガチャなどという謎のシステムにどう反応していいやらわからないようだった。

「さて。こうして知り合ったというのに、お互いに名前も知らないのはいささか寂しくはないでしょうか?」

話に一段落がついたところで、白銀の剣士が名乗り合うことを提案してきた。

いつの間にか五人組のようになってしまっているし、皆に異論はなかった。

「まずは私からですね。いろいろと思うところはあるかもしれませんが、ここではただのリックとしておいてくれないでしょうか?」

白銀の剣士、リックは軽妙な目配せを見せた。

「有名人がお忍びで来てるみたいに言われても知りませんけど!?」

知っていて当たり前のように言われても困る。知千佳はそんな反応だったが、リックは気にしてはいないようだった。

「僕は、ライニールって言います。僕はその、聖王の騎士になるとかはそんなに興味はなかったんですけど、友達に無理矢理誘われて……」

ひょろりとした青年、ライニールは申し訳なさそうに頭をかく。

「友達はどこに行っちゃったんですか?」

「死んだと思ってさっさと先に行っちゃったんじゃないですかね……」

どことなく幸の薄そうな青年だった。

「俺は高遠夜霧」

「私は壇ノ浦知千佳。王都に向かってる最中だったんだけど、なぜかこんなことに」

アティラは一人先を歩いていて、名乗るつもりはないようだった。

「そういや、よくわかってないんだけど、聖王の騎士ってなんなの?」

疑問に思っていたことを夜霧は聞いた。誰もが知っているかのように話すので聞きそびれていたのだ。

「なるほど。見たところ高遠さんたちは異邦の方のようですからご存じないのですね。では簡単に説明しておきましょう。まず、この世界は様々な脅威にさらされているのですが、その脅威は二つに大別されます。一つは 侵略者(アグレッサー) と呼ばれる者たち。世界の外からやってくると言われているのですが、これには主に賢者が対応しています。賢者についてはご存じでしょうか?」

リックが確認してきたので夜霧は頷いた。どちらも実際に見たことがあるので、賢者と侵略者の関係は夜霧も知っている。

「そしてもう一つの脅威が封印されし神々、いわゆる魔神と呼ばれる存在です。魔神も元々は外の世界からやってきたと言われていますが、なにせそれは千年以上前の話です。今ではこの世界が内包する脅威と認識されていますね。その魔神に対応するのが聖王様なのです」

「その魔神に賢者は対応しないの?」

「基本的に、賢者陣営と剣聖陣営はお互いに不干渉ですね。それぞれ専門領域が異なりますので、他陣営の敵には手を出さないのが不文律となっています。ま、そうは言っても賢者たちはとても傲慢ですので、ぶつかり合うことは多々あるようですが。さて、その魔神なのですが、聖王様の手によって千年前に全て封じられています」

「えーと、封じられているのに脅威なんですか?」

疑問に思った知千佳が 訊(き) いた。

「はい。魔神どもには強力な手下である眷属や信奉者がいるのです。彼らは魔神を復活させるべく各地で暗躍しているのです。それに対処するのが聖王の騎士であり、騎士を率いるのが剣聖様と言うわけなのです」

「ん? 聖王様ってのが率いてるんじゃないの?」

話の流れからして、てっきりそういうものだと夜霧は考えていた。

「聖王様は、結界の中で今も魔神の一柱を抑え続けておられるとのことですね」

「聖王様がって、千年もですか!?」

知千佳が驚いた。聖王が代替わりしていないのならそういうことになる。

「そう聞いております」

千年前ともなれば、伝説やお伽話の類だろう。どこまでが本当かは怪しいところだった。

そんな話をしていた夜霧たちだったが、気付けばあたりには誰もいなくなっていた。

「ん? もしかして置いていかれた?」

夜霧はあっさりと諦めようとした。

「ちょっと待つんじゃ! ここ! ここから先に行けばよいだけじゃから!」

アティラが立ち止まり、少し先を指差す。だが、そこにも森が続いているだけで、人の気配はしなかった。

「何もないけど?」

「ここに結界がある。中の様子は外からは窺えぬようになっておるのじゃ」

確かに、あれほどの行列がなんの気配もなしに忽然と消え去るのはおかしい。ならばそういうことなのだろうと進んでいくと、アティラは立ち止まったままだった。

「儂はここから先には行けぬ。招かれざる者は中に入ることができんのじゃ」

どうやら夜霧たちは、いつのまにやら招かれてしまっているらしい。

「王都への案内はどうするんだよ?」

「用がすんだら儂の名を呼べばよい。さすればたちどころにあらわれよう」

どうしてもこのまま案内するつもりはないらしいが、無理強いしても仕方がないだろう。

「めんどくさいな」

溜め息をつく夜霧を先頭に、四人はアティラが示した境界を越えた。

その瞬間、目の前に唐突に塔が現れた。

「へ?」

知千佳が呆気に取られた様子になった。他の者も聳え立つ塔の存在に驚きを隠せていない。

空気が一変していた。

塔以外の景色は結界に入る前と変わらない。だが、夜霧は肌を刺すような冷気を感じていた。

先を行く行列が再び姿を見せていた。当然のように塔へと向かっている。そこが目的地なのだろう。

『おい! 即刻立ち去れ! 剣聖などどうでもよい!』

一人、もこもこの驚きだけが様相を異にしていた。心底慌てているという様子なのだ。

「え、どうしたの? 確かにびっくりはしたけど、塔があるだけだよね?」

『そういうことではない! 気付かんのか! これほどまでの濃密な瘴気に! この先だ! 邪悪な何かがこの先にいる!』

知千佳があたりをきょろきょろと見回しているが、何も感じないのだろう。

しかし、夜霧はあたりに漂う、まとわりつくような殺気を感じ取っていた。

「おぼぉぉ!」

「ライニールさん!?」

ライニールが突然体を折り、吐きはじめた。

あたりを見回せば同じように吐いたり、倒れたりしている者がいる。

『瘴気に当てられたな』

「瘴気? 私はなんともないんだけど」

『お主は我が守っておる、小僧は自分でどうとでもするのだろう』

「私はこの程度の瘴気なら影響はないのですが、ライニールさんには堪えるようですね」

リックも平気そうだが、ライニールを介抱する参考にはなりそうもない。

どうしたものかと見ていると、ライニールの体が輝いた。

「ふう、詫び石のおかげで助かりました!」

「って、吐き気がするぐらいで、使っていいものなの? それ!?」

「でもこのままだと身動きが取れないですし」

詫び石の全貌は不明だが、ライニールは瘴気への耐性を得たようだ。

「どうするの? なんか怪しい雰囲気だし、もこもこさんはああ言ってるけど」

知千佳が夜霧に確認する。

「確かに結界とやらを抜けてからはうっすらと死の気配がしてるね。俺の目には、このあたりは少し陰ってるように見える」

だが、その気配は差し迫ったものではなく、引き返すほどかといえば微妙なところだ。

「まあ、大丈夫じゃないかな。今すぐに危険があるわけじゃないし」

『まあ、お主のことだ。どうにでもできるのかもしれんが、細心の注意をはらってくれ』

「どうされましたか?」

「ああ、驚いただけだよ。塔に行けばいいんだよね」

二人の会話が気になったのかリックが訊いてきたが、夜霧は雑にごまかして先に進んだ。

円形の塔だった。

直径は百メートルほどだろう。夜霧が見上げても先端は霞んで見えなかったので、高さもかなりある。

塔の一階には巨大な扉があり、行列はその中へと続いている。夜霧たちも後に続いた。

中は円形の巨大な広間になっていて、そこにあるのはまたもや塔だった。

中心部に直径十メートル程の円筒があり、それが天井まで延びていたのだ。

つまり、この建物は外と内の同心円状になっているらしい。内塔にも大きな扉があり、その中に剣聖とその他大勢の姿が見えた。

「おせえな。置いてくぞ」

「別にかまわないけどね」

剣聖の文句を受け流し、夜霧たちも内塔へ入る。

すると、扉が勝手に閉まり、部屋はガタガタと大きな音を立てて揺れはじめた。

この部屋はエレベーターになっていて、上へと向かっているようだった。