軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第4話 まともそうな人だけど、そう簡単には信じないからね!

様々な人物が広場の中心にいる剣聖を取り囲んでいる。その人数は百人を超えるだろう。夜霧たちはその人だかりの外縁部に立っていた。

周囲は殺気立っているが、まだ動く者はいない。様子を見ている者もいるだろうし、剣聖の言葉がまだ続くと思っている者もいるのだろう。

「ちょっといいか? ここにいる奴らを全員殺せば自動的に俺が合格ってことでいいんだよな?」

緊張に満ちた空気の中、いかににも自信ありげな声が発せられた。

声の主は、先ほど夜霧たちにからんできた黒尽くめの男だ。黒のシャツに、黒のズボンに、黒のマント。背負っているのは黒い鞘で、柄までが黒かった。

「ノーコメントだ。が、あえて言うなら、これが人柄を見る面接の類だとするとお前は失格だな」

「な!?」

想定外の返答だったのか、黒い男は固まった。

「あのな。なんでも聞くなよ。聞く前によく考えろよ。聞いただけでアウトの可能性だってあるだろうがよ」

剣聖は呆れているようだった。そしてその言葉を聞いた者たちはますます慎重になった。

「えーと、案外親切なのかな?」

知千佳が聞いてくる。だが夜霧にはそう思えなかった。

「親切な人間が、殺し合えとか言わないだろ。なあ、ちょっといい?」

夜霧は手を上げて、剣聖に呼びかけた。

周囲の視線が、いっせいに夜霧へと集中した。

「なんだってんだよ。話を聞いてたのか?」

剣聖がさらに呆れたようになった。

「俺は失格でもなんでもいいんだけどさ。俺たちはたまたま通りすがっただけで、殺し合いなんてする気ないんだけど、帰っていい?」

情報収集のつもりでここまで来たが、さすがに殺し合いをしろなどという馬鹿げた話に付き合う気にはなれなかった。

「な、なんじゃと!」

剣聖よりも先に、側にいたアティラが驚いていた。

「これで剣聖には会ったことになるだろ? さっさと王都に案内してよ。で、どう?」

夜霧は少女に返答し、剣聖に答えを迫った。

「ほう? こんな所まで来ておいてたまたまってか? 怖じ気づいたって雰囲気でもなさそうだが、それを許すとぐだぐだになりそうだしな……じゃあこうするか。この広場から逃げる者がいたらお前ら全員失格だ。それを踏まえて状況を考えろ」

「ちょっと、めんどくさいことになったな」

どうやら今の発言で夜霧たちは試練の一部として組み込まれてしまったらしい。

「ほら、やったやった。騎士なんてのは切った張ったしてなんぼのもんだろうが。こっちもお前らがだらだらお見合いしてんのを見たいわけじゃねーからよ。時間も区切るぜ? 今から十分だ。十分後に半分以下になってなかったら全員失格だ」

その言葉が引き金となり状況が動いた。

黒尽くめの男が背中の剣を抜いたのだ。

誰も油断はしていなかった。ただその男の抜刀が見事だっただけだろう。隣にいた男は為す術も無く袈裟懸けに斬られていた。

その一撃の威力が故か、斬られた男は斜めに別れて派手に吹っ飛んだ。

そして、男の一部が知千佳のすぐ側に落ちた。

「おっと」

知千佳は一歩下がり、転がってきた男の体を避けた。

『お主も場慣れしてきたのう』

幽霊のもこもこが感心したように言った。

「今さらこの程度できゃーきゃー言ってもいられないし……」

そんなことを言っている間に周囲で怒号が響きはじめた。それぞれが戦いを始めたのだ。

「あぁ!」

「どうしたの?」

夜霧が驚きの声をあげると、知千佳が聞いてきた。

「いや、あの人の剣って刀身まで黒いんだな、と思って」

「あ、ほんとだ、そこまで黒いんだ……って、どうでもいいな!」

「けど、どうしたもんかな。逃げるのは簡単だけど」

その場合、阻止しようとするものが現れるだろう。そう言おうとしたところで、すぐにそれは現実のものとなった。

与し易いとみたのか、真っ先に逃げると思われたのか。何人かが夜霧たちへと向かってきたのだ。

ならば殺そう。

夜霧がそう決めたのとほぼ同時に、白銀の鎧をまとった剣士が夜霧たちをかばうようにあらわれた。

フルプレートアーマーだが重厚感はなく、それはあつらえたスーツのようでもあった。それぞれのパーツは薄くスマートに作られているようだ。兜を被っていないのもそう思わせる一因だろう。

「ご安心ください。あなたたちは私が守りましょう!」

剣士は爽やかな笑顔を夜霧たちに向け、すぐに前へ向き直る。

「あなたたちも馬鹿なことを。剣聖様の意図がまるでわかっていない! 剣聖様がただ無差別に人を殺すことなどお許しになるわけがないでしょう! これは聖王の騎士として相応しい行動を取ることができるのかどうか、それを見定めるための試練なのです!」

「ちょっと融通きかなそうなところもあるけど、まともそうな人だ……けど、そう簡単には信じないからね!」

これまでのことを考えると、この人物が本当にまともであるのかは甚だ怪しい。知千佳がそう思うのも仕方のないことだった。

『なかなかやるの。聖王の騎士とやらを目指すだけあって、ここに集まっているのはそれなりの実力者ばかりだが、この男は頭一つ抜きん出ておる』

白銀の剣士は同時にかかってきた数人を、剣と盾を駆使して軽くあしらっている。

この場においての方針は不殺らしく、手加減をした上でもそれをやってのけるほどの実力を剣士は見せていた。

だが、この男がいくら強かろうが、それはあくまで剣士としてのものだ。

遠距離から、魔法や飛び道具で夜霧たちを狙ったものまでは対処しきれない。

明確な殺意を感じ取った瞬間、夜霧は力を発動した。

十人ほどがいっせいに倒れた。

「む? これはいったい?」

白銀の剣士が不可解な事象を前に、戦いの手を一瞬止めた。

「それはですね、えーと――」

「そうか、剣聖様のお力か! 剣聖様は剣をお持ちではないし、一切動いているようには見えませんでしたが、この程度のことなど剣聖様にとっては造作もないことなのでしょう! 不埒な輩を成敗なされたというわけですね!」

知千佳はどうにかごまかそうとしたが、その必要はないようだった。

そして、剣士の実力と不可解な死を前にした襲撃者は、あっさりとその矛先を変えた。

「ふむ。ひとまずは安心でしょう。たまたま通りすがられたとのこと。災難だとは思うのですが、試練も重大事です。もうしばらくお付き合い願えませんか?」

誰か一人でも逃げ出せば全員失格になるため、釘を刺したのだろう。剣聖のことなど知ったことではない夜霧だったが、あえてこの場をぶち壊すのも躊躇われた。

「わかった。しばらくは様子を見るよ」

「ご理解いただけて助かります。なに、危害が及ばないように最善を尽くしますのでその点はご安心を」

とりあえずは静観を続けることで合意した。

今のところは夜霧たちを狙ってくる者はおらず、周囲は凪いだようになっているのだが、そこに弱々しい声が聞こえてきた。

「……うぅ……助けて……」

夜霧たちは声の出所へと目を向けた。

最初に斬られた男だった。

斜めに断ち切られたため、頭部と右手しかない姿で地面に転がっている。生きているのが不思議な状態だ。

「これは……残念ですが」

白銀の剣士が頭を振る。手の施しようがないと判断したのだろう。夜霧も同感だった。

「いや、その、簡単に諦めないで……その、そこの彼女。こっち来て、助けて!」

最後の力を振り絞ったのか、男は必死に叫んでいた。

『ふむ。肺もろくに機能しとらん状態でよく喋れるな』

「え、と。どうしたらいいと思う?」

「殺気はないから、何か企んでるってことじゃないと思うけど」

「そ、そう? まあ看取るぐらいなら……」

知千佳は倒れている男に近づいた。

「その、大丈夫? 手を握るぐらいならできるけど」

「……あの、そこに落ちてる、虹色の石を拾って……」

あたりには虹色に輝く石がばらまかれていた。斬られた際にぶちまけてしまったのだろう。

知千佳は虹色の石を拾った。

「これ、なんですか?」

「それは……詫び石です……」

「詫び? それでどうするの?」

「……私の右手に掴ませてください」

知千佳は言うとおりにした。

すると、男の右手が途端に輝きはじめた。

そして、一瞬のうちに男は復活を遂げていた。

全身の四分の一もなかったというのに、五体満足の状態になっている。

こうして全身を見てみれば、ひょろりとした体付きの男だった。

「へ?」

「いやあ、助かりましたよぉ! もう駄目かと思いました!」

男の体は切られる前の状態に戻っていた。服までも完全に元通りで、傷一つついてはいない。

夜霧はあたりを見回したが、残された側の体は見つからなかった。それも含めて元通りということらしい。

「これはですね。お詫びとしてもらった星結晶というアイテムなんです。大怪我を治したり、ガチャを回したりといろいろ使える便利なものなんですよー」

「ソシャゲなの!? 誰が、何を、何のために詫びるの!?」

「止めろ!」

知千佳が混乱していると、剣聖が一喝した。

広場にいた者たちはいっせいに動きを止めた。

「大方減ったな。じゃあ場所を変えるぞ。ついてこい」

そう言って剣聖はすたすたと広場の外へと歩いていった。

後には、無惨な死体の山が残されている。生き残ったのは半数というところだった。

「……騎士として相応しい行動がどうとか言ってましたけど、やっぱりただ人を減らしたいだけだったような気が……」

「いや、これも剣聖様の深い考えが故のことかと。我ら常人には計り知れぬお考えがあるのやもしれません」

知千佳の疑問にも、白銀の剣士は揺るがなかった。

「高遠くん。これってなんかやばくない? 一応剣聖には会ったんだから、もう王都まで案内してもらおうよ」

「いや、その、できればこのまま、試練に参加してもらいたいんじゃが……」

アティラは歯切れが悪かった。

「なんでだよ。会えばいいって言ってたよね」

「そのじゃな。推薦した参加者が、聖王の騎士となれたのなら、推薦者の儂は聖王の騎士の従者となることができるんじゃ。弟子になって剣聖を目指せとは言わぬから!」

「まあ……ここで帰ったら情報収集にもなってないしね」

少々めんどくさくなってきている夜霧だったが、案内なしでこの峡谷を抜けるのは難しい。それに賢者に匹敵するという剣聖の力もまだ見ていない。

夜霧は、とりあえず試練に参加することにした。