軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第4話 やれやれ系主人公ならここは、やれやれって言いながら出陣するところでござるよ!?

とりあえずの方針を決めた夜霧たちは、石造りの建物を出た。

「またいきなりなんか来た! とかはなさそうだね!」

疑心暗鬼になっているのか、知千佳がきょろきょろとあたりを見回している。

相変わらず宇宙船らしき物体はそこらに散乱しているが、特に変化はないようだ。

「さてと。ワープシールド!」

ビビアンが出現させた盾を放り投げる。

盾は空中に留まり、楕円形の巨大な鏡へと変化した。

「ほんとになんでもありだな、その盾」

「空を飛ぶよりこっちのほうが楽かと思ってね!」

鏡に夜霧たちの姿は映っておらず、寂れた村の光景が見えていた。どうやらビビアンが住んでいた村に繋がる通路ができたようだ。

「でも、前に行った所にしか行けないみたい。だから悪いけど、森の東側にあなたたちを連れてってあげるってわけにはいかないわ」

「それはどうにかするよ。空を飛べたらどうにでもなりそうだし」

「しかし、そのなんでもありの盾があれば、王国再建ぐらいは楽勝だろう」

もこもこが感心している。

夜霧も同感だった。ここまでなんでもできるなら、たいていのことは簡単に実現できそうだ。

「うん。もうちょっと考えてやってみる。あんたとはいろいろとあったけど、結果的にヨシフミは倒せたしもうこれでいいわ! 王国を再建できたらまた遊びにきてもいいわよ! お茶ぐらい出してあげるから!」

「いや、俺ら他の賢者を探しにいくから、ここに戻ってくることはないと思うけど」

もうこの東の島国に用はないはずだと夜霧は思っていた。

「高遠くん……そこは嘘でも、再会を約束する感じで……」

「そう? まあ、何かの機会に戻ってくることがないともいえないか。じゃあ万が一そういうことがあったら会うこともあるかも」

「タカトーヨギリ! あんたは最後までそんな感じか!」

「じゃあ気をつけて帰って」

「じゃあね!」

ビビアンが鏡の盾に触れる。表面が波打ち、ビビアンは抵抗なく鏡に吸い込まれていく。

ビビアンの全身が鏡の中へ消えると、盾は小さくなり音もなく消え去った。

「行ったことがある所に行ける、ということでござるなら、ビビアン殿を連れて東側に一度行っておいたほうがビビアン殿にとってもよかったのではないですかね? 帰るのはどこからでも一瞬で済むわけでござるから」

花川が、今さらそんなことを言った。

「それ、もうちょっと早く気付きなよ……」

「まあ、どうにでもなるだろ。あの盾があれば」

空も飛べるのだろうし、東に行くぐらいは簡単にできそうだ。

「さて。じゃあ次は俺たちだ。ルー。全員を連れて空を飛べる?」

ルーがこの場にいる者を確認する。

夜霧、知千佳、もこもこが入った 槐(えんじゅ) 、花川。それにルー本人を加えて五人が浮遊の対象だ。

「うん。これぐらいなら大丈夫」

「ふっ! もしや、拙者重いから置いていくなどと言われるのかとちょっとだけ! ちょっとだけ心配しておったのですが、どうやら大丈夫そうですな!」

わざわざ置いていくつもりはなかったが、花川は余計な心配をしていたようだ。

「海を越えて隣の大陸まで飛んでいくのは?」

「あんまり遠くまでは無理かも」

この島の周辺の地理については、ビビアンのわかる範囲で教えてもらっていた。

島の東側に巨大な大陸があるとのことで、ここから一番近い他国はそちらにあるとのことだ。

「その辺は試しながらやってみるか。じゃあ、やってくれよ」

「うん。みんな私の近くにきて」

夜霧たちはルーを中心に固まった。

「じゃあいくね!」

ルーが気合いを入れると、夜霧たちはふわりと浮き上がった。

そのままゆっくり上昇していくと、どこまでも広がる森が見えてくる。

「ふむ。触丸を失ってどうしたものかと思っていたが、ルーの能力は十分に代替となるな!」

ルーの力は念動力の類だろう。

単純な能力だが、応用力があり使い勝手は実によかった。

「多少昇ったぐらいでは迷いの森は健在か。じゃあこのまま昇っていって」

夜霧はルーに指示を出した。

周りに落ちている宇宙船らしき物体は森の外からやってきたし、鳳春人も空からやってきたと言っていた。

つまり、上空からなら迷いの森に出入りできるはずだった。

「あのですね。これ、上から出られるか確認してから、ビビアン殿に行ってもらったほうがよかったのではないでござるかね?」

「あー、確かにな。花川は案外気が回るな」

出られないならビビアンに西の村まで連れていってもらえばいい。

そして、空を飛んで森を迂回すれば東側へ行くのも簡単だと思われた。

「高遠殿……やはり即死の力頼りのごり押しでこの世界を生き抜いてきたのでござるね……」

「そう言われると、反論できないね!」

森の中には六角形の頂点に配置された巨大な樹がある。

その樹頭を越えてさらに浮かんでいくと、夜霧は空気が変わったのを感じ取った。

「出られた?」

「みたいだ」

上昇が止まり、夜霧たちは空中で停止した。

迷いの森から逃れてみれば、森を一望することができる。確かに広くはあるが、見渡す限り延々と続くというほどでもない。

どちらが東なのかとあたりを見回すと、巨大な都市が目に入った。

かなりの上空にいるので位置関係はよくわからないが、それなりに森からは離れているようだ。

城壁で囲まれ、無数の建物を内包するそれが帝都なのは、まず間違いないだろう。

そして、その帝都らしきものは崩壊寸前だった。

「ん?」

「むっちゃなんかに襲われてるんだけど!」

それは一目でわかるほどに巨大で、一見してすぐにはよくわからないものだった。

巨大なものが、巨大な何かを振り回している。一つだけではなく、いくつもの何かが都市に叩き付けられているのだ。

それは明確な意図を持って都市を攻撃しているようで、城壁が吹き飛び、建物がなぎ倒されていた。

「ヒドラ……でござるかね? 多頭系のモンスターといいますか。 八岐大蛇(やまたのおろち) 的な」

花川に言われてみれば、夜霧にもそのように見えてきた。

都市に叩き付けられているのは頭なのだ。

巨大な胴体から複数の長い首が生えていて、その先には頭部らしきものがあった。

だが、胴体から生えているのは頭部だけではなく、尻尾もあれば、翼もあり、人の手のようなものもあれば、触手状のものも生えている。

まとめてしまえば、けっきょくはなんだかよくわからない巨大生物としか言えなかった。

攻撃は叩き付けだけではなかった。

口から炎を吐き出す獅子の頭部もあれば、稲光を放つ山羊の頭部もある。棘の生えた尻尾らしきものは、その棘を射出して都市に浴びせかけていた。

ただ、帝都側もやられっぱなしというわけではない。

魔法による投射攻撃などで反撃はしているようだ。だがその攻撃は、巨大生物のあまりの大きさの前には儚げなものだった。

その攻撃は痛痒すら与えていないのだろう。巨大生物は攻撃を気にするそぶりすら見せていなかった。

巨大生物はただ攻撃を繰り返すのみだ。

目的が都市を壊すことなのか、そこにいる人々を滅ぼすことなのかはわからないが、通りすがりに攻撃しているわけではなさそうで一カ所から動いてはいなかった。

このままでは、都市が壊滅するのは時間の問題だろう。

「頭部は蛇だけではなく、いくつもの動物のものが生えておるしキメラ的でもあるな……ちなみに八岐大蛇で股が八つなら頭は九つだろう、などと思ってはいかんのだな。ここで言うマタは根元の数ではなく、分かれた先のことと考えればいい。だがそもそもなぜ八つなのかという話でもあるのだ。伝承では八つの頭に、八つの尾があると言われておるのだが、そもそも八はその昔はたくさんといった意味で使われていたのであり、実際に八つだったかはさだかではないというわけだ」

「その豆知識今はどうでもよくない!?」

「し、しかしまあ! こっちには敵対する者は皆殺しマン、エターナルフォースブリザード使いの高遠殿がおるのでござるからして! 何が現れようと大丈夫なのでござるよ! さあ! その無慈悲な力を今こそ炸裂させるのでござる!」

「こっちが攻撃されてるわけでもないし、殺す必要はないんじゃないか?」

「なんですと!? いや、ですがあれって、たくさんの人が死んでるでござるよね!? あれだけの大都市、数十万とか百万とかいう人がいそうですが、それが全滅するかもしれないというのに!」

「だとしてもそれはこの世界の事情だろうし、別の世界からやってきて遠くから見てるだけの俺が手出しすることでもないような」

「まあ、それもそうなのかな」

知千佳も驚きはしたようだが、対処すべきとは思っていないようだ。

もしかすれば、夜霧のこれまでの行動がまわりまわってこの惨事に繋がっているのかもしれないが、そんなことを気にしていては何もできなくなる。

「いやいやいや! なに知千佳たんも納得してるんでござるか! あれを見過ごせるというのでござるか?」

「そうは言うけどさ。襲ってる側に正当な理由があるかもしれないだろ?」

「槐殿はどうなのですか! あそこが目的地でござるよね!」

「帝都が目的地ではあったがそれは情報収集のためであり、あの状況の街に関わってまですることでもなかろうな。賢者の情報ならほかでも得られるであろうし」

もこもこは冷静だった。

「なんで拙者が常識人みたいな立ち位置になってるのでござるか!? そーゆーのはヒロイン的立ち位置の知千佳たんの役目でしょうが!」

「花川がどうにかしたいのなら、花川だけ帝都で下ろしてもいいけど。ルー、できるか?」

「うん。一人だけあっちに投げればいいんでしょ?」

今は全員で塊として浮いているが、一人だけ余所に放り出すこともできるようだった。

「あいつをどうにかするどころではなくて、拙者が死んでしまうのですが!?」

「だったら人任せにするようなこと言うなよ」

「ですが、あれだけのことが起こっているというのに無視すると言うのでござるか!?」

「目の前で大事件が起きたからって、それが全部自分に関係があると思うのはおこがましくない?」

「いやいやいや! やれやれ系主人公ならここは、やれやれって言いながら出陣するところでござるよ!?」

「やれやれってのは、うんざりしてるってことなんだろ? だったらなんでそう言いながらやるんだよ?」

「え? いや、そう言われると、なんででござるかね? ツンデレの一種?」

「ルー。このまま隣の大陸まで飛んで行けそう?」

森から見て帝都がある側が東側で、そこからさらに東に海が見える。その海の向こうに近隣の大陸があるらしい。

だが、ここからは大陸など影も形も見えない。近隣とは言いながらもそれなりに遠いのだろう。

「休憩なしだと無理かも。途中に島とかあればいいけど」

「そうなると、無計画に飛んでいくのはさすがにまずいか。じゃあ港町に行こう。あれかな?」

巨大生物に襲撃されている帝都の向こう側、海のそばに街らしきものが見えていた。帝都ほどではないが立派な街のようで、そちらは無事な様子だ。

「どうする? 真っ直ぐ行く?」

このまま港へ向かえば帝都の直上を通ってしまう。ルーは、そのルートでいいのか気になったらしい。

「どうだろな。かなりの高度だし、あの化物に気付かれることはないと思うんだけど」

「いやぁどうでござるかね? 危険を避けるのならば念のために遠回りしたほうがいいのでは? 空を飛んでいくのですから、多少遠回りしたところでたいして時間は変わらないかと思うのでござるが」

「それもそうか。じゃあルー。目の前の街は迂回して、港町に向かってよ」

「わかった!」

浮いたまま停止していた夜霧たちが動きだした。

今の位置からは右斜め前へと進んでいく。

そして、空がやけに明るいと気付いた夜霧は空を見上げた。

雲を切り裂き、輝きをまとった何かが降りてきていた。

それは鎧を纏い、武器を手にした、翼を持つ人の群れだ。

「そういや、こんな奴らいたよな……」

それは賢者たちが用いる上空警戒防衛装置であり、夜霧はこの島への道中で一度遭遇していた。

賢者たちは、空を行く者を許さないのだ。

「また天使!? 懲りないな!」

だが、それらは一度夜霧が落としている。何度やってきたところで同じだった。

大陸までの道中でも襲ってくるというのなら、片っ端から始末していくしかないだろう。

今までに何人もの賢者を殺しているので、賢者とは敵対状態だ。今さら逃げ隠れしても意味がない。

それでも、先制攻撃までするつもりのない夜霧は、天使の動向を見定めようとした。

殺意は感じ取れなかった。

それらは、夜霧たちのことなど眼中にないようなのだ。

天使は空から降りてきているが、その行く先は帝都だった。

天使は手に持った槍を、巨大生物へと投げつけはじめた。

どうやら、天使たちは帝都を守るためにやってきたようだった。