軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第3話 世界剣オメガブレイドは、この世界においてはほぼ全能に近い能力を持っています

エルフの森の中にある洞窟。

三田寺重人は、剣を手にしていた。

なんの飾りもない、シンプルな剣だ。全長は一メートルほどなので片手で扱うものだろう。

これが世界剣オメガブレイドらしい。

本来なら、重人はこれを手にすることはできないはずだった。

重人は、クリスという謎の女剣士に支配され、世界剣の完成を見守る役を任じられていたにすぎなかったのだ。

*****

重人は異世界に転移してきてすぐに、クラスメイトたちから離れた。

自らに発現した能力、 預言者(オラクルマスター) によって、この世界の攻略情報を知ったからだ。

王都に向かうルートは難易度が高く、クラスメイトたちは全滅する。

そう知ったため、重人は九嶋玲と丸藤彰伸と共に別行動をとることにした。

だが、その行動をとった時点で、重人は玲に操られていたのだろう。

攻略情報がわかったのならクラスメイトと共有して全員でクリアできる方法を模索してもよかったのだし、集団行動ではクリアできる可能性が低くなるのなら一人で行動してもよかった。

玲と彰伸でなければならない理由は特になかったのだ。なのに、その二人と一緒に賢者を倒すなどという計画へ突き進んだ。

今となっては重人も無謀なことをしたとわかっているが、その時はそれが最善の方法だと思い込んでいたのだ。

重人たちは、賢者を倒すために世界剣オメガブレイドを求めた。そのために各地を巡り、オメガブレイドの入手と、再生に必要なアイテムを集めたのだ。

そして、オメガブレイドがあるエント帝国へとやってきて、賢者ヨシフミにいいようにやられてしまった。

彰伸を殺され、玲を奪われ、もう終わりかと思ったが、なぜかヨシフミと共にエルフの森に行くことになった。

ヨシフミもオメガブレイドに興味を持ったのだ。

そして、エルフの森の地下遺跡でオメガブレイドを入手した。ヨシフミを出し抜いて持ち去ることに成功したのだ。

途中おかしな少年に出会いなどもしたが、遺跡を脱出し森の中の洞窟に隠れることに成功。

オメガブレイドを再生するための繭を作成し、後は待つだけとなったところで、玲は殺され、重人は手傷を負わされた。

突然やってきたクリスという女剣士にやられたのだ。

クリスはスキルを奪う能力を持っていたため、重人は 預言者(オラクルマスター) の力を奪われ、玲が持っていた 運命の女(ファムファタル) によって支配されることになった。

クリスは自らを強くすることに熱心で、武装であるオメガブレイドにはそれほど興味はなかったようだ。

しかし、誰かが手に入れるのはまずいとは思ったのだろう。重人にオメガブレイドを守らせることにしたのだ。

完成したなら、それはクリスに献上することになる。

重人はクリスに支配されているので、たとえ世界剣を手にしたとしても裏切らないと思われていたのだ。

だが、クリスからの支配は突然途切れた。

そして、世界剣が完成し、どうしたものかと思っていたところでナビーが現れたのだ。

*****

「さて。世界剣についての説明をいたしましょう!」

勝ち誇るように、ナビーは語りだした。

「世界剣オメガブレイドは、この世界においてはほぼ全能に近い能力を持っています」

「全能……ってのは、なんでもできるってことなのか?」

「そうなのですが、できないこともたくさんあります」

「全能なのに?」

全能とは大きく出たものだが、いきなり怪しい話になってきた。

「ほぼ全能です。そもそも真の意味での全能ってありえないですよね。ちょっと考えただけでも矛盾することがわかりますし」

「そりゃわかるけどよ」

「ですが、実用上はほとんど問題ない全能っぽいものです。だいたいのことはできますので、できないことを中心にお話しさせていただきます。まず、世界剣は触れていなければ使用できません。触れてさえいれば誰にでも使用できますので、絶対に奪われてはなりません」

「そりゃそうだな」

「ですが、これには簡単な対処方法があります。剣を身体に取り込んで、一体化してしまえばいいのです」

「そんなことできんのかよ?」

「もちろんです。世界剣の力ならその程度のことは造作もありません」

「まあ、まずはそれをやっとくべきだよな。せっかく手に入れたものを奪われて、いいようにされちまうなんて馬鹿みてぇだ。で、どうすりゃいいんだよ?」

「そうしたいと思うだけで結構です」

「思う……」

剣を身体に取り込む。具体的なイメージは湧かないが、とにかく取り込むのだと考える。

すると、右手に持っていた剣がするりと手の中に吸い込まれていった。

「うわ……きもちわる……」

剣が取り込まれて消えた。傍目にはそれだけに見えるだろう。

だが、重人は右腕に重なるように存在する剣を感じ取っていた。

「その状態でも問題なく世界剣の力を使うことができます。ですので、今後わざわざ剣を顕現させる必要はないでしょう」

「俺の身体に触ったら剣に触れたことになったりは?」

「重人様がそう設定しない限りはそのようなことにはなりません。では世界剣の限界について引き続き説明いたします。世界剣の力が及ぶのはこの世界内のみです」

世界とは、天盤内のことをさす。世界は天盤という境界によって、いくつもの世界を内包する"海"と隔たれているのだ。

「次に、直接力を及ぼせるのは、重人様が認識できる範囲内に限られます。たとえばここから見知らぬ遠くの地に直接影響を与えることはできないのです」

「まわりくどい言い方だが、間接的にならできるってことなんだよな?」

「はい。作り出した物を遠くへ飛ばすですとか、その物が遠くの地で与えられた力を行使するのは可能です」

「まあ、全然関係ない遠くで何かできるって言われてもピンとこないしな」

「それと。認識できる範囲内であれば、世界剣は所持者の思いをくみ取り勝手に動作いたします。先ほど鞘が欲しいと思えば鞘がでてきたように、説明が欲しいと思えば私が出てきたように。つまり善きに計らってくれるわけなのですが、時として思わぬ結果を招くことがあります。明確に使用を望んだ場合にのみ、作動するようにしておいたほうが無難ではありますね」

「確かに勝手に動かれちゃ困る時もあるか。どうすりゃいいんだ?」

「単純なところではキーワードを設定しておくなどでしょうか。それもそのようにしたいと思えばいいだけです」

なので、勝手に動作するな。オメガブレイドに対して命令した場合のみ動作せよ。ただし、所持者に危険が及んだ場合は自動的に対応せよ。と条件を思い浮かべて、それを設定するようにと念じる。

「では続きです。世界剣が実現できるのは、重人様が認識できる、想像の及ぶ範囲となります。重人様が知らない物や概念を作り出したり、影響を与えたりはできません」

「ふむ……まあそのあたりはやってるうちにわかるか」

わかっていると自分で思っていてもまったくわかっていないなどもあるだろう。それは実践してみるしかなさそうだ。

「世界剣の限界についても説明いたします。世界剣はこの世界に存在するエネルギーを使用して動作します。ですので、無限に関することは実現できません。この世界に存在するエネルギーを使ってできることが、できることの限界となります」

「つまり使えば使うだけ、この世界からエネルギーが減っていくってことか」

「はい。ですが通常の使用でしたらエネルギーの枯渇について心配する必要はないでしょう。大雑把な説明はこのようなものです。ご質問はありますか?」

「なんでもできる……には死んだ人間を生き返らせるってのも含まれるのか?」

重人は洞窟の外に目をやった。そこには、先ほど作った玲の墓がある。

「可能ですが、玲さんを生き返らせる場合は限定的なものになります。損傷した肉体を再生することは可能ですが、精神に関してはその限りではありません」

「どういうことだよ。脳を元通りにすれば治りそうなもんだが」

「肉体を再生する場合、素粒子単位でまったく元通りとはさすがにできません。いえ。重人様が、元の状態の全てを把握しているということでしたら可能なのですが、しておられませんよね?」

「してるわけねーよな」

「ですので肉体を再生しようとした場合、機能的にはだいたい同じといった精度での再生となります。そして脳に関してはその程度の精度で修復しても元通りとはいかないのです」

「なるほど……そういや、玲の場合は限定的だと言ったな?」

「はい。これが、この世界の住人の場合でしたら話は異なります。ほぼ完全に再生することが可能です」

「異世界人と原住民で何がちがうんだ?」

「原住民の場合ですと、生まれてからこれまでの記録がこの世界に残っているのです。ですので大雑把に肉体を再生して、人生を追体験させることで、だいたいは元の状態にすることが可能です。ですが、異世界人の場合は記録がありません」

「異世界人は生き返れないか……。まあ当たり前といえば当たり前なんだが」

「一般的な蘇生法で蘇る範囲内でしたら、異世界人であっても可能でしょう。心臓が止まって数分以内などですね」

「玲の場合は、もう数時間は経ってるからってことか」

「重人様の都合のいいように動くだけの人形として生き返らせることならできますよ。その場合、重人様が玲さんならこのような言動をとるだろうと思われたように動くことになります」

「それは……やっぱなんか違う気がするからやめとくわ」

「そうですか。それはそうと重人様のバックアップをとっておくことをおすすめしておきます。現時点の重人様の情報をこの世界に保存しておけば、万が一の場合に完全な再生が可能となります」

「でも、俺はほぼ全能なんだろ? 万が一なんてあるのか?」

「ありますね。世界剣は全能に近い力を持っていますが、その行使は重人様の意思によるものです。つまり、重人様の認識外からの攻撃。不意打ち、闇討ちに弱いのです」

「なるほど。じゃあバックアップはとっておくとして、ナビーは周囲をよく見て俺を守ってくれ」

「私が、ですか? 私はただの預言書の化身なのですが」

意外だったのか、ナビーはきょとんとしていた。

「探知能力と戦闘能力を上げればどうにかなるだろ」

世界剣が全能だというならそれぐらいはできるだろう。

重人は、ナビーに最強の戦闘能力を与えることにした。最強と言っても曖昧なものだが、そのあたりは適当だ。

探知能力は範囲が広すぎても問題があるかもしれないが能力の有効範囲は調節できるようにして、運用はナビーに任せることにする。

「なんでもできるか。じゃあ、旨い飯を出せ」

重人は、しばらく食事をしていないことを思い出した。

世界剣に命じると、洞窟の床の上に皿に盛られたカレーライスが出現した。

「って、旨い飯がカレーライスってどういうことなんだよ。もっと旨そうなもんは他にあるだろ」

「それが重人様の想像力の限界ということですね。食べたことのない美味しい物を創り出すことはできないんです」

「思ったより使い勝手が悪いな」

「そうでしょうか。他の力を使って実際に存在する美味しい物を食べに行けばよいだけかと」

「とにかくこれを食ってみるか。スプーンを出せ。って洞窟の床に座って食うのも味気ないな」

テーブルと二脚の椅子。

テーブルの上に、カレーライス、水の入ったコップ、スプーンを二つずつ。

心の中でそれらの実体化を命じる。

世界剣は、あっさりとそれらを出現させた。

「あの。私は食事をする必要はありませんが」

「いいから食えよ。一人だけ食ってんのもさみしいだろうが」

「そういうことでしたら」

ナビーが着席し、重人もテーブルについた。

カレーライスを口にする。

家の食卓でよく食べた、懐かしい味だった。

「で、俺はこれからどうすればいいんだ?」

食事を終えて一息ついたところで、重人は言った。

「なんでもできるわけですから、好きなようにされればいいかと」

「そうだな。これまで散々な目に遭ってきたが、もう俺に危害を加えることができる奴はいないだろう。快適に暮らしたいだけならここから動く必要もない」

「そうですね。必要なものは全て作りだすことができます。もっとも、今の重人様が知らないものは作れませんので、情報収集は必要かと思いますが。それも手下を作り出して放てば済むことではありますけどね」

「なんでもできる、か。俺は何をしたかったんだろうな……元の世界に戻ると、この力はなくなるんだよな」

「はい。世界剣はこの世界の外では使えませんし、この世界で得たギフトも使用できなくなります」

元の世界に戻り、何事もなく普通の高校生として暮らしていく。

それが当たり前のはずなのに、妙に現実感がなかった。

では、この世界で何かしたいのかと考えても、特に思い浮かばない。

「だったら、最初の計画のまま続行してもいいのか」

ただ平穏に暮らすだけなら世界剣があればどうとでもなるだろう。

賢者たちは力を持つ者を探し当ててやってくるらしいが、世界剣が全能だというなら力を持っていることも隠し通せるはずだ。

だが、こそこそと逃げ隠れするのもおかしいのではないかとも思えてくる。

重人がこんな所にまでやってきて惨めな思いをしていたのも、大本を辿れば賢者たちのせいなのだ。

ならば、平穏に暮らすにしても、その前に賢者たちに目に物見せてやってもいいのではないか。

「そもそも世界剣が欲しかったのは賢者たちに対抗するためだ。だったらやってやろうじゃないか」

重人は、この世界の支配者面をしている奴らに一泡吹かせてやることにした。