軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第2話 期待してたのに裏切られた気分だよ、花川くん

家屋らしい建物に入った夜霧たちは、男女で別の部屋に分かれた。

地下遺跡で服が汚れたとのことで、着替えることになったのだ。

確かに埃などで薄汚れたままなのも気分が悪いので夜霧も着替えることにした。

隣では花川も着替えている。服はアイテムボックスのスキルで出したようだ。ちなみに夜霧の服は見た目よりも物が入るリュックから出していた。

「花川。ピエロはやめたの?」

「なぜそんな不思議そうに聞くのでござる?」

花川はこの世界の服に着替えていた。取り立てて派手でもないそこらの街で見かけるような格好だ。

「あーゆーのが好きなのかなって思ってたから」

「好き好んであんな格好する奴がいるわけないでござるよ! あれはヨシフミに強制されていただけでござる!」

着替え終えた夜霧たちは、リビングらしき部屋に向かった。

部屋の中央に石造りのテーブルと椅子が固定されていた。それほど座り心地のいいものでもないが、床に座るよりは幾分かましだ。

夜霧と花川が椅子に座って待っていると女性陣がやってきた。知千佳は熱帯雨林向けの服からがらりと格好を変えていた。再び森に行くかもしれないことは考えていないようだ。

「あれ。妙にさっぱりした感じだね」

「ふふん! シャワーシールドでお湯を出したのよ!」

ビビアンが自慢げに言った。

「なんでもありだな、ビビアンの盾」

それぞれが椅子に座り、話し合う態勢になった。

「でだ。俺たちは森から出て、ヨシフミの所に行って賢者の石を手に入れるつもりだったわけだけど、それは達成できちゃったわけなんだ」

「でも、森から出られないって状況には変わりがないんだよね」

元々は、森から出る方法を求めて遺跡群に来たのだった。そして、脱出方法がわからない件については何も解決していない。

「拙者は来たくもなかったのですが、ヨシフミ殿に連れられて無理矢理ここに来たのでござる。森から出られないとかは知らなかったですな」

「あ、そうそう。花川くんがいたら、森から出られる手段を知ってるとか、出られるって人を召喚できるんじゃないかって言ってたんだけど」

「それなんでござるけどね。途中で出会ったクリスって女に召喚能力は奪われてしまったのでござるよ。そのクリスは死んだのでござるが、能力が戻ってくるといったことはなかったでござる」

「じゃあ今の花川は何ができる?」

「元のまま、ヒーラーでしかないでござるね」

「使えない……」

「知千佳たん! ぼそっと吐き捨てるように言わないでもらえないですかね! 拙者、これでも繊細なのでござるが! ガラスハートが粉々に砕け散るでござるよ!」

「期待してたのに裏切られた気分だよ、花川くん」

「うう……拙者の知らないところで、勝手に期待されて、勝手に失望されているのでござる……」

「でも、回復魔法は使えるんだろ? それはすごいんじゃないの?」

「レベル99ですからな! 即死でなければ大体は回復可能なんでござる!」

「この世界のそういったシステム? よくわかってないんだけどさ。99が上限なんだっけ?」

「種族によって異なりますが人間は99が上限でござる。まあ、限界突破系スキルがあれば99を超えて成長できたりするのですが」

夜霧と知千佳にはバトルソングと呼ばれる、ゲームじみたシステムのクライアントアプリはインストールされていない。なので、花川のようにレベルがあったりスキルが使えたりはしなかった。

ゲーム好きな夜霧としては多少残念な気持ちだった。

「あ! 街で会った時、ビビアンはエルフの森に乗り込むとか言ってたよね? ということは、脱出方法も知ってるんじゃないの?」

「えーと……導きの鈴っていう迷いの森を抜けられるアイテムがあるんだけど……たぶんなくなっちゃったわ。マーヌおばさんが持ってたんだけど、謎の光で……」

遺跡にやってきたビビアンたちは、建物が変化した巨人に襲われたとのことだ。

その攻撃をどうにか掻い潜り一番大きな建物を目指したが、到着直前で光線に焼き尽くされた。

盾の力でビビアンだけはかろうじて助かったが、同行していた者たちは跡形も残らなかったらしい。当然、持っていたアイテムも消失しただろうとのことだ。

「ということは、このメンバーは誰も脱出方法を知らないってわけだ」

もう一人、ガールがいるが、彼女はこの森の中で賢者の石から変化して現れた存在だ。素直に考えるならこの森のことなど何も知らないはずだ。

「となると、やっぱりさっきの地下遺跡に何かあるか探すとか?」

もともとは、森の中心部にある遺跡群に何か森を脱出する手がかりがあるかと思ってここにやってきたのだ。

地上にあった主な建物群は消滅してしまっているので、何か残っているとすれば地下のあの遺跡ぐらいのものだろう。

「いや。脱出についてはもう手段があるだろうが。ガールで空に浮けばいいのだ。あの宇宙船だかなんだかが空からやってきたように、上空は迷いの森の結界の対象外らしいからな」

それまで様子を見ていたもこもこが言った。

「そうだ。確かに空を飛べたらって話をしてた。ガール。俺たちをずっと上空まででも飛ばせる?」

「できるよ」

「じゃあ脱出方法はこれで解決か」

「いやいやいや! 空を飛べる女の子って何よ!? みんな当たり前みたいにしてるけども! それに賢者の石はどうなっちゃったわけ!? これからも賢者の石を集めていいもんなの!?」

「あー、その問題があったか」

「ほぼその問題しかなくない? 脱出よりまずそっちじゃないの?」

「ということでガール。君は何者なんだ?」

「……ガールはいやだから、別のにして。落ち着いたでしょ」

また名前問題を蒸し返してきた。どうあってもガールは嫌らしく、この場で名前を付けなくてはならないらしい。

「自分でこれがいいってのはないの?」

「思いつかないからパパが決めて」

「それで決めたら決めたで文句言うじゃないか」

「それでもガールはないわぁ」

知千佳も不満なようだった。

「……石だったから、ストーン?」

「……さすがにそれはどうかと思うでござるよ、高遠殿……」

花川にまで駄目出しされてしまった。

「タカトーヨギリがここまで追い詰められているのは見物よね! 少し溜飲が下がった気分だわ!」

なぜかビビアンが喜んでいる。

「うーん。名前なぁ。ガールじゃだめなのか……」

「ガールからいっぺん離れようか」

「じゃあ反対から呼んでルーガ? いや、ルーはどう?」

「……それでいいよ、もう……」

幼女が少しばかり悩んだ末にそう言った。気に入ったわけでもなさそうだが、妥協できる程度ではあったらしい。

「じゃあ、ルーな! で、ルーは何者なんだ?」

「女神だよ。それぐらいしか覚えてないけど、もうちょっと大きくなったらもっと思い出せると思う」

「賢者の石がくっついて大きくなったよね。あれはどういうことなんだ?」

「あの石は私の一部。だからパパにはもっとあれを集めてほしいの」

「いや、ルーが大きくなって意味があるのか? 賢者の石はエネルギー源って聞いてたけど、ルーにくっついてもエネルギー源として使えるものなの?」

「なんでエネルギーがいるの?」

「俺たちは別の世界から来たんだけど、元の世界に戻るには膨大なエネルギーがいるって聞かされたんだよ」

世界には概念的な上下関係があり、上から下へと力の流れがある。上の世界から下の世界へと移動する際には落ちるだけでいいが、上へ移動するにはその流れに逆らうだけのエネルギーが必要とのことだった。世界の階層構造の中だとこの世界は底のほうに位置しているらしい。なので夜霧たちの世界に戻るにはかなりのエネルギーが必要とのことだった。

「大丈夫だよ! 私が元の女神に戻れれば、世界の移動ぐらい簡単にやっちゃうよ! だからもっと集めてよ!」

「大きくなったらなったで、力を取り戻したぞ、人間どもめ! って襲ってくる可能性はないでござるかね?」

「そういえばそうか。ルーは賢者の石に分割して封印されてるってことなんだろ? そうされるだけの理由があったわけだよな?」

ルーは少し気まずそうな顔をしていた。

今のところ、ルーを信用できる材料はほとんどない。彼女の言うことを鵜呑みにしていいのかはわからなかった。

「しらない! 私が封印されてる理由なんてわかるわけないよ!」

「まあ、それはいいか。とにかくここを脱出するにはルーの力がいるわけだし」

「脱出できたとして、どうする? この島に来たのはヨシフミから賢者の石を得るためだったがそれは達成できている。次はどこへ行くのだ?」

もこもこが訊いてきた。

「そうだな。賢者の石集めを続行するとして、賢者がどこにいるかなんだけど」

「そこはあれでござるね。こーゆーのはですね。本体が一部と引かれあったりするのが定番というものでござるよ! ですのでルーたんには賢者の石のありかがさくっとわかったりするのでござるよ!」

「全然わかんない」

ルーは即答した。

「いや、でも赤ん坊の時は、賢者の石のほうに向かってただろ?」

夜霧たちが地下へ向かったのは、赤ん坊だったルーの案内によるものだった。

「近かったらわかるけど、離れるとわかんないよ」

「でも近づけばわかるなら、少しは手がかりになるよね」

知千佳が言うように、なんの役にも立たないわけではないだろう。少なくとも近くにあるのに見過ごすことはなくなるはずだ。

「とにかくこの島を出る必要はあるな。この島にいる賢者はヨシフミだけのはずだ」

「となると……帝都のほうかな。そっちには港があって島を出入りできるって聞いたけど」

この島は東西に伸びていて、東と西の地域に分かれていた。帝都があるのは東側でそちらには港がある。

夜霧たちは本来なら、船でそこに到着するはずだったのだ。

ちなみに西側には船がまったく存在しておらず、そちらからの島外への脱出は不可能とのことだった。

「この森を出て帝都に行って、次の目的地の情報を集めるってとこか」

ここで考えていても、これ以上は案が出てきそうになかった。

「俺たちは帝都に行くけど、ビビアンはどうする?」

「私が帝都に行ったところでさほどの意味はなさそうだけど、ここに置いていかれるのは非常に困るのだけど!」

「……盾でどうにでもなるんじゃないのか? 空を飛ぶ盾とかでさ」

「あ!」

その発想はなかったようだった。