作品タイトル不明
第1話 見た目がキモイから犯罪者扱いって、そーゆーのが冤罪を生むのでござるよ
エルフの森と呼ばれる熱帯雨林の中央にある地下遺跡。
そこに夜霧たちはいた。
普通なら人がうろうろしているような場所ではないはずだが、なぜか人が集まってしまっている。
一緒にやってきたのは壇ノ浦知千佳、もこもこ、ベビーと名付けた赤ん坊が成長した幼女。
先にいたのが、途中ではぐれた花川大門、盾使いのビビアンと、ヨシフミの部下らしき女だ。
すでに死んでいるヨシフミを除けば、七人がここに集合したことになる。
「はい! で、こっからどうしたもんでしょうか!」
やけくそ気味に知千佳が言った。
遺跡の地下にまでやってきたのは、賢者の石が変化した赤ん坊の示すほうへと向かったからだ。
ベビーは、ヨシフミが持っていた賢者の石が目当てだったのだろう。
ベビーは目的を達したわけだが、夜霧たちの本来の目的は森を出ることだった。
森を出るのはヨシフミのもとへ向かって賢者の石を手に入れるためだったのだが、その賢者の石はベビーが吸収してしまった。
おまけに、ベビーは三歳児ぐらいにまで成長してしまっている。
確かにわけのわからない事態で、夜霧も知千佳の気分はよくわかるのだった。
「……話ができるなら訊いてみるしかないか。このまま賢者の石を集めるとどうなるのか、それに意味があるのかどうか」
元の世界に帰るには莫大なエネルギーが必要らしい。
そのエネルギー源として賢者の石を求めていたが、人間の子供のような形になってしまった賢者の石からそのエネルギーを取り出せるのかがよくわからない。
「この大きさなら歩けるよな。下ろしていい?」
「うん」
ベビーははっきりと返事をした。
だが、見た目通りに三歳児程度の知能しかないのなら、疑問の答えが返ってくるかは怪しいだろう。
「ちょっと待って! えーと……確か使えそうなものが……」
知千佳が、夜霧が背負っているリュックを漁りはじめた。
「花川くんはちょっとよそむいててね。女の子のあられもない姿を見せるわけにはいかないから」
抱っこ紐で抱えているベビーは布でくるんでいるだけの状態だった。
大きさが変化したので、そのままではすぐにはだけてしまうだろう。知千佳は着替えを探しているのだ。
「失礼でござるね! 拙者ロリの気も多少はありますが、さすがにそこまで小さい女の子は対象外でござる! といいますか、でしたらなぜ高遠殿はいいのでござるか! この男だって幼い少女を相手に邪なことを考えておるやもしれぬではないですか!」
「高遠くんはそんな感じじゃないから」
「それはなにゆえに!」
「うーん……見た目?」
「ちくしょーでござるよ!」
準備ができたようなので、夜霧はベビーを知千佳に渡した。
幼女の裸になど興味はないが、念のために知千佳たちに背中を向ける。
「……だいたい見た目がキモイから犯罪者扱いって、そーゆーのが冤罪を生むのでござるよ……。そういった決めつけは現実の幼女を守る役には立たぬのでござる。……実際のところそういったよからぬことをするのは、どこかにいるキモオタではなく、近所の親切そうなおじさんだったりするのでござる……」
夜霧は花川の隣に行った。
納得がいかないのか、花川はなにやらぶつぶつとつぶやいている。
「着替えおわったよー」
知千佳が呼びかけてきたので、振り向いた。
幼女は、大きめのTシャツを着ていた。大人サイズのものなので、三歳児が着ればワンピースのようになっている。下着もなにかしら穿かせたのだろう。
「ちょっとまって! なんか勝手に話が進んでるようだけど、私をないがしろにしないでもらえない!?」
今にいたるまで呆けていたビビアンだが、気を取り直したようだ。
「そう言われても……ここに来たらビビアンがいただけだし……。どうしたいんだよ。確かヨシフミを倒して王国を再建するとかだろ? ヨシフミなら死んだし、そっから先はいろいろ頑張れば?」
王国再建の手伝いなどできないし、するつもりもない。それは夜霧たちが元の世界に帰還する役には立たないだろうからだ。
「そうだけど! そうなんだけど、これで納得いくと思う!?」
「拙者は納得したでござるよ!」
「あんたには訊いてない!」
「ビビアン殿……ここはもう流れにまかせてしまって、ごちゃごちゃ余計なことは言わないのが得策でござるよ! ほら、レナ殿もおとなしくしているではないですか」
ヨシフミの部下らしい、不健康そうな見た目の女はレナというらしい。
レナは、倒れたヨシフミを見下ろしていた。
横暴な賢者が死んで解放されたと喜んでいる雰囲気ではない。ヨシフミが死んだという現実を受け止めきれず、呆然としているようだった。
「ふざ……けんな! こっちが! どれだけ苦労してこの地位までやってきたと思ってやがんだ!」
レナが激昂した。
「お前が死ぬとかおかしいだろ!? 無敵なんじゃなかったのかよ! 最強なんじゃなかったのかよ! くそがっ! お前ならあいつを倒せると思ってたから、くそみてぇな性格のお前にへーこらしてたんだろうがよ!」
「死ね」
レナが倒れた。
殺意を感じた夜霧が力を使ったのだ。
「え? その、お亡くなりに?」
「やけくそになってなんかしようとしてたから」
「いやいやいや! なんか思わせぶりなこと言ってたでござるよね? そのあたりもうちょっと訊いて、共闘したりとか? そうでなくても主の復讐を誓ってパワーアップして再登場とか! そーゆー展開にはならんのですか!」
「なんで花川がキレてんだよ」
よくわからない夜霧だった。
「とにかくさ。ここは出ないか? ここじゃ落ち着いて話もできないよ」
「そ、そうでござるな。こんな陰気な所にいつまでもいては気分が落ち込むというものでござる! 拙者には明るい太陽の下が似合うと思うのでござるよ!」
ここにある灯りは、幼女が出している光る球と、ビビアンの輝く盾だけだった。
それらが周囲を照らし出してはいるが、闇の中にいるという印象は拭いきれない。
あまり楽しい場所ではないのは確かだろう。
「そう? なんか家にひきこもって、暗い部屋の中でアニメ見続けてぐふぐふ言ってるイメージなんだけど」
悪気ない様子で知千佳が言った。
「ステレオタイプな偏見がひどいのでござるよ! 拙者、こう見えてもアウトドア派なのでござるが! 聖地巡礼とか行く系でござるよ!」
「出るなら、俺たちが来た所からがいいのかな。花川たちはどっからきたの?」
「地面に空いた穴から落ちてきたでござるよ」
クリスという女に無理矢理連れてこられたとのことだった。
それからヨシフミたちと遭遇して現在に至るとのことだ。
「私も同じね。ヨシフミたちは別の所から来たみたいだったけど、それがどこかはもうわかんないよね」
ビビアンが倒れているヨシフミとレナに目をやった。
「落ちてきた穴からはそう離れてないから、そっちに戻るのがいいかな」
「結構な高度でしたが、上る手段があるので?」
「ベビーがどうにかできるんじゃないかな。落ちてくるときも落下速度遅くしてくれたし」
「パパ。ベビーはやめて……」
赤ん坊が成長して三歳児ぐらいの見た目になった幼女が不満を言う。
夜霧が適当にベビーと名付けたのだが、本人は気に入らないようだ。
「まあ、もう赤ん坊じゃないしな……。じゃあ、ガール?」
「雑にもほどがあるな! ベビーもあんまりだったけど!」
「じゃあ、誰か決めてくれよ」
夜霧は不満げに投げ出した。知千佳が納得する名付けをできる気がしなかったのだ。
「では拙者が……」
「あ、花川くんはエントリーできないから」
「なにゆえにでござる!」
「萌とか付けそうだし」
「どういう偏見でござるか! 全世界の萌って名前の美少女に謝るでござるよ!」
「うーん。けどいざ付けるってなると難しいよね……すごく可愛いんだけど……イメージにあった名前なぁ」
知千佳は腕を組んで考えはじめた。
「時間かかるなら後にして、とにかく地上に戻ろう。とりあえず暫定的にガールね。不満があるなら落ち着いてから言ってよ」
「それ、なし崩しに定着してしまうやつでござるよね!」
「で、ガール。上に上るのはできる?」
「……ガール……うん。みんなを浮かせるぐらいならできる」
「じゃあ行こう」
夜霧たちは、ここまでの道を戻った。
すぐに、天上に穴が空いている地点まで戻ることができた。さほど移動してはいなかったのだ。
「じゃあお願い」
「えい!」
ガールが可愛らしい声で気合いを入れる。
すると、夜霧たち六名の身体がふわりと浮き上がった。
そして、そのままゆっくりと上昇していく。
「おお! これはなかなか新鮮な感覚でござるな!」
「花川くん、空飛んでなかったっけ?」
この世界に来てすぐのことを知千佳は思い出したのだろう。花川は仲間と共に空を飛んで、夜霧たちの所へやってきたのだ。
「それはそれでござるな。あっちはびゅーんと吹っ飛んでる感じでしたが、こちらは浮遊感が楽しいでござるよ」
しばらく浮いていると、穴を通り過ぎて地上に辿り着いた。
あたりには宇宙船らしき物が墜落しまくっている。異常ではあるが、先ほどと変わらない光景が広がっていた。
「よかったぁ。地上に出てきたらまたわけのわかんない奴がやってきてたりするかと思ったよ」
知千佳が胸をなで下ろす。
「いや……わけわからん状況ですが!? 気持ちの悪い宇宙船? が落ちまくってるってなんなんでござるか!」
「なんなのこれ!?」
花川とビビアンが驚愕の声をあげた。
「襲ってきたから殺した」
「宇宙船が死ぬって……あ、いえ、高遠殿はそーゆー人でござるよね……」
「とりあえず、遺跡の建物に行こうか。落ち着けるってほどでもないけど、地下の闇の中よりはましでしょ」
何かが消失したらしき跡を通って、遺跡群の入り口あたりまで戻る。
そして、夜霧たちは頑丈で安全そうな建物を選んで中に入った。