軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第19話 いないならいないでいいやって出発したんだった

夜霧たちが遺跡の通路を歩いていると、前方に灯りが見えた。

「誰かいる?」

「そうかもね」

「ふぎゃあ」

ベビーの手は灯りのほうを指さしている。あの灯りこそがベビーの目的地かもしれなかった。

ここまで来て引き返すわけにもいかず、夜霧たちはそのまま歩いていく。

すると見知った顔を含む集団がそこにいた。

知っているのは、花川とビビアン。他にはチンピラのような男とやさぐれたような様子の女で、四人の集まりだ。

「逃げて!」

ビビアンが叫んだ。

「え? どういうこと?」

知千佳が首をかしげた。状況がわからないのだろう。夜霧にもよくわからなかった。

「こいつは賢者で皇帝のヨシフミ! 絶対かなわないから逃げて!」

鋲の付いたジャケットを着た貧相な男がヨシフミらしい。もう一人の女は部下のようだった。

「花川。状況を説明できる?」

夜霧は、どういうわけかヨシフミの仲間面をしている花川に訊いた。

「えぇ!? ここで拙者に話を振るのでござるか!」

「お前が一番この状況をわかってそうだろ?」

「ハナカワ。こいつらはお前の知り合いか?」

「えーと……双方に解説いたします! まず、こちらの雑魚が粋がってる感じの人が賢者で皇帝のヨシフミ殿でござる!」

「おいこら。死にたいのか?」

「拙者、何を言ってもいいということでしたよね!?」

「お前、まだ道化のつもりでいたのか?」

「違うのでござるか!?」

「まぁ、いいだろう。解任はしてねぇからな」

「で、こっちの不健康そうな顔と格好でいろいろと台無しにしてる女性が、エント帝国四天王のレナ殿です」

「よかったね。先にヨシフミに確認とっといて。それがなきゃ死んでたよ?」

「そして、あちらの方がですね! 拙者のクラスメイトの高遠夜霧殿と、壇ノ浦知千佳たんと、あと一人はよくわからない人でござる! そしていつの間にか赤ん坊が増えているでござる!」

「高遠夜霧ねぇ……どっかで聞いたな。お前がアオイを潰したって奴か?」

ヨシフミが睨み付けてくる。

眼(ガン) を付けるというやつだろう。実にチンピラっぽい態度だった。

「さあ? 知らない名前だな。もしかして峡谷でロボットと戦ってた人?」

「峡谷? ハナブサの近くか」

「ああ、それだよ」

「そのあたりならサンタロウだな。やっぱりあれはお前か」

「さあ? 名乗ったわけじゃないから、本当にそうかはわからない」

「で! 高遠殿は何しにこんなとこに来たのでござるかね! そう! ピクニックですよね! ふらふらとやってきただけで、ヨシフミ殿に用事があったりはしないでござるよね!」

「なんでピクニックだよ? この赤ん坊がこっちに行けって雰囲気だから来ただけで……。でもまあ、賢者がいるならちょうどいい。賢者の石が欲しいんだけど、くれないかな?」

「ああああぁぁぁ? 何すっとぼけたこと言ってやがんだ、このボケがぁ!」

ヨシフミが威圧してきた。

だが、さほど怖くはない。雑魚っぽい雰囲気だからだろう。

「ヨシフミ殿! こんな奴には関わらんほうがいいのでござる! この高遠って奴は最悪なんでござる! こいつは何でもかんでも即死させるんでござるよ! そして殺意を感知してカウンターでその力を使ってくるので、手に負えないのでござる!」

「花川くん、どっちの味方なの?」

「どっちの味方でもござらん! 中立! 中立でござる! 生き残ったほうに従う小判鮫野郎なのです!」

花川が開き直っていた。

「即死能力ねぇ。サンタロウを殺したってことは、賢者に通用するってことか」

「そういや、賢者を殺すと、体内の賢者の石が力を失うとかだっけ。それは困ったな」

ヨシフミを殺すのは簡単だが、単純に殺してしまうわけにはいかないのだ。

それは夜霧にとってはかなり面倒な話だった。

――ある程度部分を殺して身動きできなくしてから、ってところか。

ライザの時にやったのと同じ手法だ。今回は触丸がないので解体が難しいかもしれないが、刃物さえあればもこもこがどうにかするだろうと、楽観的に夜霧は考えた。

「殺意を感知して、即死ねぇ……まあ、関係ねーけどな!」

ヨシフミの手にナイフが現れた。

*****

ヨシフミは高遠夜霧に脅威を感じていなかった。

なぜなら、超ご都合主義()が反応していないからだ。

超(スーパー) ご都合主義(ヒーロータイム) が新たな能力を提示しないのなら、それはヨシフミが今持っている能力だけで対応できるということになる。

――まあ、念には念を入れるけどな。

ヨシフミはワンダリングエッジを現出させた。

これは対象を完全に消し去る最強の武器だ。

その刃は過去に向かって飛んでいき、対象を過去から存在しなかったことにすることができる。

殺さずに過去改変もできるが、それはあくまで応用だ。

一応は賢者の仇なので、遊ばずに速やかに始末するつもりだった。

ヨシフミはワンダリングエッジを投げつけた。

夜霧に当てるつもりはないので適当な方向に。それは空中で消え、過去へと飛んでいく。

それは夜霧の過去へ、新生児のころにまで遡り、何の抵抗もできない無垢な身体へと突き刺さる。

それにより、今目の前にいる夜霧は消えていなくなるのだ。

改変前の状況を認識できるのは、ワンダリングエッジを使用したヨシフミのみとなる。

他の者にとっては、最初から高遠夜霧などいなかったということになる。

その際、一人の人間がいなくなることにより様々な矛盾が生じはするが、最終的には辻褄が合うようになっている。時空には復元能力があるらしく、欠けた部分を別の要素で補うようになっているのだ。

ヨシフミは、すぐに違和感を覚えた。

過去が変わるなら、投げた瞬間に効果は発動する。それが当然なのだが、投げて数秒が経っているというのに、夜霧は目の前に立っているままなのだ。

そして、それから何秒が経とうと、何の変化も訪れなかった。

「今の何なの?」

夜霧が首をかしげた。

夜霧はそれを攻撃とは認識していないのだろう。だからヨシフミは死んでいない。

だが、それはヨシフミも何もしていないのと変わらないということだった。

*****

ヨシフミがナイフを投げたので戦うつもりかと夜霧は思ったのだが、殺意は感じていなかった。

ならば何のつもりなのかと待ってみたものの、特に何も起こらない。

「今の何なの?」

思わず訊いたが、返事はなかった。

ヨシフミにも想定外のことが起こっているのかもしれない。

けれど、戦いが始まったということなら、夜霧も能力を使ってヨシフミの自由を奪っていくべきなのだろう。

夜霧は力を使うべく、狙いを定めようとした。

部分を殺すのは、普段やらない例外的な使い方なので、集中力が必要になるのだ。

だが、けっきょく夜霧は能力を発動しなかった。

どういうわけか、ナイフがヨシフミの胸に突き刺さっていたからだ。

「何なんだ?」

それはヨシフミが投げたナイフだろう。それがヨシフミに刺さっている。何の意図があるのかがわからなかった。

「さまよう刃ですか。卑怯者の道具ですねぇ」

ヨシフミのそばに女が立っていた。

この場に新たに現れた人物は、夜霧にも見覚えのある女だった。

その頭部には狐のような耳が生えていて、艶やかな着物を着崩している。

「あ。狐さんだ」

「え? 知り合い?」

知千佳が驚きとともに訊く。

「子供のころに遊んでもらってた」

「あの人妖怪じゃないの!? 何か頭に耳生えてるんだけど!」

「今思えばそうだね。妖怪だったのか」

狐の妖怪。言われてみればそうなのだろう。

だが、彼女と遊んでいたのはずいぶんと前のことで、記憶も曖昧だ。あらためて見ればそうとわかるが、これまで特に意識することはなかったのだ。

「あほやわぁ。ほんまにあほや。この子が赤ん坊のころを狙うて。それ一番やったらあかんやつやで?」

侮蔑を隠さずに狐は言った。

「何だ? どうなってる、これは? どうなってるんだよぉぉおおおおお!」

ヨシフミが叫ぶ。

「狐さん」

「おお! おおきゅうなったねぇ。元気にしたはりましたか?」

「うん。元気だけど、なんでここに?」

「いえね。その人が、さまよう刃で赤ん坊のころのあんたを狙ってきたもんやから。かうんたーゆーのをやりにきたんですけど」

「狐さんは、どうやってここに?」

「刃の軌跡を逆に辿ってきたんですよぉ」

「じゃあ、俺を連れて帰ったりできる?」

「それは無理ですねぇ。今、ここにいる私はただの影なんですよ。なのでもうちょっとで消えてなくなりますよって」

元の世界からここまであっさり来れるなら帰れるのかと思ったのだが、そう都合良くはいかないらしい。

「じゃあさ。その人の中にある賢者の石っての取り出せるかな?」

「石ですか? これですかねぇ?」

狐は、無造作にヨシフミの胸に手を入れた。

ヨシフミには何の反応もできなかった。

「ぐっ……てめぇ……よせ……やめろ……」

狐が手を引き抜くと、ヨシフミは倒れた。

狐の手には、丸く透明な石が掴まれている。

「それだよ。帰るのにいるんだ」

狐が石を夜霧に手渡した。

「そうですかぁ。まあ遠出もほどほどにしてくださいねぇ」

そう言うと狐の姿がぼやけていった。

「いや、遠出したくてしてるわけじゃないんだけどね」

夜霧の返事を最後まで聞けたのかはわからなかった。そもそも影らしいので、返事をしたところで意味はなかったのかもしれない。

「え? いや、その、ヨシフミ殿はどうなったんですかね? 何が起こったのかさっぱりなんですが」

花川はよくわかっていないようだが、夜霧もそれほどわかっているわけでもない。

「ヨシフミ!」

レナが倒れているヨシフミに駆け寄った。

「タカトーヨギリ……これは……」

ビビアンは呆然としていた。

「ああ。賢者のヨシフミってのから賢者の石をゲットしたんだ。ヨシフミはたぶん死んだと思うけど」

ヨシフミを倒すのがビビアンの目標だったはずだ。

部外者の夜霧が殺したのでは納得いかないかもしれないが、それは仕方がないと思ってもらうしかない。

「えっらい、あっさり言うでござるな! え? これまでの拙者の苦労は何だったと言うのでござるか!」

「花川の苦労なんて知らないよ。というか勝手にいなくなるなよ」

「え? もしかして拙者を気にかけてくださってたんでござるかね?」

「そういえば、いないならいないでいいやって出発したんだった」

「だったら気にかけてたようなこと言わないでほしいでござるよ!」

夜霧は手にした賢者の石を確認した。

今までに入手したものと同じものだ。

「ほぎゃほぎゃあ!」

抱っこ紐の中のベビーが手を伸ばし、賢者の石に触れようとしている。

「お前が探してたのもこれなのか?」

「ふんぎゃあ!」

「そうだって言ってるっぽいね」

「なんで壇ノ浦さん、赤ちゃんの翻訳係みたいになってるの?」

「いや、なんとなく?」

触らせていいものなのか少し迷ったが、けっきょく触らせることにした。

ベビーが石に触れる。

するとベビーの手は、石にピタリとくっついた。

そして、石は肉のようになっていき、ベビーの手と融合していく。

「てことは、やっぱりベビーは賢者の石が変化した姿ってことなのか」

石はベビーに吸収されていき、跡形もなくなった。

「これ、石の質量以上に重くなってないか!?」

抱っこ紐で抱えているベビーが重くなっていく。

抱えきれないほどではないが、それでも今までの体重に比べればかなり増加したように思えた。

身体も見る間に大きくなり、髪の毛は肩を越えるほどに伸びている。

人間の子供で言うなら、三歳児ほどにまで成長しているのだ。

「これは、抱っこ紐で抱えるには大きくなりすぎてるような……」

「パパ」

ベビーがはっきりとそう口にした。

「パパって……」

面倒の種がさらに面倒なことになって、夜霧はうんざりした気分になった。