軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第18話 いいように扱き使う奴らが一通りいなくなってラッキー! これで晴れて自由の身だ!

「これいったいどうなるというのでござる!?」

クリスが消え去ったのでそれはよかったのだが、今度はタクミとヨシフミが戦うといった展開になっている。

とまどう花川だったが、すぐにこれはこれで問題ないのではと思いはじめた。

タクミがヨシフミを倒したなら、花川をいいように扱き使う奴らが一通りいなくなるのだ。

タクミは花川には興味がなさそうなので、それで晴れて自由の身だ。

花川は、密かにタクミを応援することにした。

*****

女神の欠片がヨシフミの体内にあることを、タクミは察知していた。

なので抜き取ればそれで済む。実に簡単な作業だ。

見たところ、彼我の実力差を認識できない程度の雑魚でしかない。タクミの格を見抜けず、吠えているだけの間抜けにすぎなかった。

今は抑えている力を少し解放するだけで、絶命する程度の存在だろう。

まともに相手をするのも馬鹿らしいような相手だが、自信満々のその態度から何を繰り出してくるのか、多少の興味はあった。

「ほらどうした? さっきの技はどうした? かかってきやがれ!」

「そうは言うけどさ。僕が何かしたらそれで終わっちゃうよ? 君が何かしたほうがいいんじゃない? 何もしないって言うなら終わりにするけど」

「へっ! そうかよ! たっぷりと後悔しやがれやぁ!」

ヨシフミの手にナイフが現れた。

「おらぁ!」

ヨシフミは、雑なフォームでそれを投げつけた。

どうしたものかとタクミは考えた。

ヨシフミなりの本気で投げつけたのかもしれないが、それはあまりにも遅かった。

避けるのは簡単だし、喰らったところで痛くも痒くもないだろう。

――まあ、せっかくだし喰らってあげようか。

だが、タクミの気遣いは無駄に終わった。

その刃は、タクミまで届くことはなく、唐突に消え失せたのだ。

「へぇ?」

予想外だったため、感心した。

では、一度消えて死角からでも飛んでくるのか。

タクミは、楽しみに待ち構えた。それがタクミにダメージを与えられるとは思わないが、現れる時にもう一度タクミを驚かせてくれるのではないかと思ったのだ。

しかし、どれだけ待とうが、ナイフが現れることはなかったのだ。

――僕の体内に転移した……なんてこともないか。

気になったので、タクミは本気で周囲の状況を検索した。

だが、ナイフはどこにも存在していなかった。

この空間に隣接する亜空間まで探しても見つからなかったのだ。

「で? これがどうかしたの?」

タクミは落胆していた。消えたところまではよかったが、それで何も起こらなければ何も面白くはない。

「お前の負けが確定したってことだよ!」

ヨシフミが、自信満々の下卑た顔をしたまま近づいてきた。

「だから、なんなの?」

「死ねやおらぁ!」

お互いの拳が届く距離にまで近づいてきたヨシフミは、大げさに振りかぶってからパンチを繰り出した。

「何もないならもういいよ」

ヨシフミの拳がタクミの頬に触れる。

タクミは、少しだけ防御力を上げることにした。

それで終わりだ。触れた拳からヨシフミは消失することになる。

だが、ヨシフミの拳はタクミの頬にめり込んだ。

予想外の痛みにタクミは混乱し、気付けばしゃがみ込んでいた。

「え?」

そんな間抜けな声しか出せなかった。

「おらぁ!」

ヨシフミが蹴りを放つ。

蹴った後に自らバランスを崩してしまうような雑な蹴りがタクミのみぞおちに決まり、タクミは前屈みになった。

息ができなくなり混乱する。

何が起こっているのか、まるでわからなかった。

「弱っちぃなぁ、おい!」

ヨシフミがタクミの後頭部に足を落とす。

タクミの顔面が石畳にぶつかり歪んだ。何度も何度も踏みつけられ、いつの間にか血と吐瀉物の塊に顔を埋めていた。

一瞬、気を失っていたのかもしれない。

これはありえないことだった。

苦痛に呻き、気絶するまで打撃を加えられ、為す術がないのだ。

「ば、馬鹿な……」

「おー。やっと喋ったなぁ。いいぜぇ! もっとだぁ。もっとそーゆーあほみたいなことをくっちゃべれよ! ありえねー現実を罵倒しやがれよぉ!」

――どういうことだ? 何が起こってる?

タクミはようやく身体を動かした。打撃から身を守るように頭を抱えて身を丸めたのだ。

身を守るはずのオーラが出ていない。

魔法は発動しないし、転移もできない。召喚獣の喚びだしにも失敗した。

神を倒して得た権能も発動しなかった。

――なんでだ! なんでこんなことになっている!

もう余裕などありはしなかった。

加えられる打撃に耐えるのが精一杯になっていた。

「無様だなぁてめぇ! さっきまでの余裕の態度はどうしたぁ!」

攻撃が止み、罵声が浴びせられる。

タクミは、怯えた顔でヨシフミを見上げた。

自分がこんな状況に陥っていることを、まだうまく理解できていなかった。

「訳わかんねぇで死んでいくってのもなんだから、説明してやるぜぇ!」

ヨシフミは嗜虐的な笑みを浮かべた。

親切心から説明をするわけではないのだろう。それはより絶望させるための手段でしかないのだとタクミは感じ取っていた。

「こいつは、ワンダリングエッジって言うらしい」

ヨシフミはナイフを見せつけるように弄んでいる。先ほど空中で消えたはずのナイフだ。

「こいつは過去に飛んでいくナイフで、機能は過去の改変だ」

「なんだ、それ……そんなのあるわけが……」

「あるんだからあるんだろうが、あほかてめぇ。現実を受け入れやがれ」

受け入れられるわけがなかった。

異世界に転移し、神から力を与えられ、成長して力を与えた神を屠った。

その世界だけでは飽き足らず、別の世界に転移して神々を殺し続け、殺神鬼とまで呼ばれるようになった。

神すら超えた自分が、こんな雑魚同然のたかが人間にしてやられるなどあるわけがないのだ。

「確かにてめぇは強かったんだろうなぁ。けどよぉ。てめぇにも弱かった時代はある。そこを狙われりゃ終わりなんだよ。どれだけ強かろうが! これは防ぎようがねぇんだよぉおおお!」

「ふ、ふざけるな! そんなことができるわけ――」

「できるからてめぇは今こうやって! 地べたに這いつくばって、石ころしゃぶってんだろうがよぉ!」

ヨシフミが再びタクミを蹴り飛ばした。

つま先が鼻面にめりこみ、吹っ飛ばされる。

鼻血があふれ出て、呼吸すらままならなくなった。

「でだ。こいつで過去のお前を殺すってのは簡単なんだが、そうすると当然だがお前がここにくることはなくなるわけだ。それはそれで楽なんだがつまんねぇよなぁ? だから俺は、てめぇが力を得るっていう人生をなかったことにした」

「馬鹿な! そんなわけが……」

だが、急に自信がなくなってきた。

自分は本当に神を倒したのか?

神をも超える力を手にしていたのか?

何が事実なのか、あやふやになってきたのだ。

「けっきょくな? 辻褄があってりゃそれでいいんだよ。てめぇがどっかですげぇ力を手に入れてここに来ていようが、そんな力を手に入れた夢を見て調子にのってこんなとこまでのこのこやってきた凡人であろうが、俺にとっては変わりねぇわけだろ? これが俺から見た現実ってわけだ!」

「そんなわけがあるか! 君も僕の力を見ただろ!」

「あぁ? 見た気もするが、そんなもん幻覚だったんじゃね? 俺はてめぇの攻撃なんざ喰らってねぇし」

「ぼ、僕は……」

力を得て、神を倒した記憶はある。

だが、そんな夢を見ていただけだと言われれば、否定する材料がない。

事実、今のタクミは何の力も使えないのだ。

「そういうわけでだ。超ツエエ俺様と、いい夢見てただけで凡人のてめぇとで勝負再開だ! せいぜい頑張れや!」

呼吸もままならず、立ち上がることすらおぼつかない。

何が夢で、何が現実なのかがもうわからなくなっている。

タクミは、この状況こそがただの悪夢であってくれと願うしかなかった。

*****

それはチンピラの喧嘩とでもいうべき状況だった。

肩がぶつかったと因縁をつけて素人を一方的に滅多打ちにする、ならず者のやり口だ。

ヨシフミがしているのは倒れた相手を蹴りつけ、踏みつけ続けることであり、タクミは頭を抱えて丸くなっているだけだった。

花川は、タクミが圧倒的実力で勝つのだとばかり思っていた。

だが、現実はこれだ。花川は、ヨシフミの力をまるでわかってはいなかったのだ。

しばらくしてタクミはぴくりとも動かなくなった。死んだのだろう。花川にはヒールで回復できるイメージがまるでわかなかったのだ。

タクミに止めをさして満足したのか、ヨシフミが花川のそばにやってきた。

「ハナカワぁ。てめぇ、もしかして俺が死んだらラッキー! とか思ってたんじゃねぇのか? あぁ?」

「そ、そんなことはまるで思ってはいなかったのでござるよ? 心の中で密かにヨシフミ殿を応援していたぐらいでござるし!」

「ほぉ? てっきり俺が死んだら逃げられるとでも考えてるかと思ってたがなぁ」

「いいように扱き使う奴らが一通りいなくなってラッキー! これで晴れて自由の身だ! って思ってた気がする」

少し回復してきたのか、倒れていたレナが言った。

「そういえば、そんな能力を持っておられたでござるね!?」

「そんなことだろうとは思ってたがよぉ……」

ヨシフミが残念なものを見る目になっていた。

「そ、それはともかくとして! ヨシフミ殿の能力ってなんなんでござるかね!?」

「あぁ? 教えてなかったか?」

「はい、訊く機会もなかったでござるし」

「まぁ隠しちゃいねぇし、隠す意味もねえんだがな。俺の力は 超(スーパー) ご都合主義(ヒーロータイム) ってやつだ。どんな力かっつーと、敵を前にするとそいつに勝てるようになる、だな。能力が目覚めたり倒せる武器が出てきたりする」

「……えーと……むちゃくちゃすぎでござるね!? それって数あるチート能力の中でもぶっちぎりではないのですか!?」

「まあ、何が相手でも負ける気はしねぇな」

「だから、四天王とかヨシフミにとってはどうでもいいし、誰が裏切ろうが気にもしてないんだよ」

レナが立ち上がった。

「ハナカワ。レナを回復してやれ」

「承知したでござる」

花川はレナを回復した。ただの怪我だったのですぐに全快した。

「さてと。じゃあ行くか。世界剣はどっちだ?」

「え? あ、あっち!」

ビビアンが指さすほうに、ヨシフミたちが動きだした。

*****

――だめだ……こんなのどうしようもない……。

ビビアンはすっかり怖じ気づいていた。

レナとクリスの常軌を逸した戦いに放心し、クリスを消滅させる超越的存在に驚愕し、それを圧倒するヨシフミを見て絶望の淵に沈んだのだ。

ビビアンは賢者がこれほどの力を持っているとは知らなかった。

少しばかり神の力を得たところで対抗しようもないほどの絶対的な力を持っているのだ。

果たして世界剣があったとしても勝てるのかどうか。

世界剣さえあればと無邪気に思っていたビビアンだが、今ではそれも怪しい気がしていた。

敵を前にすると、勝てるような能力に目覚めると言われては、どうしようもない。

これほどの力を持つのだ。

ヨシフミがその気にさえなれば、世界を支配下におくなど造作もないことだろう。彼がこんな辺境の島国ごときで皇帝ごっこをしているのは、世界全体からすれば僥倖なのかもしれない。

ビビアンがそう思うほどに、その力は強大だったのだ。

――このまま世界剣まで渡しちゃったら……。

世界剣だと思ったものはボロボロだった。

だが、それを持ち去った者がいるということは、本物だったのかもしれない。

直すことにより、真の力を発揮するのだとしたら、それをヨシフミに渡してしまっていいものか。

駄目だろうとビビアンは思う。

ただでさえ強いヨシフミがさらなる力を得てしまう。

命惜しさでヨシフミに従ってしまったが、これは最悪の選択かもしれないのだ。

ここで王国の命運が尽きてしまったとしても、ヨシフミに世界剣を渡すべきではないのかもしれない。

――今からでもどうにかなる……。

逃げ出すなり、嘘を教えるなりすればいい。

それで自分は死ぬかもしれないが、さらなる災厄をもたらすよりはよほどましかもしれないのだ。

だが、そう簡単に死ぬ覚悟を持つこともできず、ビビアンは唯々諾々とヨシフミに従っていた。

もしかすると、何か奇跡的なことが起こり、自分は死ななくても全てがうまく解決するかもしれない。

そんな、ほとんどありえないような希望にすがってしまっていたのだ。

ビビアンは、ヨシフミたちの先頭を歩いていた。

サーチシールドの示す先に向かうべく案内しているのだ。

石造りの通路を、不自然にならない程度にゆっくりと歩いている。

さほど意味はないだろうが、それぐらいしかできることはなかった。

「あれは何でござるかね?」

突然花川は声をあげた。前方を指さしている。そこにはぽつんと灯りが点っていた。

ビビアンたちの周囲は花川の頭上に浮いている光源が照らしているのだが、その灯りはそれほど遠くまでは届かない。それが何なのかはわからなかった。

「動いてるね。誰か来るんじゃない?」

レナが言う。確かに前方の灯りはゆらゆらと動いていた。

「こんな辺鄙な場所にある遺跡だというのに、千客万来でござるなぁ」

「どうする?」

「どうするも何も、このまま進めばいいだけだろうが」

ヨシフミは謎の光源を警戒するつもりはないらしい。

そのまま前方の光に向かって進んでいくと、三人の人影が見えた。

そのまま近づいていくと、その正体がはっきりとする。

ビビアンが知っている者たちだった。

「逃げて!」

ビビアンは叫んだ。

彼らも不思議な力を持っているようだが、それでもヨシフミには敵わない。

このまま遭遇すればきっと殺される。

彼らは神の敵かもしれないが、それでもこんなところでヨシフミに殺されなくてもいい。そう思ったのだ。