軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第17話 こいつ一人でそこらへんに置いといても生きていけるんじゃないか?

変貌を遂げたクリスが突進する。

光線が効かないと悟ったレナは乱射をやめ、迎撃するべく構えを取った。

クリスが鉤爪を振りかぶり、振り下ろす。

だが、レナは鉤爪の軌道上にはいなかった。

レナは、クリスの背後に転移していた。レナは、対象とした相手の背後に移動する能力を持っているのだ。

レナの上段蹴りがクリスの後頭部を直撃し、クリスの頭部は吹き飛んだ。

クリスは、振り向きざまに鉤爪を振り回す。

レナは跳び下がり回避し、舌打ちした。クリスの頭部はもう元に戻っていたのだ。

「あれはまだ残機があるからですかね? あの調子で削っていけばいけるのでは?」

花川は希望的観測を口にした。

「いや、さっきまでとは次元が違う。今の彼女は、天盤喰らい本体のバックアップを受けている状態だ。残機という意味だと天盤、ああ、君には宇宙といったほうがわかりやすいかな。あれは宇宙四、五個ぶんぐらいの命を貯蔵しているから。単純に削っていくだけだとそれこそ天文学的な時間がかかってしまうよ」

タクミと名乗った少年が信じがたいことを言った。

「それはスケールがむちゃくちゃすぎるのではないですかね! もう想像もつかないのでござるが!」

「天盤喰らいとはそういうものなんだよ。宇宙をまるごと喰らうんだ。喰ったものを全て利用できるわけじゃないし、ゆっくりと消化してはいるけど、それでも宇宙四個ぐらいは常に腹の中に蓄えてるんだ」

「なんだってこんなことになるんでござるか!」

「相手が悪かったね。天盤喰らいの端末から能力を奪ったんだ。それは奪ったというよりも、トロイの木馬を招き入れたに過ぎないんだと思う」

花川は説明した覚えはないが、タクミはクリスがどんな能力を持っているのかを知っているようだった。

「トロイの木馬とかって翻訳でそう聞こえるんでござるかね……」

花川はぼそりとつぶやいた。この世界にも似たような故事があり、それが花川の知る言葉に変換されたのかと思ったのだ。

「僕はさっきから日本語で話をしているよ。ハナカワは日本人だろ? 僕もかつてはそうだったんだ」

「どうりで日本人っぽい顔だと。名前も日本人だからなのですか?」

「うん。名字はもう忘れたけど」

「そういえばタクミ殿はなぜここに?」

タクミは、突然やってきて花川の隣に座り込んで戦いの解説をしていた。

いきなり現れた謎の少年だ。普通なら警戒してもおかしくはないのに、なぜかそんな気にならないのだった。

「探し物があってね。このあたりだと思ってうろうろしてたんだ。思いのほか迷ったけど、ようやく見つかったよ」

「それは?」

「そこの彼が持ってるよ。いや、しかしすごい格好だね。あんなのどこで売ってるんだろう? 特注かな?」

タクミが指さしたのは、ヨシフミだった。

「はあ。しかし、ヨシフミ殿の持ち物ということでしたら、そう簡単には手に入らないかと思うのですが」

単に寄越せといったところで機嫌を損ねて殺されるだけだろう。

ヨシフミから何かを得たいなら、巧みな交渉が必要とされるはずだった。

「まあ、それは今すぐに欲しいってわけでもないし。今は、彼女たちの戦いの行方を見守ろうよ」

レナとクリスの戦いは、多少はレナが優勢だった。

クリスの背後へ転移しての攻撃を繰り返す。

後ろにしか転移しないとわかっていても、常に前からと後ろからの攻撃を意識させることができる。二択を強いられるのだ。

クリスの判断は一瞬遅れ、レナはその隙に攻撃を喰らわせる。

だが、それが通用したのも少しの間だけのことだった。

クリスの顔が増えた。

後頭部に新たな顔が浮き出てきたのだ。

「先ほどまではまだいけるかなぁ、などと思っていたのですが、ここまで化け物じみるともう無理でござるね!」

「君、あんがい許容範囲広いね」

「拙者、エイリアンじみた女怪人とかでもそこそこいける質でござる」

「今はまだ戦いが成立してるけど、それも時間の問題だろうね」

「先ほどの話が本当でしたらそうでしょうなぁ。いくらでも復活するなら、レナ殿には勝ち目がないですし」

「天盤喰らいの端末はそれほど強くもないんだけど、それでも人間じゃ勝てないかな」

クリスは変貌を続けている。

手数が足りないのであれば腕を増やし、機動力が足りないのであれば脚を増やし、攻撃を喰らうのであれば皮膚をより硬質化させていく。

やがてレナでは対応できなくなるのはわかりきっていて、事実そうなった。

クリスの腕がレナを直撃したのだ。

レナはかろうじて防御したものの、派手に吹き飛ばされヨシフミの足下まで転がっていった。

「さすがにもう駄目か?」

「あー、ごめんだけど、これはもう無理かな……」

レナも勝ち目はないと悟ったのか、ヨシフミの質問に悔しそうに答えた。

「ハナカワ……モウチョットダカラ……」

クリスが、花川を見た。

腹と胸にもある顔が、同時に見つめていた。

「ことここに至っては拙者なんてもうどうでもいいでしょうが!」

「あの子、君のことが好きなの?」

「好きは好きかもしれませんが、食べたいとおっしゃってるんでござる! さすがにそれは御免被りたいのでござるよ!」

「そっか。じゃあ助けてあげようか?」

「え? どうにかできるので?」

「うん。あれぐらいならどうにでもなるよ」

「いや、しかし、あなた何者なんでござる? 突然現れて、解説しだして、助けてくれるってさすがに怪しく思ってしまうのでござるが?」

なんとなく気を許していたが、よくわからない相手だった。

「同じ日本人のよしみってやつだよ。そんなに怪しまなくても」

「まあ、今の拙者に何ができるわけでもないですし、どうにかしてもらえるのであればお願いしたいところではありますが、後でめんどくさいことに巻き込まれたりしないでござるよね?」

これまでの経験から懐疑的になる花川だった。

「うん。ただの気まぐれだよ。戦って面白い相手でもないし」

タクミが立ち上がった。

そして、ヨシフミたちのそばをするりと通り過ぎ、クリスの前へと辿り着く。

タクミは無造作に右手を伸ばし、クリスの本来の首を掴んだ。

その一連の動作はあまりにも自然で、クリスは一切反応できていなかった。

「なんだてめぇ! どっから湧いて出やがった!」

やはり気付いていなかったのか、突然現れたタクミを見てヨシフミは驚いていた。

「僕はタクミ。君はヨシフミっていうのかな?」

「何者だよ、てめぇ。そいつをどうするつもりだ」

クリスは、複数の腕でタクミを殴りつける。鉤爪を叩き付け、顎で喰らいつく。

だが、タクミはそれを気にしていなかった。

タクミの腕は、クリスを掴んだまま微動だにしない。

クリスはさらに変貌を遂げ、さらにいくつもの腕と顎と刃でタクミを引き剥がそうとするが、その一切が通用していなかった。

「レベルが違いすぎるからね。悲しいことに、君がいくら強くなっても僕にはかなわないんだよ」

クリスに、人だったころの面影はなくなっていた。

無数の腕と、顎だけの化け物。

それは、致命的なまでの瘴気を撒き散らしはじめていた。

「君たちじゃこれに対応するのは無理でしょ? それで提案なんだけど、君が持っている女神の欠片。それを僕にくれないかな。そうしたらこの子をやっつけてあげるよ」

「あぁ!? てめぇ、なんでそんなことを知ってやがる!」

「封印が解けて、女神の欠片の所在がわかるようになったんだよ。気付いてなかった?」

「てめぇ。 侵略者(アグレッサー) か!」

「どうなんだろう。そういうことになるのかな? で、どうする?」

「渡すわけねぇだろ! あほかてめぇ!」

「んー。駄目か。君と戦っても面白くもなんともなさそうだし、交渉で手に入るならそれでいいかと思ったんだけど……まあ、ハナカワを助けるって言ったからね。これは始末しておくよ」

唐突に、少年が輝いた。

その輝きは全ての闇を駆逐し、世界を白だけで塗り潰す。

花川は目を押さえ、転げ回った。

あまりの光量に眼が潰れたかと思ったのだ。

ヒールを自身にかけて回復する。光が放たれたのは一瞬のことだったのだろう。花川が目を開ければ、先ほどと変わらぬ場所にタクミが立っていた。

掴んでいたクリスはいなくなっていた。

タクミが消滅させたのだろうと、すぐに理解できた。

「さて。次は、君だ。渡さないっていうなら、無理矢理奪うしかないけど、気は変わってないかな?」

「抜かせや、ボケがぁ! その程度でドヤってんじゃねぇよ! かかってきやがれ!」

タクミは余裕の笑みを浮かべて問いかける。

ヨシフミは小物めいた恫喝でそれに答えた。

*****

「もぎょもぎょ」

ベビーがなんだかよくわからないことを言いながら、手を伸ばしている。

夜霧たちは遺跡群の中を歩いていた。ベビーが示す方角へと向かっているのだ。

「確実にどっかを示してるよね、これ」

「若干、下を向いてるかな。地下が目的地?」

「ますます怪しい……」

何かが消失した跡を進んでいく。周囲は謎の船がそこかしこに落ちているという異様な光景になっていた。

「もう、むちゃくちゃだよね……」

「俺が悪いわけじゃないと思うんだけどな」

「うーん。攻撃してくるほうが悪いんだけどさぁ」

しばらく歩いていくと、融けた大地に穴が空いているのが見えてきた。

穴のそばまで行くと、ベビーは下を指さすようになった。やはりこの下が目的地らしい。

「深そうだな。下はよく見えない」

「これ、どうやって下りれば……」

「触丸はもうないしのう」

夜霧はあたりを見回した。

特に役に立ちそうな物は見当たらなかった。

「じゃあやめとくか」

「諦めんの早いね!?」

「さすがに、こんな底も見えないとこに飛び降りられないでしょ」

「ほぎゃあああ!」

夜霧が引き返そうとすると、ベビーが泣きはじめた。

「行きたいみたいだよ?」

「そう言われてもなぁ」

リュックにロープは入っているが、あたりにはロープを固定できそうな場所がない。

重力を殺す奥の手もあるが、そこまでして下りなければならないとも思っていなかった。

「ベビー。納得してくれよ。ここには行けないんだって」

「ほんぎゃああああああ!」

つんざくような泣き声には夜霧も閉口した。

揺らしてあやしてみるも、泣きやむ気配はまるでない。

「わかった! 行くから泣きやんでくれ!」

夜霧の言葉がわかるのか、ベビーはピタリと泣きやんだ。

「俺さ。泣けばどうにかなると思ってる奴が嫌いなんだよ」

「高遠くん……赤ん坊相手に何言ってるの……」

「けどなぁ。これどうやって下りる?」

あらためて穴を見下ろす。

そこには闇が広がっていて、中の様子は窺えなかった。

「そんなに行きたいなら、ベビーだけ下ろしてみるか?」

「ほぎゃ!?」

ベビーが信じられないという顔をしていた。

「こいつ、それなりに知能ありそうだよな」

「まあ、ただの赤ん坊じゃないよね」

「なあ。行きたいってのなら何か案を出してみてよ」

夜霧は赤ん坊に訊いた。

「高遠くん。それはいくらなんでも……」

すると、ふわりと身体が浮いた。

夜霧たち三人の足が地面から離れたのだ。

「え? 何これ?」

「超能力…… 空中浮揚(レビテーション) というやつか?」

「できるなら最初からやればいいのに」

「高遠くん、赤ん坊相手に辛辣だな!」

「俺は、子供扱いしてないだけだよ」

「赤ん坊は子供扱いしてあげて!」

三人の身体がゆっくりと穴に向かって動きはじめた。

そのまま穴を通って下りていく。

しばらくして、床に着地した。

「暗いな……灯りもどうにかならない?」

「ふんぎゃぁ!」

「できるか! って言ってる気がする」

「まあ、灯りは何かあっただろ」

夜霧はリュックを探った。

ランタンとマッチがあったのでそれを取り出し、火を灯す。

あたりがぼんやりと見えるようになった。

石畳の床と大きな柱がある。地下遺跡といった雰囲気の場所だ。

「じゃあ、これを浮かせてくれよ。それぐらいしてもいいだろ」

「ほぎゃ」

ランタンがふわりと浮き上がった。

「赤ん坊使いが荒いなぁ」

ベビーが前方へと手を伸ばす。目的地はそちららしい。

歩きだすとランタンもついてきた。

「こんなことできるなら、こいつ一人でそこらへんに置いといても生きていけるんじゃないか?」

「ほぎゃあ!」

「抗議してるよ、高遠くん」

「まあ、いいや。あっちなんだろ」

ベビーが何を求めているのかはわからないが、とりあえずはそちらへと向かう夜霧たちだった。