軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第16話 私は思ったよりもあなたに執着していたようです。愛していますから戻ってきてください

クリスが着地する。

その衝撃はそのまま花川にも伝わり、首の骨が折れそうになった。

クリスは花川を放り出した。

「ヒール! ヒールでござるよ!」

床に転がった花川は、必死で自分に回復魔法を使った。

魔力が消費されて怪我が治る。痛みが治まってから花川は立ち上がった。

「もうちょっとていねいに扱ってもらってもいいんではないですかね! 食材という認識なのかもしれませんが、だとしても傷んでしまうかと思うのでござるが!」

「んー。私はそのあたりどうでもいいです。どうせ口に入れればぐちゃぐちゃになるので、見た目はどうでもいい派です」

「視覚は味にも影響すると思うでござるよ! 美味しく食べたいと思わないのでござるか!」

なぜか自分の美味しさをアピールしてしまう花川だった。

「そうですね。善処します」

そこには闇が広がっていた。

上空の穴から光は入ってくるがたいした光量ではなく、花川にはほとんど何も見えなかった。

だがクリスは闇の中でも問題がないのか、そのまま歩いていく。

「さすがにこれではついていけないのでござるが」

何も見えないので音を頼りについていくことになるが、何の訓練も受けていない花川にそんなことができるとは思えなかった。

「しかたがないですね」

クリスが面倒くさそうに言いながら立ち止まる。

すると、花川の頭上に灯りが点った。

見上げてみると、数メートルほど上空に輝く球が浮かんでいた。

魔法によるものなのか、光の球は花川が動くとついてくる。

「こんなスキルも手に入れていました」

「もう、なんでもありでござるな……」

花川はあたりを見回した。

石材で構成されている建物だった。

大きな柱が立ち並んでいて、それで天井を支えているようだ。花川は地下迷宮の類かと考えた。

「それで。スキルの持ち主はどちらに?」

「こちらです」

クリスが歩きはじめたので、花川は隣に並んだ。

「ところで拙者への食欲が愛情に昇華して、愛おしくなってきて食べるのが惜しい。なんなら解放してあげて幸せになってほしい。みたいな感じにはなっておられないですかね?」

「いえ。ますます食欲は増していくようです。今はまだ人を食べることへの忌避感が勝りますが、あなたを見ると涎がわいてきますね」

「ドン引きでござるよ……。女性に好意を持たれるのは初めてですが……食材……」

あまりのんびりとはしていられない状況のようだった。

このまま流されるようについていくだけでいいのか不安なところだが、花川にできることはほとんどなかった。

――ですが、これまでの出来事から考えますと、想像もしないようなことが起こって環境が激変する可能性はそれなりにあるかと思うのですが。

花川は、何かが起こることを期待するぐらいしかできなかった。

そのまま奥のほうへ進んでいくと、天井が低くなり、通路も狭くなった。

分岐が多くなり、花川の予想通り迷宮の様相を呈してくる。

「それで。レアスキルの持ち主はどのあたりに」

いきなり出くわすと心臓に悪い。心の準備が必要だと思い、花川は訊いた。

「近いですよ。横方向には百メートルほど。縦方向には一つ下の階ぐらいですね」

「それは……何かあればすぐにでも戦いが始まりそうですな……」

「上ってきました。高さは同じですね。七十メートルほど先です」

「ちなみに何人で?」

「三人ですね」

「そのですね。クリス殿は敵が強いかもしれないとかは考えないんでござるかね? 相手がレアスキルの持ち主ということは、とてつもなく強い可能性もあるでござろう?」

「それはそのときですね。戦っていれば勝ち目のない敵に出会う可能性は常にあるわけですから、怯えて縮こまっていても仕方がありません。ですが、とにかく一手当ててしまえばスキルを奪えて逆転の可能性が上がります。このスキルを奪う力はジャイアントキリングにはうってつけですよ」

花川たちはレアスキル持ちを目指して進んでいく。

相手も動いているなら、そろそろ出くわすころだろう。

通路を直進していくと、先には曲がり角がある。

敵はそこを曲がってやってくるのだろう。

「では行きます」

先手必勝ということか。クリスが曲がり角へと駆けだした。

曲がり角から人影が現れる。

そして、クリスは吹っ飛んで花川の横を通り過ぎていった。

「はい?」

前方にいるのは三人。

前蹴りを繰り出したポーズになっている少女と、その後ろでふんぞり返っているチンピラ然とした男と、周囲に盾が浮かんでいる少女。

一人は知らないが、二人は四天王のレナと、賢者で皇帝のヨシフミだった。

振り向いてクリスを確認する。

倒れて動かなくなっていた。腹には大穴が空いていて、普通の人間なら即死している状態だ。

「ハナカワああああああぁ! てめぇ! よくも逃げやがったなぁぁあああああ!」

「す、すみませんでござるぅううううううううぅううう!」

花川は即座に土下座に移行した。

「よく顔を出せたなてめぇぇ!」

ヨシフミはわかりやすいぐらいに激怒していた。

「べ、弁明! 弁明を聞いていただきたいのですが! 決して! 決して拙者が自ら望んでこうなったのではないのでござるぅぅうぅぅううううう!」

「あぁぁ? 聞くかそんなもん。どんな理由があろうが俺の許可なしに俺のそばを離れたんだろうがあぁああああ!」

「ヨシフミ、うるさい。話ぐらい聞いたげなよ。逃げるつもりならこんな所をうろちょろしてないでしょ」

「ん? それもそうか」

話を聞く気になった。そう思った花川は一気にまくしたてた。

「マルナリルナでござるよ! あのくそったれな神が拙者を使徒とやらに任命して仕事を押しつけたのでござる! 高遠夜霧を始末しろなどと申しまして! 拙者はそんなことをやりたくはなかったのですが、相手は神でござる! 逆らいようがなかったのですよ! そして高遠夜霧と戦えといきなり言われまして、召喚されてしまったのでござる! 拙者は戦うつもりなどまるでなかったのですが! その後は、ほら、先ほどレナ殿が蹴り飛ばした女に家畜として飼われていたのでござる! 拙者を食べるなどと抜かしておりまして! いや、もう助かったのです! レナ殿ありがとうございます! おみ足などお嘗めしても?」

「なんでどさくさまぎれに足嘗めるとか言ってんの。キモイ」

「ほぅ? マルナリルナだ? あいつらは賢者には関わらないって話だろうが?」

「そのあたりの事情は知らんのでござるよ! 突然夢に現れてきましてですね!」

「まあ、お前に逆らう気がなかったとしてもだ。どんな事情があるにせよ、これは示しがつかんよなぁ!」

「その! できれば助けていただきたいのですが! 拙者、あの女に食べられそうになっているので!」

「あぁ? 死んでるだろうが」

「死んだぐらいで安心できる奴ではないのでござる!」

花川が指さす先で、クリスが立ち上がった。

腹の穴は塞がっている。花川はこの程度でクリスが死ぬとは思っていなかった。

「うわー。こいつも死んでも生き返る系なの?」

レナがうんざりしたように言う。

「ふーん。まあ、助けてやってもいいぜ?」

「ほんとでござるか!」

「が、掟は守ってもらわねぇとなぁ?」

「と言いますと?」

「てめぇは、帝都の地下でタービンをぐるぐる回す刑だ。そのだらしねぇ身体を保ってられねぇぐらい延々回してもらうぜぇ?」

「ぐえぇえええ。マジでござるか! それはもうちょいまからないですかね! 拙者どうにもならない流れに翻弄されておるだけなのでござるが!」

「いや、そりゃお前。罪は罪だろ?」

どうすればいいのか少し悩む。

だが花川は、食べられてしまう可能性に怯え続けるよりも、苦役に耐えるほうがまだましだと考えた。

それになんだかんだ言いながらも、ヨシフミは花川を気に入っている節がある。

そう悪いことにならないのではと思ったのだ。

「わかったでござる! どんな罰でも受けますから助けてください!」

花川は、土下座したままヨシフミたちの所まですりよった。

「今の、どうやって動いたんだ?」

「キモイ……」

そして、ヨシフミの後ろに回り込んだ。

ヨシフミの陰から前を見る。クリスが花川を見つめていた。

「ああ……離れて初めてわかるとはこのことでしょうか。私は思ったよりもあなたに執着していたようです。愛していますから戻ってきてください」

「その愛って食材に対してのものでござるよね! ごめんでござるよ! さぁ! あんな奴やっちゃってくださいでござるよ!」

「どういう関係なんだよ、お前ら……。まあいい。レナ片付けろ」

「えぇ? 生き返る奴とかどうしようもないんじゃ?」

「ビビアン。あいつが生き返った仕掛け、何だかわかるか?」

ヨシフミは盾の少女、ビビアンに訊いた。

「なんで私が!」

「役に立たねぇなら石にするだけだ。サーチシールドだかで調べろよ」

「……仕組みは単純。あいつは命のスペアを持ってる。だから対策も単純。スペアがなくなるまで殺し続ければいい」

渋々という様子で、ビビアンは答えた。

「だそうだ。頑張れ」

「えええええぇ!? あいつも石にすればいいだけでしょ!?」

「あのなぁ。俺は皇帝なのよ。わかる? こ・う・て・い。なんで俺が前線で戦うんだよ。ここは命令しなくたって、お前が必死になって俺の命を守るところだろうがよ」

「ヨシフミは自分からのこのこ前線に出ていくこともあるじゃん!」

「そりゃ俺がそうしたいと思ったからだ。今はそうじゃねぇんだよ」

「それと! クリス殿は斬った相手の能力を奪う能力を持ってるでござるよ! 一太刀でも喰らうとそこから、切り崩されるでござる!」

花川はヨシフミたちが勝ってくれないと困る。少しでも勝率を上げるために助言した。

「ちっ……」

ビビアンが舌打ちした。クリスの能力はわかっていてあえて黙っていたようだ。

「らしいぞ。頑張れ」

「はいはい。ようは喰らわなきゃいいんでしょ」

レナが右腕を前に突き出す。

光線が、クリスの上半身を消し飛ばした。

クリスは瞬時に再生する。

だが、レナはお構いなしに、光線を乱射した。

斬られるのがまずいなら近づかないと、遠距離戦を選択したらしい。

「そのスペアってどれぐらいあんの?」

「一万ぐらい?」

「多過ぎでござるね!?」

「まあ。一万ぐらいならどうにかなるか」

「なるのですか!?」

レナは圧倒的だった。

その攻撃が、光の速さだというなら躱しようもないだろう。

光が直撃すると、周囲を巻き込んで広範囲が消し飛ぶ。

クリスにはなす術もないかのように思えた。

しかし、クリスの姿が消えた。

「あ!」

花川が気付く。クリスには花川のそばに現れる能力があることを。

レナと花川の間に現れたクリスは、愛用の剣を突き出す。

死角からの、意識の外側からの攻撃。

普通なら躱しようがないそれを、レナは盾で防いでいた。

「あ! 私の盾!」

「借りたわ」

レナは、ビビアンの周囲に浮いている盾を掴んで攻撃を受け止めたのだ。

「言い忘れてましたが! クリス殿には、拙者のそばに転移するという能力が!」

「言い忘れんなよ。お前ちょっと離れとけ」

ヨシフミが土下座状態のままだった花川を蹴り飛ばす。

花川は通路の奥へゴロゴロと転がっていった。

レナもクリスを花川とは反対側に蹴り飛ばした。

距離をおいたところで、光線の乱射を続行する。

「え? これ、クリス殿がこっちに転移してきたら、拙者も巻き添えを喰らうのでは?」

「心配すんな。こいつ、蘇生もできるんだってよ」

「いやいやいや! 死ぬのは嫌なんでござるけど!? クリス殿! 拙者を愛しているとおっしゃるなら、こちらには来ないでいただきたい!」

だが、種が割れた以上、もう同じ手は通用しないだろう。

――いや、しかし、レナ殿は思ってた以上に強いですな……。

どこか舐めていた花川だったが、その実力は様々な能力を得たクリスを寄せ付けないものだった。

「何をやってるのかと思ったけど、面白いことをやってるね」

背後から声をかけられ、花川は飛び上がりそうになった。

そこには誰もいなかったはずなのだ。

「え? あなたはいったい?」

振り向くと、そこには白いコートを着た少年が立っていた。

「歩いてたら迷っちゃってね。どうしようかと思ってたらなにやら騒がしいからこっちに来たんだ」

「はあ」

「ああ。お構いなく。僕もしばらく見物させてもらうよ」

そう言ってコートの少年は花川の隣に座り込んだ。

戦っているレナとクリスも、見守っているヨシフミとビビアンも、少年の存在には気付いていないようだった。

「いや、そう言われましても……」

いきなり現れた謎の少年だ。簡単に気を許せるわけもない。

「どっちが勝つと思う?」

だが、少年は実に気安く、心の内にするりと入り込んでくるようだった。

「レナ殿ではないですかね? クリス殿は手も足も出ておりませんし。もう剣もなくなってしまいましたから、斬りつけて奪う能力も使えないでござるよ」

死んでも生き返るが、装備まで復活するわけではない。

剣も光線により消失していた。防具も消し飛んで、クリスはほとんど裸の状態になっていたのだ。

「あっちの子がクリスか。残機は千ってところだね」

「ほら? 一万とか言ってたのですよ? このまま削られておしまいでしょう?」

「いや。まだクリスって子は本気じゃないよ」

「あれだけ殺されてるのにでござるか?」

突然、レナの光線があらぬ方向へとそれた。

クリスが、手で弾いたのだ。

「天盤喰らいとの統合が急速に進んでるよ。削りきるのとどっちが先かな?」

相変わらず、クリスは光線を躱せてはいない。

手で弾いたのも偶然なのだろう。

だが、光線はクリスの身体を貫けなくなっていた。

直撃しても、消し飛ばなくなっているのだ。

「アアアアァアアアアアア!」

クリスが叫ぶ。

それはレナの攻撃を喰らってのことなのか、それとも統合による痛みでも感じているのか。

クリスの身体が変質を始めていた。

その表皮は黒く、硬質化していく。

背には翼状のものが生えてくる。

指は鋭く伸びていき、鉤爪のごとく変わっていく。

「ちょっと! 何これ!?」

レナがとまどいつつ放った光線が、クリスの顔面に直撃する。

クリスは、無傷だった。

ここに至って、レナの光線は通用しなくなったのだ。

「ああなると、人間が倒すのは無理じゃないかな」

「むっちゃ化け物でござるね……」

「ハナカワ……マッテテ……ミンナタオシテソッチニイクカラ……」

「正気をなくしてるかと思ったら、ばっちり覚えておられるのでござるが!」

「あ、君、ハナカワっていうのか。僕はタクミ。よろしくね」

花川としては、ヨシフミ陣営がどうにかしてくれることを祈るしかなかった。