作品タイトル不明
第15話 私は楽に成果が出ることが大好きなんです!
船は頑丈なのか、墜落してもダメージを受けている様子はなかった。
ただ、死んではいるので動くことはない。
そのはずだったが、船の一つが弾け飛んだ。
内圧で破裂したのだろう。
内から闇を噴出させ、それは破片を周囲へと撒き散らす。
夜霧は知千佳たちと共に少しだけ動いた。それで破片は当たらなかった。
「……何……あれ……」
知千佳の顔が青ざめる。身体が、震えていた。
それの放つ、圧倒的な瘴気にあてられているのだろう。
大きく広がった闇が、一気に収束した。
それは、とても小さな人の姿となり、夜霧たちの前へと現れる。
全ての邪悪を煮詰めたような、存在自体が冒涜的な闇の塊。
それは、憎悪の結晶だった。夜霧がこの世界で見た中で、もっとも悪意に満ちた存在だった。
「――」
「死ね」
それは何かを言おうとしたようだ。
だが、それが放つ言葉を耳にしてはならない。
それは人の正気をたやすく奪い、心を砕くだろう。なので夜霧は、さっさと殺すことにした。
闇は霧散し、大気に溶けていく。
すぐに、闇の影響もなくなっていった。
「えーと……何だったの、あれ?」
「さあ? とにかくやばそうだったから、何かする前に殺したんだけど……こんなのが他にもいると面倒だな」
船は墜落しても、中にいた者たちはそのまま生き残っているようだ。
一つの船に一人しか乗っていないとしても、膨大な数になる。
先ほどのような邪悪な者があたりに潜んでいるのかもしれないと思うと、さすがに関係ないと放置することはできなかった。
夜霧は、墜落した船の中にいる者を全て殺した。
「えーと、全部?」
「脱出した奴もいるかもしれないけど。そこまでは捕捉できないし」
中には夜霧に直接殺意を向けていない者もいるだろう。
だが、夜霧たちに砲を向けた船に乗っていたのだ。攻撃に加担していた以上、無関係ではないと夜霧は考えていた。
「で、森を出られるか試してみる?」
「うう、うぅ!」
すると、夜霧の胸にいるベビーが騒ぎはじめた。
「おなか減ったのかな?」
「だとしても、乳幼児の食料など持っておらんのではないか?」
「山羊の乳が代用できるとか聞いたことはあるな。まあ、それも持ってないけど」
牛乳を新生児に与えては駄目だと、夜霧は覚えていた。
だが、ベビーが普通の人間の新生児と同じ存在なのかはわからない。
ベビーは手を伸ばしていた。
届かぬ何かを掴もうとするように、必死に前へと伸ばしている。
「これ、何か教えてくれてる?」
夜霧は、身体の向きを変えてみた。
だが、ベビーは同じ方角へと手を伸ばそうとしていた。
「どこかを示そうとしてる気はするな。そっちに行きたいってことかな?」
「なんかさぁ。妖怪とか都市伝説とかで誘導されていったらとんでもない目に遭うとかってよくある話だよね?」
「こいつ妖怪なのか?」
「似たようなものを感じるけど。赤ちゃん系の妖怪って結構いるじゃない」
若干不安に思っているのか、知千佳が声を潜めて言う。
「でも気になるだろ」
「まあね。無視するのもなんだし」
なので、ベビーが示す方へと向かうことになった。
*****
クリスが舞うように動き、なんだかよくわからない者を倒すのを、花川はぼんやりと見つめていた。
今のところはクリスの食欲が暴走することはなく、花川は無事だ。
だが、今後はどうなるか、まるでわからない。
おそらく、クリスの精神はカルラに侵食されつつあるのだ。
なので、クリスとカルラが完全に統合される前に、花川はこの状況をどうにかする必要があった。
だが、今すぐに打開できるわけもなく、花川は時期を見計らっている。チャンスが訪れるのを待っているのだ。
「すでに十分お強いかと思うのですが、まだ強くなる必要はあるのでござるかね?」
「そうですね。必要はないかもしれませんが、私は楽に成果が出ることが大好きなんです!」
クリスは『なんでも召喚能力』を活用していた。
喚び出せそうな者を適当に喚び出して、片っ端から殺しているのだ。
それによりスキルを増やせるし、たいしたスキルを持っていない相手であっても、筋力やスタミナといったパラメータを奪うことができるらしい。
なので、相手が何者でも、とにかく斬れば何かしらは強くなれるのだ。
その結果、まさに屍山血河といった光景が森の中に現れていた。
おびただしい数の死体がそこら中に転がっているのだ。
「あ。いいものを手に入れました!」
「ほほう。なんでござるかね?」
「スキルサーチというスキルです。これでスキルを持っている人の位置がわかるようになるんです」
「ははは……ますます逃げられなくなってる気がするでござるね……」
「これと組み合わせることで、スキルを優先的に奪取できるようにもなります。さっそく、レアなスキルを持っている人がいないか使ってみましょう!」
具体的なスキルの名前まではわからないが、スキルをいくつ持っているか、それぞれのスキルのレア度などがわかるようになり、スキルのレア度を選択して奪取できるようになったらしい。
今までのように当たりが出るまで斬り続けるといった無駄はなくなるのだ。
「何なんですかもう。適当にやってるだけでも強くなるのに、効率まで上がるというのでござるか!」
スキルを使うためにクリスが集中する。
しばらくして、クリスが歩きだした。
「そこらにレアスキルの持ち主がいたんでござるか?」
花川は首をかしげた。そんなに都合良く、こんなジャングルの中にレアスキル持ちがいるとは思えなかったのだ。
「はい。こちらの方向に二百メートルほどの位置ですね」
花川はクリスの後に続いた。
その場に立ち止まっていたところで強制的に移動を促されるだけなので、自分から歩いたほうがましなのだ。
ジャングルの中を歩いていくと、洞窟があった。この中にレアスキルの持ち主が潜んでいるらしい。
「こういう洞窟とかって、外から攻撃したほうが楽ではないでござるかね?」
「そうかもしれませんが、私が手にした剣で斬りつけないとスキルやらを奪えないのです」
洞窟に入っていく。
中は暗くはっきりと見えないが、二人の人影が見えた。
クリスはいきなり突撃した。あっさりと人影に接近したのだ。
敵が強いかもしれないとは考えもしないらしい。
中にいる何者かは、まともに反応できなかった。
一人は、なんの抵抗もできずに首を落とされた。
もう一人はかろうじて反応できた。
腕を上げて剣を防ごうとしたのだ。
だが、クリスの剣はあっさりとその腕を落とし、胴を薙いだ。
「うわあああああああ!」
胴を斬られた男が叫ぶ。
跳び下がったのでどうにか生きているようだ。
花川の目が、洞窟の暗闇に慣れる。
そこにいたのは、花川の知っている人物だった。
「三田寺殿ではないですか!」
三田寺重人。一緒に異世界にやってきたクラスメイトだ。
「花川! てめぇ何のつもりだ!」
「拙者はまったく関係ないでござる! と声を大にして言いたいでござる!」
重人が腹を押さえてうずくまっていた。指の隙間からは大量の血があふれ出ている。傷は内臓にまで達しているようだ。
「 運命の女(ファムファタル) と 預言者(オラクルマスター) ですか。あまり戦闘に使えそうではないですね」
そして、首を斬られて倒れているのは、重人と同じくクラスメイトである九嶋玲だった。
――周囲の人間を手玉に取っているようでしたが、こんなにあっさりと死ぬんでござるか……。
玲のクラスは 運命の女(ファムファタル) 。その能力は異性の籠絡だ。
彼女が戦いで勝利するには二つの方法がある。
一つは、相手を籠絡し支配する。
だが、クリスは女で異性愛者だった。玲の能力はほとんど通用しないだろう。
そしてもう一つは、強力な男の戦士を隷属させて戦わせることだ。
だが、これもこの状況では成立しなかった。ここにいたのは重人であり、たいした戦闘力を持ってはいなかったのだ。
けっきょくのところ、クリスのような真っ当に強い女戦士が相手となると、玲では手も足も出なかったということなのだろう。
「そういえば、あなたたちはヨシフミ殿と一緒だったのでは!?」
もしやここにヨシフミがいるのかと、花川はきょろきょろとあたりを見回した。
だが、他に誰かがいる様子はなかった。
「もしかしてお友達でしたか?」
「知り合い……ぐらいの関係でしょうなぁ」
一応、旅を共にしていたことはある。だが、その道中ではさんざんにいたぶられた。
今でも思い出せば腹が立つし、恨みにも思っている。なので、死んだところで悲しいとは思わなかった。こんな関係を友達とは呼ばないだろう。
「くそっ! ナビー! こんなの聞いてないぞ! ここからどうにかする方法を教えろ!」
重人の声に応えて、小さな女の子が現れた。
だが、現れたのは、クリスの隣だった。
「はぁ……こんなことになるとは、まったく思っていませんでした。……突然、殺人鬼がやってきてゲームオーバーって……。これがゲームなら、クソゲーもいいところです」
「ゲームオーバーって何なんだよ!」
「すみません。 預言者(オラクルマスター) の能力は、こちらの方に移ってしまいました。今ではこの方が私のマスターです。重人さんの冒険は終わってしまいました」
「な……」
重人は呆然となった。
重人の能力は 預言者(オラクルマスター) のみだ。それを奪われてしまっては、もうどうしようもないだろう。
「マスター。彼を 運命の女(ファムファタル) で支配して利用することを提言いたします」
「いいでしょう」
クリスが能力を発動したのだろう。
重人の目から憎悪に満ちた光が消えた。
「花川さん。彼をヒールで回復していただけませんか?」
「あ、はいでござる」
従う義理はないのだが、言われるがまま花川は重人を回復魔法で治療した。
腕はくっつき、腹の傷もすぐに回復した。
「奥に何かありますね」
クリスが確認のため奥へと行く。
花川、重人、ナビーもその後についていった。
洞窟はすぐに行き止まりになっている。
そこに、一抱えほどもある大きな水の球が浮いていた。
水球には、様々な物が含まれていた。中で循環しているのか、不純物がぐるぐると回転しているのだ。
「何ですかね、これ?」
「これは世界剣オメガブレイドの繭です。中で世界剣が再構築されているのです」
ナビーが説明する。
そう言われて見てみれば、水球には剣の柄のようなものが含まれていた。
「これがそうなんでござるか……。これって、ものすごく強いんでござるよね?」
「ええ。この世界の中でなら無敵の力を発揮することができます」
「まあ世界剣とまで呼ばれておるわけですからなぁ。見たところ、その再構築とやらにはまだ時間がかかりそうでござるが」
「そうですね。まだしばらくはかかることでしょう」
「これは当然持ち運んだりはできないのでござるよね?」
「はい。再構築が始まれば動かせません。動かせばまた一からやり直しです」
「ふむ。クリス殿はこれをどうするおつもりで?」
「武器に頼るつもりはないので、あまり興味がありませんね」
クリスは、世界剣にはそれほど興味をしめしていなかった。
今持っている剣も、名のあるものではないようだ。
「ですが、人手に渡った場合やっかいではないでしょうか。そこで提案なのですが、重人さんにこのまま世界剣の完成までをお任せしてはどうでしょう」
ナビーはこうなることを予想して、重人を支配させ回復させたようだ。
「ではお任せいたします。私は別のレアスキルを探しにいきますね」
スキルを奪ってしまえばもうここには用がないのだろう。
クリスとナビーは洞窟の出口へと歩いていく。
花川もその後に続いた。
このままここでじっとしていてもいいような気もするが、ついてこいと言われている。花川は逆らうのが怖かったのだ。
ナビーはいつの間にか姿を消していた。しばらくはアドバイスするようなことはないのかもしれない。
「で、この後はどうするので?」
「そうですね。別のレアスキルの持ち主がそう遠くない場所にいるようですので、そちらに向かおうかと」
「もう十分強いかと思うのですけどね……」
熱帯雨林の中を歩き続け、開けた場所に出た。
石造りの建物が立ち並んだ遺跡のような場所だ。
そこには一直線に何かが通り過ぎたかのような跡があった。何もない、融けた地帯がまっすぐに伸びているのだ。
「こうなったのは、ここ最近のことですかね?」
「さあ、どうでしょう」
明らかにおかしな光景だが、たいして気にならないらしい。クリスは何もない地帯へと足を踏み入れた。
そのまま流れに沿って歩いていく。
まっすぐに行くと融けた地面に穴が開いていた。
「この下ですね」
「ははあ。暗くてよくわかりませんな」
地下空間への入り口のようだった。
中に灯りはないようで、どのような場所なのかはっきりしない。
「大丈夫ですよ。暗視のスキルも持っていますので」
「いや、拙者は全然大丈夫ではないのでござるが? と言いますか、ここに入るので?」
「はい」
花川が怖じ気づいていると、クリスが花川の首を掴み持ち上げた。
見た目からは想像できないほどの膂力と握力だ。
「って! このまま落ちるつもりでござ――ぎゃあああああ!」
クリスは花川を持ったまま、暗闇へと身を躍らせた。