軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第14話 宇宙人って本当にいるの!?

今すぐにエルフの森を脱出できる妙案はない。

焦っても仕方がないということで、夜霧は眠っていた。

ここまでそれなりに力を使っているので、疲れているのだろう。

知千佳は、この暇な時間に着替えていた。

熱帯雨林のごとき森の中を歩くうちにかなり汚れていたのだ。

「花川くんがいたらどうにかできたかもね。なんでも召喚できる能力らしいから、ここから脱出できる人を喚び出すとかさ」

「そう言ったところで本当になんでも召喚できるわけでもあるまいが……ダメ元でやってみる価値はあるのか?」

「ま、花川くんがどこにいるかわかんないんだけど」

「この森の中で多少なりとも目立つ所はここだろう。あやつも迷っておるならこちらに来るやもしれんぞ?」

「自分から言いだしといてなんだけど、花川くんがあてになる気はまるでしないよね」

「まあ今いないものはどうしようもない。それで、迷いの森を抜ける方法だが、森そのものを殺すよりはもう少し確実な手段があるやもしれぬぞ?」

「それは?」

「迷いの森になっているのは、六角形に配置された巨樹の外側部分だ。ということは、この六本の巨樹が術の基点になっておる可能性は高い。なので、まずはこれらを殺してみるという方法だ」

「確かに、それならいけるかな。森とかじゃあやふやだけど、あのでかい樹ならはっきりしてるし」

夜霧の能力は特定の対象を殺すためのものであり、森の一部分といったはっきりしない対象を殺すのは苦手とのことだった。

だが、巨樹が対象であれば迷うことはないだろう。

「それとは別に、もう少しこの遺跡を探ってみるという方法もある。どうやらエルフの森はこの遺跡を守るためにあったようだ。エルフたちの防衛行動もそれを示唆しておる。ということはここが最重要拠点というわけだ。もしかすると森全体を制御するような何かがあるかもしれぬ」

「でもどうなんだろ。ずっと守ってた森を、私たちが出たいってだけで、荒らしちゃっていいのかな」

「仕方あるまい。それに文句を言うエルフどもは死んでおるしな」

生き残っているエルフがいる可能性はあるが、探し出すのは難しいだろうと知千佳たちは考えていた。

「なので、まずはこの遺跡を探る。ここに手がかりがないようであれば、エルフには悪いが巨樹を殺してみるしかないだろうな。結構な時間、ここで足止めをくらっておる。それほど急ぐ旅でもないが、あまりのんびりもしておられんだろう」

「ジャングルはもうコリゴリって感じだよね」

エルフの森は快適とは言いがたい環境だ。

知千佳もあまり長居したいとは思っていなかった。

「で、この子どうしよう」

知千佳は布にくるまれている赤ん坊を見た。

さらに成長が進んだのか、頭部にはうっすらと毛まで生えている。

「ほっとくとどんどん成長しちゃうのかな?」

「見たところ、成長は緩やかになってはおるようだが」

赤ん坊は愛くるしい寝顔を見せている。

もう人間としか思えず、ここに置き去りにしていくわけにもいかないと知千佳は思っていた。

見ていると赤ん坊が身じろぎをし、初めて目を開いた。

「え? 起きた?」

「ほぎゃああああああああ!」

そして、耳をつんざくような声で泣きはじめたのだ。

「え? え? え? どうしたらいいの!」

「……なんだ?」

さすがに夜霧も起きてきた。

「泣きはじめたんだけど! どうしたらいいのかな!」

「そう言われてもな……とりあえず抱っこしてみるか」

知千佳にはまだこの謎の赤ん坊に触れることに抵抗があった。

夜霧は特に気にしていないのか、すんなりと赤ん坊を抱きかかえた。

そして、雑に赤ん坊を揺らす。

「え? そんなんでいいの!?」

「さあ?」

首もすわっていないような赤ん坊など怖くて触れないと知千佳は思ってしまうのだが、夜霧は気にならないらしい。

揺らしていると赤ん坊はおとなしくなった。

泣いていた理由はわからないが、落ち着いたらしい。

「これ、どうしよう?」

「なんか、これとかあれとか言ってるのも抵抗あるよね」

「名前を付けろってこと?」

「いや、それはどうなんだろ。けど、何か呼び名がないと落ち着かないというか」

「うーん。じゃあベビーで」

「雑だな!」

「思い入れたっぷりの名前を付ける場面でもないんじゃ」

確かに今後どうなるかはわからない。あまり情を移すべきではないのだろう。

「そういえば、壇ノ浦さん着替えたの?」

「うん。森は抜けたからさっぱりしたくて。高遠くんは大丈夫なの?」

「そうだな。寝る前に着替えとけばよかったよ」

夜霧が荷物を漁り、着替えを取り出した。

「おんなじような服だね」

「とりあえず着られればいいし」

夜霧は、奥の部屋に行って着替えて戻ってきた。

「小僧。今後のことを話していたのだが」

もこもこが、夜霧が寝ている間の話を聞かせた。

夜霧も特に異論がないようで、まずはこの遺跡をもう少し探ってみようということになった。

「で、ベビーはどうする?」

「連れてくしかないな。でもずっと抱っこしてるのも」

「では抱っこひものようなものを作るか」

「もこもこさん作れるの?」

「そう難しい物でもなかろう」

大きめの布の端同士をくくって輪状にし、夜霧が肩から斜めがけにする。

袋状になっている部分を適当にくくって調整し、胸側に持ってくる。

簡易的なスリングといったものだ。

「けっきょく、抱っこするのは俺なんだな」

ベビーをスリングに入れる。もこもこが適当に作ったわりには収まりはよかった。

「だって、こんなちっちゃい子、どうしていいのかわかんないし」

「おっぱい欲しがったらどうするんだよ?」

「出ねぇわ! 欲しがられてもどうしようもない!」

知千佳の必死な声が面白かったのか、ベビーが笑っている。

夜霧が赤ん坊を抱っこするので、リュックは知千佳が持つことになった。

建物の外に出ようとして、知千佳はすぐに違和感を覚えた。

出口から見える外が暗かったのだ。

夜になったというわけではないのに、あまりにも陰っている。

知千佳は慌てて外に出た。

空には、巨大な何かがひしめき合っていた。

*****

たかが人間を一人殺すだけのことであれば、船団を率いる必要などまったくない。

どれほど強かろうが、幹部の数人を送り込めばそれでことたりるだろう。

なのでほぼ全ての戦力を天盤内に転送したのは、高遠夜霧という少年を殺すためではなかった。

一京クレジットの報酬は魅力的ではあるので暗殺依頼をないがしろにするつもりはないが、それ以上に天盤内になんの障害もなく入れるということがより魅力的だったのだ。

"海"賊団の戦力があれば、天盤を砕き蹂躙することも可能だ。

だが、それで手に入るのは、大雑把な鉱物資源、エネルギーなどといったものになる。

その文明で作られた価値のある芸術や文化資産は、"海"からの攻撃では決して手に入らない物だった。

つまりこの船団は、この世界で価値ある物を根こそぎ持っていくための物だった。

それらは運搬船であり倉庫でもあるのだ。

"海"賊団は、まず高遠夜霧の位置を検索した。

外の世界の科学力があれば、天盤内のどこかにいる人間を一人見つけ出す程度は造作もないことだった。

この依頼は早い者勝ちだという。

であれば、さっさと始末してしまうに限るだろう。

もちろん、ただの人間の少年の暗殺依頼で一京クレジットの報酬は異常過ぎる。

この報酬に見合うだけの困難があると考えるべきだろう。

だが、それでも"海"賊団の自信は揺るぎなかった。

数多の天盤を敵に回し、滅ぼしてきたのだ。今となっては神ですらが、戦いを避けて逃げ惑う。

彼らは、即死能力ごときをまるで恐れてはいなかった。

*****

「えーっと……何これ?」

巨大な流線型の物体が空に浮かんでいた。

それらが空を埋め尽くし、陽光を遮っていたのだ。

数は、よくわからないほどに無数にあるとしか言えなかった。

それらは見渡す限りの空を埋め尽くしていて、見ただけでは計数など不可能だったからだ。

「宇宙船?」

夜霧の記憶から似たものを探せばそうなる。ただしそれは、漫画やアニメに出てくるような非現実的な宇宙船だ。

「って言われても、本物を見たことないし……」

「生き物のようにも見えるな……」

それの全体は金属質な装甲で覆われている。

だが、その装甲の隙間から生物組織らしき物が見えていた。

それは呼吸でもしているかのように、規則的に膨張と収縮を繰り返している。

生物なのかはわからないが、柔軟な構造になっているようだ。

「なんだろ。魚みたいな生き物の表面に金属板をべたべた貼り付けたような?」

夜霧にはそのように思えた。

「てか、さっきも、ロボットが大量にやってきてたよね。なんなの? こーゆーの流行ってるの?」

「どこに行くわけでもなく、留まってるな。何が目的なんだ?」

「宇宙船だとしたら、乗ってるのは宇宙人?」

「自称宇宙人になら狙われたことあるけど、それは元の世界での話だしな」

「あ、宇宙人とかいるんだ。今さら驚かな……驚くよね! 何? 宇宙人って本当にいるの!?」

「妖怪やら超能力者やらがおるのだ。不思議ではなかろうが」

「宇宙人よりも、異世界があって異世界人がいるほうが驚いたけどな。俺は」

「私らが目的なのかな?」

「どうだろ。ものすごい広範囲に展開してるから、俺たち目当てってことも――」

見上げながら考えていると、謎の浮遊物体から何かが落ちてきた。

「え? なんか人っぽいんだけど?」

知千佳がその視力で落下物を見極める。

そして、その何者かは地面に激突して、ぐしゃりと潰れた。

「自殺!?」

あまりに意味不明な行動に知千佳がとまどっていた。

「いや、俺が殺した……というか、勝手に死んだんだけど」

それはあまりにも危険な存在だった。

ただ生きているだけで周囲の存在が死に絶える。そんな剣呑な雰囲気を纏っていたのだ。

なので、その力の有効範囲内に夜霧たちが入る寸前で、夜霧の能力が自動的に発動した。

夜霧にしても、訳のわからないうちに勝手に死んだ、という認識になる。

「何だったんだ、これ?」

「さぁ……ぐちゃっとなってて何がなんだか」

何者かは落下の衝撃により原形を止めていなかった。

「ここに下りてこようとしたってことは、俺たちが目的なのか?」

「あ! 他にも何か来るけど!」

次は三体。

しかしそれらは、先ほど死んだ何かよりは離れた場所、夜霧たちから五十メートルほどの位置に降下した。

殺気があたりに充満した。

それらは、確実に夜霧たちを殺す術を持っていて、いつでもそれを発動できるのだろう。

それは異形だった。

ありえないほどに肥大化した筋肉を持つ裸の男。

赤い糸でできた人の形をした何か。

車輪で動き、数え切れないほどの腕を持つ機械人形。

そんな者たちが、夜霧たちのほうへとやってくる。

「お前が――」

「死ね」

三体の異形はその場で動かなくなった。

「今何か言おうとしてたよね!」

「って言われてもな。こいつら全体的にヤバイ感じで、話をしてる余裕がないよ」

近づいてくれば、致死性の何かの気配を感じるのだ。

使われる前に殺すしかないだろう。

「宇宙人なのかな、これ」

「俺たちが目的みたいだけど、こんな奴らに恨まれる覚えがない」

「いやー。どうだろ。高遠くんがこれまでに殺した奴らの関係者なのかも……」

そう言われると答えに困る。

夜霧は数限りなく殺してきているので、こんな奴らとはまったく関係がないとも言い切れないのだ。

「まあ、だからって殺されてやるつもりはないけどな」

浮遊物体が一斉に向きを変えた。

それが船だとすれば、船首を夜霧へと向けたのだ。

そして、大きく口を開いた。そこには上下共に歯がびっしりと生えている。

空気が震えはじめた。

それが叫んでいるのだ。その口腔の奥深くで、灯りが点る。それは次第に明るくなり、強烈な光を放つようになった。

「死ね」

「だよね」

知千佳もその結果はわかりきっているようだった。

*****

それは訝しんでいた。

送り込んだ部下たちが何もできずに殺されたからだ。

ありえないことだった。

即死能力への対策など、"海"での戦いでは当たり前だからだ。

即死。反射。時間停止。時間逆転。空間切断。完全消滅。概念攻撃。因果抹消。

その程度のことは誰にでもできることであり、幹部連中であれば当然のように無効化できる。

そのはずなのに、百戦錬磨の猛者どもがなす術もなくあっさりと死んだ。

万が一を考えて分析はしていた。

だが。何が起こったのか、誰にもわからなかった。

何らかのダメージを受けた様子もないのに、ただ、死ぬ。機能が停止する。

因果関係がまるでわからない。どのような力も到達した様子がないのに死んだのだ。

ずいぶんと理不尽な現象だが、それは考えるのをやめた。

わからないということに拘泥していても先には進めない。

それは、船の砲を使うことにした。

エネルギーを収束させ、眼下の島だけに威力を集中させる。

一億を超える砲のどれか一つでも直撃すれば、島を消し飛ばすのは可能だろう。

あまり天盤内を荒らしたくはないが、島一つ程度なら許容範囲だった。他の地域からでも十分に掠奪は可能だからだ。

それは、全ての船に砲の発射を命じた。

*****

空を埋め尽くす浮遊物体が放っていた光が途絶えた。

そして、落ちてくる。

それらが何らかの力を用いて浮いていたのだとすれば、死ねば落ちるのは当然のことだった。

「え? これ大丈夫なの! 巻き込まれない!?」

「大丈夫じゃないか?」

幸い、夜霧たちに直撃するような浮遊物体は存在していなかった。

空を埋め尽くしているように見えても、十分に隙間はあるのだ。

巨大な物体が一斉に落ち、轟音と共に大地が揺れた。

それはあらゆる所に落ち、その下にあった物を押し潰したのだ。

遺跡が、熱帯雨林が、六本の巨樹が巨大物体に押し潰され、壊滅的な被害を被った。

「これ、迷いの森を作ってるかもしれない巨大な樹をわざわざ殺す必要がなくなったんじゃないかな?」

「迷いの森どころじゃなくて、この島全体がやばくない、これ……」

「うむ。敵の規模が巨大になればなるほど、倒した時の被害も大きくなっておるな……」

そう言われても、狙われたのなら、殺される前に殺すしかない。

その結果、大規模な環境破壊が生じようとも、夜霧の知ったことではなかった。

夜霧は座して死ぬつもりはない。知千佳と共に元の世界に帰るためなら、どれほどの犠牲が出ようと躊躇うつもりはなかった。

「これ、全滅したの?」

「どうだろう。宇宙船っぽい奴を殺しただけだから、中の人が生きてる可能性はあるね」

船を殺せば、攻撃は止まる。

今回はそれ以上のことをする必要はなかった。