作品タイトル不明
第2話 ふざけんなでござるよ! なんで拙者のもとには美少女がやってこないんでござるか!
夜霧たちは、エルフの森と呼ばれている熱帯雨林のごとき森の中を歩いていた。
もこもこの操る 槐(えんじゅ) が先頭で道を切り開き、その後ろを壇ノ浦知千佳、高遠夜霧、花川大門が並んで歩いている。
大樹で形作られた六角形の中心部にある建造物群へと向かっているのだ。
マルナリルナがやってきたのがそこまで残り一キロほどの地点だったので、それほど遠くはないはずだった。
「いやあ高遠殿ならマルナリルナであろうときっとなんとかしてくれる! そう思っていた拙者の慧眼に間違いはなかったでござるね!」
「俺たちが負けても現状維持だったんじゃないか? そのままマルナリルナに媚を売るつもりだったろ?」
「そ、そそそ、そんなことはないのでござるが?」
なぜかピエロのような格好をしている花川は、あからさまな態度で目をそらした。
「そういや、なんで花川はそんな格好なの? 趣味なの?」
「今さらでござるか! 賢者ヨシフミに無理やり着させられたのでござるよ! いくらファッションセンスが不自由な拙者でも、さすがにこれは好きで選ばないでござる!」
「ヨシフミ? 花川は賢者のところにいたのか?」
花川は突然、夜霧たちの前に現れた。
夜霧は花川がどこからやってきたのかに興味を持っていなかったが、ヨシフミのもとにいたのなら訊かずにはいられなかった。
こうやって森の中を彷徨っているのは、ヨシフミのもとに向かうためだからだ。
「そうでござる。捕らえられて散々な目にあっていたのでござるよ」
花川は、王都で別れた後のことをぺらぺらと語りはじめた。
丸藤彰伸、三田寺重人、九嶋玲に出会ってエントまで連れてこられて、ヨシフミの手下にされて、エルフの森に連れてこられてしまうという、状況に流されっぱなしの長い話だった。
「え? 九嶋さんたちは王都で見かけなかったけど、別行動してたの?」
どこかで死んだとばかり思っていたのだろう。知千佳が驚きの声をあげた。
「バスを出て最初の街までは一緒だったでござるが、そのあたりで行方をくらましたようでござるね」
「ということは、クラスメイトで生き残ってるのって、私、高遠くん、花川くん、キャロル、二宮さん、丸藤くん、三田寺くん、九嶋さんで八人ってこと?」
「丸藤殿はおそらく死んでるので、七人でござるかね?」
「うーん、みんなで協力できたらいいんだけど……」
「花川は帰りたいとは思ってないんだろ?」
「いやぁ、帰れるものなら、帰りたいと最近では思うのでござるが……その、あまりにも思っていた状況とは違うものでして……」
「そうか。頑張ってくれ」
「ちょっ! ここはクラスメイトの生き残り全員で帰還するぜ! って決意を新たにする場面かと思うのでござるが!」
「余裕があったら考えるけど、最優先課題は俺ら二人の帰還だ。他の奴らの面倒までは見切れないよ」
賢者の石を用いて帰還できるとのことだったが、必要数はよくわかっていない。
賢者の石の入手には様々な困難が待ち受けているだろうし、求めれば求めるだけ巻き込まれて人が死んでいくだろう。
夜霧は必要であれば力を使うことに躊躇いはないが、あまり親しくもないクラスメイトのために無理をするつもりにはなれなかった。
「さすが、高遠殿……。クラスメイトであろうとあっさり見捨てると言ってのける。そこに痺れない、憧れないでござるよ! もう少し人情というものが欲しいのでござるが!」
「まあ……正直なところ、人のことまで考えてる余裕はないよね……」
割り切っているのか、知千佳もそんなことを言いだした。
「知千佳たんには、もうちょっとこう! お花畑な思考とあっさーい正義感でトラブルを巻き起こすようなヒロインムーブを期待したいのですが!」
「そんなこと言われても、まずは自分の命が最優先なんじゃ」
「壇ノ浦流は仲間を助けるといった思考はせんからな。仲間のことなど考えずにそれぞれが最善を尽くせば結果的に全員が助かる。と、こう考えるわけだ」
障害物を斬り裂きながら、槐が言った。
「あの。そういえば、先を行くちょいロリテイストの美少女な方はいったい?」
「説明がめんどくさいな……皇槐っていうロボットだよ。なんかいきなりやってきた」
知千佳の守護霊のもこもこが操っている、などと説明して納得させるのも面倒だった夜霧は、適当にごまかした。
「なんなんでござるか! どいつもこいつも!」
花川が突然キレたが、夜霧には何のことだかさっぱりわからなかった。
「やれ、能力で生み出した預言書が唐突に美少女になっただとか! どっからか美少女ロボが湧いて出たとか! ふざけんなでござるよ! なんで拙者のもとには美少女がやってこないんでござるか! ちょろっと能力を見せただけで『さすがです、ご主人様!』って胸を押しつけてくるような美少女奴隷がやってきたりしても、バチはあたらんのでござるよ!」
「そんなこと言われてもな……あ。花川は召喚能力を手に入れたんだろ。それで美少女を喚んだりできないの?」
「そんな都合良くいくわけが……いくわけ……あれ? もしかしていくのでござるか? なんでも召喚なわけでござるし? いや、でもこれは召喚を拒否されると発動できないわけでして。自分で言うのもなんですが、拙者なんぞの召喚に応えてくれる美少女などいるわけが……」
「なんでも召喚なんだろ? だったら花川みたいなのが好みのタイプな美少女って条件で召喚すればいいだけなんじゃ」
「ははぁ! そう言われればそうですな! ではさっそく……」
花川が能力を使うべく集中を始める。
だが、そんな余興に付き合う義理は夜霧にはなかった。
「え? いや、なんでさくさく先に進んでしまわれるので? 拙者の召喚に興味はないでござるか?」
「無茶苦茶急いでるってわけでもないけど、花川の嫁探しに付き合ってるほど暇でもない」
「わ、わかったでござる! とりあえず安全そうな所まではお預けにするでござる!」
花川は慌ててついてきた。
「で、ヨシフミはここに来てるんだよね?」
話が脱線しすぎていたが、花川から聞きたかったのはその話だった。
「ここ……とおっしゃいますと、やはりここはエルフの森でござるか?」
「うん。俺らはそう思ってるけど」
「まあそうなのでしょうなぁ。こんな森がいくつもあるとは思えませんし」
ただの森ならいくらでもあるだろうが、ここは熱帯雨林のごとき魔境だ。どこにでもあるとは夜霧も思っていなかった。
「ヨシフミがどのあたりにいるかはわかる?」
「帝都側から森に入ってまもなく拙者は転移させられましたから、正確な位置はわかりませんな」
「剣を探してるんだろ。どこに向かってるかは?」
「わからないでござる。三田寺殿は何やら知っておるようでしたが」
森の広さは定かではないが、同じ場所にいるのなら出会う可能性はそれなりにはあるだろう。夜霧は心に留めておくことにした。
「しかしエルフの森でござるか。もしかすると美少女エルフちゃんとお近づきになれるかもしれんでござるよね! 美少女召喚をするまでもなく!」
「花川くん……ここのエルフは思ってるようなのじゃないから。ファンタジーに喧嘩売ってる虫だか猿だかみたいな奴だから」
「はて? 拙者が会ったことのあるエルフは、だいたいイメージ通りの美形でしたが?」
「え?」
知千佳が驚愕に固まった。
「うそ! どこにいたわけ!?」
「拙者が出会ったのは、魔獣の森ですな。そこには見目麗しいエルフの美少女がおりましたが」
「じゃあ、ここにいる奴らはなんなわけ!?」
「あれがエルフだと思ったのは、あいつらの片言の言葉の中にエルフって単語が出てきたからだね」
四本の腕を持つ、蟲のような猿のような生き物。
あれがエルフである確証はなかった。
「だったらまだ期待してもいいのかな!」
「この環境に住んでるのはやっぱりあいつらで、ここには美形のエルフはいない可能性が高いような……」
そう夜霧は思ったのだが、知千佳はもう話を聞いていないようだった。
「しかし、高遠殿はヨシフミ殿に会いたいとのことでしたが、それでなぜこんなところに?」
「東の帝都に行くには森を抜ければいいと思ったんだけど、入ってみたら空間が歪んでて迷いの森みたいになってたんだよ。どうやって出たらいいのかわかんないから、とりあえず中心っぽい所に向かってるんだけど」
「おそろしくいきあたりばったりで――」
言葉が途切れ、花川が立ち止まる。
その胸には矢が突き立っていた。
「なんなのでござるか、これはぁ!」
花川は矢を強引に抜き取った。
「矢が刺さった割には余裕な感じだな」
「拙者レベル99でして、この程度ならまあ。って! 高遠殿は殺意を感じ取れるみたいなのがあるはずでは!」
「ごめん。花川を守ろうっていう発想が皆無だった」
夜霧は、花川に向けられる殺意まで気にしていなかった。
「矢……ということはエルフ!」
「知千佳たんも拙者を心配する気、皆無ですな!」
「どっから飛んできたんだ?」
これほど木々が密集している森では弓矢は使えない。
夜霧はそう考えていたが、そうとも限らないらしい。
「ぬほっ! つ、次々に矢が!」
花川の身体に矢が突き立っていく。
夜霧たちは、花川の陰に隠れて身を守っていた。
いつの間にか槐までやってきて、花川を盾にしている。
「おかしいでござろうが! なんで拙者を盾にしてるんでござるか!」
「横に大きいから遮蔽物としてはちょうどいいかなって」
「頑張って! レベル99!」
「うむ。まず花川が狙われたのは、的として狙いやすかったからではなかろうか」
「と、とにかく射ってくる何者かをお得意の即死でやっつけてもらえないですかね!」
「高遠くん! 力は使わないで!」
「なんですとぉ!」
「今度こそ、ちゃんとしたエルフかもしれないじゃない!」
「なぜ、エルフを見たいなどという好奇心が、拙者の身の安全より優先されてるのでござる!?」
「弓が相手となれば、壇ノ浦弓術としては逃げるわけにもいかんな! どれ、触丸は渡すから存分にやってみるがよい!」
槐が黒い塊を知千佳に投げた。
知千佳がそれを受け取ると、一瞬にして黒く長大な弓が出現した。
「え? 私がどうにかするわけ!?」
「非殺傷モードにしておいたから、殺すつもりで射ってみるがよい!」
「まあ、死なないんならいいんだけど」
とまどいつつも、知千佳はやる気になったようだった。