軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第3話 褐色系巨乳ダークエルフとかそーゆーのをアンチテーゼとして用意してもらいたいところ

知千佳が持つのは、黒く、身長ほどもある長い弓だ。

形からすると和弓のようだが、一目でわかる違いもある。弓の上下に槍のような穂先があり鋭く尖っているのだ。

単純に考えれば、その部位で敵を刺すのだろう。殺意を露わにしたかのような凶悪な武器だ。

その弓を持つ知千佳の手は黒く染まっている。

それも槐が放り投げた黒い塊が変化したのだ。弓懸の役割なのだろう。それは知千佳の両前腕部を覆っていた。

他には、腰のあたりに矢筒があり斜めがけになっていて、そこに矢が一本入っている。

それらで一揃いなのだろう。

「その。弓矢の非殺傷モードというのがよくわからんのでござるが」

槐がそんなことを言っていたので、花川は訊いてみた。

「うむ。矢も触丸で作ればそのあたりはどうとでもなる。鏃が敵に触れた瞬間に展開して、拘束するのだ!」

槐が自慢げに言った。

「おぉ! それはすごいのでござるが、それを弓矢でやる意味はよくわからんでござるな!」

「弓は壇ノ浦流の基本兵装だからだ! 触丸をうまく利用すればもっと効率的な殺傷兵器を作れるだろうが、いきなりそんなものを作っても使いこなせはせんだろうし」

「なるほどでござる!」

触丸とはなんなのか花川は理解していなかったが、話の腰を折る気もなかったのでその点はなんとなくわかったふりをしていた。

「それはそうとさっさとどうにかしていただかないと、拙者がおかしくなってしまいそうなのでござるが!」

エルフの森の中。

木々を抜けてやってくる矢は相変わらず花川の身体に突き刺さっていて、夜霧たちは花川の後ろに隠れていた。

花川は道化の格好をした肥満体にしか見えないが、これでも人類の限界レベルである99に到達している。

普通の矢が刺さったぐらいでは死にはしないし、回復魔法で回復することもできるのだ。

実際、花川の身体に刺さった矢はぽろぽろと抜け落ちていた。

なので、魔力が続く限り死ぬことはない。

だが、それは矢が突き刺さった瞬間の痛みまで消すものではないのだ。

とにかく痛い。

死にそうになるのは慣れているとはいえ、間断なく矢が突き刺さり続けるのはたまったものではなかった。

「じゃあいきます!」

知千佳は音もなく、するりと花川の前に現れた。

「その! 知千佳たん大丈夫なんでござるか! 拙者が言うのもなんでござるが、矢が刺さったら死ぬでござるよね!?」

「大丈夫。だいたいわかったから」

知千佳が左足を軸にして回転し、半身になった。

そして、次の瞬間にはもう知千佳は残心の体勢になっていた。

つまり、もう矢を放っていたのだ。

「ぎゃっ!」

遠くから悲鳴が聞こえてきた。

次々に放たれていた矢が途切れたので、当たったようだった。

「え? その。よくわからなかったのでござるが、弓ってもうちょっと時間のかかるものなのでは? 引いたり狙いをつけたり?」

「八つに分けとるやつか。壇ノ浦流にはそんなものないが? とにかくさっさと射つことしか考えとらんし」

「けど、敵がどこから射ってきてるとかわかるもんなの?」

夜霧が不思議そうに訊いた。

確かに、森の中にいる相手の姿は見えていない。これで当たるのは花川もよくわからなかった。

「知千佳がやったのは、飛んでくる矢をキャッチし、それをそのまま相手に返す技よ。つかんだ瞬間に矢のベクトルを瞬時に把握し、狙撃地点を割り出してその矢を射ち返すのだ!」

「ははぁ。なんとか神拳のなんとか真空把みたいなやつでござるな!」

「うむ! 壇ノ浦カウンターと言う!」

「もうちょっとネーミングどうにかならんでござるか!」

「これ、そんな名前だったんだ……」

知らなかったのか、知千佳が嫌そうに言う。

「しかし、知千佳たん。のほほんとしてるようで、むちゃくちゃでござるな!」

「まあ、時と場所を選べば古武術チートで異世界無双という展開もあったかと思うのだがなぁ」

槐が夜霧を見てしみじみと言う。夜霧の即死能力でだいたい片がついてしまうので、壇ノ浦流を披露する機会がないということだろう。

「でもさ。相手の矢をそのまま返すんだったら、非殺傷モードとかいうの意味ないんじゃ?」

「あ」

夜霧が指摘すると、槐と知千佳が間抜けな声をあげた。

*****

熱帯雨林のごときエルフの森を切り開きながら進んでいくと、目的地にはすぐに辿り着いた。

大きな木を背にして、緑色のフード付きローブを着た女が座り込んでいる。

弓が落ちているし、肩には矢が刺さっているので、矢による攻撃をしかけてきていたのは彼女なのだろう。

大きな血管が傷ついたのか地面には血だまりができている。生きてはいるようだが、動く気力もないといった様子だ。

四人でぞろぞろとやってきたというのに、ろくな反応を見せなかった。

「いやいやいや、これどうすんの!? 非殺傷モードってなんだったわけ!」

「そんなもん、触丸で作った矢を使うに決まっておろうが! 何、勝手にカウンターしておるのだ!」

言い争う槐と知千佳は放っておいて、夜霧は念のためにあたりの気配を探った。

夜霧たちに殺意を向けている者はいなかった。

もしかすると身を潜めている者がいるのかもしれないが、そこまではわからない。

なんにしろ、余計な邪魔は入らないだろう。

「花川の出番じゃないの?」

花川はヒーラーらしい。実力を見たことはないが、どんな大怪我でも一瞬で治せると言っていたことを、夜霧は覚えていた。

襲ってきた相手なので倒してしまってもかまわない。

だが、このままでは事情がよくわからないままだ。話を聞けるならそうしたほうがいいかと夜霧は考えた。

「おっとそうでござった! 今さら知千佳たんの好感度が上がるとは思えないので、初対面な相手の好感度を稼いでおくのでござるよ! 死にそうなところを華麗に回復させれば好感度爆上がりでござるよね!?」

「こっちの攻撃で死にそうになってるのを治して好感度って上がるのか?」

「治しても、くっ、殺せ! とか言われるかもしれませんが、それはそれで美味しいですな!」

花川が倒れている女に近づき、フードを上げた。

金髪で長い髪がフードからこぼれた。

「なんで先に顔を確認するんだよ。早く治してあげたら?」

「いや、治す気になれないご面相の可能性もありますし、治して懐かれてしまってそんな輩につきまとわれることになっては面倒ではないですか……ほほうなかなかの美少女で……と、この方こそまさにエルフなのでは?」

血の気は失せているが、整った顔立ちをしていて確かに美しい。

そして、耳は長く尖っていた。

「いたか! とうとうエルフがいたのか! いや、まだ油断しないからね! 顔だけエルフっぽい謎の生き物な可能性もあるしな!」

知千佳は半信半疑のようだった。

「エルフかどうかはともかく治したら? このままじゃ死にそうだけど」

「ですな!」

花川がエルフの肩に手を置く。すると、エルフの全身がぼんやりとした輝きに包まれた。

矢が肩から抜け落ち、エルフの顔色もよくなっていく。

輝きが失せると、花川は夜霧たちのところへ戻ってきた。

「治ったの?」

この程度で大怪我が治るのならたいしたものだと夜霧は思った。

「死んでいる場合は、反応しませんので。生きておりましたし、治ったでござるよ」

様子を見ていると、エルフらしき少女はゆっくりと目を開けた。

最初はぼんやりとしていたが、すぐに夜霧たちに気付いて睨み付けてきた。

「おのれ、人間どもめ……」

「キター! 従順エルフもいいですが、やっぱりエルフは高慢ちきでないとでござる!」

「さて。知千佳たちは人間見下しエルフムーブを堪能したいかもしれんが、まどろっこしいからな。ここはさっくりといくとしよう」

槐がそう言うと知千佳の持っていた弓装備一式がエルフへと飛んでいく。それらはいったん形を無くし、紐状になってエルフを縛り付けた。

「何のつもりですか!」

「話を聞きたいだけだが、まあ無理にとは言わん。もっともろくに話もできないなら禍根を断つためには殺すしかないかと思うが」

「殺しなさい! 人間に話すことなどありはしません!」

「そうか」

槐が抑揚のない声でそう言うと、紐状の触丸はよりきつくエルフに絡みついた。

「ちょっ! ストップ! やめて! 本気で殺すつもりで絞めてますよね、これ!?」

「ずいぶんと呆気ない。少しぐらいは耐えるそぶりを見せればいいものを」

呆れたように槐は言った。

「ですけど! 普通はもうちょっと、交渉の余地を残したり! なんだかんだあったあげくに、仕方なく喋りだすっていうエクスキューズをこちらにも用意させてもらいたいんですが!」

「ほう? ということは、喋るつもりはあると」

「それはまぁ……死にたくはないですし……」

「そっちは殺すつもりで射ってきといて、ずいぶんと虫のいい話だな」

この覚悟のなさが夜霧の癪に障った。

「なんなんですか! そっちが勝手に私たちの領域に踏み込んできたんでしょう!」

「そう言われるとそうか。確かに無断で入ってるしな。けど、警告ぐらいはあってもいいだろ。いきなり攻撃したらやり返されても仕方がないと思うけど」

「警告ならしたでしょう!」

「……? ああ。あいつらか。じゃあ、やっぱりあれはあんたらの仲間なの?」

夜霧は蟲のような猿のような生き物に遭遇したことを思い出した。警告らしきものを言ってきたのはその生物ぐらいだ。

「あれは我らの類族です。この先に聖地があること、これ以上進むなということを伝えたはずです! 警告があった上でずかずかと踏み入ってくるなら、攻撃するに決まっているでしょう!」

「警告だったかなぁ? むっちゃわかりにくかったんだけど」

知千佳が首をかしげた。

魔道具では翻訳しきれなかったのか、その警告とやらは単語がところどころ聞こえたぐらいで、ほとんど意味不明だったのだ。

「わかったよ。この先に行ってほしくないんだな。だったら行かないよ」

「え? でも、ヨシフミってのがそこに向かってるかもしれないんじゃ?」

中心部まで行くものだと思っていたのか、知千佳はとまどっていた。

「だとしても、ここに住んでる人が行くなって言ってるんだから、無理に行く必要はないだろ」

「まぁ……そうかな。ここで探しても会えるかどうかわかんないしね。帝都で待ってればそのうち戻ってくるかもだし」

「どういうことですか?」

エルフが訊いてきたので、夜霧はこれまでの経緯を簡単に話した。

「馬鹿なんですか? 森を出たいのに中心に向かってどうするというんです?」

「そう言われてもな。上から見たら森はどこまでも広がってるし、どこに行っていいものかわからなかったんだよ」

迷いの森のようなものだと夜霧は推測していた。

空間がむちゃくちゃにつながっていて、素直に森の外へと出ることができないのだ。

「……いいでしょう。これ以上聖地に近づかず、森を出ていくのなら、私が手助けいたします」

「あ、できれば、東側に行きたいんだけど。西に出るとまったく意味がないから」

「わかりました。ですので拘束を解いてもらえませんか?」

「もこもこさん」

「うむ」

すると、エルフを縛りあげていた紐がほどけて塊になり、槐のもとへころころと転がっていった。

「おぬしは馬鹿ではなさそうだが、念のために言っておくと、先ほどの紐の一部はまだおぬしにくっついておるからな」

「この状況で逆らったりしませんよ」

エルフの少女は不承不承という様子ではあるが、立場は理解できているようだった。

*****

「しばらくは一緒に行動するわけですから、お互いに名前も知らないのは不便でしょう。私は、フワットと言います」

道すがら、エルフの少女が名乗った。

これ以上森の中心部へは向かわず、まずはエルフたちの集落へと行くことになったのだ。

フワットは、いったん報告に戻る必要があるらしい。

「私は壇ノ浦知千佳」

「壇ノ浦もこもこだ」

「高遠夜霧」

「拙者は花川大門と申すもの! レベル99ヒーラーであり、イマン王国を侵略していた魔王を討伐した勇者パーティーの一員だったでござる。まあ、立ち位置的には勇者の参謀というべき者であって、ほぼ勇者といっても過言ではないかと思うのでござる! ぶほっ! おっと失礼。フワット殿の傷を治したのは拙者の回復魔法なのですが、その後の調子はどうですかな? 人類最高峰の回復魔法でござるから、後遺症などはないかと思うのですが!」

「なんで、急に早口で喋りだすの!?」

皇槐と紹介された少女が壇ノ浦もこもこと名乗っているのだが、自己紹介に必死な花川は気にしていないようだった。

「はあ。その、ありがとうございます。回復してくださったのは大変感謝していますが、あまり近づかないでいただけると、さらに感謝できるかと思います」

フワットはそっと花川から距離をとった。

「なにゆえに!」

「で、フワットさんは、エルフなんですよね?」

「そうですが?」

知千佳が訊くと、フワットは不思議そうに答えた。

「その、ローブの下は腕が二本に脚が二本なんですよね? おなかに口がついてるとか、触手が生えてるとか、そーゆーのはなくて?」

「私はいったい何だと思われてるんでしょうか!」

「その、エルフの人って私たちと何か違うのかなって」

「見た目はそれほど違わないと思いますが」

そう言って、フワットはローブの前を開いた。

すらりとした肢体を薄手の衣が覆っている。

見える範囲では、人との違いはわからなかった。

「やっぱり虫だか猿だかじゃなくて、こういう華奢で儚げで透明感があって金髪ロングで耳尖ってるのがエルフだよね!」

知千佳もようやく満足できたようだった。

「いやー。拙者としましては、昨今の流行から考えるに巨乳エルフのほうが多方面にウケがいいかと思うのでござるが。拙者はロリコンと勘違いされることが多々あるのですが、性癖としましては素直にできるだけ大きいほうが好みなのでござるよ! いやまぁ、エルフが貧乳というのは差別化としてそうしておくのはいいのですが、でしたら褐色系巨乳ダークエルフとかそーゆーのをアンチテーゼとして用意してもらいたいところで」

「聞いてないから」

「知千佳たんは冷たいですな……」

「おっぱいは大きいほうがいいってのは、同感だな」

「……高遠殿……今、初めて心が通じ合った気が……」

「くだらないことを言っている間に着きましたよ」

密集した木々を抜けて、開けた場所に出た。

そこには木造の素朴な建物が建ち並んでいる。

そう大きな村でもないので、上空からは見えなかったようだ。

静かな村だった。

日中だというのに、あまり人が出歩いていないのだ。

「あ、やっぱりあいつらいるんだ」

村の中には腕が四本ある、猿のような蟲のような生き物がいた。

彼らはエルフたちを手伝って従順に働いているようだった。

「とりあえず長老のところへ行きましょう。あなたたちのことなどまとめて説明してしまいます」

村の奥へと歩いていく。似たり寄ったりの建物ばかりの中で、少し大きめに見える建物が長老の家のようだ。

村にいるエルフたちはいぶかしげに夜霧たちを見ていた。

エルフは森に入る人を襲っていたというから、人とは敵対しているのだろう。今はフワットが拘束もせずに連れているので、事情がわからずにとまどっているのかもしれない。

「そのローブってみんな着てるものでもないんだ」

「これは狩りの時だけですね」

暑いためか、エルフたちは薄着だった。そして、当然のようにエルフは全員が美形だった。

「これは……エルフの美少女たちとお近づきになれる感じのイベントが!」

「エルフは規格外の大きさの生物を生殖可能な相手とは見做しませんので、頑張って痩せてくださいね」

「え? その、中身を見ていただけたりは?」

「よく中身を見せる気になれるな」

たいした自信だと夜霧は呆れていた。

「こちらです」

長老の家に近づいていくとドアが開き、中から少年が出てきた。

「君たちか……。こんなところで会うとはね」

少年は驚いていた。夜霧たちを出迎えるために出てきたわけではないのだろう。

「え? 誰?」

知千佳が疑問符を頭に浮かべている。

「鳳だよ。鳳春人。もしかして、眼鏡をかけてないからわからないのかな?」

「え? 鳳くん!? なんでこんなとこに!?」

「……誰だっけ?」

名前を聞いても夜霧は思い出せなかった。