軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0730 後始末

「つまり、北にあるノズー国と西方諸国で交易が行われている。この船を、その交易船だと思って襲撃したと」

「はい……」

甲板上では、捕虜にした五人の海賊に対して尋問が行われている。

「ものすごくペラペラと答えています」

「いや、手間がかからないから良いだろ?」

「海賊道の風上にも……いえ、 悪党(あくとう) 道の風上にもおけません」

「海賊道? 悪党道?」

なぜか涼が 憤(いきどお) り、アベルには意味が分からない。

「悪党の親分は、捕まっても簡単には口を割らないのです。それが、同業の人たちへの 仁義(じんぎ) だからです」

「仁義……」

「 拷問(ごうもん) でも何でもかけやがれ! 俺は絶対に口を割らん、って 啖呵(たんか) を切らなければなりません」

「そ、そうか……」

「でも、部下が傷つけられるとなって、ついに口を割るのです。やめろ! 分かった、言う、そいつに手を出すな! ……みたいな感じで、無念な感じいっぱいで」

「……」

「そして部下が泣くのです、親分……って」

「……」

「そういうやり取りの末に、情報が引き出される。そういう 様式美(ようしきび) は必要だと思います」

「さすがリョウだな……俺はリョウの、そういう 妄想美(もうそうび) にはいつも感心するぞ」

涼が様式美を語り、アベルが妄想美という新たな言葉を生み出す。

とはいえ、涼は、ペラペラと抵抗なく答える海賊たちを見て疑問を抱いた。

疑問はできるだけ早く解決するに限る。

しかも隣には、その道の専門家がいるわけで。

「アベル、中央諸国だと、海賊ってどんな罰を受けるんですか?」

「基本、死刑だな」

「基本が……死刑……」

「よほどの 情状(じょうじょう) 酌量(しゃくりょう) ……陸地にある隣村が 飢饉(ききん) になり、その村人を助けたい一心で海賊行為に及んだ、みたいな特殊な事情でない限り、関わったものは全員死刑だ」

「なんて例外的な……」

「そう、滅多にない。だから基本、死刑になる」

涼が驚き、アベルが顔をしかめて答える。

アベルだって、同じ王国民を死刑になどしたくはない。

それが悪い者……それこそ悪党であっても。

一時は悪事に手を染めたとしても、心を入れ替える可能性も無いわけではないから。

だが、同じような行為を防ぐために、重い刑罰を科さねばならない場合がある……それも 為政者(いせいしゃ) として理解している。

「海賊も山賊もそうだが……襲撃した賊を返り討ちにしても、すぐに軍艦や衛兵に引き渡すことはできん。引き渡せる場所まで連れて行かねばならんが、移動する間、賊の分の食料も消費することになる」

「ああ、確かに」

「だから、基本的に死刑にせざるを得ないという側面もある」

どこでもすぐに食料が手に入るわけではないのだ。

海の上ならなおさら、飲料水の問題も出てくる。

乗組員や乗客の分だけでなく、捕まえた海賊の分もとなると……それは現実的ではない。

「だから中央諸国だけでなく、少なくとも西方諸国でも海賊は、基本、死刑だ」

「治安を担う人たちに引き渡せない現実的な理由……」

アベルも涼も、小さく首を振った。

「でも、もうこの辺りから西方諸国との交易が行われているんですね」

「そうらしいな」

「そうらしい? アベルは知らないんですか? ちょっと勉強不足なんじゃ……」

「いや、俺の所に来た報告書には、書いてなかったからな」

「アベルが適当に読み飛ばしたんじゃないですかね」

涼が 胡乱気(うろんげ) な目でアベルを見る。

「何だその目は。一度読んだ報告書は、だいたい覚えてるわ! だがその中に、西方諸国がこの辺りと交易をしているというのは無かった。まあ、全ての情報が公開されているわけではないし、海賊が言っていることが確かだという保証もないからな」

「彼らが嘘をついていると? そんなことをしても意味ないでしょう?」

「嘘をついているとは限らんだろう。 騙(だま) されている、あるいは知らされていない、もしくは間違った情報を掴まされている……色々あり得る」

アベルは肩をすくめる。

世界中の誰もが、全ての情報に接するわけではない。

自分が正しいと思っていた情報が、実は間違っていた……そんなことはよくあることである。

しばらく尋問を続けたパウリーナ船長が二人の元にやって来た。

「陛下、いくつか得られた情報を報告いたします」

群島地域の有人島は十、他に無数の無人島がある。

群島地域の人口は二千人前後。

政府のようなものがあるわけではなく、一番大きな島で定期的に集会が行われるだけ。

西方諸国と交易を行っている北の国ノズー国も島国であるが、かなり大きな島である。

ノズー国の人口は不明。

群島地域から、海賊船で三日の距離。

ノズー国と西方諸国の交易は、大きな船で行われている……だから、スキーズブラズニルをその交易船だと認識したらしい。

船の形は、誰も気にしなかった。

今回は海賊行為を行ったが、普段は普通の漁民である……と言っているが、パウリーナ的にはそれを信じる根拠はないようだ。

「ご苦労」

アベルがねぎらうと、パウリーナは少しだけ 逡巡(しゅんじゅん) した後、意を決して口を開いた。

「陛下、捕虜の処遇に関してですが……」

「うむ?」

「西方諸国の法では、海賊行為をしたものは極刑……つまり死刑です」

「ああ。中央諸国でもそうだな」

「ですがあの者たちは……陛下の 裁可(さいか) がいただければ、ここで解放したいと考えております」

「ほぉ」

パウリーナの言葉に驚くアベル。

隣で無言のまま聞いている涼も、少し驚く。

先ほどのアベルとの会話に出てきた通り、法律的な面だけでなく合理的な理由からも、死刑が普通だから。

「彼らは、この群島地域の者たちです。つまり、遠くまで連れていく必要はなく、ここで解放すれば自力で島に辿り着きます」

「ふむ」

「燃えて残骸になったとはいえ、海賊船の一部が海上には漂っていますので、それを使えば怪我をした者たちも島に辿り着くでしょう」

「確かにな」

「今後の事を考えると、陛下の御 慈悲(じひ) を示しておく方がよろしいかと思います」

「なるほど、今後の事……試験航行や航路開拓か」

パウリーナの説明に、頷くアベル。

海賊の解放は、この先の長いスパンで、しかも国家事業レベルでのことを考えての提案ということらしい。

アベルは少し考えた後、頷いた。

「船長の提案を 了(りょう) とし、彼らの解放を許可する。細かな方法は任せる」

「ありがとうございます」

パウリーナは深々と頭を下げると、アベルの前を去り乗組員たちに指示を出し始めた。

「すごいですね、パウリーナ船長。今後、この海域を通る船たちの事を考えて、解放を提案したんですね」

「なかなかできることではないよな。ああいう人材は貴重だ」

涼もアベルも、そういう提案をすることの難しさを知っている。

高度な政治判断、あるいは超法規的措置と呼ばれるものだ。

国家レベルでの動きとなると、そんなことが多数起きる……これは、当たり前のことなのだが、一般国民レベルでは全く理解できない。

自分たちが法に従って生活しているのに、なぜ国は法を無視するようなことをするのだ!

そんな怒り。

それは当然の怒り。

当然なのだが……世界は自国だけで成り立っているのではない。

他の国がある。

他の国との関係を無視して、他国の民を無視してやっていけるわけではない。

自分たちが当たり前だと思っている事が、外国でも当たり前とは限らない。

考えてみれば誰でも理解できるのだが……そもそも、考えない。

だから理解できない。

「世界は複雑で難しいものです」

「法律通りにやればいい……全てがそうなら、国の政治も楽なのにな」

「国王陛下がそんなことを言っていいんですか?」

「うん?」

「民の規範となって、法律は守らなければいけないんだぞ……そういう立場でしょう?」

「そういう立場だが、現実はもっと複雑だろう?」

「ええ、世界は複雑です」

アベルも涼も分かっている。

法律の大切さは。

決まり事を守ることの大切さは。

それらが軽く扱われるようになれば、秩序が崩壊するということは。

しかし、それでも……。

「いずれ歴史が、その判断の正しさを証明してくれるに違いありません」

「歴史に 委(ゆだ) ねなければならんようなことなのか」

「歴史は、人の行動すべてを厳しく見ているのです」

「大変だな、歴史」

歴史学の道に半歩踏み込んだ涼、歴史が担う役割の大変さに肩をすくめるアベル。

歴史は、一切の 頓着(とんちゃく) なく今日も世界を記録し続ける。