軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0508 なぜか密林

「アベル……どうして僕たちは、ジャングル……密林の中を歩いているのでしょうか」

「……船が難破したからだろうが。仕方ないだろ」

涼とアベルは、二人で密林の中を進んでいた。

理由は、アベルが言った通り、乗っていた船が沈んだからだ……。

夢と希望に満ちて、自治都市クベバサを旅立った二人は、アティンジョ大公国の大公弟であるヘルブ公が手配した大公国軍艦に乗っていた。

特に、乗組員たちからいじめられることもなく船は北上を続けた。

航海は順調だったのだ。

五日目に、アティンジョ大公国の北の国境、北岸を越えて左手に大陸を見ながら船はさらに北へと進んだ。

それは、自治都市クベバサを出航して六日目の深夜に起きた。

涼もアベルも、スーシー料理長ほどではないにしても、軍艦の料理にしてはかなり美味しい晩御飯をお腹いっぱい食べて、熟睡していた。

そんな中、突然、船が上下に激しく揺れた。

縦に揺れた地震……そんな表現をすることがあるが、まさにそれ。

もちろん、二人がいるのは陸上ではなく船であるため、地震ではない……。

「なんだ!」

ハンモックの中で、アベルは文字通り飛び起きた。

涼も飛び起き、すぐに<アクティブソナー>で周囲を探る。

その結果……。

「船倉に、大穴が開いています……」

「船が沈むってのか?」

「穴を塞いでみま……」

涼が言い、唱えようとした瞬間、再び船が上下に揺れた。

さらに、絶望的な、木が割れていく音も……。

「船体が折れました! すぐにここにも水が来ます!」

涼が叫ぶ。

二人がいるのは、中甲板。

この軍艦は、かなり大きなものではあるが、それでも沈むときは沈む。

「出でよ! ニール・アンダーセン!」

涼が唱えると、ナイフの鞘が淡い錬金術の光を放って、ロンド級二番艦ニール・アンダーセンが生成された。

全長十メートルと、それなりに大きなニール・アンダーセン号であるが、この船の中甲板もかなり巨大だ。

二人は急いでニール・アンダーセンに乗り込んだ。

ほとんどそれと同時に、船は真っ二つに折れ、全てが海水に満たされた。

その後も続く木が割れる音。

悲鳴は響かない。

二人以外は、全員船乗りだ。

船が折れた瞬間には、そのほとんどが、自ら海に飛び込んでいた。

船の近くにいると、沈没に巻き込まれる。

それよりは、一度離れて、船が沈みきった後に、漂う木片などに掴まった方がいい。

あるいは、左手に見える大陸まで泳いでいくのもありだろう……。

だが、彼らは、飛び込んだ後で知った。

なぜ、突然船が沈んだのかを。

海面から出ている、何本もの巨大な『足』が見えた……。

「クラーケン……」

それを見た多くの船員たちが呟く。

同時に、何体ものクラーケンたちが、海に投げ出された彼らには目もくれず、南の方へ去っていったのも見た。

戯れに軍艦を壊したのか……。

どちらにしろ、クラーケンの群れの前には、軍艦でも耐えきる事など不可能であった。

クラーケンが去っていったのは、ニール・アンダーセン号の中からも確認できた。

「またしても奴らに!」

「たくさんいたな……」

悔しそうに言う涼、向かってこなくてよかったと 安堵(あんど) するアベル。

実際、一体ならこのニール・アンダーセン号で戦うことも可能だが、何体ものクラーケンを相手となると……。

「確かに、まだ複数のクラーケン相手では難しいのは認めます」

涼ですら、認めざるを得ない戦力不足。

「ですが、いずれは……数十体のクラーケン相手でも、戦い抜ける戦力を整えてみせます!」

「お、おう、頑張れよ……」

拳を突き上げて決意する涼と、応援はするが距離は取っておきたいなと正直に感じているアベルがいた。

その後、ニール・アンダーセン号に乗った二人は、海難救助隊となった。

大公国軍艦から投げ出されたり、自ら海に飛び込んだりして逃れた乗組員たちを、ニール・アンダーセン号の 捕獲腕(マニュピレーター) で掴んで岸まで引っ張っていったり……。

乗組員たちがしがみついた木片や、 樽(たる) などを岸まで引っ張っていったり……。

沈没地点と岸の間を、何度も往復した。

結果、百人を超える乗組員は、全員救われた。

涼とアベルは、艦長に深く感謝されたのだ。

だが……船は沈んだ。

乗組員たちは、岸で救助を待つという。

数日に一回は、 沖合(おきあい) を大公国の軍艦が巡回するらしく、それに拾ってもらうと。

しかし、涼とアベルはそういうわけにはいかない。

もちろん、ヘルブ公との約束を盾にもう一回船を準備しろ……というのも、ちょっと嫌だ。

アベルはもちろん、涼もそういうのは好きではない。

結局、お人好しの二人は、自らの足で陸地を北上することにした。

もちろん、ニール・アンダーセン号で海中を北上するという案もあったのだが……。

「まだ……クラーケンの大群に勝てる算段がついていません……」

涼が悔しそうに言う言葉に、アベルも同意した。

確かに、海中でクラーケンの大群と戦うことになったら……逃げ場はない。

そうして、二人は、密林を進むことになったのだ。

そう、 正真正銘(しょうしんしょうめい) の密林。

木々は生い茂り、足元はデコボコ。

どんな生き物が襲ってくるか分からない……恐ろしい場所。

「そんな中をたった二人で突き進む、愚かな剣士と魔法使いがいるらしいです」

「確かに、その描写通りだったら大変だよな」

涼が言い、アベルも条件付きで同意した。

そう、条件付きだ。

「氷の壁で覆われて、氷の道もひかれて……まっすぐ歩くことができている素晴らしい環境じゃなければな」

そう、<アイスウォール>で覆われた中、<アイスバーン>の上を、二人は歩いている。

木々を打ち払いながら進む必要はなく、上から蛇やクモが下りてくることもなく、足元にダニやヒルが吸い付く心配もない……。

「だって……使える力があれば使うべきだと思うんですよ。何か間違っていますか?」

涼はそう言いながら、前方に氷のトンネルをつくる。

自由都市のアティンジョ大公国大使館に押し入った時のように、前方に延びた<アイスウォール>が、左右に開いて二人が通る道を作っていく。

小規模な森林破壊は起きている……。

「間違っていない。素晴らしい事だ。ガンガンやってくれ」

アベルは頷きながら言う。

「ごめんなさい、密林の木々さんたち。アベルの命令によって、僕は仕方なく森林破壊を起こしながら進まねばならないのです。恨むならアベルを恨んで……」

「おい……」

涼は、全ての責任をアベルに転嫁した。

「だって、ほら、森には、怖い……なんでしたっけ、全身灰色ののっぺらぼうの……魔物がいるかもしれないんでしょう? 襲われるならアベルが襲われた方が……」

「のっぺらぼう? ああ、シャドーストーカーか」

「そう、それです! シャドーストーカー!」

涼は、使節団として向かった、西方諸国への途上で戦ったことがある。

「東方諸国にも、やっぱいるのかな?」

「さあ? 僕よりアベルの方が詳しいでしょう? 元A級冒険者なんだし」

「シャドーストーカーは、元々あまり生態を詳しく知られていないんだよな」

アベルは小さく首を振りながら答えた。

「それなのに、森林破壊を僕にさせていたんですか……」

「いや、別に俺、頼んでいないだろう?」

「何て言い草! じゃあ、アベルだけ<アイスウォール>無しで歩きますか?」

「いや、それはめんどくさい……」

人は、一度楽を覚えると、常に楽を求めてしまうものだ。

「でも、アベル、『赤き剣』で活動してた時とか、こういう密林の中を進む場合は、普通に進んでいたんでしょう? こんな魔法の恩恵なんかなしで」

「まあな」

アベルは頷いたが、途中で、その頷きを停止した。

「アベル?」

「い、いや……なんというか……基本は、ちゃんと歩いていたんだが……」

「え?」

「リンが、<エアスラッシュ>みたいなので木を切り倒して突っ切ったことがあったなと……」

「……」

「ウォーレンが、リンに言われて、盾を構えて突っ切った事もあったなと……」

「……」

「俺のせいじゃない」

最後に、アベルは責任を放棄した。

「アベル……『赤き剣』のリーダーは誰でしたっけ?」

「……俺だな」

「アベル……その森林破壊の責任は、最終的には誰が取るべきだと思いますか?」

「……俺かな」

「アベル……悪い事をしてきたんですね」

「……俺が悪かった」

アベルは懺悔した。

とはいえ、今回の森林破壊の規模は、極めて小規模だ。

「シャドーストーカーさんも、そんなに怒らないに違いありません」

「……そうだな」

二人は、密林を北に向かって歩き続けるのであった。