軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0409 救出

エトによる治癒が終了し、ニール・アンダーセンの体調が安定した頃には、王国使節団から支援が来ていた。

「ハロルド、アンダーセン殿を頼んだぞ」

「はい、ニルスさん。お任せください!」

支援に来たのは『十一号室』の三人であった。

ハロルドとゴワンはそれなりの戦力だ。

兜をとっても、未だ体内を流れる魔力の流れが乱れたままのニール・アンダーセンであるが、彼に何かあったとしても神官ジークがいる。

団長ヒュー・マクグラスが『十一号室』を指名したのは、さすがの的確さであった。

「右と左、どっちから行こうか?」

エトが三人に問う。

右と左とは?

現在、中央諸国使節団がいる観客席の下に設置された、魔力吸い出しの錬金道具を停止した。

だが、観客席から見ていた時、遠目であったが、暗黒大陸からの来賓たちも使節団同様の状況に陥っているように見えた。

そして、暗黒大陸からの来賓たちは、東部諸国からと西部諸国からという二つに分かれ、中央諸国使節団から見て東、つまり右に東部諸国、西、つまり左に西部諸国が座っている。

「右、東部諸国の来賓の方が、ぐったりした感じの方が多いように見えました」

目の良さを活かして進言したのはアモン。

それを聞いて、ニルスはエトと涼を見る。

無言のまま、エトも涼も頷いた。

否やはない。

「よし。なら東部諸国からだ」

ニルスの断が下され、四人は走り始めた。

同じ頃。

右側観客席、つまり東部諸国下の第一層吹き抜けでも、戦闘が繰り広げられていた。

「だから言ったんですよ、五人全員で行った方がいいって!」

「うるさい! 今さらどうしようもないだろ! 本当に信頼できるパーティーメンバーなら、俺らが危機に陥っているのを察して、助けに来てくれてもいいだろうに!」

「そんな無茶な……」

そんな会話を、戦いながら交わしている男女二人。

暗黒大陸東部諸国からの来賓護衛パーティー『清涼なる五峰』の二人、パトリス・チセケディとグティであった。

二人とも、目に見えるような武器を持っていない。

かなり頑丈そうな、金属製の 籠手(こて) と、同じく金属製のブーツとも言うべきグリーブを身に着けて戦っている。

籠手で殴り、グリーブを履いた足で蹴る。

暗黒大陸において、『 撲(ぼく) 殺(さつ) 士(し) 』と、けっこう物騒な名前で呼ばれる職業だ。

魔法なのか、それとも籠手が錬金道具なのか、あるいは別の何かの力か。

二人のパンチは、かなり強力だ。

受けた相手の剣を弾き飛ばし、そのまま顔面に拳を入れて気絶させる。

打ち下ろされた剣を籠手で受け、無防備な下半身を蹴り上げる。

だが、敵の数が多すぎた。

十人を軽く超える、騎士の身なりの男たち。

彼らが、奥で何やら大きな箱をいじくっている、白い法服を着た教会の聖職者を守っている。

無論、二人も、最初から問答無用で戦闘をしようとしていたわけではない。

観客席で起きている異変の原因を探りに下の層に下りてきたら、騎士と聖職者がいた。

何をしているのかと問いかけたら、騎士たちの方から、いきなり襲ってきたのだ。

しかもご丁寧に、包囲してから!

「グティ、こいつら、やっぱり聖騎士団だよな!」

「ええ。紋章からして、テンプル騎士団。教会の精鋭騎士団ですよ!」

パトリスの問いに、顔をしかめながらグティは答える。

彼らも、暗黒大陸東部諸国では名の知れた護衛パーティーだ。

どんな相手だろうが、そう簡単に後れは取らない。

だが今回は、相手が悪い。しかも人数差が大きすぎる。

五人揃っていれば問題無かっただろう。

そうでなくとも、せめてエンチャンターのキンメがいてくれれば……。

一対一の技量ならば、ほぼ互角。

そのため、守るだけなら、この人数差でも大丈夫だが……。

「くぅ……」

思わず、グティの口から声が漏れる。

疲れたなどと言ってはいられない……それは分かっている。

負ければ死ぬのだ。

全部分かっている!

それでも、疲労は 容赦(ようしゃ) なく人間を 蝕(むしば) む。

そして、ついに……。

ズルッ。

テンプル騎士の剣をかわしたところで、足を滑らせた。

疲れが、足に来たのだ。

そんな隙を見逃すテンプル騎士たちではない。

グティがバランスを崩した瞬間、素早い突きを放った。

脇腹に突き刺さる剣。

「うぐっ」

グティの口から漏れるくぐもった声。

思わず片膝をつくグティ。

「グティ!」

叫びながらパトリスが身を 挺(てい) して 庇(かば) う。

そこに、容赦なく、テンプル騎士団の剣が襲いかかった……。

「<アイスウォール10層パッケージ>」

カキンッ、カキン、カキンッ。

騎士たちの剣は、二人を囲った見えない壁に弾かれた。

その表情からは、一様に驚いているのが見て取れる。

だが今は、戦闘中なのだ。

驚いても手を止めてはいけない。それは自殺行為。

「おらぁ!」

飛び込んだニルスとアモン。

さらに、遠目から矢を放つエト。

三人に、騎士を任せ、一気に駆け抜ける涼。

「棺桶大の錬金道具! いじっているのは……普通の聖職者?」

涼は走りながら呟くと、唱えた。

「<アイシクルランス>」

突然、目の前に現れた氷の槍に、何の反応もできずに吹き飛ばされる聖職者。

ただ一撃で気絶した。

「<精査>」

涼は、走り寄るのも惜しいとばかりに、走りながら棺桶大の錬金道具に対して、<精査>を放つ。

見た目は、先ほどと同じに見えても、中身も同じとは限らない。

「精査完了。うん、少し小さいだけで、他はだいたい同じ」

涼はそう言うと、<ウォータージェット>で中の線を切って、錬金道具を停止した。

「ニールさんがいじくっていたのに比べると、かなり魔力の吸い上げが悪い。この錬金道具、錬金術師の腕次第で効率が変わるのか……だから、優秀なニールさんを使った……」

涼はそう呟くと、顔をしかめた。

だが涼は、棺桶のような錬金道具をもう一度見て、ふと疑問に思った。

涼自身は、水属性の魔法使いであるため、空気中の水蒸気を通して状況を把握したり、今回のように強引に錬金道具の中の『線』を切って強制停止したりできた。

だが、この棺桶大の錬金道具は、外から見る限り、音響のボリュームみたいなものが二つ付いているだけ。

ニール・アンダーセンや、今の聖職者はそれをいじって、いろいろ調整をしていたが……停止機能自体はついていない。

つまり、一度起動したら、二度と正常停止できない錬金道具なのだ。

「これを作った人は、停止機構をつけなかったんだよね、あえて。想定外の暴走とかしたらどうするつもりだったんだろう……」

涼は呟く。

だが、少し考えて答えが出た。

「自分が間違う、失敗するなどあり得ないと思っているのかも」

人間である限り間違いを犯す。

失敗することはある。

だが、自分が神や天使の 遣(つか) いであればどうだろうか?

間違いなど起こすわけがないのだ。

第三者には理解しにくいことかもしれないが……。

歴史上でもよくある話。

涼が、棺桶大の錬金道具を停止するのとほぼ同時に、戦闘も終了していた。

「<アイスウォール解除>」

涼が唱えると、保護されていた二人の元にエトが走り寄る。

「神官です。怪我を見せて」

自分たちを助けるように戦ってくれた三人。

それを、二人はずっと見ていた。

信頼に足る人たち。

そして何よりも、仲間が負傷している。

「お願い……します」

男性は、体をどけ、床に下ろした女性をエトに託した。

そして、立ち上がり、ニルスの方を向いて、両手を合わせて顔を伏せ、言った。

「ご助力……感謝する。俺は、東部諸国護衛……パーティーの……パトリス、そして……あっちが……グティ」

かなり片言ではあるが、『十号室』も理解できる言葉で感謝した。

「気にするな。俺らは、ニルス、エト、アモン、そしてリョウだ。俺たちも、あの錬金道具を止めるために来たんだ。そうしたら、あんたたちが戦っていたから助勢しただけだ」

ニルスは一つ頷いてそう言った。

錬金道具という言葉に、弾かれたようにパトリスが顔を上げる。

「観客席の異常……あれが……原因?」

「ああ、そうだ。俺らは中央諸国使節団の者だが、向こうの観客席の下にもあれがあってな。さっき止めてきた」

パトリスの言葉に、ニルスは頷いて答えた。

「魔力を奪う機能は止めましたよ」

涼が近づきながら言う。親指を立てて。

おそらく、親指を立てる意味は知らないだろうが、もう、問題はないということは伝わったようだ。

「こっちも大丈夫。<エクストラヒール>で治癒したから、歩くぐらいならいけるよ。でも、血を流したばかりだから、まだ無理はしないで」

エトが微笑みながら言うと、パトリスは、すぐにしゃがみこんで、起き上がったグティを抱きしめた。

「బాగుంది ……గుతి……」

「పా, పాట్రిస్! ఇది కాస్త బాధాకరం」

少し泣きそうになっているパトリス。

顔を真っ赤にして嬉しいのか恥ずかしいのか、多分その両方のグティ。

二人の言葉は、中央諸国民である四人には理解できない言語だ……。

「こちらの二人は『カフェ・ローマー』で見た覚えがあります。緑の髪の毛とピンクの髪の毛は、やはり目立ちますね!」

「ああ、それ! ですよね。そんな気がしてたんです」

「目立つのは悪い事じゃないってことだね」

「あっちの観客席の下はゴーレムだったのに、こっちは騎士団だったのはなんでだろうな」

涼が、以前『カフェ・ローマー』で二人を見たのを思い出し、アモンが同意し、エトが頷き、ニルスがすごく真面目な疑問を抱いていた。

とにかく、終わり良ければすべて良しなのである。