軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0389 第三分遣隊

保管庫は、綺麗に修復されていたため、賊の痕跡などは一切残っていなかった。

そのため、一行は、あまり情報を得ることができずに保管庫を出たのであるが……。

「待て! お前たちは何者か?」

保管庫の外で、騎士の一団に誰何された。

「バシュレ隊長、こちらは、教皇庁より見えられた冒険者の方々です」

司祭が、騎士たちに一行を紹介する。

「ふむ。教皇庁から冒険者? よくわからぬ。私はテンプル騎士団、第三分遣隊隊長のアンドレ・ド・バシュレである」

一番偉そうな騎士が名乗った。

「これは失礼いたしました。分遣隊隊長ということは、司祭様ですね。私どもは、教皇庁のグラハム枢機卿より依頼を受けて調査をしております冒険者です」

エトはそう言うと、教皇庁発行の聖印状と、グラハム枢機卿の許可証を渡した。

「確かに、確認した。我々も、保管庫から奪われた品々の探索をしておる。そちらが手に入れた情報を渡していただこう」

命令口調だ。

その命令口調で、涼は思い出した。

「ニルス、この人たち、ケンタウロスから戻ってきた時に、オンゲ教会にいた人たちですよ」

「オンゲ? ああ。リョウの氷の床の魔法で立ち上がれなかった……」

涼が隣のニルスに囁くと、ニルスも思い出したようであった。

そして、涼が思い出したのとほぼ同時に……。

「隊長、この者たちは、以前、オンゲ教会にいた者たちです」

バシュレ隊長の傍らの騎士が言った。

それを聞いて、バシュレ隊長は、一瞬考えたが、すぐに思い出した。

「ケンタウロスから戻った者たちであったな」

「あの後、司教様は呪いを解呪してくださいましたか?」

エトが笑顔で尋ねる。

滑る地面から起き上がることができない呪い、という到底理解できない呪いにかかったと、騎士たちは信じ込み、隣町の司教に来てもらうことになったのだ。

そのどさくさに紛れて、一行は去ることができた。

もちろん全て、涼の<アイスバーン>によるものだ……。

「う、うむ。問題なかった」

バシュレ隊長にとっては、やはり嫌な思い出なのだろう。

少し、顔色が悪くなっている。

そこで、エトがニルスの方を振り向いて、囁いた。

「どうせこちらはたいした情報持っていないし、聞いてみようか?」

「素直に応じてくれるとは思えんが……エトに任せる」

ニルスも囁くように答えた。

「じゃあ、そこはリョウに交代しよう」

「え……」

エトによる突然の無茶振りに、涼は絶句する。

アベルと違って、あまりそんなことをしないエトが、なぜ……。

「こちらが掴んだ情報を、ということでした。もちろん、それをお伝えするのはやぶさかではありません」

「うむ。殊勝である」

「ただ、魔法に関わる部分がありますので、うちの魔法使いと代わります。さあ、リョウ」

エトは、バシュレ隊長に、涼を紹介した。

ニルスに促され、交代する涼。

「あ、はい、では、失礼します。え~、扉は火属性の魔法で破られたとのことです」

「うむ、それは我々も聞いている」

「その際、かなりの音が出たみたいなのですが、教会の人は誰も気づかなかったと」

「そうらしいな」

涼の説明は、バシュレ隊長がすでに知っていることばかりらしい。

仕方がないので、適当推論を披露する。

「賊には、風属性の魔法使いもいた可能性があります」

「何? そんな報告は聞いておらぬが?」

「はい。扉を破壊するときの音がかなり大きかったはずなのに、皆さんに聞こえなかったのは、風属性の魔法で空気……えっと、風を遮って、音が伝わらないようにしたからだと思われます」

「ふむ……そんなことが可能なのか?」

「はい、理論上可能です。それが一番、音が聞こえなかった説明としては、可能性が高いでしょう」

何度も言うが、もちろん、涼の適当推論だ。

だが、空気を遮断したりすれば音の伝播は防げるわけだから、多分、言っていることは間違っていないとは思うのだ……。

それが風属性の魔法でできるのかどうかは知らないが。

でも、SF作家ジュール・ヴェルヌは言った。

人間が想像できることは実現できると。

魔法のない世界ですらそうなのだから、この魔法のある『ファイ』なら、より簡単に実現されるはず!

涼は、そう信じている。

「つまり賊の中に、火属性の魔法使いも、風属性の魔法使いもいる。これは、かなり強力な組織の賊である可能性が高いと思われます」

涼はそう言って締めくくった。

「なるほど」

バシュレ隊長は何度も頷きながら呟いた。

「我々では、これくらいしか掴むことができなかったのですが……かの有名なテンプル騎士団の皆様なら、もっと賊に近づく有力な手掛かりを見つけていらっしゃるのでしょうが……」

涼が下手に出てそんなことを言う。

悪そうな顔だと、ニルスは思った。

「うむ、当然である。まず教皇庁保管部は徹底的に調べられたが、今回の件に関わったものはいなかった。だが、保管部長だけは、その前に、グーン大司教によって国外出張に出されており、取り調べることができなかったのだ」

「なるほど。その保管部長は、まだ戻ってこられては……」

「残念ながら、出張先で亡くなった。泊った宿が火事にあってな」

「それはそれは……」

涼は、覚えていた。グーン大司教という名前を。

以前、軍務省交渉官グラディス・オールディスの監視を命じた大司教だ。

グラハムから得た情報によれば。

(確か、カミロ枢機卿子飼いの大司教……)

司祭に案内されて保管庫に入ろうとしていたテンプル騎士団に、涼は思い切って尋ねた。

「バシュレ隊長にお尋ねしたいことがあるのですが」

「む? 何だ? 聞くがよい」

「ありがとうございます。あの、今回、隊長さんたちに命令を下した方がどなたなのかを教えていただけないでしょうか」

涼の質問にギョッとしたのは、尋ねられたテンプル騎士団ではなく、ニルスであった。

その目は、「直接聞くか? そんなこと」と語っている。

「我らに下命されたのは、オスキャル枢機卿猊下である」

「なるほど。もしかして、以前、オンゲ教会にいらした時も、オスキャル枢機卿の命令でしたか?」

「いや、違うな。あの時は、テンプル騎士団本部、つまりガスター騎士団長の指示によるものだ」

「分かりました。教えていただきありがとうございました」

涼は丁寧に頭を下げた。

丁寧に頭を下げられて嫌な気分になる者は、そう多くない。

涼の処世術だ。

そうして、テンプル騎士団第三分遣隊は、保管庫に入っていった。

「彼らを派遣したのは、オスキャル枢機卿でした」

「確か、グラハムさんの前に、使節団の応対責任者だった方だね」

涼が言い、エトが思い出して答えた。

「あ、そうだ」

涼は、エトの方を向いて、ちょっと頬を膨らませて言った。

「エト、さっきはどうして突然、僕に振ったのですか……」

「ああ。リョウは頭の回転が速いから、上手くやれるんじゃないかと思って」

「え? いやあ、それほどでも」

エトの言葉に照れる涼。

「エトさん凄い……」

「リョウがちょろすぎるだけなんじゃ……」

アモンが感心し、ニルスが小さく首を振っている。

エトは無邪気に笑い、涼は照れたまま。

みんな幸せだから、きっとこれでよかったに違いないのだ。

それから一行は、東の街エウロスの第二保管庫、南の街ノトスの第三保管庫を見て回った。

特に新しい発見はなかったが、その二つの保管庫は、最初の第一保管庫と比べて、かなり小さかった。

とは言っても、学校の体育館ほどの大きさはあったのだが……。

そして夕方になったため、西の街ゼピュロスの第四保管庫は明日回ることにし、今日は、南の街ノトスに宿をとった。

宿の食堂で、晩御飯を食べながら、話し合おうということになっていた。

四人とも、真剣にメニュー表を見ながら選んでいる。

選んでいるのだが……涼は、ある一点に目が止まり、そこから動かせなくなっていた。

「カラアゲ……」

その一言を呟いてから、口も動かせなくなっていた。

「リョウさん? どうしました?」

不思議に思ってアモンが声をかける。

涼がメニューを見て止まる、という光景は非常に稀な事だからだ。

「あ、アモン……カラアゲって、知っていますか?」

「カラアゲ? いいえ、聞いたことないですね」

「鶏肉に小麦をまぶして油で揚げるんです……下味をつける場合もありますが」

「難しくはなさそうですけど、中央諸国では聞いたことないですね。美味しいんですかね?」

涼は、『ファイ』に来てから、それなりに多くの料理を食べた。

地球から転生者または転移者によって持ち込まれたのであろうレシピに基づいた物も、けっこうあった。

カレー、ハンバーグ、クレープ、モンブランケーキ……トワイライトランドのラーメン!

だが、唐揚げは食べたことがない。

アモンも言った通り、決して難しい料理ではない。

鶏肉も普通にあるし、小麦粉も普通にある。もちろん、油もある。菜種油か、オリーブオイルか詳しいことは知らないが、中央諸国にもある。

だが、唐揚げは食べたことがない!

「僕は、カラアゲ定食で」

涼が厳かに告げる。

そう、しかも、この宿の食堂で提供しているのは、『定食』なのだ。

カラアゲ単体ではなく……。

少しだけ不安に思いながら、待つ涼。

その間も、他の三人は、今日の振り返りや、明日の予定などを話し合っている。

だが、涼の耳には入ってこない。

それも仕方ないであろう。

『カラアゲ定食』が気になるのだから!

そして、十分後。

「カラアゲ定食、おまちどーさま」

そう言って、店員さんが運んできた料理は……。

一口大の鶏肉の唐揚げが八個!

そして、白いご飯。

何か……スープ?

だが、それはまごうかたなき、唐揚げ定食!

「おぉ……」

思わず、涼の口から漏れる感嘆の声。

「ほぉ、美味そうだな」

「それは、鶏肉?」

「これが、さっき言っていたカラアゲですね?」

ニルスが食指を伸ばそうとし、エトが肉について問い、アモンが唐揚げをインプットする。

涼が、フォークで唐揚げを一つ突き刺す。

溢れる肉汁。

そして、口へ……。

間違いない!

何か、ビネガーなどで下味が少しついているが、間違いなく唐揚げ。

そして。

「美味しい……」

思わず漏れる正直な感想。

「ひ、一つ食べてみたいんだが……」

ニルスが我慢ならんという表情で、唐揚げと涼の顔とを交互に見る。

「どうぞ。エトとアモンも」

涼が言うと、三人とも、一個ずつフォークで突き刺し、食べた。

「美味い!」

「これは……」

「美味しいですね!」

ニルスも、エトも、もちろんアモンも、笑顔!

そう、唐揚げの美味しさは世界を超越する!

その後、『カラアゲ』が単品で追加注文されたのは、言うまでもなかった……。