作品タイトル不明
0388 保管庫
「前回は魔王探しで、今度は魔法使い探しか……」
「ニルスが薄情なセリフを呟いています」
「いや、別に嫌だとか、そういうことは言っていないだろうが」
涼の言葉に、少し慌てたように反論するニルス。
ここは、王国使節団宿舎ラウンジ。
団長ヒュー・マクグラスと涼が持ち帰った『依頼』が、『十号室』と『十一号室』に伝えられていた。
「グラハムが言うには、あの四人には、保管庫から無くなったものを探してもらっていたらしい。聖剣を含めてな。魔法使い四人は、あいつの仲間の中では最高戦力、それですら捕まった可能性が高いとなると、グラハムの配下では助け出すのは難しい……だから、お前たちに依頼したいと。これは教皇庁グラハム枢機卿からの、正式な依頼となる。法国の冒険者ギルドにも、グラハムから通達するそうだ」
ヒューは、グラハムが自分たちで解決しない理由を述べた。
確かに、最高戦力が敵の手に落ちたら、外に助けを求める以外にはない……。
「仮にも勇者パーティーだった連中が捕まるほどの相手……。俺たちで大丈夫か?」
ニルスは、周りを見回して呟く。
「今回は、リョウと『十号室』だけだ。ハロルドたちには別に頼みたいことがある」
ヒューの言葉に、思わず立ち上がるハロルド。
だが、何も言わない。
口答えもしない。
ただ、悔しそうに顔をゆがめる……。
以前だったら、くって掛かっただろう。
それを見て、ニルスが声をかけた。
「ハロルド、お前は成長している」
「ニルスさん……」
「お前にとっては、今、この瞬間も成長の糧になっている。俺たちを見て、学ぶものがあったはずだ。俺たちと離れても、学ぶものがあるはずだ。お前が、今できることをしろ。それに全力を尽くせ。それが成長につながるはずだ。もし、苦しいと思うことがあったら、これまでの経験を思い出せ。お前の 糧(かて) になった経験だ、必ずお前を助けてくれる。もしも、それでも足りない時は、周りを見ろ」
「周り?」
ハロルドは周りを見る。
ジークが頷いている。
ゴワンも双剣の柄を叩く。
「大丈夫だ、お前は一人じゃない」
ニルスは笑顔でそう言った。
翌日。
新たに発行された聖印状を持ち、涼を含めた十号室の四人は、王国使節団宿舎を出発した。
まず向かうのは、最初に襲撃された第一保管庫。
「魔法使い四人と聖剣の探索か。そもそも、その四人が生きているのかも分からんのだよな」
「そう。最悪、四人とも死んでいる可能性は、確かにあるよね」
ニルスが言い、エトが答えた。
「もしや、教皇庁に捕らえられているとか……」
「簡単に探った限りでは、あの四人の反応は見つけられなかったのです」
ニルスの適当推測に、涼が<パッシブソナー>で探った結果を告げる。
ちなみに、ニール・アンダーセンも、初めて見たあの時以外、一度も反応していない。
もちろん、完全に水蒸気のない空間が間にあれば、涼のソナーも反応を拾うことはできない。
真空とか、可能かは分からないが亜空間みたいなものが間にあれば。
「リョウで分からないなら、いないと考えて進めた方がいいね」
エトが一つ頷いて結論付けた。
西方教会の第一から第四までの保管庫は、聖都と東西南北のダンジョンの間、周囲に衛星のように東西南北に配されている街に、置かれている。
北の街ボレアス。第一保管庫。
東の街エウロス。第二保管庫。
南の街ノトス。第三保管庫。
西の街ゼピュロス。第四保管庫。
「聖印状と、グラハム枢機卿の許可証があるから、保管庫の中に入る許可はもらえるんですよね?」
「うん、大丈夫。あ、でも、グラハムさん、最後にちょっとだけ気になることを言ってた……」
アモンの問いに涼は答えたが、思い出したことがあった。
「なんだ、気になる事って?」
ニルスが眉をひそめて涼を見る。
「保管庫から失われた物を探して、教会も動いているって」
「それは当然だろう? 奪われて、はいそのままでとはならんだろう」
「そうなんだけど、乱暴な者もいるので気を付けてと。例えば、テンプル騎士団みたいな」
「マジか……」
涼の情報に、大きくため息をつくニルス。
エトとアモンも、小さく首を振っている。
テンプル騎士団……正直、それほど強いわけではないが、融通が利かなくて面倒なのだ。
まあ、実際には戦ったこともないのだが。
確か最初に会ったのは、ケンタウロスの元から戻ってきたオンゲ教会だった。
「彼らも、誰かの指示で動いているんですよね? グラハム枢機卿以外の誰かの。いったい誰なんでしょう」
「確かに、それは気になるね」
アモンが誰とはなしに問い、エトが頷いて同意する。
「次会ったら、捕まえて聞いてみますか? 僕たちよりも早く探索を開始していますし、何か情報を持っている可能性もありますよね」
「聞きたいのはやまやまだが……簡単には教えてくれないだろう?」
「氷の棺の中にしばらく入ると、けっこう多くの人が 喋(しゃべ) りやすくなるみたいですよ?」
「うん、それは最後の手段な」
涼の提案を、ニルスが却下する。
「でも、指を一本一本斬り落としていく拷問とかは、見ている方もけっこうきますよ?」
「それはちょっと……」
「相手の人も叫ぶでしょう?」
涼が言い、エトが遠慮したい顔をして、アモンが周囲の迷惑を考える。
「いや、まあ、それも確かにあれだが……。ん? 何でリョウは、見ている方もなんて言ったんだ?」
「そりゃあ、拷問吏の役はニルスですから」
「何で俺なんだよ」
「ごつい体格だからです!」
ニルスの問いに、涼はビシッと言ってやった。
涼は、 華奢(きゃしゃ) とは言わないがガタイは凄くない。
エトは神官ということもあって華奢だ。
アモンは剣士であるが、剣士の中ではかなり細い方である。
確かに、ごつい体格なのは、ニルスしかいない。
「……体格で決めるのは、間違っていないか?」
聖都から、各衛星街までは、徒歩でもそれほどかからない。
そのため、一行は、午前中のうちに北の街ボレアスに到着した。
第一保管庫は、ボレアスのほぼ中心にあるボレアス教会の敷地内にあった。
すぐ近くに教会の中心地たる『聖都』があるのだから、ボレアスに教会はいらないだろう、とニルスが言い、涼もそう思ったのだが……。
「熱心な信者は、常に信仰と共にいたいものです。すぐ近くに教会があるのは、ある意味当然なのですよ」
エトが熱っぽく説明する。
信じるものは多少違えども、通じるところがあるのだろう。
だが、ニルスが理解できていないというのは、涼にはバレバレだ。
「リョウも、よく理解できていないだろうが!」
「くっ……なぜばれた」
ニルスだけではなく、涼も理解できていなかった……。
それを見て、エトは苦笑している。
ここで怒ったりしないから、ニルスも涼も救われているのかもしれない……。
「こんにちは、司祭様」
こういう場合、渉外はエトだ。
エトは挨拶をして、聖印状とグラハム枢機卿の許可証を見せる。
司祭はそれを見て、一度、大きく目を見開いた。
だが、すぐに元に戻って、聖印状と許可証をエトに返した。
「確認いたしました。保管庫にご案内いたします」
そう言うと、先に立って歩きだした。
保管庫は、外から見る限り、完全に修復されている。
「 賊(ぞく) は、この入口を破壊して入ったと聞いているのですが」
エトが司祭に問う。
「おっしゃる通りです。入口は、めちゃくちゃに壊されておりました。火属性の魔法だったみたいです。ですが不思議なのは、その時の音を、司祭館にいた誰も聞いていないことなのです。それはもう、めちゃくちゃに壊されておりましたので、誰か起きるとは思うのですが……。お恥ずかしい話、私を含め誰も目を覚まさず」
司祭は顔をしかめながらそう言った。
自らの不手際だと思っているのだろう。
「司祭様、賊はこの手の事に手慣れていた者たちではないかと言われております。どうかご自分を責められませぬよう」
エトがそう言うと、司祭は感謝して頭を下げた。
保管庫の中は、かなり広かった。
『保管庫』という名前からは、広めの倉庫といったイメージを思い浮かべるが、倉庫は倉庫でも、巨大流通業者の倉庫といった感じだろうか。
広い床、高い天井、天井近くまである棚……。
梯子を登って、棚の高い位置にある物は取るらしい。
「これは、すごい規模だな」
「どこに何があるか分からないですね」
ニルスとアモンが、その広さに驚いている。
「壊されていたのは、こちらです」
司祭が案内したのは、倉庫中央付近にある二つの棚であった。
「この二つの 棚(たな) に保管されていた物が、奪われておりました。他の棚もいくつかは倒されていたのですが、この二つの棚は倒されただけではなく奪われ……」
悲しげな顔で司祭は言った。
聞けば、保管庫の管理責任自体は教皇庁が持つらしいが、整理や清掃のために、毎日保管庫に入っていたらしい。
そのため、荒らされた時には心にぽっかり穴が空いたようになってしまったとか。
「どの棚に、何が保管されているとか、そういう記録というのは……」
「記録はボレアス教会には置いてありません。管理責任は教皇庁本庁ですので、教皇庁の保管部にあるだけです」
ニルスの問いに、司祭が答える。
「この棚に何が置いてあるかを知っている方は、ボレアス教会にはいらっしゃらなかったのですね?」
「はい。私などが掃除は行うのですが、宝物の名前や来歴などは全く……」
エトの問いに、司祭が答えた。
((謎は全て解けた! って言いたいけど、言うのを我慢します))
((……なぜ、それを俺に言う?))
((このタイミングで誰かに言っておかないと、後から言っても誰にも信じてもらえません))
((ニルスたちに言えばいいだろう?))
((真面目に頑張っている人の邪魔をしてはいけないと、小さい頃習いました))
((……俺もまじめに頑張っているんだが))
それでも涼の愚痴に付き合ってくれるアベルは、善い奴である。
((それで? どんな謎が解けたんだ?))
((ずばり、犯人は、教皇庁保管部の人間です!))
((……))
((……あれ? アベル? 聞いてますか? 接続、切れちゃいました?))
((聞いてるが……そんな安易な答えでいいのか? そもそも、謎っていうほどのものでもないだろ、その答え))
涼 渾身(こんしん) の推理は、王様のお気に召さなかったようだ。
((アベルも、犯人は一ひねりも二ひねりもした末に全く思いもしなかった奴じゃないとダメだ! っていうミステリー読者なのですか))
((みす……なんとかってのがよく分からんが、そもそも教皇庁だって、保管部の人間は徹底的に調べただろ?))
((う……。き、きっとうまくごまかしたに違いありません))
アベルの追及の前に、涼は劣勢を強いられる。
((異端審問みたいなのがあるのにか? グラハムとか、煙で口を割らせていただろう? あんなのをかいくぐって、うまくごまかすとか、難しくないか?))
((ぐ、グラハムさんが特別なだけです……))
((ほぉ~))
((え、エトの会話も終わりそうなので、今回はこの辺で接続を切ります!))
アベルの攻勢の前に、涼は一時撤退を選択したのだった……。