軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0354 筆頭公爵のお仕事

涼は、聖都に戻る、貸し切り馬車の中にいた。

((いやあ、とても充実した共和国旅行でした))

((そうかそうか、それは良かったな))

涼の嬉しそうな声に対して、アベルの声は重い。

おそらく今日もまた、書類まみれになっているのであろう……。

そんな王様を、涼は憐れに思った。

((アベルも、たまには国内を視察して回ったらどうですか?))

((視察?))

((ええ。三年前に即位してから、一度もそういうので、国内を回ったことないでしょう? 病も癒えたし、アベルが統治している国民の皆さんに、顔見世とかしたらどうですかね。国王陛下と 雖(いえど) も、国民からの人気は 無下(むげ) にしていいものではないですよ?))

涼は、国内視察を提案した。

アベルは、国王になった経緯や、元A級冒険者でもあったことから、国民人気の非常に高い国王だ。

だからこそ、視察で国内をまわれば、国民はより一層喜ぶだろうと、涼は思っている。

為政者(いせいしゃ) は、国民を味方にしておくに越したことはない。

国民を味方にする一番の方法は、好景気の創出。

これはいつの時代、どんな世界においても変わらぬ真実。

国民を味方にする二番目の方法が、為政者の露出。

これは必ず、好景気にした後にやらなければならない。順番が大事。

不景気なままに国民の前に出て行けば……不幸なことになる。

ものすごくぶっちゃけて言うと、歴史学的には、好景気にさえしておけば、国民は国の政治がどうあろうが、どうでもいいのだ……。

政治体制すら、どうであっても、あまり文句は言わない。

「革命? デモ? そんな事して、今より悪くなったらどうするんだ!」

だから、歴史上、優秀な為政者たちは、景気をよくすることに腐心した。

そんなことを考えて、涼は小さく首を振って言った。

((僕は、アベルが、国民に吊し上げられるのは見たくないですからね))

((なんだそれは……))

((敗戦後は別として、普通、戦後や内戦後の国の復興期というのは、よほど変なことをしない限り、景気は良くなっていくものなので、きっとアベルの身は無事でしょう))

((お、おう……))

『魂の響』の接続を切ったアベルの元を、アレクシス・ハインライン侯爵が訪れた。

そして定時報告。

「以上が、本日のご報告となります」

「ああ。ありがとう」

アベルはそう言うと、少しだけ考えるような表情になった後、口を開いた。

「アレクシス、以前提案のあった国内視察の件だが……行くことにした」

その言葉を聞いて、ハインライン侯は少し驚いて目を開いた。

以前、ハインライン侯が提案したのは事実だが、忙しいアベルは首を縦に振らないだろうと思っていたからだ。

実際、提案した時には、一言「無理」と言ったのだし……。

「かしこまりました。陛下、何ゆえ心変わりを?」

「ああ……。さっき、リョウに言われてな。一度くらい国内を視察して回れと。国王と雖も、国民からの人気は無下にするなと……」

「なるほど。さすがはロンド公爵」

ハインライン侯はそう言うと、大きく頷いた。

なぜかハインライン侯は、涼を高く評価している。

「とはいえ、王国全土を回る余裕はさすがにない」

「おっしゃる通りです。回るべき地方は、すでにお考えがおありのようで」

「北部と東部だろうな、普通に考えて」

王国北部の貴族は、その多くが王弟レイモンド側について、取り潰しになった。

それらの領地はいったん王室管理となり、解放戦の論功行賞で、功のあった貴族たちに分け与えられたり、あるいは新たに貴族に取り立てた者を北部に入れたりしている。

そのため、南部、西部に本拠地のある貴族の飛び地が、北部にはそれなりに生まれていた。

また、新たに貴族となって北部に領地を持った者たちも、まだ三年しか経っていないため、確固とした地位とはとても言えない状態だ。

北部は、当然、さらに北にある帝国と境を接しているため、 一朝(いっちょう) 事が起きると最前線となる。

その防衛は、王室だけでは不可能。

そのため、貴族たちを配置し、王国の守りとしたいのだ。

だが、誰でもいいわけではない。

解放戦の時のように、裏切る者は困る……。

新たな北部貴族の定着、並びに王室直轄領の視察……。

そのため北部。

そして東部。

解放戦前の東部動乱中、かなりの貴族家が断絶、あるいは力を失った。

ここでいう力とは、軍事力や経済力だ。

騎士団が壊滅し、商会、工房などが打ち壊され、農民たちも疲弊した。

最近になって、ようやく、東部貴族の中心たるシュールズベリー公爵家の、アーウィン・オルティスが東部に戻った。

まさに、これからさらなる復興をしていこうという、 狼煙(のろし) になったのではないかとアベルは思っている。

それを後押しできれば……。

国王陛下も、いろいろ考えているのだ。