軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0323 <<幕間>> ワルキューレ騎士団

「う~む、さすがシルバーデール騎士団。見事なものね」

「確かにそうだが……感心してばかりというのも」

「そうは言っても、さすが伝統があるわ。解放戦の時、あれが敵に回らなかったのは、本当に良かったわよね」

ここは、王都中央演習場。

王室関連の騎士団、魔法団、あるいは貴族の騎士団などが、訓練に使用することができる、巨大演習場。

王都外にも、四つの巨大な演習場があるが、この中央演習場は、国王などが 閲兵(えっぺい) を行う際に、よく利用される。

王国解放戦で、レイモンド側について取り潰された貴族たちの館などがあった場所を、王室が接収した跡地に建てられた、新設の演習場ということもあり、最新の錬金術による設備がふんだんに盛り込まれている……らしい。

現在、その中央演習場で演習を行っているのが、シルバーデール公爵家のシルバーデール騎士団。

王都のある王国中央部に領地を持つ公爵家で、王国でも屈指の武家として知られる。

王国解放戦時は、王城に詰めていた当主ローソンが監禁されたため、本来ならレイモンド側につくはずであった。

王弟レイモンドも、強力なシルバーデール騎士団の戦力をあてにしていたとも言われていたが、騎士団全てが忽然と姿を消したのだ。

シルバーデールの領地はもちろん、王都周辺にもいなくなっていた。

シルバーデール騎士団員数は、当時三百人ほどと、決して多くはなかった。

だが、その強力無比ともいわれる突撃、騎射、さらに下馬騎士としての技量において、かつての全盛期の王国騎士団並みとすら言われていた。

それを戦力に組み込むことができなかったと知った時、レイモンドは手に持った杯を投げつけたとか……。

報告を聞いた時、当主ローソンは 呵々(かか) と大笑したとか……。

自らの命を失うかもしれぬのに、大笑したその逸話は、戦後、王都でもよく知られた話となった。

噂では、消えたシルバーデール騎士団は、西部に隠れ、東部ウイングストン奪還の際に陰ながら協力したと言われている。

ウイングストンは、伝統的にシルバーデール騎士団の東部での逗留地で、その地理に詳しいために、そんな噂が立ったのだ。

それは事実ではあったが、シルバーデール騎士団はそのことを誇ったりはしない。

むしろ、アベル王の元に参陣できなかったことを、恥じたと言われる。

当主が監禁されていたために、仕方ないのだが……。

そんなシルバーデール騎士団の演習を見ているのは、ワルキューレ騎士団団長イモージェンと、副団長カミラ。

元王都所属C級パーティー『ワルキューレ』の冒険者だったイモージェンたちだ。

彼女らは、王国解放戦後、新たに編成された女性だけの騎士団の中核となっていた。

当時は、正式名称は未定で、通称としてワルキューレ騎士団と呼ばれていたが、現在では正式名称となっている。

そのワルキューレ騎士団は、正式に王妃直下の騎士団。

三年を経て、騎士団員数は五百人。

ワルキューレ騎士団は、その中に『魔法隊』『斥候隊』『救護隊』を含み、騎士団のみで、独立した作戦行動が可能だ。

そのため、五百人全員が騎士というわけではもちろんない。

それでも、四百人の騎士を抱える。

だが……。

「はっきり言って、まだうちでは、この三百人にも勝てないわね」

イモージェンはそう呟いた。

目の前で演習を行っているシルバーデール騎士団は、半数。

戦後、六百人にまで増えたシルバーデール騎士団の半分なのだが、それを相手にしても、ワルキューレ騎士団五百人は勝てない。

現在の、団長イモージェンの認識であった。

「まだまだ鍛えないと……」

副団長カミラも同じ感想を抱いたのであろう。

頷いてそう答えた。

「フェイス殿も、見事な指揮ね」

シルバーデール騎士団を率いる、銀髪の麗人の指揮を称賛するイモージェン。

「あれで、まだ十九歳だろう? さすが武門の名家。小さい頃からいろいろ鍛えられてきたのだろう」

カミラは頷きながら答えた。

他の騎士団の演習を見るたびにイモージェンは思い知らされる。

自分の、経験の無さを。

特に、集団戦における指揮経験の無さを。

そのため、できる限りの演習を繰り返しているのだが……。

経験は、一朝一夕で得られるものではない。

パーティーレベルでの戦闘なら自信はある。

あるいは、三パーティー程度の連携なら問題ないであろう。

だが、だからこそ、数十人、数百人を指揮した場合とのギャップに悩まされるのだ。

「焦ることはない。俺も、未だに集団戦の指揮は苦手だ」……そう言って、大笑いする主の顔が何度も思い出される。

「陛下……」

イモージェンは俯かない。

決然として顔を上げ、自分にないものを理解する。

素直に認め、自分に不足するものを受け入れる。

進むべき道を見定め、自分と仲間を信じる。

彼女には、信じるに足る仲間たちがいる。

だから、大丈夫!

翌日、ワルキューレ騎士団の一部が、演習に出発した。

騎士団の中でも、中堅クラスとも言うべき者たちだ。

騎士五十人、魔法使い十人、斥候五人、救護五人。総計七十人。

率いるのは、団長イモージェン。

魔法隊長ミュー並びに、斥候隊長アビゲイルが補佐する。

副団長カミラと救護隊長スカーレットは王都にとどまる。

演習の目的は、全体行動の習熟度を上げること。

王国南部に赴き、大型の森の魔物を討伐することも計画されていた。

訓練のため、夜は全て夜営。

さすがに、この辺りで文句を言う者などいない。

王妃直下の騎士団とはいえ、大貴族の子女はいない。ミュー以外には。

半数は平民出身であり、残りの半数も、子爵以下の家の、次女、三女がほとんどだ。

彼女たちは、厳しい訓練に音を上げずに逃げ出さなかった者たち。

その過酷な訓練は、王国騎士団からサポートに来ていた、ザックやスコッティーすらも、冷や汗を流すものであった。

それも当然であったろう。

そもそも、中核となる五人は、C級冒険者なのだ。

それも、多くの修羅場を潜り抜けてきた有名な!

彼女らが課す訓練なのだから、生半可なわけがない。

生死に関わる場面も出てくる。ぬるい訓練など意味がない。

そんな訓練に耐え抜いた者たち……それがワルキューレ騎士団。

イモージェンは、まだまだ満足していないが、王国内の他の領騎士団と比べても、決して弱くはない。

わずか三年でここまで来たと考えれば、高く評価されてしかるべきであろう。

それほどに、高い練度に達していた。

通常なら、七日かかる旅程を、騎士団は五日で踏破し、ルンの街に到着した。

ルンの街では、さすがに領主館に逗留する。

精鋭と名高いルン辺境伯領騎士団から学ぶものが多いだろうと考えての事であり、王妃直下の騎士団として、南部の要の一つ、ルンとの結びつきは大切でもあったからだ。

もちろん、現在の国王アベル一世も、王妃リーヒャも、長くこのルンに拠点を置いて冒険者としての活動を行っていたため、未だに非常に強い結びつきなのであるが。

その証拠に、ルンの街の広場には、国王アベル一世の出陣式での演説像が飾られ、未だに、毎日花が置かれていたりする……。

「イモージェン団長、ようこそおいでくださった」

「アルフォンソ殿、お久しぶりです」

そう言うと、二人は握手を交わした。

アルフォンソ・スピナゾーラは、正式にルン辺境伯となっていた。

先代領主カルメーロ・スピナゾーラは隠棲し、領主館とは少し離れた場所に屋敷を構え、余生を送っている。

「今回、我が騎士団との模擬戦も組まれておりますな。楽しみにしておりますぞ」

「ネヴィル団長、胸をお借りいたします」

ルン辺境伯領騎士団団長ネヴィル・ブラックも、イモージェンと握手を交わした。

翌日夕方。模擬戦後。

「驚くほど強かった……」

「まさか、騎士団全員が魔法を『斬れる』のは想定外……」

「斥候は暇だったよ?」

団長イモージェンが素直な感想を述べ、魔法隊長ミューがルン騎士団との模擬戦の内容に驚き、斥候なために仕事の無かった斥候隊長アビゲイルが余計なことを言う。

「強かったろう?」

突然、後ろから声かけられ、三人は驚いて飛び上がった。

「ネヴィル殿!」

「いや、すまん……そこまで驚かれるとは……」

あまりの三人の驚きに、ネヴィル・ブラックの方が驚いていた。

「ああ、いえ……模擬戦、ありがとうございました」

「いやいや。こう言うと、上から目線と思われるかもしれんが、あまり肩を落とさぬことだ」

イモージェンが、感謝を述べ、ネヴィルが苦笑しながら言う。

それほどに、差があった。

はっきり言って、今まで見てきた、どの王国内の騎士団よりも……強い。

「攻撃魔法を剣で斬るのは、C級冒険者でもかなりの腕を持った者たちでなければできませんが……ルン騎士団は、全員が可能なのですか?」

魔法隊長ミューが尋ねる。

「ああ。基本的には全員できる。とはいえ、経験年数が少ない奴らは危なっかしいが……三年以上前からいる奴らは、全員できる。そう鍛えられたからな」

ネヴィルは、何事か思い出しながら答えた。

「一対一の剣戟も、全員が自信を持っていました。私の相手をした方ですらも、全く 怯(ひる) まなかった……」

イモージェンが言う。

イモージェンもルン騎士団員と戦闘し、最終的には倒したのだが、相手は全く怯まなかったのだ。

「あれは、ナッシュだったか? あいつは五年目だからな。あの辺の奴らは、知っているんだ……」

「知っている?」

ネヴィルの言葉に、首を傾げて問いかけるイモージェン。

「剣士同士の、最高の剣戟を知っているんだ。そいつらに鍛えられた。そんな化物たちに鍛えられたのだから、申し訳ないが相手に対して怯むなどということはない。当然、俺を相手にしても全く怯まない」

ネヴィルは苦笑して言う。

「最高の剣戟……」

イモージェンは呟いた。

「今は一人だけだが、かつて、ルン騎士団には、二人目の剣術指南役がいた。一人はエルフ。もう一人は魔法使い。笑える話だが、魔法使いのくせにとんでもない剣を使いやがる。その二人の剣戟が、毎日のように演習場で繰り広げられた。俺も見に行ったよ。そして魅せられた。そりゃあ魅せられるさ、この世のものとは思えない剣……そんな剣の使い手が二人、目の前で戦っているんだぜ? もちろん、やってることの半分も理解はできんが、そんなことは関係ない。魅せられ、憧れ、少しでも近づきたいと思う……。枯れてしまった俺ですらそう思ったんだから、現役の連中の受けた衝撃は想像を絶するだろう? しかも、そんな奴らが稽古をつけてくれるとなれば……わかるだろ?」

そう語るネヴィルの言葉は熱かった。

誰あろう、ネヴィル自身も、魅せられた一人だったから……。

「そんな奴らに鍛えられたんだ……悪いが、うちの団員は、王国最強だ」

団長ネヴィル・ブラックは、はっきりとそう言い切った。

「失礼ですが、ネヴィル殿。そのお二人というのは……」

イモージェンが問う。

「一人は、B級冒険者、エルフのセーラ殿。今は、西の森の次期代表で、王国におけるエルフの代表格だ」

「なるほど……。お名前だけですが、セーラ殿は存じ上げております」

イモージェンは頷いた。

西の森における防衛戦の物語は、吟遊詩人たちが、こぞって歌う定番物語となっている。

「もう一人は?」

イモージェンは再び問うた。

「もう一人は、C級冒険者、水属性の魔法使い。アベル王の親友にして、王国の筆頭公爵。その強力無比な水属性魔法から、ついた二つ名が白銀公爵、あるいは氷瀑……」

「それって……」

「ああ。ロンド公爵、リョウ殿だ」