軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0322 過ち

ケンタウロスの元を辞した探索一行は、三日かけてアリエプローグ北方国最北の街、オンゲに戻った。

途中、今回は赤熊には出会わなかった。

向こうが、避けたのかもしれない。

だが、ハーピーには再び襲われた。

再び、アイスウォールで身を守ったわけだが。

馬車を預けたのはオンゲ教会。

涼が氷漬けにして、悪さをされないようにした馬車の周りには、騎士風の男たちがたむろっていた。

「来たぞ!」

男たちの一人が叫ぶと、辺りから、わらわらと騎士風の男たちが集まってくる。

かなり遠くに、震えながらこちらを見ている、オンゲ教会の司祭と助祭たちがいる。

何やら、こちらを見て何度も頭を下げている。謝っているようだ。

騎士風の男らは、怖い人たちらしい……。

男たちのリーダーと思われる人物が前に出てきて名乗った。

「我らはテンプル騎士団。私は、第三分遣隊隊長のアンドレ・ド・バシュレである」

(テンプル騎士団!)

名乗りを受けて、心の中で歓喜する一人の水属性の魔法使い。

テンプル騎士団……同名の騎士団が、地球の歴史上に存在する。

地球のテンプル騎士団は、第一次十字軍の後、1119年、エルサレムへの巡礼者たちを保護するために設立された。

その後、テンプル騎士団に寄進された土地など、資産は莫大な額となる。

12世紀から13世紀にかけては、ヨーロッパにおける国際金融業務を行い、各国王室は元より、教皇庁も口座を開設するほどの権勢を誇った。

だが、最後は、その莫大な騎士団の財産を手中に収めようとしたフランス王フィリップ四世によって、騎士団自体が異端審問にかけられ、壊滅した騎士団である。

涼は頭の中で、そんな歴史を思い出していた。

そのため少しだけ、ニヤニヤしていたかもしれない。

それを横目で見ていたニルスが、

「またリョウがよからぬことを……」

と呟いたのは、言うまでもない。

エトが前に出て答える。

「そのテンプル騎士団の皆様が、いったい何の御用でしょうか」

答え方は 慇懃(いんぎん) であるが、目にも言葉にも力がこもっている。

普段は優しくおとなしい、神官のエトであるが、三年間の冒険者生活、そして神官としてB級冒険者にまで上がった実力は伊達ではない。

それは、同時に神に仕える者としての実力であり、騎士でありながら教会に身を置く聖職者の側面も持っているテンプル騎士団の団員達も、十分に感じられるものであった。

だが、隊長アンドレ・ド・バシュレは言い放つ。

「お前たちが手に入れた、魔王に関する情報を渡してもらおう」

「お断りします」

エトは間髪を容れずに言い放った。

「なっ……」

さすがに、ここまではっきりと断るとは思っていなかったのであろう。

隊長アンドレは絶句する。

エトの、聖職者としてのオーラとも言うべきものに押されていた団員たちも我に返り、怒気をはらんでいく。

「貴様……我らを怒らせるとどうなるか分かっているのだろうな」

そう言って、隊長アンドレは一歩踏み出し……。

「ぐおっ」

滑って転んだ。

あまりの事に、誰も言葉を発さない。

だが、ジークは、一瞬で、何が起きたのか……いや、誰が何をしたのかを理解した。

そして、傍らの涼をちらりと見る。

ほとんど同時に、ニルス、エト、アモンも理解していた。

だが、涼を見たりはしない。

小さくため息をついただけだ。

「この……」

そう言いながら立ち上がろうとしたアンドレは……。

「うおっ」

再び滑って転んだ。

「おのれ……」

それを見て一斉に走り出した二十人の団員……全員が滑って転んだ。

その光景は、なかなかに壮観であった……。

そして、全員が、立ち上がろうとした瞬間に再び滑って転ぶ……。

彼らにとっての悪夢が、始まった。

ジークは、傍らの涼の様子をチラチラと見ていたが、涼はいつも通りの表情。いつも通りの様子。

まさか、魔法を生成しているなど、誰にも分からない……。

それほどに自然。

二十一人全員に、立ち上がる瞬間のみ、その体重をかけた側の足下にだけ<アイスバーン>を生成する。

立ち上がろうとするタイミングはもちろんバラバラであり、全員の状況をリアルタイムでとらえて、瞬間的な魔法の生成。

それは、驚くほど精緻な魔法制御。

驚くほど、バカバカしい状況を生じさせているのだが……。

それを支える技術は、精密さの極致。

何事か理解していないハロルドとゴワンは、最初は震えていたが、ニルスたちがいつも通りなのを見て、ようやく理解した。

涼が何かやっているのだと。

そして、ジークを見た。

ジークは無言のまま頷く。

彼らも、何も言わず、見続けることにした。

しばらくその光景が続く中、エトがテンプル騎士団の向こう側で、身を寄せ合っていたオンゲ教会の司祭と助祭の元に歩いていき、声をかけた。

「司祭様、それでは我々はお暇致します」

「え……あ、はい……。あの、この……騎士団の皆様は……」

エトの言葉に、司祭は常識的な疑問を投げかける。

「ええ……何かよく分かりませんが……病か、あるいは呪いか……。もしかしたら、数時間もすれば回復するかもしれませんが、私のような低位の神官ではどうしようもありません。もし近くに大きな街があり、そちらに高位の聖職者の方がいらっしゃるのなら、お呼びになってはいかがでしょうか?」

「な、なるほど……。隣のデューンの街に、司教様がいらっしゃいます。すぐ私が呼んで……アンドレ殿、司教様を呼んできますからお待ちください!」

司祭が大声でそう呼びかけると、滑り続ける隊長アンドレは、頷きながら、手を「行ってこい」と振った。

助祭に、一行の馬を準備するように言うと、司祭はすぐに司祭馬車に乗って、街の外に走り出した。

その頃には、滑り続けた騎士たちは、起き上がるのを諦めていた。

司教が来るのを待つ。

すでに、これは、超常の現象であり、司教にどうにかしてもらうしかないと受け入れたようだ。

テンプル騎士団が、起き上がるのを諦めたのを確認して、十号室と十一号室の探索一行は、オンゲの街を出発した。

馬車の中。

「実にスマートに、問題は解決されました」

涼のその言葉に、ニルスが小さく首を振った。

エトとアモンは苦笑した。

ハロルドとゴワンは、顔を見合わせた。

そしてジークは……。

「リョウさん、もしかしてリョウさんは、以前、王都の『カフェ・ド・ショコラ』で、我々を転ばせようとしませんでしたか?」

驚くほど直接的な質問をした。

そのあまりに直接的な質問に、涼が一番驚いた。

「さて、何の事だかわかりません」

「あの……」

はぐらかす涼に、ジークが言い募る……それを、機先を制して遮る。

「もしかしたら、俺はC級冒険者だぞ! それに将来は公爵位も継ぐ! こんな店、何とでもできるんだぞ! とか言った冒険者がいたりしたら、転ばせようとするかもしれませんね」

「え……」

ジークは絶句し、ハロルドは顔を真っ赤にした。

知られたくない過去を、尊敬する人に知られれば顔も真っ赤になろうというものだ。

それを聞き、小さく首を振るニルス。

今まで以上の苦笑いを浮かべるエトとアモン。

「はい……あれは、俺が間違っていました」

小さな、本当に小さな声であるが、ハロルドは自らの非を認めた。

あの頃に比べて、いろいろと成長したのだ。

初めて出会った時は、とっても嫌な奴だと涼は思っていたが、その後の成長は認めている。

もちろん、非を認め、成長したからといって、過去の過ちが消えてなくなることはない。

だが、過ちを認めない者よりは、過ちを認める者の方が、はるかにましな人間だろう……そう思ってはいる。

「ハロルド。もし、無事に王都に戻ることが出来たら、迷惑をかけた『カフェ・ド・ショコラ』の店員さんたちにも、きちんと謝罪してください」

「はい……」

涼が、とてもまともなことを言い、ハロルドが頷き、一行は納得した。

過ちを認め、それでも進んでいく。

それが、人としての器を大きくしていく方法なのかもしれない。