作品タイトル不明
0265 平和と特権
大海嘯後の、ギルド食堂食べ放題を堪能し、涼は翌朝、ギルド馬車で王都に向かった。
貴重な、ルン冒険者ギルドのギルド馬車の使用許可が下りたのは、大海嘯での頑張りを評価されたかららしい……。
そこは、頑張ったかいがあったと、涼は喜び、貸し切り状態となったギルド馬車の中で眠り続けた。
昨晩は、明け方まで食べ続けていたので……。
翌日昼過ぎ、無事王都に到着して、そのまま王城図書館に行き、長らく借りていた『錬金術 その未来と展望 ~生活の全てに錬金を~』を返却した。
その際、司書長のガスパルニーニさんが、泣きそうな表情で……というか、少し泣きながら何度も頭を下げて感謝していたのが印象的であった。
涼は心に固く誓った。
借りた物は返さなければいけないと。
そうしないと、司書長さんのような善い人を泣かせることになるから……。
そして、王城の離れ。
国王アベル一世は、ベッドにいなかった……。
離れの中庭で、剣を振っていた。
「アベル……病み上がりなのですから、無理をしてはいけません」
「おう、リョウ。なんか、久しぶりだな。何してたんだ?」
「世界を、破滅から救っていました」
「お、おう……」
また、涼が何か意味が分からないことを言っている……アベルはそう思ったが、あえてそこはつっこまなかった。
どうせ、錬金術の本にのめり込んでいたか、美味しい食べ物にのめり込んでいたか……その辺だろうと勝手に判断したのだ。
涼は不憫な男であった。
剣を振り終えて執務室に戻ったアベルの元に、宰相ハインライン侯爵がやって来た。
なにやら報告があるらしい。
「陛下、一昨日、ルンの街で三年ぶりの大海嘯が発生し……」
そこまで言って、侯爵は、部屋に涼がいることに気付いた。
「大海嘯か、なつかしいな。今回の種類と規模は? そういえば、ルンの街の冒険者は、B級が少ないだろう、大丈夫だったか? いや、今頃の報告という事は、問題なかったからだよな」
アベルの立て続けの質問に、侯爵は意識を元に戻して答える。
「あ、はい……今回はオーガで、五千体。ルン所属のB級パーティーは、デロング率いる『コーヒーメーカー』のみです。さらに間の悪いことに、ワイバーン討伐に駆り出され……」
「そういえば、そんな報告があったな! ワイバーン二体だろ? ん? そうなると、C級以上の冒険者は、ほぼいなくなるんじゃ……」
そこまで言って、アベルの表情はだんだん厳しくなっていった。
ワイバーン討伐の難しさは理解している。
冒険者時代に、何度も経験があるから。
そして、大海嘯も経験している……しかも今回発生したのはオーガ……矢が皮膚で弾かれる!
「ルン騎士団でも厳しいだろう? 犠牲がかなり出たのではないか?」
「いえ、それが……」
ハインライン侯爵は、チラリと涼の方を見る。
涼は、返すと同時に新たに借りてきた錬金術の本を、ソファーにぬべ~っと寝転がって読んでいる……報告も聞いていなさそうだ。
「被害はゼロ。午後三時に発生し、同日午後七時過ぎに、率いていたオーガキングの討伐を完了したとのことです」
「被害ゼロか! 今のギルドマスターはラーだよな。スーのサポート能力も高いからな……なかなかやるじゃないか。いや、ルン騎士団が鍛えられているからか。まあ、どちらにしろよくやった……が……ん? 待てよ? オーガの皮膚は矢が通らんだろう? それなのに被害ゼロというのは、どういうことだ?」
アベルがそう言うと、再びハインライン侯爵は、ソファーを占拠している涼を、再びチラリと見て答えた。
「はい、実は、オーガキング以外は魔法で……」
「そうか! 魔法か。……魔法? 五千体のオーガを? え? ……あ、うん、ハインライン侯、いちおう聞くが、その魔法というのは、誰が?」
アベルはそう問いながらも、すでに視線は、ソファーにぬべ~っと寝転がっている水属性の魔法使いに向いている。
「はい、陛下のご推察の通り、ロンド公爵です」
「お前か~!」
「はい?」
アベルが叫び、涼は、自分の名前が呼ばれたらしいので反応した。
そして、なぜか自分が話題の中心になっていることに気付いた。
「リョウがここ五日ほどいなかったのは、ルンの街に行っていたのか?」
「ええ。あ、でも、決して、借りっぱなしにしていた王城図書館の本を、ルンの家に取りに行っていたとか、そういうことではないですよ?」
「うん……なんでその時、ルンにいたかはわかった……。まあ、よくやった……」
アベルは少し疲れた表情で、そう言った。
「アベル、本当に褒めてます?」
「どういう意味だ?」
「本当にそう思っているのなら、感謝の気持ちを示すのに、言葉だけでは足りませんよ!」
「言葉だけじゃなくて、何ならいいんだ?」
「決まっているじゃないですか、特権をください、特権を」
筆頭公爵が国王に対して、『特権』を要求する図……それを見て、宰相たるハインライン侯爵は眉をひそめた。
国の秩序を考えた時、あまりいいことだとは思えなかったからだ。
だが、当のアベル王は真剣みの無い表情で涼に尋ねる。
「どんな特権が欲しいんだ?」
「もちろん、月一のケーキ特権です!」
「うん、許可する」
「やったー!」
疲れた表情で、うんうん頷いているアベル。ガッツポーズを繰り返して喜ぶ涼。
そして、理解がついていかないハインライン侯爵。
「え? ケーキ? 何ですかその特権……」
今日も王国中枢は平和であった。