軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第37話「初めての旅商人」

その日の午後、僕はルカとリリィと一緒に、村の広場で遊んでいた。

と言っても、ルカみたいに走り回っているわけじゃない。広場の隅にある大きな木の根元に座って、二人が遊んでいるのをぼーっと眺めているだけだ。

「メル!こっち来て、一緒に鬼ごっこしようぜ!」

「もう、ルカったら。メル様は、静かに過ごすのがお好きなのよ」

ルカとリリィの、いつも通りのやり取り。

うん、平和だなあ。

僕が、そろそろお昼寝の体勢に入ろうかと思っていた、その時だった。

村の入り口の方から、一台の馬車がやってくるのが見えた。

お屋敷の馬車や、村の荷馬車とは違う、幌のついた、旅慣れた感じの馬車だ。

「ん?なんだ、あれ?」

「旅の人かな?珍しいわね、この時期に」

リリィが不思議そうに首をかしげる。

馬車は、村の入り口近くにゆっくりと停まると、御者台から、一人の陽気そうな男の人がひらりと飛び降りてきた。

「いやあ、驚いた!こいつは驚いたぜ!」

男の人は、馬車から降りるなり、地面を何度も足で踏みしめて、大声で叫んだ。

「なんだい、あんた。そんなに大声出して。何かあったのかい?」

近くで畑仕事をしていた村のおじさんが、不思議そうな顔で声をかける。

「おっと、こいつは失礼!だってよ、旦那!この道だよ、この道!半年前に通った時は、雨が降ったら泥沼になる、ただの土の道だったじゃねえか!それがどうだ!今じゃ、こんなに綺麗に石が敷き詰められてる!俺の馬車も、全然揺れなかったぜ!」

男の人は、まるで宝物でも見つけたかのように、興奮して石畳を指さした。

ああ、父様たちが作っていた、あの道のことか。

「へっへっへ。だろう?こいつは、俺たちの自慢の道でな。うちの領主様と、そのご子息のメルヴィン様が、考えてくださったんだ!」

おじさんが、自分のことのように、得意げに胸を張る。

それを聞いて、旅の男の人は、さらに目を丸くしていた。

『ナビ、あの人、誰だろう?』

《声紋、及び服装のデータベースと照合。近隣の町を巡回している、旅商人のヨナス氏である可能性が95%です》

へえ、商人さんか。

「いやあ、腹が減った!腹が減ったぞ!噂のサンドイッチとやらを、俺にも食わせてくれ!」

旅商人らしいヨナスさんは、村の食堂に駆け込むなり、そう大声で注文した。

僕たちも、ちょうどお腹が空いてきたところだったので、その後をついていく。

「へい、お待ちどう!うちの村の新名物、トマトとキュウリのサンドイッチだよ!」

食堂のおばちゃんが、元気よく運んできたサンドイッチ。

ヨナスさんは、その見た目の美しさに「おおっ」と声を上げると、大きな口でがぶりと噛みついた。

「ん!んんんー!なんだこりゃあ!パンの塩気と、野菜の酸味、そしてこの不思議な白いソースのまろやかさ!口の中で、美味いもんが祭りを開いてるみてえだ!」

ヨナスさんの、あまりにも大げさな食レポ。

ルカが、くすくすと笑っている。

「このおっちゃん、面白いな!」

「しっ、ルカ!聞こえるでしょ!」

でも、それを見ていた周りの村人たちは、嬉しそうに笑っていた。

「だろう?兄ちゃん!そいつは、うちの料理長が考えた、特別なソースを使ってるんだ!」

「その野菜も、メルヴィン坊ちゃまが見つけた、特別な畑で採れたもんなんだぜ!」

「メルヴィン坊ちゃま……?さっきも聞いた名前だな。一体、何者なんだ……?」

ヨナスさんは、サンドイッチを夢中で頬張りながら、不思議そうに首をかしげていた。

お腹いっぱいになったヨナスさんは、次に村の雑貨屋へと向かった。

僕たちも、何だか面白くて、こっそり後をついていく。

「おや、なんだい、このいい匂いは?」

ヨナスさんが、店先に積まれていた、四角い塊を手に取った。

僕がリディアと一緒に作った、フェリスハーブ入りの石鹸だ。

「へえ、石鹸かい。おっと、こっちには液体のもあるのか。髪を洗うための、特別なやつ?」

彼は、シャンプーの瓶の匂いを嗅ぐと、またしても目を丸くした。

「なんだこの、爽やかで、心が落ち着くような香りは!王都で売ってる、高い香水よりもずっといいじゃねえか!」

雑貨屋のおじさんは、にこにこしながら説明している。

「へへ、そいつは、うちの奥様方にも大人気でしてね。なんでも、メルヴィン様が、メイドさんたちのために考えてくださったものだとか」

「またメルヴィン様か!一体、どうなってやがるんだ、この領地は!?」

ヨナスさんは、石鹸とシャンプーを、見たこともないくらいの勢いで買い占めていた。

そして、興奮した様子で、雑貨屋のおじさんの肩をがしりと掴んだ。

「旦那!頼む!この領地の領主様、フェリスウェル卿に会わせてくれねえか!このヨナス、商人の血が騒いで、もう我慢がならねえんだ!」

雑貨屋のおじさんは、ヨナスさんの勢いに少しだけたじろぎながらも、にやりと笑うと、店の入り口の方へ、そっと目配せした。

「へっへっへ。兄ちゃん、あんた、とんでもなく運がいいぜ」

「へ?」

「実は…あそこにこっそり隠れてるつもりの、あの子が、何を隠そう、領主様のご子息、メルヴィン坊ちゃまだ」

おじさんが指さした先には、物陰からひょっこりと顔を出している、僕と、ルカと、リリィの三人の姿。

「はぁ!?あの坊ちゃんが!?道のことから、サンドイッチから、石鹸まで、全部この坊ちゃんが!?」

ヨナスさんは、信じられないという顔で、僕たちのことを指さして固まっている。

『うわ、見つかった』

《はい。あなたのステルス行動は、完全に看破されました》

僕は、心の中でナビと会話しながら、深いため息をついた。

どうやら、僕の平和な午後は、ここで終わりのようだ。

次の瞬間、ヨナスさんは、目をキラキラさせながら、僕たちの方へ駆け寄ってきた。

そのすごい勢いに、僕は思わず一歩、後ずさってしまう。

「坊ちゃま!お願いです!どうか、あなた様のお父君に、このヨナスを!」

「わ、分かった!分かったから、少しだけ落ち着いて!」

僕は、必死に両手をぱたぱたと振って、彼をなだめようとする。

『ナビ、どうしよう!?この人、すごく勢いがすごい!』

心の中で、僕はナビに助けを求めた。

《対象人物ヨナスは、現在、極度の興奮状態にあります。ですが、彼の要求は、当領地にとって有益な経済活動に繋がる可能性が極めて高い。ここは穏便に、彼の要求を受け入れるのが最善策です》

僕は、ナビの冷静な言葉に一つ頷くと、改めてヨナスさんに向き直った。

「……分かったよ。父様のところに、案内するからついてきて」