軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第16話「新しい名物」

イリ姉との、あの奇妙な特訓から数日後。

僕は、久しぶりに村へ散歩に行くことにした。

お目当ては、村で唯一の食堂だ。

なんでも、僕が教えたマヨネーズとケチャップを使った新しい料理が、村で大人気になっているらしい。

自分のアイデアがどうなっているのか、少しだけ気になったのだ。

「坊ちゃま、本日は私がお供させていただきます」

そう言って僕の隣を歩くのは、メイドのソフィアだ。

彼女は、庭の手入れや屋敷の外回りを担当していて、村の事情にも詳しい。

「ソフィア、食堂は人気なの?」

「はい!それはもう、大変な騒ぎでございますよ。ヒューゴ様が考案された『サンドイッチ』という新しい料理が、村の名物になっておりまして」

「サンドイッチ」

『ナビ、僕の考えたやつだね』

《はい。あなたの提供したレシピ情報に基づき、ヒューゴ氏が開発した携帯食料ですね。商業的成功を収めている模様です》

僕とナビがそんな会話をしている間にも、僕たちは村の中心へとたどり着いた。

食堂の前まで来ると、僕はその光景に目を丸くした。

以前は、お昼時でもちらほらとしか人がいなかったはずの食堂に、なんと、行列ができているのだ。

「おーい、親父!サンドイッチ、まだあるかい!?」

「すまんなあ、もうパンが切れちまって!今、パン屋に大至急焼いてもらってるところだ!」

「まあ、すごい人気なのねえ。私たちも並びましょうか」

食堂の中も外も、たくさんの村人たちでごった返している。

その誰もが、パンに具材を挟んだ、あの新しい料理を美味しそうに頬張っていた。

僕が、その様子をぽかんと眺めていると、食堂の中から、料理長のヒューゴが出てきた。

「おお!メルヴィン坊ちゃま!よくぞおいでくださいました!」

ヒューゴは、汗だくの顔に、満面の笑みを浮かべている。

「ヒューゴ、どうしてここにいるの?お屋敷の料理長なのに」

僕が不思議に思ってそう聞くと、ヒューゴは「がはは!」と豪快に笑った。

「このサンドイッチを考案したのは、この私ですからな!村の者たちに、しっかりとした本物の味を教え込むのも、料理長の務めでございますよ!」

「坊ちゃまのおかげで、この通り、店は大繁盛でございます!ささ、どうぞ中へ!特等席をご用意いたしますぞ!」

ヒューゴに案内されて、僕たちは食堂の隅のテーブルに座った。

すぐに、ほかほかのパンに、焼いたお肉と新鮮な野菜が挟まれた、特製のサンドイッチが運ばれてくる。

もちろん、ソースはマヨネーズとケチャップだ。

「うわあ、おいしそう」

僕が、大きな口でサンドイッチにかぶりつくと、周りにいた村人たちが、次々に声をかけてきた。

「坊ちゃまだ!あの新しいソースを考えたっていう!」

「坊ちゃまのおかげで、毎日のお昼が楽しみになったよ!ありがとうな!」

「うちの子供なんて、野菜が嫌いだったのに、このサンドイッチなら喜んで食べるんですよ」

みんな、とても嬉しそうだ。

僕は、少しだけくすぐったいような、恥ずかしいような気持ちになって、もぐもぐと口を動かすことしかできなかった。

「みんな、僕じゃなくて、ヒューゴが作ったから美味しいんだよ」

僕がそう言うと、ヒューゴは「いえいえ!」と、大きな手をぶんぶんと振った。

「このソースがなければ、ただのパンと肉でございます!全ては、坊ちゃまの素晴らしい発想のおかげですな!」

ヒューゴは、心からそう思っているようだった。

僕は、なんだか照れくさくて、目の前のサンドイッチに集中することにした。

お腹がいっぱいになった後、僕たちは村の中を少しだけ散歩して帰ることにした。

村のあちこちで、僕に気づいた人たちが、にこにこと手を振ってくれる。

なんだか、村全体の雰囲気が、前よりもずっと明るくなったような気がした。

『ナビ、みんな、楽しそうだね』

《はい。食文化の向上は、住民の生活満足度に直接的な影響を与えます。あなたの発明は、この村に良い循環を生み出していると言えるでしょう》

ナビの言葉に、僕はうん、と頷いた。

その時だった。

村の入り口に続く、緩やかな坂道で、一台の荷馬車が立ち往生しているのが見えた。

「ど、どうしたんだい?」

「雨上がりで、道がぬかるんで、車輪がはまっちまったんだとさ」

「ありゃあ、大変だ。男衆で、押してやるしかねえな」

数日前に降った雨のせいで、道はどろどろのぬかるみになっていた。

馬は、一生懸命車を引こうとしているけれど、車輪が泥に深く沈んでしまって、びくともしない。

馬車の周りには、村の男たちが集まって、「せーの!」と掛け声をかけながら、荷馬車を押し始めていた。

僕は、その光景を、少し離れたところからぼんやりと眺めていた。

『ナビ、ちょっとだけ、手伝ってあげようかな』

《はい。現状の膠着状態を打破するには、外部からの物理的介入が最も効率的です》

僕は、誰にも気づかれないように、そっと意識を集中する。

泥にはまった車輪の下の、地面。

その土に、ほんの少しだけ、風の魔法を送って、水分を飛ばして硬くする。

とてもささやかで、誰にも見えない魔法だ。

ちょうど、男の人たちが、もう一度息を合わせて車を押そうとしていた。

「いくぞー、せーのっ!」

ぐっ、と全員が力を込めた、その瞬間。

今までびくともしなかった荷馬車が、嘘のように、ぐりん、と軽く動き出した。

「「「おっ!?」」」

男の人たちは、自分たちの力に驚いたように、一瞬きょとんとしている。

「お、動いたぞ!今だ、もう一押しだ!」

「なんだ、急に軽くなったぞ!」

「うおおおっ!」

勢いづいた男たちが、もう一度力を合わせると、荷馬車は完全にぬかるみから脱出した。

「「「やったー!」」」

周りで見守っていた村人たちからも、大きな歓声が上がる。

「助かったぜ、ありがとうな!」

「しかし、今のはなんだったんだ?急に、神様が助けてくれたみてえだったな!」

男の人たちは、不思議そうに顔を見合わせている。

僕は、その様子を、少し離れたところから満足げに眺めていた。

『ナビ、あの道、もっと綺麗にならないかな』

《現状の未舗装路は、降雨時に著しく機能性が低下します。物流の停滞は、経済発展の大きな障壁となりますね》

『馬も、かわいそうだし』

《はい。石畳などで舗装することにより、天候に左右されない安定した輸送路を確保することが可能です。街道整備は、内政における重要な課題の一つです》

『街道整備、かあ』

僕は、泥だらけになって荷馬車を押している男の人たちと、大変そうにしている馬を、もう一度見た。

僕ののんびりスローライフのためには、村の外から、美味しいものや、楽しいものが、もっとたくさん運ばれてきた方がいい。

そのためには、道が綺麗じゃないと、ダメだ。

『よし。今度、父様に言ってみよう』

僕は、心の中でそう呟いた。

ナビが《それが合理的です》と、静かに同意する。

僕の頭の中には、もう次の「らくちん計画」の芽が、静かに生まれていたのだった。