軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第118話「完成した夢の遊び場」

ゴードンさんたちによる突貫工事から数日が経ったある日。

僕は父様に執務室へ呼ばれた。

「メル。広場の工事だが、かなり形になったらしいぞ。一度見てきなさい」

「えー……。ゴードンさんに任せておけば大丈夫だよ。僕が行かなくても……」

露骨に嫌そうな顔をすると、父様は呆れたように眉を上げた。

「何を言っている。お前が設計者だろう?発注した責任者として、図面通りかどうか確認するのが当然だろう」

「うっ……。分かったよ」

そろそろかなとは思っていたけれど、さすがゴードンさんたちだ。仕事が早い。

僕が部屋を出ようとすると、ちょうど廊下を通りかかったイリ姉と鉢合わせた。

「メル、どこか行くの?」

「広場の様子を見に行ってくるんだ。もうだいぶできてるらしいから」

「え、もうできたの?私も行く!」

即座に食いついてきた。

まあ、こうなることは予想していたけど。

「父様に確認してこいって言われただけだから、まだ遊べないかもしれないよ?」

「わかってるわよ!見るだけよ、見るだけ!」

イリ姉は僕の背中をぐいぐいと押し、そのまま屋敷を飛び出していった。

息を切らせて広場に着くと、そこには見違えるような景色が広がっていた。

どっしりとした丸太の支柱に吊るされたブランコ。

太い丸太に長い板を渡したシーソー。

地面に等間隔で埋め込まれた丸太渡り。

そして木の枠で囲われた砂場と、僕が魔法で作った小高い丘。

図面に描いた通りの公園が、そこにはあった。

「おお、坊ちゃま!ちょうどいいところへ」

作業の手を止めたゴードンさんが、汗を拭いながら歩み寄ってくる。

「すごいねゴードンさん!もうほとんど完成してるじゃないか」

「へへっ、職人総出で頑張りましたからな。図面通りにだいたい形にはなりましたが……一度試しに使ってみて、具合を見たいところだったんですわ」

『ナビ、全体のスキャンをお願い』

《了解しました。支柱の埋設深度、シーソーの支点強度、丸太の間隔……構造上の欠陥は検出されません。安全基準を満たしています》

ナビのお墨付きが出た。これなら大丈夫そうだ。

「見た感じは大丈夫そうだけど……やっぱり実際に動かしてみないと分からないよね。お願いできる?」

「おうよ!任せてくだせえ!……で、こいつはどうやって確認すればいいんですかい?」

ゴードンさんがぶら下がっているブランコの板を不思議そうに見ている。

「板の上に座って、足をぶらぶらさせて漕ぐんだ。大人が乗って揺らしても壊れなければ合格だよ」

「なるほど、座るんですな。よし……」

丸太のような太い腕で鎖を掴み、慎重に板の上に腰を下ろした。

「お、意外と安定してらぁ。で、漕ぐってのは?」

「足を前後に振って、勢いをつけるんだ」

「こうか?……ふんっ!」

ゴードンさんが足を振ると、ブランコがゆらりと動き出す。 大柄なゴードンさんが揺れても、支柱はびくともしない。

「おおっ、こりゃあ面白い浮遊感だ!強度も問題ねえ!」

「うん、これなら大人が乗っても平気そうだね」

「次はこっちですな」

ブランコから降りたゴードンさんが丸太渡りの方へ歩いていく。

一番端の丸太に片足を乗せ、体重をかけてグイグイと踏み込んだ。

「うん、グラつきもねえ。しっかり埋まってらぁ」

続いて、ドシドシと全ての丸太の上を歩いて渡り強度を確認していく。

「じゃあ、最後はこれの確認をお願いできるかな」

僕はシーソーを指差した。

「へい。……で、坊ちゃま。こいつはどう試せばいいんですかい?」

「これはシーソーっていうんだ。板の両端に一人ずつ、二人が座って遊ぶんだよ」

「なるほど、二人で。……おーい、二人こっちへ来な!」

ゴードンさんが弟子たちを手招きする。

大人の男二人が不思議そうにやってきた。

「お前ら、こいつの両端に座ってみろ」

「座る?……こうですか?」

弟子たちが言われた通り、丸太に乗った板の端に腰を下ろす。

二人の体重差で、片方が沈み、もう片方が浮き上がった。

「うおっ、上がったぞ!」

「そう、浮いてる方が高いところから落ちないように、手でここをしっかり持ってて。……で、下がってる方が地面を蹴るんだ」

「地面を蹴る……こうか?せいっ!」

下がっていた弟子が地面を蹴ると、今度は彼が上がり、反対側がドスンと下りる。

「おおっ!?視界が変わった!」

「で、今度は反対の人が地面を蹴って」

「なるほど!……そらっ!」

ギッタン、バッタン。

大人の男二人が乗った板が、リズムよく上下し始める。

「どうですかい、ゴードン棟梁」

「うむ……。軸のブレもねえ。留め具もしっかり噛み合ってやがる」

ゴードンさんが、動いている支点の部分を鋭い目で観察し、頷いた。

「大人が二人乗っても平気なら、強度は十分だね」

ちょうどその時、広場の入り口から賑やかな声が聞こえてきた。

「うわ、何これ!?」

「すっごーい!もうできたの?」

おつかい帰りだろうか、籠を持ったルカとリリィが通りかかり、目を輝かせて駆け寄ってくる。

「おう、ルカにリリィか。ああ、丁度いま点検が終わったところだぜ」

ゴードンさんがニカっと笑って答える。

「じゃあ、もう遊んでいいの!?」

ルカが待ちきれない様子でブランコを見つめている。

「ええ、もちろんよ!さあ……」

「ストップ!」

手招きしようとしたイリ姉を、僕が慌てて止めた。

「なによメル!安全確認は終わったんでしょ?」

「終わったけど、勝手に開放するのはダメだよ。まずは父様に報告しないと」

「あ……。そういえばそうね」

前回、勝手に進めて怒られたばかりなのに、また許可なく開放したら、今度こそ何を言われるか分からない。

「それに、ルカたちもお使いの途中だろ?」

「あ、そっか……」

ルカが手に持っていた籠を見て、残念そうに肩を落とす。

「だから今日は解散。父様に許可をもらって、明日から遊べるようにしておくから」

「……分かった!じゃあ明日、絶対一番に来るからな!」

ルカたちは名残惜しそうに遊具を振り返りながら、それぞれの家へと帰っていった。

「……危なかったわね。また父様に怒られるところだったわ」

「ほんと危ないとこだったね。……よし、ゴードンさん。点検もバッチリだったね。帰って父様に報告しておくよ」

「へい。いつでも開放できるように仕上げておきますぜ!」

僕とイリ姉はゴードンさんたちに礼を言い、屋敷へと戻った。

屋敷につくと、そのまま執務室へ向かい、ドアをノックする。

「入りなさい」

父様の声が聞こえ、僕たちは入室した。

「父様。広場の公園が完成したよ。ゴードンさんたちと安全確認も済ませてきた」

「そうよ!ゴードンたちがぶら下がってもビクともしなかったから、強度はバッチリよ!」

イリ姉が胸を張って補足する。

「ほう、もうできたか。ゴードンもいい仕事をするな」

父様が書類から顔を上げ、満足そうに頷く。

「それでさ、村の子供たちが遊びたがってるんだけど……明日から開放してもいいかな?」

「うむ。そのために作ったのだ、構わんよ。村の者たちに、自由に使わせてやりなさい」

「ありがとう!」「やったー!」

父様はあっさりと許可をくれた。

僕たちが退室しようとすると、父様が思い出したように声をかけた。

「ああ、そうだ。メル」

「はい?」

「開放するのはいいが、あんな珍しい遊具、子供たちは使い方が分からんだろう。明日の朝、お前が現地に行って遊び方を教えてやりなさい」

「え、僕が?」

「設計者だろう?責任を持って指導しなさい。怪我人が出てからでは遅いからな」

「……はーい、分かったよ」

また仕事が増えた……と僕が肩を落とすと、イリ姉がニシシと笑って背中を叩いた。

「ふふん、頑張りなさいよ、設計者様!私も手伝ってあげるから!」

「いてて……。お手柔らかにお願いします」

翌朝。

僕が朝食を終えるなり、イリ姉が「行くわよ!」と僕の手を引いて屋敷を飛び出した。

広場に着くと、すでにルカたち村の子供たちが待ち構えていた。

昨日のうちに、明日から遊べるかもしれないという話が広がったのだろう。

どうやら、噂を聞きつけて集まってきたらしい。

「メル!待ってたぜ!」

「よし、お待たせ。父様から許可が出たから、今日から遊んでいいよ」

僕が宣言すると、わあっと歓声が上がった。

「ただ、危ない乗り方は禁止!最初は僕が教えるから、よく聞いてね」

僕は父様に言われた通り、ブランコの漕ぎ方や、シーソーのバランスの取り方を実演して見せた。

リリィや他の子たちも真剣に聞いてくれている。

「――よし、こんな感じ。じゃあ、遊んでいいよ!」

「やったー!」

「一番乗りは俺だー!」

子供たちが一斉に遊具へ散っていく。

ルカが猛ダッシュでブランコへ向かい、イリ姉も負けじと追いかけていく。

シーソーの方では、リリィが小さい子を誘って乗っている。

ギッタン、バッタン。

ゆっくりとしたリズムで板が上下し、小さい子がキャッキャと喜んでいる。

広場が一気に賑やかになる。

(……うん、いい感じだ)

僕はその様子を満足げに眺めると、広場の隅の大きな木の下に向かった。

そこには僕が一番こだわって設計した屋根付きベンチがある。

腰を下ろすと、屋根が日差しを遮り、心地よい風が吹き抜けていく。

(ここからなら、広場全体が見渡せるし、走り回るみんなに巻き込まれる心配もない)

目の前ではイリ姉たちが遊びに夢中になっている。

使い方も教えたし、もう僕の出番はない。

(これだよ……。僕が求めていたのは)

子供たちの楽しそうな声をBGMに、僕はベンチの背もたれに体重を預け、ゆっくりと目を閉じた。