軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

風の精霊ハイリリス(2)

「石?」

ヒルグパパが首を傾げると、ハイリリスは怒って言った。

「私が前にあげた石よ! 私の瞳と同じ黄緑色の石! とっても綺麗だし、人間たちはああいう石を貴重がるから価値があるんだと思ってヒルグに贈ったの。これを見るたび、私の事を思い浮かべてほしいなって……そう思ったのに! ヒルグはそれをスノウレアにあげていたんだわっ!」

「ひどい!」と叫びながら、ハイリリスはわんわんと泣く。

また風が強くなってきた。

「黄緑の石……ミルフィリアが仕舞っておったあれの事か」

母上が呟くと同時に、私もその石の事を思い出した。

ほら穴の奥にある私の宝の山の中に、確かに宝石の原石と思われる大きな石がある。

ヒルグパパから母上へプレゼントされたそれは、母上が受け取りを拒否したので私が代わりに貰ったのだ。

しかし、まさか元はハイリリスがヒルグパパに贈ったものだったとは。

私はふと、自分の白い胸毛の上で自己主張している、綺麗な赤い石に目をやった。クガルグから貰ったネックレスについているものだ。

この石もクガルグの目と同じ色をしている。

私がこれを他の男の子にあげたらクガルグはとても悲しむだろうし、ハイリリスと同じように怒って、その男の子を攻撃するかもしれない。

それと同じように、ハイリリスは自分があげたはずの石を恋敵である母上の住処で発見して、かなり傷ついたのだ。

この事が嫉妬を爆発させる大きな原因になり、正気を失って力を制御できなくなった。

父上は相変わらずまぶたを閉じて寝ているんだか起きているんだか分からない中、私と母上、そしてクガルグは、ヒルグパパに軽蔑の眼差しを向けた。

「……待て、待て待て! 黄緑の石? 確かに一年前にスノウレアに渡したな……。だが、あれはもう何十年も前から俺の住処に転がっていたものだぞ」

「だって私が何十年も前にあげたんだもん! それを覚えてないなんて!」

ハイリリスに泣かれて、ヒルグパパは慌てて謝罪した。

「す、すまん……!」

ヒルグパパは良くも悪くも大雑把なのだ。ハイリリスの繊細な感情に気づく事もなければ、健気な贈り物の事もいつの間にか記憶から消えてしまっていたのだろう。

けれど精霊とはそういうものなのかもしれない。物には執着しないし、宝石にもそれほど興味はないだろうから。

母上だって、あの黄緑色の石はヒルグパパから貰ったものだと忘れていたもんな。

そう考えるとハイリリスはあまり精霊っぽくない。ヒルグパパに恋心を燃やすさまは人間の少女と変わりなく見える。

私も元人間なので、精霊ほど精神的に冷めてはいないし淡白でもない。だからハイリリスには親近感を持った。

もちろん彼女は元人間ではないだろうけど、仲良くできそうな気がする。

「人から貰ったものをわらわに寄越すなど……呆れた奴じゃ」

母上はヒルグパパを叱りつけた後で、ハイリリスにもこう言った。

「しかしそなたもヒルグの性格は分かっておるじゃろう。その上で好いておるなら、これくらいの事でいちいち心を乱すでない。そしてわらわを巻き込むのはやめよ」

母上はそこで私を抱く腕の力を強めた。

「わらわは昔とは違って子がおるのじゃ。もし今回そなたがミルフィリアを傷つけておれば、許す事はできなかったであろう」

そう言われて、ハイリリスは初めてまともな目をして私を見た。

そこにはちゃんと理性もあったし、申し訳ないという思いも混じっていたけれど、やっぱりまだ嫉妬がこもっている。

簡単には割り切れないんだろうけど、母上はともかく私に複雑な感情を抱く必要はないはずだ。

何故なら私は――

「第一、初めから言っておるようにミルフィリアはヒルグとの間にできた子ではない。ここにおるウォートラストと番って得た子なのじゃから、嫉妬の感情を向ける対象にはならぬであろう」

私が考えていた事を、母上が言葉にしてくれた。

「ウォートラスト……?」

ハイリリスがぱちぱちとまばたきをして父上を見た。

薄く目を開けた父上と目が合うと、びくっと肩を揺らす。

「本当にヒルグとの子じゃなかったの? ……でも、そっちの子は? スノウレアとの子でしょ?」

私からクガルグに視線を移して言う。

ヒルグパパは快活に笑って答えた。

「スノウレアには断られ続けたからな! 応じてくれたのはダフィネだ! 地の精霊のな!」

「ダフィネ? ダフィネとの子だったの?」

ハイリリスはその名前を聞いた事があるようだった。顔見知りなのかもしれない。

「そうだ、待っていろ」

ヒルグパパはクガルグを雪の上に置くとそう言ってこの場から消え、またすぐに戻ってきた。

しかし炎に包まれて姿を現した時には一人ではなく、隣に背の高い女性を連れていた。

気だるげな雰囲気の美女だ。

髪や眉、長いまつ毛は闇の中で見ると黒いが、昼間だったら濃い茶色に見えるかもしれない。

温かな焦げ茶色の目は優しそうに垂れていて、唇はぼってりと厚い。手足は長いが女性らしい肉感的な体型で、肌の色はヒルグパパより暗く、チョコレートを溶かしたみたいで甘そうだった。

「ヒルグ……何なの、急に」

ウェーブがかかった長い髪をかき上げたところで、黒いロングドレスをまとった美女は周りにいる精霊たちに気づいた。

「あら、精霊がこんなにたくさん一か所に集まるなんて珍しい。しかもヒルグにスノウレア、ウォートラスト、ハイリリス、見事に協調性のない者ばかりね」

美女はここにいるメンバーの顔を順番に眺めて、疲れたような顔をした。

私は直感で思った。

この美女はたぶん精霊の中では常識人だ。