軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ハイリリスVSスノウレア

次に体の感覚が戻ってきた時、待ち受けていたのは強烈な風と大量の雪だった。

アリドラ国では吹雪が吹くような季節ではないので、どこか遠い場所――地球でいう北極や南極のような地域に着いてしまったのかと思った。

辺り一面雪が積もっていて、夜なのに明るく見える。

風に飛ばされないように父上の腕にしがみつくが、じっとしているとあっという間に雪が体に張りついて積もっていく。

「ハイリリスは何故こんなところにいるんだ!」

ヒルグパパとクガルグはすぐ近くにいたけれど、暴風で声も聞こえにくいし、吹雪で姿もよく見えない。

父上は石像みたいに動かないので、ヒルグパパの方から雪をかき分けてこちらに近づいてきた。

体から発している熱気のせいか、風に乗って飛んでくる雪も、地面に積もった雪も、ヒルグパパの周りだけ少しずつ溶けていっている。

クガルグは勇ましくヒルグパパの肩に乗っていたけれど、向かい風のあまりの強さに飛ばされそうになり、お尻を支えてもらっていた。

「ミルフィー、だいじょうぶか!?」

「私はへいき!」

風に負けないように声を出してクガルグに答えた。

一応雪の精霊なので寒いのは平気だし、それにこの雪はたぶん自然の雪じゃない。

「きっとここ、スノウレア山だと思う!」

そしてこの吹雪を起こしているのは母上だ。

だけど吹雪の風には馴染みのない“気”も混じっている。

「確かにそのようだ! しかしハイリリスもスノウレアも一体何をしているんだ」

ヒルグパパはそこで一旦言葉を切ったが、風向きが変わって一瞬視界が開けた時、前方の暗闇に二つの影を発見してまた口を開いた。

「見ろ、あそこだ!」

そこにいたのは母上と、おそらくハイリリスだ。

二人はかなり距離を取って向かい合い、お互いの事を睨みつけている。

戦っているのだとすぐに分かった。

だけど母上の方はまだ少し余裕があり、冷静さも失っていない。

一方ハイリリスの方は、自身の妖精である鳥と同じく、怒りか悲しみか憎悪か、激しい感情に支配されているような表情だった。

彼女はとても小柄で可愛らしい顔立ちをしており、想像していたよりずっと若い。実際の年齢は分からないけど、見た目は十五歳くらいだ。

今は黄色いアイシャドーをしたような目を吊り上げて悔しそうに歯を食いしばっているけれど、普段は明るく溌剌とした雰囲気なんだろうと思う。

着ている服は露出の多い黄緑色のワンピースで、折れそうなほど細い二の腕や太ももが惜しげもなくさらされている。

また、髪は短いくせ毛の金髪だったが、自分が起こしている風によって上へ逆立っていた。

母上がしっかり立っているのに対して、ハイリリスは雪の中に膝をついて今にも倒れそうになっている。

風の精霊は、基本的には雪の精霊より強いはずだ。母上に聞いた話だと、持って生まれた力の差というものが精霊にもあるらしく、水・炎・風・地・木・光・闇辺りの精霊に比べると雪の精霊は弱いのだそう。

あとは花の精霊とか雷の精霊も、木や炎の精霊と比べると実力は劣るとか。

だけど今は、何故か風の精霊であるハイリリスの方が明らかに劣勢だ。

彼女は母上よりも多くの力を妖精に分け与えていたのでその影響もあるのかもしれないし、あとは年齢による経験がものを言っているのかも。

たぶんハイリリスは、見た目通り母上より年下なのだろう。

「スノウ、レアッ……!」

そんな満身創痍の状態なのに、ハイリリスは自分の力を擦り減らしながら攻撃の風を起こし続けている。

「もうやめよ。勝負はついておる」

母上は厳しい顔をしつつ相手を諌めた。

「ううぅッ……!」

ハイリリスは頭を抱えて獣のように唸った。

「嫌いよッ、お前なんて……! お前が死んでしまえば私がきっと一番になるッ! 殺してやるわッ!」

「母上!」

鬼気迫るハイリリスの様子を見て、彼女は本気で母上を殺すつもりなのだと怖くなった。

急いで父上の腕の中から飛び出て母上のところに向かおうとするが、積もったばかりの雪は柔らかく、私の短い足ではなかなか前に進めない。

雪の海を泳いでいる、というか溺れている感じで、不格好にばたばたと四本の足を動かすだけだ。

「ミルフィリア!?」

私がいる事に気づいた母上が悲鳴のような声を上げ、それと同時にハイリリスの風に襲われた。

「母上っ!」

幸い、風は刃でも竜巻でもなくただの強風で、母上は上手くやり過ごす事ができた。

ハイリリスには強い攻撃を仕掛けるほどの力が残っていないのだろう。

「ミルフィリア、何故ここにいるのじゃ! こちらへ来るでない!」

私の姿を目に入れた瞬間に、母上はそれまで保っていた冷静さを崩した。

雪の女王のように美しく冷たかった表情に焦りが混じる。

ハイリリスは母上の視線を追って、疲れつつも憎しみに染まったままの顔を私の方へ向けた。

「スノウレアの、子ども……。ヒルグとの……」

小さく呟いた後、今度は私に向かって突風を起こす。

風は透明だけど、今は雪を巻き込んでいるので、その形がよく分かった。こちらに迫ってくる様子もしっかり見える。

しかし足場が悪く逃げきれないと思った私は、吹き飛ばされる覚悟をして身を固める。

「……っ!」

が、突風より早く水の塊に体を攫われた。

そんな事ができるなんて知らなかったけど、父上が全身を水に変えて私を助けてくれたみたい。

父上が姿を変えた水の塊は、私を上に乗せて、母上のいる方へと雪の上を滑るように進んでいく。

何故水に乗れているのか不思議だけど、私の足先は僅かに水に浸っているだけで、それ以上は沈んでいかない。

「母上!」

母上のもとに着くと、私はジャンプをしてその胸に抱きついた。母上もしっかり受け止めてくれる。父上は隣で水の塊から人型に戻っていた。

「ウォートラスト! そなたがミルフィリアを連れてきたのか」

「風の妖精に……襲われていたのでな……」

「襲われていた!? そうか……妖精を使っておったのか」

母上はきゅっと唇を噛んだ。

「母上、なにがあったの? どうしてハイリリスとたたかっているの?」

そう尋ねた瞬間、辺りに吹いていた風が一段と強くなった。それは雪の中に座り込んで今にも倒れそうになっているハイリリスを中心に発生している。

彼女は残りの力を全て使って、最後の攻撃を放とうとしているらしい。

しかし憎しみに染まった目は、こちらを向いているようで誰の事も見えていないような気がした。

「ウォートラスト、殺してはならぬ」

ハイリリスに向かって静かに動き出そうとした父上を母上が止める。

「あやつはまだ未熟なのじゃ。それにハイリリスばかりが悪いわけでは――おや?」

前を見たまま一度まばたきをし、こう続ける。

「あやつも来ておったのか。ちょうどよい」

母上の眼差しの先には、ヒルグパパがいた。

クガルグを肩に乗せたまま、風の中をハイリリスの方へ進んでいく。

雪はもう止んでいるので私からもその様子はよく見えた。