軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

花の精霊フラーラ

その後、無事にお墓参りも済ませたところで、私はふと顔を上げた。

「なんか……」

鼻を上に向けてフンフン匂いを嗅ぐ。しかし、この辺りは花が山ほど咲いているから匂いでは分からない。

「どうした、ミル?」

「なんかせいれいの気配がする気がする。花のせいれいかな……」

私がそう言うと隻眼の騎士も周囲を見回した。元々この大量の花を咲かせたのは花の精霊だろうと予想していたので、出くわしても不思議じゃない。

「近くにいるとおもうけど……。どこだろう?」

少し緊張しながら言う。きょろきょろと辺りを見回していると、相手の方からこちらにやって来た。

「雪の精霊?」

小鳥のさえずりのように可愛い声が聞こえたけど、向こうもちょっとだけ緊張している雰囲気だった。

声も表情もよそよそしかったけど、近づいて私の姿を目にすると相手は緊張を解いた。

「まだ子供? 珍しいですね、精霊の子供なんて」

確かに、少し前までは精霊の子供は珍しい存在だったな。だけど今や私とクガルグだけじゃなく双子もいるし、水の精霊の弟も生まれてくるし、私の周りには精霊の子供はわらわらいる印象だ。

「あなた、花のせいれい?」

「そうですよ」

尋ねると、花の精霊はほほ笑んでくれた。彼女は童顔で小柄な、可愛らしい精霊だった。だけどハイリリスよりは若干背が高いかな。

桜色の長い髪は巻き毛で、頭には花飾りのついたカチューシャをつけている。服や靴なども基本ピンク色だが、オレンジや黄色、水色など他の色の小物も身にまとっていて、カラフルで明るい印象だ。

シャツとひざ丈のスカートにエプロンをつけていて、花売りの女の子を華やかにしたような恰好をしている。

「あなたは人間ですね」

花の精霊は、今度は隻眼の騎士をキッと睨みつけて言う。

「その子をどうしたのです? 誘拐してきたんじゃないですよね?」

隻眼の騎士を悪人だと疑っている様子の花の精霊に、私は慌てて誘拐ではないことを説明する。

「この人、わたしのだいじな人。ゆうかいじゃないよ」

そして自己紹介を続ける。

「わたし、雪のせいれいのミルフィリア。あなたは名前なんていうの?」

「わたくしはフラーラです。初めまして、小さなミルフィリア。随分人間と仲が良さそうですね」

フラーラは可愛らしい感じだけど、見た目に比べると落ち着いた喋り方だった。精霊の中では若そうではあるけど、ハイリリスやライザードよりは年上なんじゃないかな。

「うん、仲よしだよ。ほかにも仲よしの人間たくさんいるよ!」

「そう……」

私の言葉を聞くと、フラーラはちょっと寂しそうに返した。その表情が引っかかりつつも、私は一番気になることを尋ねる。

「ねぇ、フラーラ。ここの花をさかせたのってフラーラなんでしょ? この村だけじゃなくて、他の村や町にもさかせてる。少しまえはジーラントっていう国でも同じことをやってたでしょ?」

「ええ、よく知っていますね。わたくしは今は住処を決めていないので、別にジーラントに住んでいたわけではないのですけど、光の精霊に追い出されるまではジーラントにいました」

フラーラは喋り方も見た目も、花の精霊らしい可憐さがある。可憐で穏やかで、少し弱々しい。

きっと性格も大人しい感じなんだろうな、と思いながら私は続ける。

「あちこちで花をたくさんさかせてるのは、一体どうして? フラーラはなにがしたいの?」

「――花による世界征服です」

「え?」

何か不穏な単語が聞こえたけど、聞き間違えかなと思った。可憐な花の精霊から『世界征服』なんて言葉が出るはずがないもんな。

「ごめん、もう一回いって」

「花による世界征服が目的です」

「……」

私はぽかんと口を開けたまま、返す言葉を探していた。隻眼の騎士もフラーラの意外な目的に驚いている。

「ええっと……。どうして?」

とりあえず理由を聞く。花による世界征服って、恐ろしいのか可愛いのかよく分からなくなってきた。世界征服は恐ろしいけど花は可愛いもんな。

するとフラーラは胸を張って答える。

「わたくしは花の精霊の力をもっとみんなに見せつけたいのです! だから世界中を花で埋め尽くすのです。これからは花が世界の支配者になるのですよ」

「ええー?」

私は困って言う。花の精霊は可愛らしい精霊かと思ったけど、『自分の力をみせつけたい』なんて、言ってることは若かった頃の尖っていたライザードと似ている。

「フラーラはどうして自分の力をみせつけたいの?」

そう尋ねると、フラーラは悲しげに少し眉を下げて語り出す。

「だって、花の精霊は精霊の中で一番弱いのです。光や闇、水に火、風や木はもちろん、あなたたち雪の精霊や雷の精霊よりも花の精霊は弱い。実際そうですし、人間たちもそう思っています。だからわたくしはどこへ行っても歓迎されないのです。わたくしは人間が好きだけど……人間たちはそうじゃないみたい」

フラーラは目を伏せ、花が咲き乱れている地面を見ながら続ける。

「精霊がやってきたと聞いて最初は喜んでいた人間たちも、わたくしは花を咲かせるしか能のない精霊だと分かるとがっかりするのです。敵を殲滅し、自分たちを守ってくれるような強い能力は持っていないのかと」

そうして私たちは、フラーラの昔の話を聞いた。

フラーラは以前、とある国のとある町に住んでいて、そこで人間たちに歓迎されながら仲良く生活していたらしい。

しかしある時、その国は他国と戦争を始めた。人間たちは戦力を求めたが、フラーラは花を咲かせることしかできないということは知っていたので、「もっと強い精霊だったらよかったのに」と落胆されたんだとか。

「当時のわたくしは世間知らずで純粋でした。最初に人間たちが歓迎してくれたのを見て、花の精霊であるわたくしのことを好きになってくれたのだと勘違いしてしまったのです。みんなわたくしに優しくしてくれるから、わたくしもその町の人間たちを家族のように思っていました。わたくしにはたくさんの家族ができた……そう思っていたのに、人間たちはわたくしのことを家族だとは思っていなかったようです。ただ自分たちに何か恩恵をもたらしてくれるのではと期待して、優しくしてくれていただけだったんです」

フラーラは過去にそんな悲しい経験をしたらしい。

私はしょぼんとしっぽを下げたまま話を聞く。

「だからわたくしはその町を出ました。そして人間たちを見返してやろうと決めたのです。わたくしは確かに花を咲かせることしかできませんが、その力を使ってこの世界を自分のものにしてみせます。そうすればあの町の人間たちも、わたくしを見下したこと後悔するでしょう」

言ってることは物騒だけど、フラーラの声は落ち着いていた。いや、落ち着いているというか、悲しみが滲んで声が暗くなっているんだ。

フラーラもライザードと同じく、花の精霊である自分に劣等感を抱えているようだけど、それと同時に弱い自分のことを愛してくれる存在を欲しがっているようにも見えた。

(なんでみんな強いとか弱いとか気にするのかなぁ)

私は心の中で呟く。人間も精霊自身も気にしてしまいがちだけど、その精霊が強いか弱いかなんてどうでもいいのに。

(フラーラは人間の反応を素直に受け取ってショックを受けちゃったんだろうな。でも私は元人間だから分かるけど、人間なんて色々な人がいるんだからいちいち気にすることないのに。花を咲かせるだけの能力にがっかりする人もいれば、お花を咲かせられるなんて素敵! って思う人もいるのにな)

そんなことを思った後、私は少し考えてフラーラにお願いした。

「なら、フラーラにたのみがあるんだけど……。北のとりでをお花でいっぱいにしてくれない?」

他人から花を咲かせてほしいと頼まれたのは初めてらしく、フラーラは少し戸惑っている。

「いいんですか? 自分で言うのもなんですけど、花でいっぱいにしたら……ちょっと困りません?」

人が困ることをやっているという自覚はあるらしい。

「こまらないよ」

私が明るく答えると、フラーラは丸い瞳を輝かせた。

「北の砦ってどこですか?」

「わたしのすみかの近く」

「分かりました、いいですよ。世界中を花でいっぱいにするのが私の目的ですからね」

勝手に話を進める私に、隻眼の騎士が『大丈夫か?』という不安そうな視線を送ってくる。

大丈夫、大丈夫。こういうコンプレックスを抱えた精霊は北の砦に連れて行くに限る。精霊として強いか弱いかなんて関係ない。もふもふというだけで歓迎され、これでもかと可愛がられて自信を取り戻せばいい! わははは!

頭の中で笑い声を上げ、私は移動術を使おうとした。

「せきがんのきし、とりでに飛ぶけど、ここでやり残したこともうない?」

「ああ、今日のところはもういい」

「じゃあ飛ぶね。馬にもっと近づいて、フラーラもわたしたちにくっついて」

私の体が吹雪に変わり、その吹雪に隻眼の騎士とフラーラ、それに馬も巻き込まれて消えていく。ここに来るまでの途中の支団でリーダーを預けているから、後でこの馬と交換しに行かなければ。

そんなことを考えながら着いたところは、支団長さんの執務室だった。

「……一体何事だ?」

机に座って書類仕事をしていた支団長さんは、私たちを見て目を丸くする。フラーラの存在にもすぐに気づいた。

「彼女は?」

「花のせいれい! フラーラだよ」

「説明します」

元気に答える私と、冷静に説明を始める隻眼の騎士。

フラーラと出会い、ここへ連れて来た経緯を聞くと、支団長さんは立ち上がってフラーラに向き合った。

「ようこそ北の砦へ。歓迎致します。しかしミルがあなたに花を咲かせてほしいと頼んだようですが――」

支団長さんはそこで窓辺まで行くと、フラーラに窓の外を見るよう勧めた。

「――外はこんな様子ですが、大丈夫でしょうか?」

支団長さんの隣に並んで、フラーラは窓の外を覗く。そして「え?」と声を上げた。

「何です、ここ? 花で埋め尽くそうと思ってたのに、すでに雪だらけじゃないですか!」

「うふふ」

びっくりしているフラーラを見て、私はへらへら笑った。フラーラをとりあえず北の砦に連れて来たのは、騎士たちにもふもふされて可愛がられればいいと思ったのもあるけど、雪がたくさんあって花を咲かせるのが難しいだろうと思ったからでもある。

フラーラにここにいてもらえば、他の町が花で埋め尽くされることもないしね。

笑っている私を見て、フラーラはため息をついた。

「雪の精霊の住処が近いんですから、一面雪景色なのもよく考えれば当たり前でしたね」

「ごめんね。花をさかせるのは難しいだろうなっておもったけど、つれてきたの。でもほんとうに、私はここでお花が見たいんだよ。雪だらけだからこそ、きれいなお花がみたい!」

私はしっぽを持ち上げて言う。

「わたしは雪はだい好きだけど、もう二月だし、そろそろ白一色のけしきにもあきてきたんだよね。それに、にんげんたちも春を待ちのぞんでるし、きっとみんなお花が見たいっておもってるよ」

「ほ、本当ですか?」

フラーラはちょっと嬉しそうにして、やる気を見せた。

が、みんなで外に出ると、寒さに凍えて顔を引きつらせる。

「寒い……。本当に寒いですね」

支団長さんの執務室は暖炉がついてたからね。

震えているフラーラに、私はふと思いついて尋ねる。

「そういえば、フラーラってなんの動物なの? もしかしたら動物のすがたに変わったほうがさむくないんじゃない?」

もふもふの毛皮があったら少しは寒さがマシになるんじゃないかな。

「そうですね、確かに」

パッと花びらが散って目の前からフラーラがいなくなったかと思うと、地面にちょこんとウサギが座っていた。

桜色の可愛らしいウサギで、体は小さめ、耳は垂れ耳だった。

「わぁ! フラーラはウサギなんだ!」

隻眼の騎士に抱っこされていた私は、垂れ耳ウサギの可愛さにテンションが上がって、地面に跳び下りた。

「かわいいね!」

雪の上で寒そうに縮こまっているフラーラの周りをぴょんぴょん跳んで回る。小さくてふわふわで可愛い。

「そう?」

フラーラは照れてぱちぱち瞬きする。

ウサギって鼻が可愛いんだよね。キツネとか犬猫とかの鼻とは違う魅力があって、ヒクヒク動いてるとついじっと見ちゃう。ほっぺもモチッとしていて最高。丸いお尻とちょこんと短いしっぽも良い。

あと肉球のないもふもふの足も可愛いよね。もちろん肉球も魅力的だけど、肉球がない代わりにもっふもっふになっている足の裏も良いんだ。後で足の裏見せてもらおう。

私がそんなことを考えている後ろで、支団長さんも小さなウサギの可愛さにやられているらしく、荒い息遣いが聞こえてきた。どんな表情をしているかも容易に想像できる。わざわざ後ろを振り向いて確認するまでもないな、これ。